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遊撃隊『牙』の回想録外伝~銀翼の歌姫と夜を裂く鳥~  作者: 姫崎ととら
最も速き者と森の精霊

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西の大森林の厄災とはなにか?

 その結論に至った経緯と、やり方を説明しろとコトハに低い声で命令されたルナは、楽しげな笑みを浮かべたまま前提から説明を始めた。


「『六人の精霊と英雄』では、西の大森林はかつての風の国の王都があった場所で、王国は厄災に手を出して滅んだ。その後も厄災は留まっていたので、神に選ばれた六人の精霊と英雄が力を合わせて封印をした。

 大森林となったのは、墓標代わりに森の大精霊が作ったから。そして英雄たちは六方に村を興し、監視と封印を担っている。

 細部は吟遊詩人によって違うだろうけど、大まかにはそう謳われている」


 合っているよね? とルナが知識の擦り合わせのために聞いてきたので、アルビレオたちはそれぞれ頷いて見せた。

 水の都のアルビレオとエウロ、アヴリオに、風の国のコトハとホクト。二ヶ国に渡って同じ伝承であることを確認したルナは、微笑みのままソラールに顔を向けた。


「本当は精霊なんて居なくて、神と六人の人間だけで封印を施し、封印方法を確実に失わない方法として人間は精霊になっていた。

 三方にしか村を作らなかったのも、今回のように村が襲われるのを危惧したから。でも伝承では六方にしたのは、闇属の三属性(雷・水・氷)が分散していると気付かれないため。だよね?」

「ああ、そうだ」


 そもそも、この伝承は光属の三属性(地・炎・木)の村と、散っていった闇属の三属性(雷・水・氷)の一族にしか語られていない伝承だったという。それを森を囲う三方の村のいずれかに訪れた吟遊詩人が知って、広めてしまった。広まったのはここ最近ではなく、少なくともエウロの養父の祖父の時代からあるとのことなので、だいぶ昔の話だ。

 村の子供が森の中に入らないよう戒めるための話でもあったのに、世界中に広まっていることにソラールは軽くこめかみを揉んだ。


「まぁ、いつかは吟遊詩人によって広まるだろうと【原初の雷(トール)】は予想していたけれどな。

 だから各村には一応戦える人間を置いていた。フォーリガにも俺と【原初の水(エーギル)】が鍛えた守り人がいたんだが……流石にあの方法は防ぎようがなかった」

「罠にでも掛かったのか?」

「罠……といえば、そうだな」


 ソラールともう一人の精霊に鍛えられた人間なら、相当に強いはずだ。そんな人間が引っかかるような罠ならば警戒しなければならない。

 そう思ってのアルビレオの問いに、ソラールは当時を思い出したか苦々しく顔を歪めて、嫌そうにその方法を吐き出した。


「人間の体内に爆弾を仕込み、任意の場所で爆発させる方法だ」

「!?」


 想像以上に悪辣な手段に耳を疑う。

 商人のキャラバンとその護衛の冒険者のような格好をした人間達がフォーリガにやってきて「地の国から風の国に向かう途中、野盗に襲われ道に迷ったので現在地を教えて欲しい」と言ってきた。地の国から風の国に行くには大森林を回り込む形で造られた北の街道が一般的だが、南にも街道がある。フォーリガは南の街道が近いためにそちらを教えようと、守り人が近付いたタイミングで、爆発した。それを皮切りに、人間達は村に入り込んであちこちで自爆していったらしい。

 森を介して【原初の森(ヴィーザル)】からの救援要求を聞いて、一番近い村にいたソラールとシンルーが駆けつけた時には、フォーリガはすでに壊滅。村人は何人か救えたが、ほとんどが死んだ。

 地の国と風の国の王室にはすぐに連絡を入れ、二人はフォーリガから姿を消した【原初の森(ヴィーザル)】と森の継承者を探していた。


「後はお前たちに話した通りだ。神から頼まれたってのは、あの時はまだ俺たちの正体を明かすわけにいかなかったから嘘をついた。……悪い、脱線させたな」

「いいえ。あなたが説明しなければ、ボクがするつもりだったから助かった」


 説明を終えたソラールが本筋ではなかったと謝罪するが、ルナは笑顔で首を振る。彼女も現地に行って、精霊達から話を聞いていたらしい。ルナの瞳の色は緑ではないが、愛し子でなくとも精霊と話せる人間はいるので不思議ではない。


