無自覚な天才ほど面倒だ/偽りの子供だった
今回はあとがきでおまけあり。
話を聞いていたロッドベルドは、すぐに冒険者ギルドへと試験について問い合わせた。
コトハが受けた特別試験は十歳の少女が受けるには厳しすぎる。大の大人でも苦戦するだろうと思ったのだ。
そしてその考えは正しかった。
話を聞いて一週間後にギルドからの返答が来た。ロッドベルドが彼女達の担当となってから一ヶ月が経っていた。
コトハが受けた試験は、本来ならばBランク昇級への実技試験をさらに難しくしたものだった。
【レンジャー】はコトハが言ったとおりの内容だが、採ってくる薬草は繁殖期のワイルドボアの縄張りに生える物ではなく、もっと安全で、見分けが付きやすい物。
そして【双剣士】は、ロックゴーレム一体を十分以内に討伐することだった。
三体なんて通常の試験では危険すぎてやらない。
「……どこが出来損ないなんだ……」
魔法学校に行く条件に自分で入学金と学費を稼げと十歳の娘に言ったのも厳しいと思うが、夫妻は娘が金を稼ぐ手段に冒険者を選ぶとは思わなかったのだろう。
そして諦めさせるためにギルド側に無理を通したというのに、娘はやり遂げてしまった。
これで本人の自己評価は『出来損ない』『価値なし』だ。
魔法が使えないことがそこまで彼女の自己評価を落としてしまったのかと思ったが、詳しい話を聞いてみれば、自分が苦労して習得した事を、弟達がすぐに習得している事で自信を失ったらしい。
『苦労したロックゴーレムも、八歳の弟は五分で討伐したそうです。あいつが十歳になれば三体程度余裕でしょうね。
私は所詮、出来損ないですから』
諦めたように笑う十二歳の少女は、充分に凄いと褒めたところで受け取りはしないだろう。彼女が求めているのは両親からの言葉だ。大人顔負けの身体能力と判断力、思考力を持っていても、彼ら以外からの言葉を受け取れるほど大人ではない。まだまだ親の愛を求める子供なのだ。
(……だが、おかげで派閥争いに巻き込まれる前に保護は出来たか……)
その自己評価の低さと、ルナの狂気的な執着のおかげで教師が近付けずにいたのは僥倖だった。
英雄ベスティート夫妻の娘として一時有名になったが、授業で課せられる属性魔法を一つも発動させられないため、学校では非常に評価が低い。自分でも出来損ないであることを自称しているために、誰もコトハの身体強化魔法の精度を知らないでいた。が、身体強化も立派な魔法なので、あの歳で高精度で使えるとなると、分かりやすい成果を求める学生はともかく教師陣の評価はひっくり返る。
知られる前にロッドベルドが保護出来たので、学校内の派閥争いに巻き込まれずに済んだ。彼女ほどの実力と強い後ろ盾を持った子供がどこか一つの派閥に所属してしまえば非常に面倒臭いことが起きる。天才少女のルナもついでに保護できたのは幸運以外の何物でも無い。
(……中立の新人に面倒な生徒を押し付けられて楽になった。と考えて放置してくれたら楽なんだがな)
見つかると面倒なので手紙を焼き、魔法で窓を開けて換気する。焦げた臭いが消えた所で彼は息を吐き、椅子の背もたれに身を預けた。
「オッドベル校長。土系魔法科の――です。今お時間よろしいですか?」
一息ついていた所にノックされ一瞬眉を寄せたが、これも職務と諦め耳に触れてちゃんと尖っているのを確認してから、朗らかな声で入出を許可する。
今の自分は精神魔法科の新人教師、モーセ・ロッドベルドではなく、魔法学校校長のモーゼ・オッドベルだ。
ドア越しにちゃんと名乗っていたのにすっかりと名前を忘れてしまった、強い土属性の魔力を纏った教師の訴えを聞く。この三日間、同じようなことを直談判してくる教師が増えた。
言葉は違えど、訴えてくる内容は同じ。「新人教師に天才少女二人の教育を任せきりなのはどうなのか」。
無理もない。なにせ三日前にルナは十二メートルは超える巨大なロックゴーレムを作り出し、コトハがそれを余裕で壊したのを、多くの人間が目撃した。
ルナが好奇心からロックゴーレムを作るのは想定内だったが、ロックゴーレム六体を使って超巨大ロックゴーレムにするとは思わなかった。しかも問題なく命令を遂行し、ルナの魔力が切れれば瓦解するようにもなっていた。
そんな高性能なロックゴーレムを、ルナの魔力が切れて倒れる前にコトハは無傷で壊して見せた。
そこからコトハとルナの評価は一瞬で入れ替わった。
