地の村にて
全ての用意を終えて、翌日の早朝。
アルビレオたち五人は集合場所である西の城門前に来ていた。ソラールとシンルーはアルビレオたちが起きるまで共にいたが、朝食を取っている間に先に出ている。
城門前には幌付きの馬車が二台停まっており、御者らしき男性が二人居る。コトハとルナ、エンドとバージェスも既に来ており、ホクトと打ち合わせをしていたようだ。コトハはティカモードである。
エンドが一番にこちらに気付いて軽く片手を上げたことで他の四人もこちらに気付き、軽く挨拶をする。アルビレオとエウロ以外はエンドとバージェスとは初対面になるので自己紹介を交わし、終わったところで今回の道のりについての説明をホクトから受けることになった。
目的地であるフレムブリガは大森林の南東だ。南北どちらかの街道から行くのだろうとアルビレオは思っていたが、今回は違う道を行くという。
「予定では陸路だったのですが、ちょうど地の国を目指す貨物船が港に着いていましてね。
海路で一気に地の国に行き、その後まずは『アーシュルー』へと向かい、武器を整備してから南下しようと思います」
それは一度アルビレオとエウロも検討し、逃げ場がないために諦めた道だ。だが、今この場に居る戦力を見れば、むしろ相手のほうが逃げ場がなくなる。
「だけど、爆弾を持ち込まれたら危ないと思うのですが」
とはいえ、ただの襲撃者ならば問題は無いが、レムリータが手段を選ばないのは分かっている。継承者を一網打尽にする絶好の機会だと船を沈める可能性は無視できない。
それを危惧したエウロの問いに、ホクトは当然だと頷いてコトハとエンドに手を向けた。
「私もそう考えたのですが、制圧する術をお二人が持っているそうです」
「正確にはエンドさんが爆弾持ちを判断し、オレが無力化する手段を持ってる」
「これでもギルドのサブマスやってるからね。色んなモノを見てきたし、色んな人を見てきた。どんな種類の爆弾も見逃さないよ」
微笑むエンドは自信満々で、コトハも信頼している様子だ。この二人が自信を持っているのならば安全だろう。
もちろん、目の届かないところはあると思うので、各自怪しい動きをしている人間には注意し、見かけたらエンドに相談するようにとバージェスが付け加える。
「コトハ、ルナ。今回は団体行動だからな」
「何度も言わなくても分かってるって」
「相互監視するから安心してよ~」
バージェスはそのまま問題児二人に釘を刺していた。アルビレオたちが来るまでにも釘を刺していたようだが、改めてと言った様子にコトハは辟易したように、ルナはコトハを後ろから抱きしめながら苦笑して返事をする。その返事でも安心は出来ないと言わんばかりに渋面を作る彼をエンドが笑いながら宥めた。
それでもなおも小言が続きそうだったが、ホクトが手を叩いて中断させる。
「船の時間もありますし、そろそろ向かいましょう」
「はーい! 女子組はこっちだよ、コルネさん、ユートさん」
「わわっ」
その言葉にこれ幸いとルナがコトハから離れ、コルネの手を引き馬車に向かって行く。その後ろを無言でコトハが続き、ユートは苦笑しながらアルビレオたちに一度手を振って続いていった。
バージェスはあからさまに逃げていった二人に溜め息をつき、アルビレオ達に向き直る。
「あいつらも心配だが、お前らも無理はするなよ。まだ若いんだ。生きて帰ることを最優先にな」
「はい」
バージェスにしてみれば、自分の歳の半分も行かないような若造に危険な任務を託すことは非常に悔しかろう。自ら行きたいと考えているかもしれないが、彼はギルドマスターとしてギルドを率いる責任がある。
心配そうな彼に力強く頷いて見せて、アルビレオたちも馬車へと乗り込んだ。
****
船旅は、天候に恵まれたこともあって快適に過ごせた。最初の目的地、アーシュルーまでの道のりも順調で、あまりにも順調すぎて不気味さを感じるほどだ。
油断したところを狙ってくる可能性も否めないので警戒は怠らないが、ソラールとルナはおそらく大森林まではないだろうと踏んでいた。
「ボクらが封印を解く瞬間を狙ってるんだろうね」
「そうだな。自分で解くよりも知ってる人間に解かせたほうが楽だ」
封印は複雑で、解除法を知らないと解くのが面倒らしい。ルナは自力で解除法を見つけ出したようだが、アレは面倒臭いと疲れを滲ませた声で呟いた。
