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遊撃隊『牙』の回想録外伝~銀翼の歌姫と夜を裂く鳥~  作者: 姫崎ととら
最も速き者と森の精霊

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祝勝会と今後の予定

 優勝したからといって、闘技場を出たら一気に知らない人間に囲まれる! などといった事態には陥らなかった。


「やっぱ少しでも名声上げるためにSランクってなってるだけで、大したことはねえんだよ!」

「来年もあの小娘は出るのか? だったら次は俺がボロっかすに負かしてやんよ!」


 観衆の関心は敗北した【銀翼の歌姫】に向いている。無名のAランク冒険者に負けたことで、Sランクと言えど決して無敵ではない、自分でも勝てるかもしれないなどという希望を抱かせてしまったようだ。

 昼にも利用した食堂でささやかな祝勝会を開こうとしていたアルビレオたちは、料理を待ちながら周りの喧噪を聞いている。一際大きいのはどうやら武闘大会の観戦にすら間に合わなかった冒険者パーティーで、彼らは好き勝手に妄言を吐いていた。


「いや、無理だろ」

「コトハに勝つつもりなの、凄いねぇ」

「彼我の実力差が測れない冒険者は早死にするんだけどな」


 アヴリオが思わずといった様子でツッコミ、コルネが呆れて息を吐く。アルビレオはあまりにも軽率な冒険者たちに苦々しく呟いた。

 祝勝会の参加者は昼の四人に加えて、ソラールとアヴリオだ。シンルーは氷の継承者のところにいると言って離脱している。

 大人数だが、昼のうちにエウロが予約を入れておいてくれたおかげで、店の奥まった場所のテーブルを確保してある。二つくっつけて並べられた丸テーブルの上にはたくさんの料理が所狭しと並んだ。

 周りに気付かれて絡まれても面倒なので控えめな乾杯をして、それぞれ料理に手を伸ばす。


「アヴリオなら勝てる?」

「んー……あの舞台でやり合うなら勝率七割。場外が無いなら勝率四割ってところだろうな。どうにか距離を詰めれれば俺の勝ち。そうじゃなきゃコトハの勝ちだ。空中に跳ばされないように立ち回るのがキモだな。流石に俺はアルビレオさんのように空気を蹴って逃げることは出来ないから」

「へぇ~」「ほぉ……」


 自分の分を確保したところで、コルネが気軽にアヴリオに問いかける。ちょうど肉を食べていた彼は考えるように視線を上に向け、咀嚼を終えてから答えた。淡々とした客観的な回答はアルビレオも考えていた通りの回答で、コルネとユートのみが感心したような声を上げる。

 コトハは近距離戦闘もこなせるが、体重が軽いために歌魔法と魔導銃で距離を取る戦い方を好んでいるようだ。その上で速いので近付いても距離を取られる。近接型であるアヴリオとは相性が悪い。


「じゃあ、アルには勝てちゃう?」

「無理」


 ワクワクしたような次の問いには即答だった。意外に思って少々驚いた目を彼に向けると、視線を受けたアヴリオはかなり悔しそうに睨んできた。


「確認なんだが。レナード先輩以外で、プラーナを刃の先に載せて距離を伸ばしたり、プラーナで斬撃を再現する相手と戦ったことあるか?」

「ないな」

「つまり、初見でうちの奥義を避けた上に、うちの流派では俺以外使えないプラーナを刃の形にして飛ばす術を、練習なしのぶっつけ本番で使ったんだな?」

「……そうだな」


 改めて言葉にされると案外凄いことをしてしまったのではないかという気分になってくる。

 アルビレオの答えにアヴリオはカトラリーから手を離して肩まで上げ、深々とわざとらしい溜め息を付いてみせた。お手上げ、ということらしい。


「ただひたすらに速いってだけでもう脅威なのに、一撃が鋭く重いし、遠距離攻撃にも対応可能。そんでこっちの手札を見せると、真似される。

 剣を壊しても体術で相手を圧倒できるから、弱点にはならない。そんな相手に勝てるほど今の俺の手札は多くないし、そもそも見せたくねえ」


 だから無理だとアヴリオは締めくくり、再びナイフとフォークを手に取って食事を再開した。

 答えを貰ったコルネは感心したように声を上げてアルビレオを見てくる。彼女は毎回ソラールに転がされてるのを見ているので、そこまで強いとは思っていなかったのかもしれない。