「四ヶ月間も彼女達を放置していたのはあなた方でしょう。
ベスティートさんは目に見えて分かるような魔法が使えないからと放置。
エルフィンストーンさんに至っては、彼女が抱える問題に向き合いもせずに放置していた。
そんな中、ロッドベルド君は偶然でも相談に来た彼女達に真摯に対応し、自分の立場が悪くなると分かっていながら担任になると決めました。
新人だろうと子供と真摯に向き合える大人に任せるのは当然の判断でしょう」
オッドベルは放置していない。コトハもルナも、入学した頃からずっと見守っていた。ルナに関しては魔法院への進学を認めたのは彼であり、ルナの受け皿としてわざわざ去年から新人のロッドベルドとして入り直した。
この三ヶ月間ルナには何度か声を掛けてみたが、彼女はコトハにしか興味が無く、コトハさえいれば研究が出来るとばかりに執拗に攻撃をし続けた。
ロッドベルド以外にも注意をしている教師もいたので、彼らが彼女達の担任になると申請してきたなら任せようと考えていたのに、実際には誰もがルナのことを腫れ物や厄介者扱いしていた。コトハに至っては嘲笑している教師もおり、流石にオッドベルとして注意をした。
どちらか片方だけなら気にかけるも、両方揃っては無理だと諦めている者もいた。こちらの気持ちは分からなくもない。
そろそろコトハのほうに声を掛けるかと考えていた所に、コトハがルナを連れて精神魔法科に来てくれたのは幸運だった。
「ここは研究機関でもありますが、それ以前に教育機関です。もっと子供と向き合いなさい」
オッドベルの言葉に教師はハッと目が覚めたように息を飲み、深々と礼をして帰っていった。
彼はどうやらまともな分類らしい。同じ注意をしても分かっていない教師は多い。大体が教師に向いていないのだが、研究者としての能力は高いので解雇しにくい。
王家に何年かに渡って研究機関と教育機関は分けるよう進言しているがどうにも届いていないようだ。直談判してやろうか。
「……さて」
色々と考えてしまったが、時計を見て立ち上がる。
そろそろオッドベルの時間は終わりだ。ロッドベルドとして、二人の問題児の面倒を見るとしよう。
****
コトハが巨大ロックゴーレムを苦労なく倒したことは、じわじわと広がっていった。
近くに居た上級生の他にも、巨大ロックゴーレムに驚いて様子を見に来た人間がいたらしい。彼らが友人に話した話を聞いた誰かが噂を流し始めたと推察する。
『エルフィンストーンが作ったロックゴーレムを、ベスティートが瞬殺した』
『属性魔法は使えないが、身体強化魔法を使いこなす』
『身体強化以外の魔法を学びに来た』
そんな話が流れているのを食堂で聞いた。
問題なのは、どうやらルナをベスティート、コトハをエルフィンストーンだと思っている人間が多いらしい。
無理はないかなとコトハは自分の髪を摘まんだ。頭頂部は青紫なのに、耳の下辺りから緩やかにグラデーション掛かって赤になっていく髪色。雨が降る前の夕暮れのような、綺麗な髪だと褒められたことを思い出し、頭を振って追い出す。初恋の彼のことを思い出している場合ではない。
この髪の色が問題だった。なにせ、ベスティート家の子供は黒に近い緑の髪だと有名だからだ。そう、ルナと同じ色。
目の色もコトハは白銀の瞳だが、弟達は銀が混じった黒に近いほど濃い紺なので、完全にルナの色。
コトハはベスティート家の娘と言うには髪の色も目の色も違いすぎた。
普通は母の不貞かと疑われる所だが、これは不運な事故の結果だ。
風の国にはピクシー族という、人形のような小さな人型に蝶の羽根を持つ種族が生きている。彼らの使う魔法の一つに胎児を入れ替えるというものがあった。
『最も強い人間の子供と、他の人間の子供を入れ替えるとどうなるか』そんな恐ろしい発想をしたピクシーによって魔法を掛けられたのだ。母は抵抗をしたのだが、弱っていたために残念ながら入れ替えられてしまった。だから、コトハはベスティートの血を引いていないが、ベスティートの子供として生まれたのだ。
冒険者になったときにこの話を両親から教えられて、コトハ自身は酷く納得した。出来損ないなのではなく、そもそもこの凄い両親の血を引いていないのだから出来なくて当然なのだと。とはいえ、ベスティートの血を引いていないと言うと面倒事が起きるのは想像に難くない。よって、ベスティート家の中でも出来損ないだと周囲には言うしかなかった。