「フォーリガを壊滅させた手段から分かるように、【終焉を渡り歩く者】はどうやら手段を選ばない組織みたいだ。そんな彼らが目的とする“厄災と呼ぶしかない何か”について説明しよう。

 先に結論から伝えておくね。


 アレは、“精霊になり損ねた誰かの魂の欠片”だ」


「は?」


 突拍子もない単語が飛び出して、思わず声を上げたのはアルビレオだけではなかった。ソラールとホクト以外の六人が同時に声を上げる。ホクトも声こそ上げなかったが驚いているようでルナを見上げている。

 “精霊になり損ねた誰か”だけならば、驚きはしても声を上げるほどではなかった。なのに“魂の欠片”とはどういうことだ。

 ルナは全員の反応を予想していたか面白そうに見回した後、コトハを一度見つめてソラールへと顔を向けた。つられて彼に視線を向ければ、ソラールは感心したような顔をしていた。


「あいつらが教えるわけねぇな。自力でその結論に達したか」

「うん。魔術式を読み解くのにちょっと知恵は借りたけどね」


 当時、厄災を封印した英雄にして炎の大精霊と、稀代の天才魔法発明家は二人だけで通じ合う。一瞬置いて行かれたものの、ルナはちゃんと説明するつもりはあるようで改めてこちらを見てきた。


「厄災が封印されている森の中には、“誰か”が封じられているお城みたいな遺跡がある。そこはどうやらお城じゃなくて、研究所だったみたい。

 そこの中央、実験場とおぼしき場所に巨大な魔術式……今の言葉だと魔法陣が敷かれていた。所々経年劣化だったり、当時何かがあって壊れたりしたみたいで読み取れないとこはあったけど、内容は『魔法陣上にいる人間のプラーナの一部を、一人の人間に注いで精霊にする魔法陣』だと分かった。おそらく国一つ分は覆っていたんじゃないかな」


 今度は声も出ないほどに驚いた。国全体の人間のプラーナを使っての魔法なんて、あまりにも大規模で想像も付かない。

 アルビレオは非人道的な実験だと思ったが、ルナが研究所を調べた結果、むしろ志願者は多かったらしい。当時を知るソラールが言うには、国民に大々的に実験の内容は告知され、拒否する者は国から出ることを推奨されたし移籍のための補助も出たそうだ。ソラールたち六精霊もそうやって外に出た人間だったという。


「でも、何か当日に事故が起きて、魔法陣の一部が削り取られた。よりにもよって『一部』って部分が消えたっぽいんだよね。

 おかげで魔法陣は『魔法陣上にいる人間のプラーナを一人の人間に注いで精霊にする魔法陣』になった」


 ルナの説明する最悪の事態に誰もが息を飲む。同時に納得もした。国一つ消えた大事件だというのに、その話が精霊達が残した伝承でしか存在しないことに違和感があった。しかし、プラーナが消滅すれば、プラーナを扱える人間以外は覚えていられない。ほとんどの人間が元の国のことを覚えていないのも理解できる。

 そして、ルナが“精霊になり損ねた誰かの魂の欠片”と表現したのも納得できた。


「とんでもない量のプラーナを注がれて、魂が壊れたのか」

「そのとーり。いくつかに割れちゃったみたいなんだ」


 コトハの呟きに、ルナが軽い調子で肯定する。

 人が死ぬと肉体は大地に、魂は冥界へと還り、浄化されて新しい命になると言われている。だが、様々な理由で冥界に還らない魂も多く存在しており、瘴気などが絡めばレイスなどのモンスターになってしまう。

 そこから先の説明はソラールが引き継いだ。


「意識が残った一番大きな欠片は、神が保護したことで冥界に還れた。他も自力で冥界に還ったらしい。生まれ変わりをごく稀に見かける。

 だが、還れなかった欠片も存在している。

 俺たちが封印したのはその欠片だ。最悪なことに、実験に熱心だった研究者達の執念が呪いと変化して欠片にしがみつき、冥界へ還してもらえてなかった。

 そこに瘴気が惹き寄せられて、近付く者すべてを呪い殺し、アンデッドに変えて、徐々に拡大していく死域と化していた。

 俺たちが国に戻った時には、とにかく浄化を優先させなきゃなーんもできねぇ状態だったんだ。神の力で森を作って奴を外に出さない結界とし、俺たちは浄化しまくったけど、時間が足りねぇ。さらに運が悪いことに、風の国は荒廃しすぎてて瘴気があちこちあった。それが流れ込んでくるから作業は終わらねぇ。

