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遊撃隊『牙』の回想録外伝~銀翼の歌姫と夜を裂く鳥~  作者: 姫崎ととら
最も速き者と森の精霊

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Re:予想外の出会い×2

 予選のバトルロワイヤルは、あまりにも余裕だった。

 広い石畳の舞台の上に二十人ほどが集まっていたのだが、剣を振るう必要すらなく、向かってくる人間を体術だけで沈めていく。

 場外にした人間も何人かいるが、ほとんどがアルビレオの足下で突っ伏す結果となった。


 選手控え室で顔ぶれを見た時から分かっていたことだが、今回警戒すべきはアヴリオの兄弟子である前回優勝者とコトハぐらいだ。

 無事に予選を通過して、本戦は明日。集合場所と時間を聞いてアルビレオは解放された。


 闘技場の外で待っていたエウロたちにお疲れ。と声を掛けられてアルビレオは疲れた溜め息を落とした。


「どうだった?」

「……皆、気迫は凄かった」

「ははは。それは見てて分かった」


 見てるだけで暑苦しかったと笑うアヴリオを恨めしく睨み付けつつ、同年代四人とユートで町へと向かう。ソラールとシンルーは日中やることがあるらしく、王都に着いてからはいないことが多い。夜になると帰ってきて監視してくれている。

 連日、祭りのように賑わう大通りでは、たくさんの屋台が並んでいる。いくつか料理を買って、運良く空いたベンチにユートとコルネを座らせ、買い込んだ料理も置かせてもらう。


「今日はこれで終わりなんだよね? 外で鍛錬する?」

「いや。明日から本戦だし、疲れを残したくないからのんびりしとく。コルネが見て回りたいならついていくよ」

「やった! あっちの通りに、お土産屋さんがあるんだって!」


 タレがよく絡んだ串焼きを食べつつコルネに答えれば、彼女は楽しそうに左の通りを指差した。そんなコルネはたっぷりのチーズとハムを挟んだパンを食べている。

 エウロは情報収集に向かうというので別行動。アヴリオは暇なのでコルネに付き合うそうだ。


「……あれ、アヴリオか?」


 なら早めに食べて移動するかと口を動かしていたら、声を掛けられた。見れば焦げ茶の髪に水色の瞳の男性がアヴリオに手を振って歩み寄ってくる。腰に佩いているのはアヴリオと同じ拵えの剣だ。


「ん! ……レナード先輩! お久しぶりです!」


 アヴリオが慌てて口の中の物を飲み込み、頭を下げた。

 先輩。つまり、前回優勝者かと察した。朗らかな笑みを浮かべながらも隙の無い様子で歩いていて、強者だと一目で分かる。


「久しぶりだな! お前も武闘大会に出てたのか?」

「いえ、出る予定でしたが、噂を知ったので諦めました。来年、また挑みに来ます」

「うん? ……ああ、勘違いされては困るからか。フリーア様は気にしないと思うがな」

「はぁ!? なんっでそこで、あのBBAのことが出てくるんですかねぇっ!! 俺だって気にしてませんけどぉ!?」


 明らかに気にしている反論の仕方だが、ここでツッコミを入れてしまうのはきっと野暮だろう。口の中に串焼きが残っているし、アルビレオは生温い笑みだけをアヴリオに向けておいた。恋バナの気配に目を輝かせたコルネは、ユートが野菜のサンドイッチを口に入れることで黙らせた。エウロは面白そうにニヤニヤと見ている。アレは後でからかう顔だ。そんな仲間たちの視線にアヴリオは赤くなった顔を背けて、串焼きに荒々しくかぶりついた。

 レナードはそれ以上言うことはせず、カラカラと楽しげに笑いながらアルビレオへと視線を向けてきた。

 口元は笑みだが鋭く検分するような視線に、微笑みでもって迎え撃つ。ソラールから習った余裕に見せるための仕草だ。これだけで強者感が増すから覚えろと特訓させられた。エウロは「アルは自然体のほうが良いと思うけど」とソラールの指導に対して苦言を呈したが、ソラールは「武闘大会のような玉石混交の場所では、こういった分かりやすい演出のほうが効果がある」と言って続けさせた。