(……んー。どうしようかな)
両親からは必要であればチェンジリングのことを教師に伝えても良いと言われている。学校内に噂が流れているのなら、ロッドベルドには本当のところを伝えておいたほうがいいだろうか。
もしかしたら、コトハと入れ替わった本来のベスティート家の娘は、ルナだということも含めて。
しかし、コトハの中で確信出来てないことなので、迷いが生まれていた。髪と目の色は一緒だが、両親とは顔立ちが違う。
(……可能性がある、程度で伝えとくか)
チェンジリングで入れ替えられた子供は、何かしらの欠陥を持つという。コトハの場合は歌魔法以外に魔力を放つ術がわからないこと、ルナは魔術回路に比べて魔力が低いことがその欠陥に当たるだろう。
ただ、ルナにはまだこのことを伝えられない。どんな行動に出るのかが全く分からなくて怖い。
「……ボクがベスティート家だと、キミのように動き回れたんだろうか」
ルナの耳にも聞こえたのだろう。不意打ちで願望のようなことを呟かれて、コトハは僅かに動きを止めた。だが何事もないように自然と顔を上げ、ニヤリと笑ってやる。
「お前なら、今からでも鍛練を積めば出来るぞ」
「ははは。またキミはそういうことを言う」
「本当だって。お前は出来る」
ルナは笑ってお世辞は要らないと言うが、コトハは真面目な話をしている。
なんせ、推定だがベスティート家の本来の長女だ。魔力については課題となるが、空になるまで使ってポーションで回復すると上限が上がると聞く。体の鍛練をしながら魔法を使って魔力を空っぽにして、休憩で回復していけば、成人する頃には充分冒険者としてやっていける程度には魔力も上がるだろう。
「とりあえず、体力作りで俺と一緒に走るか」
「もうその時点でボクには無理そうだけどね」
「起きられる時間にしてやるよ」
毎日、早朝にコトハは寮から校舎まで走り、広い校舎を二周して寮に戻っている。他の人間に会いたくないのと、空の色が変わる様子が好きなので早朝に走っているが、ルナが走るのならもう少し遅い時間にしても良い。
しかしルナは困ったように笑って首を振った。自分から話を振りはしたが、あまり動きたくないようだ。彼女があまり運動したがらないのは今に始まったことではないので少し残念だ。
「でも、体力と肺活量は術士でも必要だぞ。夕方にでも一緒に走らねえか?」
いつもなら諦めるが、今日は少しだけ粘ってみた。早起きがネックだとみて夕方に誘ってみる。
ちょうど口にスプーンを運んだ所だったルナは、片手で制止を示しつつ、咀嚼しながら目を伏せて考えていた。口の中がなくなると同時に目を開く。
「……歩きからでも良い?」
「もちろん」
やはり、早起きがネックだったようだ。ついでに難易度を下げてきたがコトハは喜んで了承した。体力作りをしようという気になったのなら、歩きだろうと構わない。
いろんな作業の邪魔になるので、今日は魔法学校を出て町で髪を切りに行く。
ルナと一緒の部屋になって分かったが、彼女の親は勉強に必要な物、最低限の下着以外は買い与えていない。そもそも金を持たせていない。
寮長に預けてあるのかと思い確認を取れば、彼女も預かってはいないという。
何とも嫌なことに、ルナは放置子だったのだ。それでいて両親は彼女に「金になる研究をしろ」と言っているらしい。コトハに声を掛けてきたのも、――コトハが相手したのもあるが――コトハが持つ高い魔力があれば何か作れそうだと思ったからだそうだ。
なので、コトハはまず学内にある学生向けの依頼を数件、ルナと共にこなすことにし、その前準備として色々と揃えに行く事にした。
冒険者として稼いだ金のほとんどは学費につぎ込んでいるが、自分の必需品や髪を切る金ぐらいは残してある。その金を使って、ルナと自分の身支度だ。
実際に硬貨を見せて説明してから、ルナにローブを着せて髪と顔を隠した状態で、幼い頃から通っている散髪屋に顔を出す。
店主一人で回す小さな散髪屋は情報屋でもある。中で待つことも出来ないほどに狭い店は防音魔法が掛けられており、店の表のガラスからは中に誰か居るのは分かるが絶妙に店主の顔と客の顔を見せない配置になっている。
両親も通っている店の店主はコトハが友達を連れてきたことに驚いたが、ルナの髪の色に息を飲んだ。冒険者ギルドの関係者以外でチェンジリングのことを知っている唯一の人物だ。
