番外:スバルとアルク
今日は番外編です。
コトハの運命の相棒とその親友のお話。
スバルはいつものように練習を終えて、ベンチに座る。
水の都では詩人なんて居なかったし、歌魔法は全く知られていなかったが、歌を歌うことは禁じられていなかったので、スバルはいつも歌を歌っていた。
冒険者がよく歩いている界隈で歌うスバルのことを、大人達は最初は変な子供だと見ていた。その内、風の国の冒険者が歌魔法に気付いて少し広めてくれたおかげで、魔法を指導してくれる人間を探しでもしているのかと勘違いされ、変な顔をされなくなった。魔曲使いはよくそうして師を探しているらしい。
本当は、初恋にして運命の相棒のあの子がいつかここに来るかもしれないと思って歌っていた。ここで歌い続けていたら、冒険者の彼女も気付いて、また会えるかもしれない。そんな淡い期待を持って。
しかし、歌い続けて二年経っても彼女とは会えなかった。こんなことなら手紙の宛先ぐらい聞いておけば良かったと後悔したが、あの時のスバルはまだ風の国の両親のところに帰れると思っていたのだ。それに彼女自身が自分の事を詳しく話すのを避けていたようにみえた。
今日も会えなかった彼女のことを振り払うように頭を振り、水筒の水を飲んで一息つけば隣の少年が声を掛けてきた。
「今日も良い歌だったな」
「ん。あんがと」
長い紺の髪を銀のリボンで纏めた、紺が混じった銀の瞳の少年――アルク。服装はズボンなのに、顔立ちが綺麗すぎて少女のように見える。
感情を表情に出すのが苦手なので目を少し細めただけだが、スバルには充分に微笑んでいるのが分かる。
「声変わり始まって歌えなくなったときはどうしようかと思ったけどな」
「ああ。あいつに気付いてもらえないって随分と焦っていたな」
「おま……」
声変わりがもう始まり、随分と取り乱した。今はだいぶ声が出るようになったが、変わったばかりの頃は今まで歌えていた歌が歌いにくくなったことで焦っていた。
思い出してみれば自分でも焦りすぎだろうと思うくらい焦ったので非常に恥ずかしい。
目を細めてクスクスと笑うアルクを、笑うなと言う意思を籠めて軽く小突いてやったが、さらに笑いを誘うだけだった。
「ん? ――スバル。あの髪は彼女じゃないか?」
「ああ?」
笑っていたアルクが顔を上げ、ふとスバルの左斜め前を指差した。広場の出入り口の方向で、怪訝に思いながらそちらに顔を向けて、目を見開いた。
雨が降る前の夕暮れのように綺麗な、青紫から緩やかに赤へと変化していく髪。見えなくなるまで見送って目に焼き付けた色が、人混みに紛れようとしている。
「ベスティ!!」
叫んだが遠すぎて絶対に届いていない。アルクに水筒を押し付け、スバルは駆け出していた。
記憶にあるよりもずっと長くなった髪を探す。人の流れは多くはないのに、目立つ髪色なのに、彼女の姿はどこにも見えない。冒険者ギルドに入ってしまっただろうか。流石にギルドの建物を覗き込むことは出来ない。
「ベスティ!! どこだ!!」
叫びながら周囲を探す。そんなスバルを大人達は不思議そうに見ながらも通り過ぎていく。
「おうおう、どした小僧。探し人か?」
「おっさん! あの、青紫の髪の女の子知らないか!?」
よくここで顔を合わせる馴染みの冒険者がスバルに気付いて声を掛けてくる。不思議そうな彼に、スバルは藁にも縋る思いで彼女の特徴を伝えた。
少なくともスバルの行動範囲で彼女のような髪の色の人間は見たことがない。絶対に目立つと信じて質問してみれば、冒険者は見覚えがあるようで小さく声を上げ、残念そうな顔でスバルを見下ろした。
「あのちっちぇ冒険者か。あの子なら、さっきあっちの馬車乗り場で見かけたぞ。たぶんもう出たんじゃねぇか」
「そんな……!!」
城門の外へと指差されて肩を落とす。風の国に向かう最終便は早い時間に出るので、彼女は急いでいたのかもしれない。もっと周囲に気を配っておけばと後悔した。
