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遊撃隊『牙』の回想録外伝~銀翼の歌姫と夜を裂く鳥~  作者: 姫崎ととら
最も速き者と森の精霊

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番外:アヴリオとフリーア・2

 その後、父に事の経緯とフリーアのための剣になるために、再び剣を教えてほしいと頭を下げた。

 ペンダントを渡していることから、本気で彼女の剣になるのだと覚悟を確認した父は、笑いながらとんでもないことを教えてくれた。

 実は、尊敬していた文官のクラースは、騎士団で『影』を務める騎士の影として働いていた。彼もまたアヴリオのように引き抜かれて影になったのだと言う。しかも、実はクラースこそが実父だと教えられて、親子揃って影になることを選んだのだと知った。クラースも今の主に出会うまでは自由を求めていたそうだ。


「あっはっはっは!! 確かに俺は息子なら素直だから、力になってくれと頼んだらあっさり力になるぞとは言ったが、本当にフリーア様はお前を口説きに行ったか!!」

「伯父さん、いえ、父上ーーー!? あんたの入れ知恵かーーー!!」


 帰ってきた伯父改め、父に事の経緯を話せば、彼は文字通り笑い転げた。


「くっそ!! 騙された!! 別に俺じゃなくても良いんじゃねえか!!」


 そんな父を見下ろしながら、アヴリオはフリーアにペンダントを渡したことを早速後悔した。

 フリーアはクラースから話を聞いたとは言っていたので少し不思議だったのだ。文官と『影』がどうやって出会ったのかと。

 だが、二人とも『影』ならば話が変わる。そしてクラースの話から一番口説きやすく、手っ取り早いと思ったのだろう。うっかりアヴリオが惚れても、公爵家の身分が彼女を守る。


「くそBBAーーー!!!」


 本人に言えば不敬罪となることを遠慮無く叫ぶ。ほんの少しでもときめいた心の高鳴りを返せ。

 クラースは、それはもう笑いすぎて、とうとう横隔膜が攣った。



 一刻も早くペンダントを取り戻すため、そして騎士団に入団しながらも、フリーアの影になることを断るためだけに、その日からアヴリオは人が変わったように木刀を振り続けた。全ての型を覚え、奥義も覚えた。

 そうやって三年が過ぎ、アヴリオは十五で免許皆伝となった。誰もが驚き讃えてくれたが、全てがどうでも良かった。復讐のためだけの称号に意味など無い。


「免許皆伝!? すごいな! お前がそれほどの力を付けてくれたなら、私ももっと頑張らねばな」

「別に、あんたのためじゃないですから。俺の自由のためです」


 ただ一人、フリーアの賞賛だけは心に響いて、それが悔しくて素っ気ない態度になった。

 フリーアは三年の間も時折顔を見せてきて、アヴリオのことを褒めてきた。会う度に少女らしさが消えて女性になっていく彼女に焦燥感を抱いたが、彼女は騙しやすいアヴリオを利用している悪女で、くそBBAだと思うことで打ち消した。


 免許皆伝を取ったら、フェルストン家は『六人の精霊と英雄』の歌にある英雄の一族で、厄災から三年後に封印に向かう家だと教えられた。危険な旅になるため、免許皆伝した血族にしか伝えていないそうだ。


「影になるなら、お役目はやはり違う者に行かせるか」

「いえ。俺が行きます。それぐらいの自由が許されないなら、約束が違うと影であることを辞めてやる」


 悩む父改め叔父に首を振って、自分が行くことを主張した。そして、来年には騎士団に入団するため、カタナの整備のために地の国に向かった。

 旅の途中で風の国の王都で闘技大会があると知り、レナードが出場することも知って、アヴリオはついでなので優勝を掻っ攫うことにした。優勝経験は騎士団の入団に有利に働くはずだ。

 そして王都まで辿り着き、参加登録をしてから予選の日を待っていたところで、思わぬ出会いをする。


****


 いくつかの買い物をしてフリーアの下に急ぐ。あんな美人が一人でテーブルに座っていたら、ナンパに遭ってるだろう。彼女自身その程度あしらえるだろうがナンパに遭っていること自体が気に食わない。