アーシュルーに辿り着いた一行は、一時的に二手に分かれた。片方はアヴリオ、ソラール、シンルー、ホクト、エンド。もう片方はアルビレオ、エウロ、コトハ、ルナ、コルネ、ユートだ。
アヴリオたちは武器の整備のために村一番の名工のところへ行っている。元々、アヴリオはここに来てカタナの整備をし、その後【原初の水】に挨拶しにいく予定だったらしい。ソラールとシンルーの武器も【原初の土】が作り上げた物なのでついでだそうだ。ホクトは商談のネタになりそうなので、と見学。エンドも興味があるので鍛冶を見学するという。
アルビレオたちは【原初の土】のサーラの勧めで、アーシュルーに逃げ延びたというフォーリガの生き残りのところに案内されていた。
コルネの記憶を完全に取り戻し、【原初の森】の所在を思い出すためだ。
「私か【原初の森】のこと、知ってる人だと良いんだけど」
「そうだな」
最初は再封印のために【原初の森】の力が必要だったが、討伐すると決めた今は回復役として力が必要になった。
何せこのメンバー、骨折のような大怪我を治せるほどの回復魔法を持っているのは、コトハ一人だけなのだ。ルナの白魔法は初級レベルで、小さな怪我しか回復出来ない。エウロの魔曲にも回復魔法はあるが、擦り傷程度の小さな怪我を継続的に回復する魔法なので大怪我には使えない。そして厄災との戦いが小さな怪我程度で済むわけがない。
【原初の森】は木属性のため、白魔法や神聖魔法より少し時間はかかっても完全に治癒できる。だから、思い出せるきっかけがあるのならと会いに来た。
ソラールとシンルーは会わせることを渋ったが、サーラが「時には荒療治も必要よ」と送り出したのだ。
「ここだよ。中に入るのは女の子だけで、男の子たちは外で待っててね」
「はい」
案内役の女性に連れられてきたのは村の隅にある新しい民家。フォーリガから逃げてきた女性はそこで保護されている。
女性は今でも旅装をした人間を怖がっている。だが同性ならまだ大丈夫と言うことで、会えるのはコルネとコトハとルナだけだ。ユートは見た目だけだと顔がとても綺麗な男なので待機である。
案内役の女性は長居せずすぐ出てきたので、彼女から周辺の地理についてエウロが問いかけるのを聞きながら三人が出てくるのを待った。一時間以上待つことを覚悟していたが、十分も経たずにコルネたちは出てきた。
「あら、もういいの?」
「はい。もう大丈夫です」
案内役の女性の不思議そうな問いに、コルネが少し眉を下げた笑顔で頷く。もしや取り戻せなかったのかと、後ろに続いたコトハに視線を向けると、彼女は視線に気付いて表情はやや複雑そうなまま「大丈夫だ」と返した。
「……記憶を取り戻すことが幸せとも限らねぇ。目的さえ果たせば充分だと判断して、俺が中断させた。あの怯えっぷりからしても、フォーリガの惨劇は想像以上なんだろうさ」
「そんなに怯えたのか?」
「ああ。女性だけってのは大正解。アルビレオさんとユートさんは当然として、エウロさんでも碌な会話にならなかっただろうな。
俺も咄嗟に銃と短剣を隠さなかったら会話してくれなかったと思うほど、怯えていた」
それほどまでに怯えていたのなら、思い出すのは全てを終えてからと判断するのも致し方ない。
コルネもそれを理解して、残念に思いながらも諦めたのだろう。
「でもね、【原初の森】の居場所は分かったよ!」
残念ではあったが、収穫はあったとコルネが明るく拳を握る。確かに主目的は【原初の森】の所在だったので、そちらの情報があったのは幸いだ。
「いやはや、盲点だったよ」
そう笑うのはルナだ。彼女はいつも通り僅かに地面から浮かんだまま、してやられたと言わんばかりの笑顔で腕を組む。
「ソラールとシンルーが探していたと言うから、てっきりコルネさんと一緒に逃げたと思ってた。
ならば、あの結界の役割を果たしている大森林を維持しているのは、一体誰なんだって話さ」
「誰って……あ。」
「そうか。英雄譚でも【原初の森】が大森林を作ったって語ってる」
「私も、大森林を維持しているため動けないと説明を受けたんだった。すっかりと忘れていた」
ルナの問いかけから、アルビレオとエウロ、ユートは答えに至る。彼女の言うとおり、盲点だった。ソラールたちが探していたと言っていたから、【原初の森】はコルネと一緒だと思い込んでいた。敵を騙すなら味方からなんて言葉があるように、アルビレオたちも騙されていたのだ。