冒険者はスバルがずっと会いたがっている少女だと分かったか、慰めるようにスバルの頭を撫でて何も言わずに去って行った。下手な慰めの言葉を言わないのは彼なりの気遣いだろう。
「スバル……」
追いついたアルクが残念そうに声を掛けてくる。きっと彼はもっと自分が早く気付いていればと自責の念に駆られているだろう。そんな落ち込んだ声だった。
だからスバルは顔を上げ、首を振った。
「お前のせいじゃない。あいつが生きてるって分かっただけ今日は大収穫だ。俺がソーディスに戻ったらまた探すさ」
冒険者なんていつどこで死ぬか分からない職業だ。彼女がまだ生きていると分かっただけ充分だと自分を慰める。
両親からの手紙で、また家族三人で暮らしていく目処が立ち、来月には迎えに行けると書いてあった。向こうに戻ったら探せば良い。彼女のような目立つ冒険者、ソーディスに二人も居るまい。
「そうか。見つかったら、いつか俺にも会わせてくれ。俺も二人の歌が聴きたい」
「ああ、もちろんだ!」
アルクには来月迎えが来るかもしれないと話してある。少し寂しそうだが、門出だと微笑む彼にスバルも微笑みを返した。
おやつ時を知らせる鐘が鳴り響いたので、スバルとアルクは並んで歩き出した。今日は新作のおやつがあるから良かったら食べに来て欲しいと、アルクの兄、ジュルクに誘われていた。平民なんかと付き合ってて良いのかと思わなくも無いが、アルクが家から無言で出て行かなくなったことをいたく喜ばれ、一緒に勉強してくれていることへの感謝だと言われては断り切れない。
「新作ってなんだろな」
「ふふっ。なんだろうな」
「お前、その反応は知ってるな? 教えろよ」
「いや。料理長に内緒だと言われているからな。内緒だ。
少なくとも、スバルが喜ぶだろうことは確実だから、期待して良い」
「余計気になるじゃねえか」
他愛ない話をしながら、ソル・パルスート家へと向かう。彼らの後ろには護衛の大人が二人ついてきていた。アルクは彼らに監視されているのは気に食わないからと、いつも無言で家を抜け出し図書館に入り浸っていたが、スバルと出会ってからは、スバルの護衛でもあるのだと説得され、大人しく護衛を受け入れていた。その点でもスバルはアルクの両親から感謝されている。
笑いながら歩いて大通りから貴族街へ向かう道で、見覚えのある人物が立ち塞がった。
「ああ、アルク様、スバル君。こちらにいらっしゃいましたか」
ソル・パルスート家の使用人の一人だ。いつも笑顔だがたまに怖い視線をアルクに向けている女で、スバルの中では警戒対象。とはいえ、使用人ではあるので、いつものようにスバルがアルクの前に立って庇うことはしなかった。
だが、何か甘い香りがしたのと、女がニタリとべたつくような気持ち悪い笑顔を浮かべたのを見た瞬間、スバルは咄嗟に体をぶつけてアルクを横に突き飛ばした。
必然的にアルクが居た場所にスバルが入る。その顔に、女は隠し持っていた透明な液体を掛けた。
むせかえるほどの甘い香りが鼻を突く。鼻に液体が入った反射で口を開けたために、口の中にも甘ったるい液体が入ってきた。甘いと感じたのは一瞬で、触れた箇所から痺れを感じる。それが焼け付くほどの痛みに変わるのも、一瞬だった。
喉だけは守りたくて、咄嗟に俯いて口の回りだけを服の裾で拭った。長袖の季節で良かった。
ただ、それだけがスバルが出来たこと。力が入らなくなって、やけにゆっくりと体が倒れて行くのを感じていた。
「スバルっ!? スバルッ!!!」
「アルク様、いけません!!」
「このっ……!!」
泣きそうな顔で手を伸ばすアルクを誰かが押さえているのが暗くなっていく視界の端で見えた。大丈夫だと言ってやりたかったが、スバルの意識はそこで途切れた。
****
スバルに手を伸ばしても、護衛の一人に抱えられて近付くことすらアルクには許されなかった。
