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遊撃隊『牙』の回想録外伝~銀翼の歌姫と夜を裂く鳥~  作者: 姫崎ととら
最も速き者と森の精霊

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番外:お前はいつだってそう!

 長い銀髪に金の瞳の尖った耳を持つ男性。モーゼ・オッドベルだ。ルナのことでいっぱいいっぱいになっていて彼を呼ぶという発想がなかった。


「コトハ君。義理とは言えルナの親なのですから、私にもちゃんと教えてください」

「コトハが何も言わないから、ワタシが教えて連れてきたわ」


 困ったように笑うオッドベルの肩からコトハの前まで来て、ロータスは小さな手でぺちりと額を叩く。


「まだアナタ達は雛なのよ? アナタの親はアナタが嫌っているから呼ばなかったけれど、ルナの親は呼んでおかなければね」

「ごめん。フォローありがとう、ロータス」

「いいのよ」


 よしよしと叩いた場所を撫でて、ロータスはコトハの肩に乗る。

 オッドベルはヒビキたちとは顔見知りだったようで、お久しぶりですと挨拶を交わしていた。


「人に戻すには、やはり《時空を捻じ曲げるモノ(タイムツイスター)》との繋がりを断つ必要がありますか」

「ああ。しかし、繋がりを断つなど不可能だ。プラーナを斬るのとは訳が違う。概念だからな。

 異世界の創造神(ビルダー)が創り上げた武器でもあれば話は別だろうが……」

「それこそ夢物語でしょう。かの神はこの世界にも訪れていくつか作品を残していますが、世界の均衡を崩すような物を人間に与えることはない」

「そうだな。だから、精霊にするしかない」

「やはり、そうなりますか」


 オッドベルとヒビキがルナの前で話している内容を聞いていて、何度か瞬きを繰り返した。オッドベルの口ぶりだと、彼は最初から精霊にする方法を知っていたように聞こえる。

 ルナを救える方法を知っていたのに黙っていたのかと聞きたいが、彼を疑うようなことをしたくなくて口ごもった。

 そんなコトハの肩と頭に、大きさ違いの手が乗った。


「おい、モーゼ。あんたが近くにいて、なんでこの子の親友はこの姿のままなんだ。あんたは変換魔術を使えただろ」

「あんたまさか、親友を人質に、いろんな実験に付き合わせてたんじゃないだろうね」


 ソラールとシンルーだ。頭に載っている手だけを退けて二人を見上げると、オッドベルを厳しい表情で睨み付けてコトハの代わりに怒っている。

 オッドベルに戻すと彼は慌てたように手を振っていた。


「まさか! 人に戻す術を探していたんです! 武闘大会が終われば、コトハ君には最終手段として精霊化のことを伝えるつもりでしたよ!」

「ブラックロータス、信じても良いのか?」


 疑わしそうにソラールはロータスに確認を取る。ここもどうやら知り合いのようだ。彼女は小さく笑うと頷いて見せた。


「本当よ。モーゼは本当にギリギリまで探していたわ。

 使命のために生き続ける大精霊とルナでは状況が違う。精霊として生きると言うことは、コトハが死んだ後もルナは生きるということだもの。友人達が次々に老いて死んでいくのを、彼女はずっと見送り続けなければならない。

 普通のニンゲンなら耐えられないわね。ワタシはルナなら大丈夫だと思っているけれど。でも、モーゼは万が一を考えて、人に戻そうと奮闘していたのよ」


 コトハの頬を優しく撫でながら、オッドベルは決して悪意を持ってコトハに説明をしていなかったわけではないと説明する。


「人として生まれたのなら、人として生を全うすべきですから。……間に合いませんでしたが」


 悔しそうに口を引き結び俯いた彼に、一瞬でも疑ったことを恥じた。

 いつだってオッドベルはコトハ達を心配して、色々と手を回して、守ってくれていた。そもそも、ロータスも知っていたのに黙っていたのだから、これはコトハとルナのためだったのだ。


「ありがとう、先生」


 だから、感謝を口にする。結局コトハはルナを人に戻すのではなく、精霊にする方法を選んだし、オッドベルも最終的にはそれを選んだけれど、そこに至るまでの過程全てに感謝した。