そういえば彼らは【終焉を渡り歩く者】の中に入り込んで情報攪乱をしていたことを思い出し、アルビレオもしてやられたと苦笑した。
「つまり、大森林に封印がある以上、【原初の森】は皆に力を貸せるよ」
コルネの言葉は、今のアルビレオたちには充分すぎる情報だった。
工房に大勢で押しかけるわけには行かないので、話が終わった後の待機場所として提供された村長の家に行く。そこにはアヴリオが既に座っており、お茶を飲んでいた。彼の武器の調整は終わり、今はソラールの武器だという。
ユートは机に置かれたアヴリオのカタナに興味があるようで、驚いた様子で近寄り、アヴリオの許可を貰ってから両手で持った。
「じゃあ、私ちょっとソラールたちに話してくるね。ちょっと工房も見てみたいし」
「ボクも工房見学行ってきまーす」
「はいはい。行ってこい」
ユートがカタナを少し抜いて刃紋を確認し始めたので、しばらく動かないと見て、コルネは小さく手を上げる。その肩に片手を置いて、ルナも続く意思を見せる。コトハは残るようでひらひらと二人に手を振って送り出した。工房にたくさん行っても迷惑だろうし、アルビレオとエウロも待機だ。
こちらの結果についてはコトハが説明した。アヴリオも記憶が戻らなかったことは残念がったが、【原初の森】の居場所には瞬きを繰り返して、悔しそうに笑った。
「精霊だから意識だけを切り離し、力を置いてきたと思ったんだが……コルネを囮にして、大森林を護っていたのか」
「最悪な言い方をするが、人間側は替えが効くからな」
本当に最悪な言い方だが、コトハの言葉は正しい。封印の要を知るのは精霊なので、厄災に近付くための器さえあればいい。現に、雷の継承者はもう血族として存在しておらず、適正のある人間に都度頼んで体を借りていたと船の中でソラールから聞いた。今回の雷の継承者はコトハが選ばれたとも説明された。
今回、討伐することになったのでもう無くなった話だが、戦力が足りず封印を続ける場合、コトハは【原初の雷】と契りを交わし、新たな雷の継承者の血族として血を繋いでいくとも聞かされ、ルナがそれはもう怒っていた。ルナの難病を癒やすための代価として雷の継承者になったと言うのだから、ルナは怒って当然だろう。
「そういえば、精霊と契りを交わして子供を作るって可能なのか?」
ルナが側に居ないので、ここぞと疑問に思っていたことをコトハに問う。精霊と人間ではそもそも性質が違う。普通に子供が成せるとは思わなかった。
お茶を貰って飲んでいたコトハは、一度ドアがしっかり閉まっているのを視線で確認してから、アルビレオに向き直って頷いた。
「普通の妊娠とは違うらしいけど、可能だって。プラーナとプラーナを混ぜ合わせて、新しい存在を作るんだそうだ。
アヴリオの父親が水の大精霊と人間の女性との子供って聞いてる」
「父上が!?」
そうやって出来た子供は、言い方は悪いがちゃんと人間なのだろうかと思ったが、アヴリオが存在しているのだから人間と変わらないのだろう。
アヴリオはショックを受けていたが、何かに気付いて頭を抱えだした。「つまりお祖父様は……」とかブツブツ呟いているのでしばらく放置してやることにする。
「ええと、うん。話題を変えよう。
ユートさん、さっきから何してんだ?」
コトハも放置してやることにしたようで、先ほどからアヴリオのカタナを両手で持っているユートに声を掛ける。壁のほうを向いているので表情は見えないし、ずっと静かだったのだが、頷いたり、首を傾げたりと何やら会話しているような動作を視界の端で捉えていた。アルビレオが気付いているのだからコトハも当然気付いていたようだ。
「あ、ああ。すまない。怪しかったな。彼との会話を楽しんでしまっていた」
声を掛けたことでユートは我に返り、少し恥ずかしそうにはにかみながらこちらを向く。その頬はやや上気しており、興奮していたのがわかる。
そんな様子と、彼との会話と言われて思わずカタナに目を落とした。いやまさか。
「すごいな。彼もまた魔剣だ。スイレン殿から始まり、フェルストン家で脈々と受け継がれることによって意思を宿した、歴史ある魔剣だぞ」
とんでもない爆弾発言に、アルビレオはもちろん、コトハとエウロもアヴリオへ顔を向ける。
アヴリオは顔を上げ、信じられないような物を見る目でユートを見ていた。
「……は?」
何も知らなかったらしい。
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