「そういやお前、唐突にプラーナの扱いが上手くなったけど誰かにアドバイスでも貰ったか?」


 ジョッキを煽り、おかわりを店員に頼んだソラールがふと思い出したように声を掛けてくる。プラーナを刃の形にして飛ばす術と聞いて思い出したようだ。

 ソラールは本戦が始まるまでどこかに行っており、数日鍛錬を見ていない。突如覚醒したかのようにプラーナを使って見せたアルビレオにさぞ驚いたことだろう。

 だが、前日に見ていてくれたとしてもこの覚醒にはきっと驚いてた。しかも、今よりももっと。


「いいや。本戦開始まで暇だったから、体を動かしていない間のプラーナの動きを確認してみようって思い立って、瞑想してた」


 アルビレオの答えに、肉を頬張ろうとしていたソラールは動きを止めた。その後、一度皿に肉を戻して片手で額を押さえる。


「あー……まず認識させる必要があったのか……」

「えっ。瞑想無しで今までプラーナを扱わせてたんですか!?」


 ソラールの小さな反省にぎょっとした目を向けたのはアヴリオだ。

 驚く彼にどういうことかと理由を聞けば、その前にソラールの修行内容を問われた。ひたすらに手合わせと体術の指南だったと教えれば、驚愕の表情のまま固まる。どうやら一般的ではなかったらしい。

 ゆるりと息を吐き、麦茶を一口飲んで落ち着いたアヴリオは、心配そうな目をアルビレオに向けてきた。


「プラーナはその人間の魂だ。自分の魂の形を認識してやっと扱い方について考えられる。だから最初は鍛錬をしながらも、自分の魂と向き合う時間を作ってプラーナを感じさせるんだよ。じゃないと、使い過ぎたりして危ねえから。

 あ、でもソラール様にとっては当たり前の感覚だから、思いつかなかったとしてもおかしくないのか」

「なるほど」

「フォローありがとな……」


 プラーナそのものである精霊にとっては、人間が筋肉を動かすのと同じで当たり前の感覚なのだろう。少し意識すれば動かせると常々言っていたし。

 アヴリオの説明にアルビレオは納得し、ソラールは額を押さえたまま沈んだ声で感謝を返した。


*****


「で。明日からの動きだけど」


 ソラールが反省から戻ってこなそうなので放置することにしたか、エウロが話題を切り替える。ここからが自分たちにとっては重要なことなので全員、真剣な面持ちに切り替えた。ソラールも顔から手を離してエウロを見ている。


「アルと僕は冒険者ギルドだ。たぶんだけど、アルはSランクにさせられるんじゃないかな」

「まぁ、そうだろうな」


 なにせSランクの歌姫に勝ったのだから。彼女の格を落とさないためにも、年齢も依頼数も充分なアルビレオは、Sランク昇級試験を受けていなかっただけでSランクの実力者だったことにされるだろう。

 問題は、筆記試験をクリアできるかどうか。ここが風の国でなければそのまま昇級だろうが、残念ながら風の国なので筆記試験は必須である。特別措置があることを祈るしかないか。


「こうなると思って昇級試験について軽く調べておいたけど、僕らのように国外の冒険者は、試験内容の一部が免除される。風の国の法律と風の国特有種の討伐方法の二種。だけど、必須項目もあって、討伐・採取禁止種の分布図は覚えてなきゃいけない」

「一夜漬けでどうにかなるとは思えないから、試験まで時間があると嬉しいなぁ……」


 先日、エウロが情報収集に回ったのはこのためだったらしい。先見の明がある相棒に感謝しつつも、必須項目に溜め息をついた。

 新しい町に着いたらまず冒険者ギルドかその町の酒場で情報を収集し、討伐・採取禁止のモンスターや薬草を確認しているが、今回はそんな余裕がなかった。今から教えてもらったとして間に合う気がしない。