 そして、コトハは心配してくれた左右の二人をそれぞれ見上げ、最後にヒビキに顔を向け、一歩前に出た。


「俺は、ルナが精霊になったことを恨みは絶対にしないと断言できるけど、もし嫌がって恨まれたって構わない。

 彼女が厄災の一部として討伐されるのを回避できるなら、人じゃなくたって良い。

 どうか、お願いします」


 オッドベルがここまで引き延ばしたということは、ルナの意識は残っている可能性があるのだろう。なくなってしまうのならば、彼はすぐにコトハに精霊化を提案してくれていたと信じられる。

 だから、しっかりと勇気を持って、大精霊に願った。


「――わかった」


 ヒビキはしっかりと頷いて、コトハの後ろの二人へと目配せする。

 シンルーは息を吐いてコトハの背中を軽く叩いた。見上げれば彼女もこちらを見ており、安心させるように少し微笑んでヒビキの元へ向かって行く。


「わ、あ!?」


 見送っていたらぐしゃりと頭を撫でられた。ソラールだ。驚いて見上げれば彼もまた笑っており、ぽふぽふと頭の上で手を跳ねさせて、ヒビキの元へ向かう。

 乱れた髪を直しながら、彼らを見守った。

 オッドベルも術式に加わるようで、四人でルナを囲う。


「《始まりは無であった。時が分かち、風が走る》」


 ヒビキの詠唱でルナの周囲に光が走り、円状に囲った。ルナはビクンと大きく身を震わせる。見たことがない反応だ。


「《存在の泥に最初の芽が生える。育ち、吸い上げ、大地が生まれた》」

「《大樹が増え、風により火が起きる》」


 オッドベルとソラールの詠唱で三角に光が移動する。木と地と火。光属と分類される三つの属性だと気付いた。


「《火により木が燃え、火により雷が生まれた》」

「《燃えた木より水が生まれ、水から氷が生まれる》」


 ヒビキとシンルーの詠唱でまた三角に光が移動する。雷と水と氷。闇属と分類される三つの属性。

 ここまで来ればコトハにだって分かる。これは、この世界の成り立ちであり、創世神話だ。


「《風により世界は回り始める。世界に命が生まれる。命は巡る、巡る》」

「《鼓動よ。脈動せよ。音は巡る。歌は巡る》」

「《歌え。うた》――ッ!?」


 シンルーの詠唱の途中。まるで拒絶するようにばちりと魔力が弾けた。

 続きをソラールが唱えようとするも、何度も魔力が弾けて、魔法陣の中で光と音が弾け続ける。発生源は、ルナだった。


「なん、で!? ルナっ!!」


 嫌がるように肉塊が形を変えていた。ぼこぼこと表面を蠢かせて魔力を放っているが、その魔力は彼女自身も傷つけて焼けた肉の臭いが漂い始める。

 オッドベルたちは詠唱の途中のために喋ることが出来ない。打開策を思いついているようだが、何も言えずに悔しそうにコトハを見つめていた。その表情からおそらく、鍵はコトハにあるのだと分かったのだが、何をしたら良いのか分からない。


『コトハ! 『戦神のファンファーレ』だ!!』

「えっ!?」


 答えは、ずっとコトハに寄り添いながら黙って見守っていたシルバが叫んだ。


「ああ、そうね。ルナは今、自分の身に訳の分からないことが起きて怯えている。恐怖を和らげてあげることが大事だわ」


 ロータスの言葉にオッドベルを見れば、彼はその通りだと言うように微笑んで力強く頷いた。

 ならばとコトハは近付いて、息を吸う。


「《――――♪ ――♪》」


 真っ直ぐに。ルナへと声を、魔力を、届ける。想いを届ければ、徐々に弾けていた魔力が収まり、動きが止まった。

 『戦神のファンファーレ』は短い曲なので、終えてしまうとまた少しルナが蠢いた。その動きがまるでコトハを探しているようで、もう一度息を吸って違う歌を歌う。


「――――♪」


 歌魔法ではない。それはルナが好きな『風追いの歌』。子守歌なんて聴いたことがないという彼女のために、眠れぬ夜に歌魔法ではなく歌っていた。

 それを、力強く歌うのではなく、優しく、語りかけるように歌う。


(ルナ。大丈夫だ。俺がここにいるから)