一瞬動揺はしても、すぐに隠して、店主はルナの髪を切る。その間コトハは外で待機だ。
終われば今度はルナがローブを被った状態で、外で待つ。
「正直、似てないから髪と目の色が偶然一致しただけだと思いたいんだけど」
「残念なことに、ユパのお母様の若い頃にそっくりよ」
「ああ、そう」
父方の家が代々利用している情報屋だ。父の母、コトハにしてみれば祖母に似てるというのならばそうなのだろう。確定かとコトハは息を吐いた。
「私から伝えておこうか?」
「ううん。今から顔見せついでに連れてく」
「……あんた、たまに思い切りが良すぎるわね」
「親の教育の賜物デス」
確信が持てたのなら先延ばしにしていい問題でも無い。継続にしろ、縁を切られるにしろ、さっさと片付けておきたい問題だ。
ルナは常識がないものの才能はベスティート家の娘として相応しいものを持っている。少しずつ運動に対する苦手意識を取っていけば、コトハよりもずっと動けるはずだ。なにせ血を引いていない自分がベスティート家の訓練でここまで動けるのだから、本来の才能を引き継いだ彼女ならもっと出来ておかしくない。
もしコトハがベスティート家の娘じゃなくなっても、十二歳になったので冒険者証は取り上げられない。家の名声がなくなると報酬はだいぶ低いものしか受けられなくなりそうだが、さっさとBランクに上がってしまえば問題はないだろう。Bランクに上がるための筆記試験の勉強はずっとしている。実技試験はだいぶ難しいと聞いているのでそれだけが不安だ。
独り立ちする準備は十歳から徐々に整えてきた。いつ出て行けと言われても出て行ける。というか父親には常々「この程度出来ないなら出て行け」と言われているので、これを機会に出てしまおうか。あと八ヶ月ほどは学校の寮に居られるし、学校を出ても冒険者ギルドは定住しない冒険者向けに宿屋も経営しているので、そちらで過ごしても問題ない。
考えていたら髪を切り終わっていた。後ろは短く、サイドは長く。耳に髪が触れるのが嫌なので、ハーフアップにして耳を出せるような髪型にしてもらっている。
さっと髪を集めてハーフアップにされ、完了。二人分の料金を渡し、コトハは何か言いたげな店主の顔に気付かなかったことにして、店を出た。
「ふはーーははは!! 見てくれ!! ロックゴーレムを六体生成できた!!」
「うわぁ。ホントにやりやがった……」
魔法の練習のために作られた岩場の訓練場。ロックゴーレムを筆頭に、ゴーレムの生成に使われている場所であり、大規模な魔法の練習場としても使われているので、上級生が多い。
あまり人目に付きたくはなかったのだが、ルナが好奇心からロックゴーレムの生成方法を学んでしまい、安全のために付いてきてとコトハと担任のロッドベルドは引っ張られてきた。
人気の少ない奥側、岩場が入り組んだ辺りで実験するくらいには人に配慮することを覚えたことに少し感動していたのだが。
訓練着を着た上でさらに魔力の分散を防ぐローブを着たルナが高らかと笑う。その背後には五メートルほどのゴーレムが五体と、二メートルほどのゴーレムが一体立っていた。
魔石を使わず、直接岩に文字を刻んでルナの魔力で動かすゴーレムなので、さっさと倒さないとルナが魔力切れを起こして倒れる。
準備運動はしておいたが、腕をもう一度回したコトハに、ルナは制止をかけた。
「ふっふっふ。これだけだったらコトハは簡単でしょ」
「……まぁ、数が増えただけだしな」
この台詞にたまたまこの辺りで練習をしていて、様子を見ていた上級生は少し驚いた顔でコトハを見たが、コトハは無視を決めた。ロッドベルドは苦笑だ。
「ボクは学んだ。一人では出来ないことがある。だけど、皆とならば出来る事があると!!」
「……ほう?」
芝居がかった様子で口上を述べ始めたルナに呆れつつ、腕を組んで大人しく聞いてやることにする。
一応視線だけで周囲を見回し、彼女の協力者はいないことを確認しておいた。
「六つの心を一つに合わせ!」
「ゴーレムに心はねえだろ」
反射でツッコんだらじとりとした目で見られたので、もう口上の邪魔はしないと片手で謝罪して続きを促した。
「六つの心を一つに合わせ! 究極の姿、ここに顕現せん! 六身合体!!」
「は? 合体?」
高らかな宣言と共に、ルナが右手を空に掲げる。動きに合わせて後ろのゴーレム達が一度崩れ、一番小さなゴーレムを中心に組み上がっていく。