 だが、予想に反してフリーアの周りは静かだった。


「おお、お帰り」

「ただいま戻りました。……ナンパに遭わなかったんですか」

「ああ。私は案外話しかけにくいようでな。水の都でも声を掛けられたことはないぞ」


 嘘だろうと目を疑った。こんなにも隙だらけで温和に笑う美女がいるのに、声を掛けない男がいるのか。いや、確かに先ほどアヴリオの姿を見つけるまでのフリーアは少し目つきがキツく、足を組んで腕も組み、真剣に考え込んでいるようだったので声を掛けづらかったかもしれない。

 しかし、ひとたび声を掛ければこんなにも柔らかく微笑み、隙だらけと分かるだろう。最初の一声の勇気を振り絞ることさえ出来ないのか。


(この辺の男共、玉付いてんのか? つか、目が悪すぎるんじゃねえか? 治療しろ治療)


 アヴリスからすれば、フリーアのあまりの可愛さにむしろ腹が立ってくるレベルだ。今もアヴリオが持つ物に興味津々に目を輝かせている。くそBBAと心の中で罵って、買ってきた物をテーブルに載せて正面に座った。


「水の都とはやっぱ違いますね。こっちは肉料理が多いです。パンも薄焼きで、こうして肉や野菜を挟む物が主流のようですよ」

「ほぅ。面白いな」


 円形で薄く焼かれたパンにソースを塗り、様々な物を挟んである。ただ二つ折りにした物をタコス、軽く巻いた物をトルティーヤ、完全に閉じたものをブリトーと言うらしい。屋台で違いが分からずに店主に聞いた話である。

 挟んである具が違うので色々と買ってきたが、彩り的には同じ物になってしまった。


「……すいません。なんか同じもんばっかですね」

「ああ、それは気にするな。この国特有の料理が見られて楽しい。ただ、凄い量だな」

「……そうっすか?」


 指摘されてテーブルに所狭しと並べられた物を見る。葉が少し大きいので場所を取っているだけで、各二つずつで六個程度だ。そんなに多くは感じない。

 首を傾げるとフリーアは驚いたように瞬きをし、仕方のない奴だと言わんばかりに眉を下げて笑った。


「お前な。私は騎士で剣も振る人間だが、そんなにたくさん食べないぞ」

「え。」


 せいぜいこの二つが限界だ。と小ぶりなタコスとブリトーを近くに引き寄せる。そう言えばすでに大きな串焼きを二本食べた後だと思い出し、その程度しか入らないのかと驚いた。

 昔一緒に食事をした時、フリーアは自分の倍は食べていたように感じていたが、ここ一年は共に食事していない。その間にアヴリオは身長が伸びてフリーアを追い越したし、体格もだいぶ大きくなった。それに伴い食べる量もかなり増えているため、基準をだいぶ下方に修正した。



 結局、フリーアはブリトーが食べきれなかった。挟んでいるチーズが思った以上に重かったようだ。半分ほど残った分を頑張って食べようとしているので、苦笑して片手を差し出す。


「それ貰って良いです?」

「え。食べかけだぞ?」

「いいですよ。ちょっと足りてないぐらいなんで、その量がちょうどいい」

「……そうか。なら、頼む」


 本当はもう満腹に近いが、目の前の分ぐらいは食べきれる。渡されたブリトーを三口で食べきったら、フリーアは目を丸くしたあと、おかしそうに笑った。


「すっかりと大きくなったな」

「……まぁ、四年は経ってるし、先日成人しましたんで」

「ああ、そうだったな」


 ふふっと余裕を持って笑う彼女は、もうすっかりと大人の女性だ。対してアヴリオはまだ幼さが残る顔立ち。五年の差が悔しい。わき上がってくる感情から目を逸らし、皿代わりの葉を重ねて、設置されたゴミ箱に捨てに行く。