 魔力なんてなくても、歌は心を届けられる。優しく歌い続ければ、ルナはゆっくりと動きを止めて、また球体に戻った。

 好機と見て、オッドベルたちが途切れた詠唱から続きを唱え始める。一瞬びくりとルナは身を震わせたが、今度は魔力を放出することなく落ち着いた。

 光が強くなり、目を開けていられなくなったので瞼を閉じても、歌は辞めない。歌声と詠唱の声が森の中に響く。


「『ああ、なるほど』」

「「「「「――ッ!?」」」」」


 そしてその声は、唐突に聞こえた。コトハは思わず歌を止めてしまったし、オッドベルたちも詠唱を一時的に止めた。


「『創世から詠唱することで存在を分解して、命の巡りを歌うことで再構築。でも人には戻せないから、精霊にしようっていう術式と詠唱か。しかし、それには大量のプラーナが必要じゃあ……あ、ボク《時空を捻じ曲げるモノ(タイムツイスター)》だったね。プラーナは出し放題か。となると大精霊達は日蝕時にこの儀式を行ったのかな。効率的だね。たださぁ、この方法とても痛いんだけれど。って多分聞こえてないよね。もー、精霊になるのは全然構わないんだけど、こんなに痛いって思わなくて暴れちゃったよ。コトハが歌ってくれてなきゃ我慢できないね。ってあれ!? 歌が聞こえないんだけど!? コトハ、いるよね!? ボクついに耳が聞こえなくなった!? やだやだ!! 歌ってーー!!』」


 声、というよりも、魔力が声のように気持ちを届けている、といった感覚が正しいか。

 あまりにもいつも通りの、ルナらしい早口な喋りにコトハは恐る恐る目を開けようとしたが、やっぱり光が強くて目を閉じた。


「……ルナ?」

「『あ、良かった! コトハー!! って、あれ? もしかして意思疎通可能?』」


 代わりに呼びかけると、元気な声(?)が返ってくる。問われたので声を出して「聞こえてる」と言ってみれば、光がさらに強くなった。流石に腕で庇う。


「『接続が切れたんだ! やったー! じゃあ、じゃあ、コトハ! ちょっと手伝って!!』」

「手伝ってって、お前……魔法の詠唱の途中なんだぞ」

「『知ってる!! 見えないけれど声は聞こえていたよ! プラーナ乗せながらさ、ボクに続いて詠唱してほしいんだよね!!』」

「いや、だから。詠唱の途中で何かするって危険だろ」

「『大丈夫! この詠唱を省略してしまう呪文を思いついたんだよ!! そしてそれは、歌魔法を使うキミにしか出来ない!』」

「……ロータス、大丈夫だと思う?」

「うーん。この魔力は確かにルナだけれど。モーゼたちに危険が及びそうならやめてほしいわぁ。面倒臭いから」

「『大丈夫だから!! ボクを信じてよ!!!』」

「…………ロータス。光が強くて見えないけど、先生がどんな様子か分かる?」

「……とてもワクワクした表情で、やっていいって促すように頷いているわ。精霊達は呆れているわね」


 その姿が目に浮かぶようだ。なんだかんだオッドベルも魔法馬鹿なので、ルナと一緒に新しい発見をすると目を輝かせて、実験を楽しんでいた。自分の知らないところで魔法を開発されると胃が痛いようだが、一緒なら好奇心を抑えきれないらしい。

 万が一、ルナではない第三者の声かもしれないと警戒していたのだが、オッドベルもそんな様子ならやってみていいだろう。


「……じゃあ、やるか」

「『わぁい!!』」

「モーゼが拳を握りしめて目を輝かせているわ」


 溜め息をついて了承するとルナが喜ぶ。目を開けないコトハの代わりにロータスが呆れた声でオッドベルの様子を教えてくれた。いつも通りだなと笑ってしまった。


「『先にこの詠唱の意味を伝えるね。これはボクが精霊になるための詠唱だ。キミのプラーナをボクのプラーナと混ぜて、言葉と想像力で再構築。歌魔法で癒やすようなものって言えば、なんとなくわかるね?』」

「あー。つまり、精霊になるお前を想像しながら歌えってこと?」

「『大体そんな感じ!』」

「顔、結構朧気だけど?」

「『それはボクが補う。いけそう?』」

「やるしかねえだろ」


 肩の力を抜いて、ルナの下へと歩み寄る。魔力ではなく、プラーナを意識する。二年前は使えなかったが、今では自在に使いこなせるようになった。必死になっていたら使えるようになっていた、が正しい。