自分を庇い、謎の液体を掛けられたスバルは、咄嗟に俯いて口元を拭ったが、液体は口に入ってしまったか徐々に体を傾けて倒れていった。
「ああっ!! なんでこんな薄汚い子供に!! アルク様こそ花人になるべきなのに!!」
「花人って……、歌百合の蜜か!! てめえ、なんてモン持ち出してやがる!!」
「誰かっ! 花人は居ませんか!! 手を貸してください!!」
もう一人の護衛が使用人を取り押さえ、アルクを押さえている護衛が水を魔法で生成してスバルにかかった液体を流すも、触ることが出来ない。
「私、花人です! どうしたらいいですか!」
「オレもだ! どしたどした!?」
「ありがとうございます! この子が歌百合の蜜をかけられたのです! 移動させたいので――」
まだ冒険者の多い場所だったため、騒ぎを聞きつけた大人達があれこれと色々やっている。それをアルクは涙を流し見ていることしか出来なかった。
すぐに冒険者ギルド内にある治療施設にスバルは運ばれたが、処置の甲斐なく、彼は花人化に耐えられずに命を落とした。歌百合の蜜は、大の大人でも原液を被れば五分以内に死に至るほどの劇薬だ。護衛の女性が咄嗟に水をかけて薄まったとは言え、子供の体には耐えきれるものではなかった。
その報告を、アルクは自宅で聞いていた。涙はもう涸れ果てて、疲れていた。スバルが喜ぶと思って作った風の国のお菓子を一つ食べてみたが、砂を食べているようで、甘いはずなのに何の味もしなかった。
お菓子だけではない。晩ご飯も同じだった。
世界が色を失ったように何もかもが色褪せて見えて、部屋に籠もった。
外に出るのが怖くて、使用人も怖くて、母と兄と弟一緒でなければ日常生活も怖くなった。あんなことが遭ったのだから仕方ないと母と兄は許してくれた。弟はよく分かっていないようだったが、いつも一人置いていく兄が側に居ることを喜んでいた。
スバルは、アルクにとっての太陽だった。
出会いは二年前。図書館で一人黙々と本を読んでいたアルクの前に、そのオレンジは突然現われた。といっても話しかけてきたわけではなく、アルクが座っている読書スペースで視界の端に映ったというだけだ。
辞書が多い場所で利用者が少なく、静かなためにアルクはここで本を読むようにしていた。子供が読んで楽しい本はないはずだが、オレンジの髪の彼は明確な目的がありここに来たのだと一冊の辞書を手に取ったことで理解した。そして自習机に持っていってノートを広げたところで、視線に気付いたか彼が顔を上げ、視線が合う。珍しい紫の目だなと思った。
「あ。ここ、君のお気に入りだった? 移動した方が良い?」
見られていたことに少し驚いたようだが、すぐに我に返って小さな声で声を掛けられて、慌てて首を振った。そう? と小さく呟いた彼は、遠慮無く勉強を始める。
その日から、彼は毎日決まった時間に来ているようだった。
どうせ行く場所は決まっているのに、いちいち外に出るのに護衛がついてくるのが煩わしく、あの手この手で逃げ出して外に出ていたアルクが図書館に行くのはランダムな時間。だが、ある日から彼に会うために意を決して使用人に声を掛け、彼が来る時間に合わせて図書館に行くようになった。
ソル・パルスート伯爵家の次男坊。その肩書きがあるせいでアルクに友達はいない。いろんな貴族の集まりに顔を出して友達を作ろうとはしてみたのだが、社交的な兄とは違って内気で、上手く喋れずに居る間に置いて行かれてしまっていた。
だけど彼だけは、いつも同じ場所にいるから。もしかしたら友達になれるかもしれない。淡い期待を抱えて、毎日本を持って、同じ位置に座った。
そうして一週間ほど通っていた。なかなか話しかける勇気はなく、彼のほうから話しかけることもなく。今日こそはと決意して、少し早めに家を出た。
冒険者の多い大通りを通っていると、歌が聞こえてきた。