現われたのは十二メートルはある、巨大なロックゴーレムだった。
「……また無駄な機構を組み込んだな……」
「はーはっはっは!! これぞ究極の姿!! スーパーゴッドゴーレム!!」
「そんで大仰な名前を付けやがって……さてはお前、変な娯楽小説を読んだな?」
「面白かったよ」
キミも読むと良い。などと素で言われてしまったので、本当に面白かったのだろう。面白くないものはわざとらしいほどテンション高く勧めてくるが、本当に面白いものはこうやって素で勧めてくるので興味を引かれてしまう。悔しい。
ともあれ息を吐いて気を取り直し、グローブを左右きちんとはまってるかを確認して身体強化魔法を掛ける。
「で? もう気が済んだか?」
「ああ! 好きに――」
ルナが言葉を言い切る前に、コトハは踏み切って高く飛び上がっていた。狙うはゴーレムの頭。
当然ゴーレムは防御をしようと腕を交差させるが、その交差点を右ストレートを叩き込んで二本一気に砕く。防御魔法も掛かっておらず、特別硬い岩でもないので、どれだけ太かろうと二本とも砕くなど簡単だ。
衝撃で大きく仰け反ったゴーレムの頭を蹴って壊しながら、ゴーレムの近くに立ったままのルナの方へと跳ぶ。始める前にルナに離れろと声を掛けるのを忘れていた。驚愕で固まっている彼女の近くに着地し、すぐに抱き上げて跳躍。離れたところで見ているロッドベルドの隣に降ろしてゴーレムの所へ戻った。
その頃にはゴーレムが倒れていたので、落ちていく小石ぐらいの大きさに砕けた破片を拾い、組み上がる途中で見つけていた脚の内太腿辺りにある呪いの言葉へと投げて削った。立ち上がろうとしていた足が、バラバラと結合が解けてただの岩の塊になる。
いくつもの岩が組み合わさった胴体の中心に一番小さなゴーレムが入っている。どの辺りかはもう目算を付けているので、迷うことなく拳を振るって岩の鎧を破砕して曝け出した。緑に光る文字を蹴り壊し、飛び散った破片で掴みやすいものを二つ選んで、最後の跳躍をする。
一番最初に砕きはしたが、腕二本は文字を破壊していない。
崩れた他のゴーレムの体を取り込んで形を成そうとする二体のゴーレム。巨大ゴーレムの時は肩に当たる場所にあった文字を探し、見つけたそこに破片を投げつけて削った。
次の瞬間、浮き上がっていた岩が力を無くしてガラガラと瓦礫と化す。
壊し終えたコトハは余裕でゴーレムだった岩塊の上に降り立った。足場は安定していないのですぐに跳んで地面に着地しなおすと、土煙を背にグローブの土を軽く叩いて落とし、帽子の位置を直しながらルナの所へと歩いて行く。
「二分ってとこか?」
「一分四十秒ぐらいかな。もうちょっと動けると思ったんだけどなぁ」
揃えて立てた膝に肘を置き、頬杖をつきながらつまらなそうに口を尖らせているルナに片手を差し出す。遠慮無く乗せられた手を引っ張って立たせ、一応怪我が無いか確認すれば、ルナは服の土を叩きながら無いと答えた。
「あれ、合体で構成式の半分ぐらい取られてるだろ。だから動きが悪いんじゃねえか?
でも俺の攻撃に反応できたのは悪くねえと思うぞ」
「いや、アレはキミが初手で頭を砕きに動くと思って、合体した十七秒後に頭を庇うって命令入れた」
「……良い読みだったが、やるなら腕はもっと硬い岩にしとくべきだったな」
「この辺りで一番硬いの選んだんだけどねぇ……斬撃縛りがなければ、こうも簡単に壊されるのか~」
とてつもなく残念そうに溜め息をつくルナに、この程度の硬度なら双剣でも余裕だったことは黙っておくことにした。
試験用のロックゴーレムは斬撃耐性が高くなる硬化魔法がかけられていたと考えている。斬撃以外にも耐性があるなら、他のゴーレムの攻撃を当てても壊れなかったはずだ。
その魔法も掛けていないただの岩なら、今のコトハなら断ち切れる。それだけの技術を身に付けたし、短剣は耐えられるものだ。
「ベスティート君、手は大丈夫かい?」
「あ、はい。この通り無事です」
二人のやりとりが終わるのを待って、声を掛けてきたロッドベルドにグローブを外して両手を見せ、異常が無いことを示した。この程度なら骨どころか皮膚にも影響はない。
心配されるのには少々慣れないが、教師として生徒の怪我を心配するのは責任問題などもあるかとある日思いつき、今では素直に受け入れることにしていた。
問題なく動かしてみせるコトハにロッドベルドはホッとしたように息を吐いた。