 馬鹿らしいと思いつつ初めてやってみたが、効果はあったようだ。レナードはニヤリと面白そうに目を細めた。


「いいな。その歳でその貫禄。日蝕前は手応えがないと聞いているが、【歌姫】といい、君といい、今回は楽しめそうだ。

 俺はレナード。水の都出身ではあるが、風の国のとある町に居着いた剣士だ。アヴリオの兄弟子でもある。君の名は?」

「水の都の冒険者、アルビレオです。世界を見るために旅を続けています」


 自己紹介に続いてエウロたちを紹介しようとしたが、レナードは片手を振った。対戦相手の名前だけで充分だと。


「先ほど、最短で本戦出場を決めた君の名前と目的を知りたくて追ってきたんだ。

 もし【歌姫】の婚約者の座を狙っているのなら、譲る意思があると伝えておきたくてね」

「……それは、手抜きをする、ということですか?」

「ちゃんと手合わせをした上で、君が本気を出す前にこちらから引いて、奥の手を隠せるようにしよう。という提案だ」


 返す声に棘が混じったのは分かっているだろうに、彼は笑ったままするりと躱してくる。言い方こそ綺麗に聞こえるが、手抜きをすることを否定していないので睨み付ければ、笑みを困ったように崩して首の後ろを掻く。


「いや、な。俺も勘違いされては困る想い人がいるんだ。とはいえ、前回優勝者があからさまに手を抜いたら場が白ける。ほどよく手を抜きつつ、互いに利のある戦いにしたいと思ったんだ」

「なら、俺が強者と戦って自分の実力を測りたいから来た、と言ったら、あなたは本気で戦ってくれますか?」


 【歌姫】の護衛として国に雇われるために決勝まで進まなければならないし、コトハ自身からも決勝で待っていると言われているため、ここでレナードに手を抜いてもらうことは、体力や手の内温存に良いことだと分かっている。

 だが、八百長を許せるかと言ったら、そんなわけがない。

 何より、本気で戦ったらレナードはアルビレオに勝つつもりでいることが気に食わない。


「俺は、手を抜いてもらわなくてもあなたに勝ちます」


 静かに淡々と。真っ直ぐにレナードを見据えて宣言をする。

 受け止めた彼は息を飲み、笑みを引っ込めてアルビレオに軽く頭を下げた。


「大変失礼な申し出をした。許してほしい」


 先ほどまでのふざけたような空気を一掃し、真剣に、ただ純粋に剣技を楽しむ者の顔をしてレナードはアルビレオへと右手を差し出す。


「正々堂々、全力で戦うことを水神に誓おう」


 誓いを立てた彼の右手をアルビレオは握り返して、そうでなくてはと笑って見せた。


「はい。俺も全力で戦います」


 出し惜しみ無しの全力勝負は、そうそう出来ることじゃない。きっと楽しい戦いになるだろう。


****


 レナードと別れて、エウロとも別れて、土産屋を軽く見て回る。どれも煌びやかだが、その分値段も高めだ。エウロが見れば「お祭り価格だね」と苦笑しながら言いそうな値段のものばかりで、一介の冒険者では手が出ない。

 コルネもそれが分かっているので見て回るだけで、買いたいと言い出すことはなかった。


「……う~~~……」


 ただ一つを除いて。

 アルビレオは知らない花を象った木彫りの手鏡だ。五枚の花びらはどれも先が欠けているのが特徴的ではあるが、特に目を惹くほど上手いというわけでもない。強いて言うならば真ん中に小さな濃い黄色の透明な石が嵌まっている程度。だがコルネは突如として立ち止まって、じっと見つめている。何が彼女の琴線に触れたのか分からない。


「コルネ。それが欲しいのか?」


 欲しそう、というよりも気になっているだけの様子だが、あまり店の前で唸っているのも営業妨害だ。店主も迷惑そうに見ているので、ユートが声を掛ける。コルネは困ったようにユートを見上げ、その顔に影がかかった。

 コルネの隣に長身の人物が立っており、興味深そうに彼女が見ていた手鏡を持ち上げて確認する。


「ふぅん。この中心部は琥珀だね。ミルブーロの花とその蜜を表しているのかな。あの花の蜜は虫の力を借りずとも手で取れるほど滴るから。

 木属性の精霊は琥珀に惹かれやすい。水の都の花屋では花が長く保ちますようにと木の精霊の加護を祈って、琥珀でチャームを作って入口に飾るそうだよ。水と花の都ならではの逸話だよね。

 こういった小さな手鏡に琥珀をあしらうのは風の国の特徴だね。ピクシー族は光り物を好む。そして宝石の中でも琥珀を一番愛しているから、もしピクシー族に遭遇してもこれを貢ぎ物にする事で、無事に生還できますようにという願いが込められているのさ。

 そうそう、他にも――」

「ルナ! あっちこっちふらつくな!!」


 濃い緑の髪の女性はつらつらとコルネに対して解説をしていたが、聞き覚えのある声によって中断された。

 驚いて振り返れば、青紫の髪ではなく黒髪で銀の瞳の少女が怒った表情で女性に駆け寄ってきている。髪の色は違うが声はコトハだ。


「ははは。だからちゃんと手を繋いでおいたほうが良いって言ったじゃないか」

「この歳になって迷子になるとは思わんわ!! って、あれ。ユートさん? アルビレオさんたちも?」

「コトハだ! やっほー!」


 彼女は周りが見えていなかったようで、女性へと怒鳴った後で驚いて見下ろしているユートに気付いた。周りを見てアルビレオたちに気付き、さらに女性の影から顔を出して笑顔で手を振るコルネに、銀の瞳が落ちるのではないかと思うほど目を大きく見開いた。その間に女性はさらっと店主から鏡を購入していた。