知らない曲を歌う声は高い。音程は合っているようだが、ところどころもどかしそうに揺れていて、練習中のようだった。
水の都で歌を歌う人間は少ない。楽器を弾く人間のほうが圧倒的に多かった。だからそれはとても目立っていて、興味を惹かれて、アルクはそちらへと向かった。
近付いて行くとふわりと何かが頬を撫でたような気がした。不思議と不快感はなかった。少し寒い日に外から家に帰ったときに感じる温かさのような、心が安まる何かだった。
誘われるように足を進めて、見えたのはオレンジの髪の少年。図書館でよく見る彼だった。
「歌魔法、だな」
「あの歳で詩人か。才能あんな」
「ディーヴァ?」
珍しく後ろの護衛たちが会話をしたのを聞き、知らない単語に振り返って説明を求める。女性のほうが片膝を付いて、風の国特有の魔法だと教えてくれた。発動させるには才能が必要らしい。
「……すごい、な」
人々の奇異の視線に晒されながらも堂々と歌う姿は、アルクの目にはとても眩しく映って、離せなくなった。
しばし見蕩れて立ち止まっていたアルクは、勇気を持って一歩を踏み出した。
「あ、の!」
歌い終わったタイミングで声を掛ければ、彼は一瞬不審そうに見てきたがアルクのことは覚えていたか温和な笑みに変える。
その笑みに安堵して、彼が口を開く前にアルクは叫んでいた。
「おれと、友達になってくれ!」
「――は?」
怪訝そうに眉を寄せた彼――スバルは、後に「女の子だと思ってたのに男でびっくりした」と語る。
ともあれ、この勇気を振り絞った申し出のおかげでスバルと友達になり、親友と呼べるまで親交を深められた。
スバルは社交的で気遣いの出来る少年だった。商家の家で育ち、家の手伝いで店に出ることがあったため自然と身についたという。
その生い立ちのためか、貴族であるアルクに対して必要以上に畏まることはなかった。両親や兄に対しては相応の態度を取るが、アルクと弟のエルクには友達として接してくれる。
護衛と相談をしてアルクを連れて行く場所を決めて、いろんな体験をさせてくれた。本だけでは足りない体験は新しくて、たまにジュルクとエルクも一緒に、四人揃って吟遊詩人の語りを聴いたりもした。
世界がキラキラと輝いて、見慣れたはずの町が色鮮やかに映った。
その太陽が、今はもう無い。
二日ほど塞ぎ込んでいたが、スバルに生かされたのだからと顔を上げた。
世界は色褪せていたし、ご飯も相変わらず美味しくなくても、救われた命を無為に過ごすことは、スバルにも、まだ見ぬ彼の相棒にも失礼だ。遠目に見ただけでも目を惹いた青紫の後ろ姿に、アルクは謝罪をする義務がある。
だから生きようと決めた。大人になったらソーディスに行って、彼女を見つけよう。
決意をして、着替えをしてから自らの意思で部屋を出て食堂へと向かう。迎えに来る途中だったのだろう兄が、出てきたアルクに驚き、嬉しそうに笑った。
「良かった。ちょうど呼びに行こうと思っていたんだ」
「兄上。心配を掛けて、ごめんなさい」
「いい、謝るな。あんなことがあれば誰だって塞ぎ込む。
しかし、今日はお前にいいことがあるぞ!」
「いいこと?」
こっちだ。と六歳年上の兄は軽々とアルクを抱え、客室のほうへと歩いて行く。誰か来客でも来ているのかと内心で首を傾げたアルクの耳に、歌が聞こえてきた。
聞き覚えのある旋律と声に、息を忘れる。
硬直した弟に兄はニヤリと笑って、アルクを降ろした。地面に足が着くと同時に駆け出し、少し開いている客室のドアに指を突っ込んで勢いよく開ける。
「スバルっ!!!」
「うお!?」
開け放つと同時に歓喜の叫びを上げれば、彼は肩を跳ねさせてアルクのほうへと顔を向けた。
窓から差し込む陽光にオレンジの髪が光る。白い病衣を着てベッドの上で半身を起こし、こちらを見つめる瞳の色は紫。
「よぉ、アルク」
片手を上げて、いつものように笑って。
スバルは、生きていた。