 しかたなく神は実験体だったティル――ティリアータを旗頭に、風の国を興し直したんだ」


 二人の尽力で国が興り、人が増えていったことで死域に瘴気が流れ込むことはなくなった。だがそれでも自分たちが生きている間に浄化は終わらないと判断したソラールたち六人は精霊となり、子供たちの力も借りながら浄化作業を続けた。協力者が子供から孫になって、ひ孫、さらにその子供になってやっと欠片に近寄れたレベルだというのだから、途方もない時間だ。

 説明の中でさらりと風の国の初代国王を愛称で呼んでいたし、実験体だったと暴露されているが、もう何だか些細なことに思えた。


「欠片から呪いを引き剥がそうとしたが、当時じゃ戦力が全く足りなかった。だから俺たちは戦力が揃うまで封印をし続けることを選んだ」


 そんな長い時間を生き続けた男は、全員を見回して不敵に笑う。


「――今、この時までな」


 その言葉は、ルナが提案しなくても、ソラールから提案されていたのだと察するには充分だった。

 コルネとユートの口から「うわぁ……」と、呆れとも取れるような声が上がる。ルナは嬉しそうに笑い、コトハとホクトは頭を抱えていた。アヴリオは使命の大きさに緊張しているのか表情を固めている。

 エウロは楽しげな笑みを浮かべてアルビレオを見てくる。まだ見ぬ英雄譚を求めて旅をしてきた彼にとって、英雄の活躍を最前線で見られるのは最高だろう。

 役割分担はまた移動中に打ち合わせることにして、ソラールは次の話――【終焉を渡り歩く者】についての話を始めた。


「中に入って分かったが、今の【終焉を渡り歩く者】はかつてのカルト集団とは別物だ」


 三年前、水の都に住む蒼翼有翼人(アスルゥアラザン)の里を襲撃した時から名を広めてきたカルト集団【終焉を渡り歩く者】。《厄災の五種ディザスター・ファイブ》の一種、《刻を渡り歩くモノ(タイムウォーカー)》を崇めている終末思考のカルト集団だというのがアルビレオの知る情報だ。

 実際、《刻を渡り歩くモノ(タイムウォーカー)》を崇めてはいたらしいが、こんなにも過激な活動をする集団ではなかったようだとソラールは話す。

 『痛みもなく死を迎えたい』『誰の記憶にも留まらず静かに消えたい』そんな思想を元に、《刻を渡り歩くモノ(タイムウォーカー)》に取り込まれることを目標として、普段は民に溶け込んでいた。彼らは誰かの記憶に留まるのを良しとせず、記録に残ることも嫌がったため、驚くほどに模範的で善良な市民であった。犯罪を犯せばその分、人の目に付き記憶に留まる可能性を高めるので、絶対に法に触れることをしないと教義に書いてあるほどだったという。


「“レムリータ”と名乗る人物がこの集団を内部から壊して、今の【終焉を渡り歩く者】に作り替えた。

 中に居るのは単純に暴れ回りたいだけの無法者。全部“レムリータ”が雇ったならず者ばかりだ」

「実際にはレムリータってやつが欠片を狙っているってこと?」

「ああ。封印されてるモノの正体を正しく認識出来てるとは思わんが、解き放ちたいと考えてるのは間違いないだろうな」


 コルネの問いにソラールは頷く。レムリータなる人物の目的は実際に会って話さなければ分からない。ただ、非人道的な方法を平気で取る性格であることは確かだ。

 アルビレオたちが辿り着く前に封印が解かれては大変だが、今のところ動きはないらしい。

 話が纏まったところでホクトが手を叩いて注目を集める。彼は商人らしい読めない笑顔を浮かべた。


「それならば、一刻も早く出発したほうが良い……と言いたいところですが、準備を怠っては何事も上手く行きません。

 出発は予定通り、明日明朝。それまで各自準備時間と致しましょう」


 よろしいですね? と確認の言葉に、各々が頷いた。


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