「なんでここに……って、予選が終わって時間が余ったってとこか。

 あと、ごめん。この姿の時はティカって呼んで。一応変装なんだ」


 店から離れながら、コトハは顔の前で両手を合わせて可愛らしく片目を瞑ってお願いをする。猫かぶりモードとはまた違ったモードで、ティカモードと呼ぶことにする。有名人故にいくつもキャラを作ってあるらしい。

 しかし、ティカ。その名前にとても渋い顔になってしまった。


「……ティーちゃんって呼んでもいいか?」

「え、いいけど……そんなキャラだったんだ?」


 他の皆はティカで了承しているが、アルビレオだけはどうしてもその名前で呼べない理由がある。故に代案を提示すると、コトハは了承しながらも不思議そうな顔をした。違う、と渋い顔のまま首を振り、息を吐く。


「……母さんと、同じ名前なんだよ」

「……おおう」

「それは……なんというか……」


 重い溜め息と共に答えれば、コトハは何とも言えない表情で相槌を打つ。コルネからも同情の目を貰った。その後ろでユートが苦笑している。

 キャラではないのだが、呼び捨てを回避しようとしたらこれぐらいしか思いつかなかった。何か他に思いついたらそちらに変えると伝えると、コトハは苦笑しながらも了承した。


「ところで、ルナ。お前はさっきから手鏡に何してんだ?」


 呼び名の件は終わって、一転してコトハは呆れた声でずっと黙ったままの女性――ルナへと声を掛けた。彼女はずっと手鏡に向かって何かを描くように指を動かしており、アヴリオが興味深そうに手元を見ている。


「ちょっと守護の術式を組み込んでおこうと思ってね。一度くらいは大きな衝撃を無効化できると思う……よし、出来た」

「すご……」


 完成したらしいそれは先ほど何か変わった様子はない。

 アヴリオがかなり感心しているので解説を頼むと、女性は手鏡の琥珀に守護の術式を封じ込めたという。彼が感心したのは、その術式の複雑さと封じ込めた技術。宝石の種類と大きさによって籠められる術式には限界があり、琥珀は特に容量が少ないのだが、彼女はかなり長い術式を封じ込めたらしい。


「……魔法容量の高くない琥珀にそこまでの術式を描けるなんて……あなたは一体……?」

「なぁに。ティカの相棒なんだから、これくらいは出来ないとね。

 ボクはルナ。もう一つの名前は、クオーレ・エボルタだ」

「「クオ……っ!?」」


 自慢げに腰に手を当て、胸を張って自己紹介をする彼女の名に驚いてしまった。アヴリオと同時に大声を上げかけて、咄嗟に口を閉じて防ぐ。コルネとユートは首を傾げているが、彼女達は知らなくても仕方がないだろう。

 クオーレ・エボルタは、冒険者の間では有名だ。【歌姫】よりも有名と言っても過言ではない。彼女はそれまで使えないと言われていた魔導銃を【歌姫】のためだけに開発して、国防に使えるほどまでに育て上げた開発者なのだ。

 魔力量の多いモンスターに対しては威力が減衰してしまうが、矢と違って魔力で補給できる点が好まれた。魔力を持たない動物などには効果絶大。人間相手でも十分な効果を発揮するので、様々な種類の魔導銃が生み出されている。ただ、扱うためには専用の資格が必要で、各国で共通の資格試験がある。構造を知らずに扱って爆発、なんて事故を防止するためだ。

 アヴリオからそれらの説明を受けたコルネが、感心したように声を上げた。


「はわぁ……とんでもない人だ……」

「ははは。ボクなんてティカのおまけだけどねぇ。てことで、これをキミにあげよう」

「え……」


 何の脈絡もなかったが、ルナはコルネの片手を取るとその手に手鏡を乗せた。戸惑うコルネに音がしそうなほどに見事なウィンクを決めて、そっと離れていく。


「それは仲間の印だとでも思っておいてくれ。また会おう、諸君」

「あ、おいこら! 勝手に移動すんな! えと、またね!!」


 美しい笑みを浮かべて片手を振り、優雅にルナが去って行く。止める間もなく人混みに消えようとするルナへと文句を投げながら、コトハはこちらへ明るい笑顔で手を振って挨拶し、追いかけていく。


「……まるで風のような人だな」

「……そうだな」


 クオーレは自由な人と聞いているが、本当に自由人のようだ。コトハは苦労しそうだなと少しだけ同情した。


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