「俺かユートが姿を消してこそっと耳打ちするか?」

「姿を消しても声は聞こえるだろう。流石にバレると思うぞ」

「それなら腕に書いていく?」

「コルネ、風の国は広いしきっと種類も多い。アルビレオさんの腕に書ききれないぞ」

「いやいや。不正をする必要はないよ」


 どうにか試験をクリアするための抜け道を考えている仲間に、エウロは笑いながら手を振ってみせる。どういうことだと全員の視線が彼に向いた。


「僕がアル専属の記録師……ソラールに分かるよう古い言葉で言うなら、Sランク専属受付窓口になれば免除される」


 驚愕の宣言にアルビレオとソラールは大きく目を見開いた。冒険者ではないコルネたちはピンとこなかったようだが、受付窓口という響きで雰囲気は掴んだようだ。


「ええと、アルの代わりに依頼を受ける人ってこと?」

「そんな感じ」


 コルネの問いにエウロが頷く。

 通常、拠点としているギルドから依頼を受けるのならば、Sランク冒険者は特に制限をされない。

 問題なのはアルビレオ達のように旅をして、拠点となるギルドを決めていない冒険者だ。


「ギルドとしては、強い人間が一人でも多く所属しててくれたほうが安心だよね。Sランク冒険者がたくさん所属してるってのはステータスにもなる。後進育成なんてしてくれたらもっと嬉しいことだ。

 だから、旅をしててどこにも所属していないような僕らは、実は凄く勧誘されるんだよ」

「そうなんだ!?」

「そうなんだよ~」

「面倒臭いな。場合によっては、自分とこのSランクに怪我をさせたくないから、アルビレオさん名指しでの依頼されることもあるんじゃないか?」

「ギルドによってはあるかもね。

 そういった面倒事を軽減する役目が、記録師。Sランク冒険者とギルドを繋ぐ役目を持った職業なんだ」


 ギルドとのやりとり以外にも、直接依頼された場合の様々な交渉も請け負う立場になる。今までエウロが担ってくれていた仕事そのままではあるが、依頼を受ける際にはアルビレオも窓口に行って冒険者証を受付に見せる必要があった。ギルドによってはAランクのアルビレオに対して、うちに所属しないかとしつこく勧誘してくることもあって辟易していた。

 だが、記録師になるとエウロ一人で全てが完結する。代理人としての権限を持っているので、アルビレオは窓口にいなくて良い。そして記録師を雇っているSランク冒険者はギルドに所属する気がないのが共通認識のため、無理な勧誘は少なくなる。


「条件は、筆記試験の合格に加えて、Aランク以上の冒険者であること。

 そして僕、もう取ってきたんだよねー」


 エウロは笑いながら胸ポケットから二枚のカードを取り出し、ひらりと揺らしてテーブルに置いた。片方はAランクに上がっている冒険者証。そしてもう一枚にはSランク専属記録師任命証と書かれており、発行者は風の国冒険者ギルド連盟本部になっている。正式な任命証だ。

 流石に全員絶句して、いつの間にと言わんばかりにエウロに注目する。


「この前、情報収集のためにいなかったでしょ。あの時に昇級試験と一緒に受けて来た。カード自体はさっき貰ってきたんだ」

「試験、難しかったんじゃないの!?」

「僕もそう思って身構えてたけど、案外簡単だったよ」


 Aランクに昇級するためには試験官が出す魔法を打ち消すことが条件だ。エウロは魔曲で生み出す不協和音で術者の集中を乱し、不発にさせる術をアルビレオと旅に出る前から身に付けていたので、実技試験が余裕だったのは分かる。地の国でアルビレオと一緒に昇級しなかったのは、勧誘が増えることを見越してあえて上がらないことを選んだ。

 筆記試験に関しては、幼少期から各国を渡り歩いてきたエウロの知識量だから言える台詞だろう。コルネは無言のまま真偽を確かめるようにアルビレオとソラールを見てくるので、首を横に振って絶対に簡単では無いと示しておく。彼女はやっぱりと言わんばかりの顔で何度も頷いた。


「ま、そんなわけで。僕が専属で付くことでアルの筆記試験は免除される。代わりにアルは僕がいないと風の国での活動は認められないけどね」

「全く問題ないな」


 風の国でどれくらい活動するかはまだ決めていないが、エウロとパーティーを解散する気は今のところない。それにSランクとなると、どうしても上記の理由で自由に旅をするのは難しくなる。記録師がいなければならないのは変わらないのだから、風の国での活動が制限される程度はデメリットにもならない。


「じゃあ、明日は問題なく冒険者ギルドに行けるな。

 みんなはどうする?」

「はいっ! 私も冒険者ギルド本部? ってとこ見てみたいです!」

「俺も見聞のために冒険者のことを知りたいな。ギルドのこともあまり知らないし」

「ああ、それなら一緒に行こう」


 元気よくコルネが手を上げて主張する。便乗してアヴリオも控えめに挙手しながら同行を求める。ユートはコルネの盾としてどこでも付いてくるので確認する必要はない。残ったソラールも最近の情報が欲しいと付いてくることになった。


来週から一週間に一話ずつの更新になります。

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