飛び込むようにスバルに抱きついて、アルクは声を上げて泣いた。
落ち着いてから詳しい話を聞くと、正確には一度死んでいたが、ソル・パルスート家に伝わる蘇生魔法で蘇生したのだという。
蘇生と同時に花人化が進行し死にかけたが回復魔法をかけることで命を繋ぎ、安定するまで二日かかったのだそうだ。安定してすぐに歌えるか確認する辺りがスバルらしい。
「魔力増えちまったみたいで歌魔法が上手く使えねえけど、ま、一時的なもんだろ」
「そうか。喉がやられていなくて本当に良かった」
「おう。……だけど、あいつを探すことは無理になっちまったな」
「え?」
喜んだのも一瞬。眉を下げて自分の手を見つめるスバルは、表情こそ何とか笑おうとしているが酷く落ち込んだ声で呟いた。
「歌魔法を使わなくても、歌で気付いてもらえるんじゃないか? それに、一時的なものだろう?」
スバルのことだから、魔力操作の訓練を続ければすぐに慣れるだろう。ソーディスに戻って歌えば、彼女だってすぐに気付くはずだ。
だけれどスバルは眉を下げたまま笑って首を振った。
「花人は、ピクシー族って危険な種族を惹きつけるから、風の国には入れねえんだよ」
悲しそうな笑顔で告げられた内容に言葉を失った。
帰れるはずだったのに、帰れなくなった。
アルクのせいで巻き込み、死なせただけでなく、彼を両親と離ればなれにさせてしまった。そして好きな人と会える可能性を奪ってしまった。
「言っとくが!」
俯いていたアルクは、スバルの強い声に驚いて顔を上げる。
スバルは怒った表情でアルクを睨み、両手で頬を包み込んできて押し潰した。
「お前のせいじゃねえ! 悪いのはあの女だ! 俺は被害者! お前も被害者! 俺達は揃って被害者!」
「ひふぁいしゃ……」
「そう、被害者!」
言い聞かせる彼に口が不自由ながらも言葉を繰り返せば、スバルは力強く頷いて手を離した。
「それでも責任を感じるなら、お前も手伝え」
目を細めて笑っていて、それは何かを企んでいるときの笑顔だったがアルクは即座に了承した。
「わかった!」
「いや、内容を聞いてからにしろよ」
力強く返事をしたアルクに、スバルはそうなるとは思ったと言いつつ頭にチョップを落とした。痛みはないがなんとなく受けた場所を押さえつつ、スバルに一応内容を教えてもらう。どんな内容だとしてもアルクに断る理由などないのに。
「俺は、騎士になる」
「騎士?」
「ああ。功績を挙げていけば、騎士団総長のタッカーノ様みたいに冒険者たちにも名が通るだろ。いつかオレンジの髪の騎士がいるって有名になれば、こっちに来たあいつも気になって情報集めて、俺だって気付くかもしんねえ。
青紫の髪の女冒険者なんて目立つから、見回りの途中で見つけるかもしれねえしな。
だから、俺は騎士になるんだ」
それを手伝え。
一度は夢が破れたはずなのに、紫の瞳は強い意思を宿して輝いていて、もう次の目標を見つけて立ち上がろうとしていた。
どんなに回り道でもスバルは諦めていない。
凄いと思った。太陽は、その輝きを一片たりとも鈍らせずに輝く。鈍ったように見えたとしたら、それは何かが遮っているのだ。
ならば、彼が輝けるように障害を取り除くのがアルクの使命だ。今、そう決めた。
「わかった。お前が有名になれるよう、俺も共に騎士になろう」
「よっし、決まりだな!」
輝くような笑顔を浮かべて、スバルは左手を握って突き出す。アルクも笑いながら右手を握って、コツリと合わせた。
「今日からお前が俺の相棒な! 頼むぜ!」
「ああ!」
やはり、スバルはアルクにとって太陽だ。
もう二度と、この輝きを失わせない。
その後、移民手続きでスバルは伯母の養子となり、スバル・クリーズィーからレーヴェ・クリーズに改名し、水の都の騎士を目指して鍛錬を始めた。
必ず再会できると信じて。
そして遙か未来にて、思わぬ再会を果たす。