 その間にフリーアはコップを返しに行っており、合流したら銅貨を渡された。返金された分だ。受け取ってポケットにねじ込む。


「さて。次はどこに行くんです? あと少ししたら【歌姫】が闘技場で歌うみたいですけど」

「うーん。それなら皆そちらを見に行くだろうから、土産物屋を見て回りたいな」

「わかりました。んじゃあこっちですね」


 フリーアの希望を聞き取って、昨日とんでもない人物達と遭遇した通りへと向かう。ルナのほうはともかく、コトハは流石にうろついていないだろう。



 土産物屋の通りは昨日よりも閑散としていた。皆【歌姫】のほうに興味があるか、まだ食事中なのだろう。露天商の店主も店の中で食事を取っている。

 フリーアは面白そうに店先を冷やかし、歩いて行く。案内までは前を進んだが、今は彼女の後ろについて歩いた。

 公爵家の彼女からしてみるとこの辺りの物はあまりにも安いし、身に付けられる物は一つもなかろう。だと言うのに、彼女は置物などよりもアクセサリー、特にネックレスを熱心に見ていた。


「――あった」


 三件目で平たい雫型の緑水晶のペンダントトップを見つけて、彼女は店主に許可を得てから手に取った。


「うん、これにしよう。店主、これを……この丸紐で頼む」

「あいよ。長さはどうする?」

「こちらで調整するから長めにしておいてくれ」

「わかった。ちょっと待ってな」


 明るい赤茶色の革紐を選び、あっという間に決めて金まで払ってしまう。

 こういった店で売られているのは本物の宝石ではなく硝子であることが多いのだが、何が彼女の琴線に触れたのか。アヴリオは店主の手元で手際よく紐を付けられている石を見て、自分の目を疑った。

 形はアヴリオがフリーアに預けたペンダントに似ている。色合いは、フリーアの目の色に少し似ているなと思ったが絶対に口にしない。

 それは、魔力を帯びた石だった。否、石ではなく鱗。


「風の国では風龍(ケツァルコアトル)の鱗を加工して売っていると聞いてな。

 これと同じだ」


 にこりと笑ってフリーアは鎖骨辺りに手を添えた。ずっと目を逸らしていたが、そこにはアヴリオの瞳の色のような蒼い水晶――水龍(リヴァイアサン)の鱗が輝いている。チェーンは革紐から、銀のチェーンに変えられていた。夜会にも付けるためにチェーンを変えても良いかと許可を取られたことがある。

 三センチほどの水晶が水龍(リヴァイアサン)の鱗を模した物ではなく、本物の鱗から削り出した物なのだと教えられたのは旅立つ前だ。フリーアはおそらくクラースから聞いたのだろう。


「……込められた魔法まで教えられましたか?」

「いいや。教えてくれようとしたが、お前が取りに来た時に教えてくれる約束だと言ったら、黙ったよ」

「そりゃよかった」


 回収してから教えるつもりなので、勝手に教えられてなくて良かった。うっかり発動でもされたら困る。

 話している間に紐が付いて、フリーアは店主から鱗を受け取ると店から離れていく。人気の少ない場所まで来て、彼女は鱗を手のひらに載せて緊張した面持ちで付与魔法を展開した。攻撃魔法以外の魔法は苦手な彼女が付与魔法を使おうとしていることに驚き、さらに込めようとしている術式に驚く。

 装備者が瀕死の怪我を負ったらフリーアのところへと転移する、転移魔法だ。玉のような汗を額に浮かべながら慎重に術式を書いていく。それは何度も練習した魔法をゆっくりとなぞっているようにも見えた。

 付与魔法は、素材というキャンパスに精密に重ならないように術式を描く。フリーアの魔法はとてもじゃないが精密とはほど遠く、重なっていないのは風龍(ケツァルコアトル)の鱗というキャンパスがとても大きいからだ。一言で言うのならば下手だった。