「『私が語るは虚構の言葉』」

「《私が語るは虚構の言葉》」


 ルナの言葉を、プラーナを乗せて歌うように詠唱する。


「『誰かの言葉。誰かの戯れ言』」

「《誰かの言葉。誰かの戯れ言》」

「『されど分解し、再構築し、開放すれば、すべて私の言葉』」

「《されど分解し、再構築し、開放すれば、すべて私の言葉》」

「『私が紡ぎ、私が織り、私が成す』」

「《私が紡ぎ、私が織り、私が成す》」


 かつて誰かが作った詠唱を、もう一度組み替えてやるぞと言っているのだと気付いた。思わず口の端が笑みに歪む。

 現代魔法は全て効率的に発動するように詠唱が整えられ、魔法陣も試行錯誤されて、誰でも同じ手順を踏めば同じ魔法が、注いだ魔力量に応じて発動するようになっている。

 対して歌魔法や魔曲と言った原初の魔法は、使い手の気持ち一つで効果が発動して、詠唱なんてバラバラ。魔法陣なんて存在しない。同じ歌を同じ魔力を籠めて歌っても、そこに込めた想いの分、効果に差が出る。


 プラーナを使って、今発動中の魔法を今から原初の魔法に切り替えてやる。そういう宣言だ。

 ならば、もうルナの言葉を待つ必要もない。


「《私の最愛の相棒よ。今こそその肉の殻を打ち破り、風となりて私と共に在れ!!》」


 プラーナも、魔力も、想いも、全て音に乗せて、両手をルナへと広げて宣言する。

 光が一層強くなり、竜巻が巻き起こって周囲にいたオッドベルたちが小さく声を上げる。コトハは目を開けられずに、ただただ待った。


「『あっははははは!!!!!』」


 楽しげに、嬉しげに、ルナが大笑いしているのが聞こえる。弾みきった声は実験が成功した時と全く同じ。

 光と風が収まって目を開けば、肉塊があった場所に、深い緑の髪に紺の瞳の女性が立っていた。身に纏っているのはハイネックのシャツに魔力拡散を防ぐ白いローブ。

 幾ばくか成長しているし髪と目の色が少し薄くなっているが、あの日に消えた格好のままのルナだった。

 彼女は嬉しそうに微笑みながらコトハの腕に飛び込んできて抱きしめてくる。


「最っ高!!! 最高だよ、コトハ!! 愛してる!!」

「うぐっ……」


 ぎゅっと力強く抱きしめられて息が詰まる。人間だった頃よりもずっと力が上がっているようで、骨からもミシッと何だか嫌な音がした。背中をバシバシと遠慮無く叩いて痛いことを示し離れてもらう。


「え、あれ? ごめん!」


 慌てて離れる彼女の前で俯きながら、痛みを訴える肋骨を右手で押さえた。すぐにロータスが治癒魔法をかけてくれて痛みが取れる。

 ルナは自分の手を見つめて握ったり開いたりを繰り返し、困惑したようにコトハへ顔を向けた。


「ごめん。ちょっとパワーアップしてるみたい」

「身体能力だけか?」

「ううん。魔力も」

「そこは精霊だからだろうな」


 会話しながらコトハは他に自分の身に異変がないかを確認し、ルナへと改めて向き直った。色が違うことはわかるが、元の顔も忘れかけていたので顔がこれで合ってるかは自信が無い。

 だが、見つめるコトハの言葉を待つように微笑んで首を傾げる仕草はルナそのもので、酷く安心して頬に手を伸ばそうとして、動きを止める。

 あの日、触ったことで肉塊となってしまった。その出来事だけはしっかりと覚えている。


「――大丈夫だよ」


 動きを止めたコトハの手をルナは優しく握り、手袋を取った上で頬に当てる。


「ボクはもう、厄災にはならない。カタフトロスから解放された。

 今のボクは、風の精霊のルナだよ」


 頬は温かい。きっと鼓動はないだろうが、その温もりは変わらなくて。

 涙腺が緩んで視界がぼやける。嬉しくて、コトハは笑って抱きついた。


「誓い破ってごめん……! あいたかった……っ!!」

「気にしないで。あれは仕方ない。……ボクを諦めないで、助けてくれて、ありがとう、コトハ」


 少しの間、互いに抱きしめ合って静かに涙を零し続ける。


 大人達は二人の再会を、黙って見守ってくれていた。

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