 しかし、術式はきっちりと描けている。あとは魔力を籠めれば、これは緊急時にフリーアの下へ装備者を連れていくだろう。

 そしてフリーアは魔力を籠めて、やっと額の汗を拭った。


「……なんとか、出来たか」


 息を切らせて汗だくの状態だったが、彼女は達成感に満ちた笑顔を浮かべてアヴリオを見上げた。

 なんとなく、これは自分に渡されるのだろうと直感していた。でなければ、水の都に帰って付与魔法の得意な魔道具師に頼んだほうがよほど上手く付与してくれる。


「不格好な術式だが、ちゃんと発動するはずだ。受け取ってくれ、アヴリオ」


 予想通り、差し出されたペンダントを見下ろす。彼女は絶対に受け取ると信じ切った笑顔でアヴリオを見上げている。

 くそBBAといつもの呪詛を胸の内で吐き捨てて、うっかり芽生えかけた芽を呪い殺した。


 いたいけな少年を騙してる悪女だと十二歳の頃は思った。

 この人は人を騙せるような頭は無いと気付いたのは十三歳。

 他にも部下として声を掛けているが、影はたった一人だけだと決めてるという噂を人伝に聞いたのは十四歳。

 本当に文官の座を用意して待っていると笑顔で伝えられて揺らいだ十五歳。


 どうしてこの人は、こんなにもアヴリオを振り回すのが上手いのだろう。


「……なんでこんな術式組んだんですか」


 受け取る前に確認を取ると、フリーアは目を細め、アヴリオの右手を勝手に取ってペンダントを押し付けて握りしめさせる。出会ったあの日は大きいと思ったのに、すっかりと細い、女性の手だった。


「保険だ。騎士団に所属するまで、お前はあちこち世界を見て回るつもりだろう?

 お前は強いから大丈夫だと分かっていても、何が起きるか分からない。万が一もあり得る。

 ――これが発動しないことを、祈っているからな」


 何とか微笑んでいるが、手は震えていたし、オリーブの瞳は心配そうに揺れていた。レヴェレスター家の女性は予知夢を見る事がある。何か不吉な夢を見たのかもしれない。

 問えばフリーアはきっと答えてくれるが、アヴリオは何も訊かずにペンダントを握りしめた。ホッとしたようにフリーアの手が離れる。仮で留められた紐はそこそこ長いが一度付けて確認すると、鳩尾辺りに鱗が来た。服の中に隠すならちょうどいい長さだ。一度外して結び目を固く結び直し、再び付けた。


「まさか、このためだけに来たんですか」

「いいや。休暇のついでだ」


 安堵した表情で微笑んだフリーアに、疑問がするりと口から漏れ出た。彼女は素直に頷かないと分かっていたのに。

 案の定、フリーアは建前の言い訳を言って、くるりと身を翻して土産屋のほうへと再び足を向ける。

 改めて彼女の格好を確認する。持っているのは剣とマジックポーチ一つ。服はところどころ少し汚れているラフな訓練着。早馬にスレイプニルを使えば、二日ほどで水の都から風の国の王都まで辿り着けるはずだ。


「さぁ、アヴリオ。休暇の過ごし方を教えてくれ」


 振り返って楽しげな笑顔を浮かべる彼女の目の下に、うっすらとした隈を見つけてアヴリオはたまらない気持ちになった。

 この人は本当に、アヴリオを振り回すのが上手い。


「……わーかりましたよ」


 胸の内を全て押し隠して、わざと呆れたような声を出して彼女の隣へと歩を進める。


 何度も殺しているはずなのに、少しずつ伸びている気がする何かから、必死に目を逸らした。

 明け方に声にならない悲鳴を上げ、フリーアは目を覚ました。


 とても不吉な夢を見た。

 どこかの深い森の中。苔むしたグリフォンのレリーフがある何か城のような壮大な建物の跡。

 アヴリオのカタナは折れ、地に倒れ伏していた。開かれたままの蒼い瞳に、光はない。


 眠っている時は流石に危険だからと外し、枕の下に置いてあるペンダントを取り出し身に付けると、彼女はベッドから素早く降りて着替える。

 騎士服ではなく、厚手のシャツに乗馬用のズボンとブーツを着て部屋を飛び出すと、ドアの外で待機していた夜勤の護衛が驚いた様子で後を付いてきた。


「フリーア様? 緊急の知らせですか?」

「ああ。いつもの予知夢を見た。予防策を張りに行くから、最低五日、長くても一週間で戻ると王城に使いを出しておいてくれ」

「――畏まりました」


 起こしに来ようとしていたメイドがフリーアに気付く。表情から緊急事態と察した彼女にも同じ説明をすれば「最低限の旅装を整えます。一時間ほどお待ちを」と告げてすぐに身を翻した。

 一時間で整えられるのは、常に緊急時を想定して準備してあるからだ。食堂ではなく直接キッチンに顔を出し、こちらでも事情を説明すると朝食の準備をしていた料理人たちもすぐに動き出す。

 食堂に入れば先ほどのメイドが地図を手に戻ってきた。


「アヴリオはカタナの整備に地の国の村に向かったんだったな」

「はい」


 本人には悪いが、アヴリオの動向はフェルストン家から報告を受けている。成人し、来年には騎士団入りするため、カタナを打った里へ赴いて本格的な整備を頼みに行ったと聞いている。そしておそらく、今は王都にいる。

 以前から練習を続けていた付与魔法をもう一度確認しながら食事を待っていると、料理人はすぐにサンドイッチとスープを出してくれた。スープはマグカップに入れて飲みやすくなっている。緊急時の食事はとにかく速さ重視だ。サンドイッチも食べやすいように細切りで、食べながら護衛がテーブルに広げた地図をしっかりと見る。

 道を確認する間にハーウィアも起きてきた。旅装を整えている彼にもフリーアと同じ食事が出される。食べている彼に目的地を指差せば、少し不思議そうに首を傾げた。


「近々、武闘大会がある。あいつなら優勝を目指すだろう」


 騎士団では毎年一定数の志望者を募るが、日蝕と被る年は、かなり絞る。新人を育てている余裕がないことと、新人で死なせてしまうよりも翌年に入ってきてくれたほうが助かるからだ。

 風の国の武闘大会の優勝者となれば、即戦力として即採用だ。確実に入るために、アヴリオはここを目指して滞在していると考えた。

 ハーウィアも同じ考えに至ったようで異論なく同意し、道筋を確認する。


 言い訳は「休暇を取れと言われ困っていたところ、アヴリオがカタナの整備のために旅に出たことを聞いた。彼の事だから武闘大会に出るだろうと思い、試合を見に来た」ということにした。かなり無理のある言い訳だが、聡明なアヴリオなら騙されてくれるだろう。


「二人乗りで王都まで。王都に着いたら、私は宿を探します」

「頼んだ」


 風の国に赴けば、前から作ろうとしていた物もその場で作って手渡せる。とにかく今はアヴリオを見つけることが優先だ。


 フリーアはこれまでもアヴリオに関する予知夢を見てきた。

 初めて見たのは十七歳。力がなく犯人を捕まえきれなかった日。クラースのおかげで何とかなったが、自分の無力さに歯がみした夜に見た。

 クラースよりも澄んだ蒼い瞳。青みがかった銀髪の青年が黒い執行官の制服を着て、フリーアの前に立っていた。彼は緑の水晶が付いたペンダントを服の下からわざわざ引っ張り出して、ふてぶてしく勝ち誇ったように笑って見せた。その時に何かを言っていたが、流石に忘れた。

 クラースに確認をしてみたら、彼の息子だという。会いに行ってみると息子はまだ幼く、夢の光景はおそらく入団後なのだと理解した。

 だから必死になって口説き落とした。彼に相応しい上司になれるように努力もした。

 思春期なのか段々とふてぶてしく、生意気な態度を取るようになってきたが、照れ隠しなのだろうと許した。文句を言いながらもしっかりと実力を身に付けてくるのだから可愛いものだ。


 二度目は、半年後。彼が毒の入った水を飲んで死ぬというもの。即座にフェルストン家に向かって犯行を未然に防いだ。犯人になりかけた人物はアヴリオの飲み物に下剤を混ぜて、少し腹を下す程度の嫌がらせのつもりだった。夢では丸々一瓶入れてしまって、慌てていたところにアヴリオが来て飲んでしまうというもの。未然に防げて良かった。

 ついでなのでアヴリオには毒の耐性を付ける訓練をするよう、公爵家から人を出した。


 それ以降、半年ごとにだいたい彼が死ぬ夢を見るので、王都の公爵家の者も慣れて即座にフェルストン家へ使いを出せるようになった。

 今回の夢の中の彼は、一番最初に見た夢のペンダントをしていなかった。おそらく、そのペンダントが鍵だ。彼を生かすために必要な鍵も探す必要がある。


 ここからは時間との勝負だ。

 絶対に、失わせない。


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