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遊撃隊『牙』の回想録外伝~銀翼の歌姫と夜を裂く鳥~  作者: 姫崎ととら
最も速き者と森の精霊

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予想外の出会い×2

 風の国の王都はかなり広く、人通りも多くてすぐに迷子になりそうだった。

 武闘大会のために街全体が旗や花で飾られ、詩人(ディーヴァ)達が歌を披露している。魔曲使い(トルバドール)も来ているようで、かなり賑やかだ。

 ソラールとシンルーは、王都に入る前に【終焉を渡り歩く者】と縁を切ってきた。双子が敵に回るなら割に合わないと、何人かの手練れの暗殺者も縁を切っていたようで、襲撃の質が一気に落ちた。逆に双子を倒して名を上げてやる! と意気込んでやってくるのは実力が伴っていない者ばかりで、ユートでも対応が出来るほどだった。

 仲間になった時に、ユートとコルネにはアルビレオ達が既に知っていたことも含めて事情を全て話した。二人とも双子が精霊だったことに少し驚いていたが、使命についてはあっさりと受け入れた。あれだけ馴染んでいたら察しもしよう。組織の人間によくバレなかったものだ。案外、バレているが見逃されていたのかもしれない。



 昼前に王都に辿り着いたアルビレオたちは、人に会う用事があるというシンルーと別れ、先に宿を探しに向かった。

 武闘大会はあと数日後に迫った今、挑戦者だけでなく観戦者、商機と見てやってきた商人や旅芸人などが押し寄せている。宿が空いているかどうかは賭けだったが、三軒目に訪れた宿屋で幸いにも二人部屋を二部屋取ることが出来た。


「俺たちが霊体化して警戒しててやるから、安心して寝て良いぞ」

「わかった。ありがとう」


 眠る必要のない精霊が警戒しておいてくれるのなら助かる。女子部屋はシンルーだ。ユートはこの世界の定義では精霊だが、二人とは体の構造が違うらしく、眠りを必要とした。

 無事に宿が取れたので遅くなった昼を取ろうと食堂に入る。まだ混み合う時間でテーブルは空いておらず、六人なら待っていてと外に出されたところで、ソラールが話を切り出した。


「【歌姫】に会うためには、確率を上げるべきだと思うんだが……悪い。俺たちは大会に出られない」

「すまない。私も無理だ」


 申し訳なそうに頭を下げる彼に続いて、ユートも顔をしかめながら片手で謝罪をする。コルネが残念そうな声を上げた。


「なんでー? 二人とも負けないでしょ?」

「選手となると、観客席で座っていられないだろう。お前の護衛がエウロだけになることを避けたい」

「俺たちは裏稼業やってたからな。あんま目立ちたくない」

「まぁ、わかってた」

「そうなると思ってたよ」


 アルビレオとエウロは予想していたことなので残念がることもなく、仕方のないことだと既に切り替えている。

 二人が言った理由は周りに聞かれていることを考慮しての表向きの理由だ。本当の理由は、怪我を回避できないからだ。怪我をしたらユートは赤い血の代わりに銀の液体が流れるし、ソラールはそもそも何も出てこない。そんな人間らしくない状態を見られてしまったら大騒ぎになってしまう。

 最初からアルビレオ一人で何とかするつもりだったので、謝る二人に手を振って気にするなと声を掛けた。


 シンルーが戻ってきたのは、席が空いて中に案内される直前だった。側には頭頂部は青紫だが襟足辺りは赤い髪を短く切った、銀が混じった黒い瞳の可愛らしい顔立ちの少女がいる。いや、格好は厚手のシャツに胸当て、腰に魔導銃を下げて外套を着ているので性別が分かりづらいが、首が細いので多分少女である。

 彼女はアルビレオたちに微笑むとぺこりと頭を下げた。その時にサイドの髪を後ろでハーフアップにしているのが見えた。サイドを長く、それ以外を短くしてハーフアップにしているらしい。

 自己紹介などは店に入ってからとシンルーに促され、再び声を掛けてきた店員に従って店内に入る。テーブルは隣同士で四人席を二つ用意してくれていたので、問題なく七人座ることが出来た。左のテーブルにアルビレオとエウロ、向かいにソラール。右はコルネとユート、向かいに少女とシンルーだ。

 注文をして給仕係が遠ざかったところでシンルーが隣に座る少女を手のひらで示した。


「この子は、今回の協力者の冒険者ちゃん」

「初めまして。私は風の国の冒険者、ガンナーのコトハ・ベスティートです。

 事情は全て伺いました。まだ未熟者ではありますが、是非協力させてください」


 声を聴けばちゃんと女の子だった。そのことに内心で安堵しつつ、彼女が取り出した冒険者証を覗き込む。雑談での自己紹介程度なら見せないが、同じ依頼を受けることが決まっている仲間ならば、嘘偽りないと示すために提示するのが冒険者間の暗黙の了解になっている。

 彼女は緑文字のAランクで、アルビレオと同じランクだ。


「緑文字! はー。年齢か依頼数が足りてないけどSランク相当ってことじゃん」

「そうなの!?」


 緑文字は見たことがないので一体何だったかと一瞬考えたが、ソラールが出した感心した声に目を丸くする。コルネの驚愕の声に彼は頷き、詳しく解説した。

 風の国では『自由に生きるために知識は必要』という考え方から、冒険者になるのにも筆記試験が必須だ。そして昇級にも戦闘技能は当然として、ランクに応じた知識を求められる。

 緑の文字は筆記試験と戦闘技能試験共に合格しているが、まだ年齢か依頼数が規定を満たしていないという証。つまり、ソラールの言ったとおり彼女はSランク相当の実力者と言うことだ。


「年齢? 依頼数?」

「年齢でした。ですが、誕生日を迎えても父がなかなか許してくれず……」

「ああ……」


 どこか煤けた笑みを浮かべて視線を逸らす彼女に、ソラールは何とも言えない表情になって励ますようにぽふぽふと背を叩いた。アルビレオよりも年下に見えるので一応年齢を見てみると、今年成人したばかりだった。これは父親も心配するだろう。女冒険者ならよくある話ではある。


「事情をシンルーから聞いてるなら必要ないだろうが、一応自己紹介な。

 俺はソラール。シンルーの双子の兄で、双剣使いだ」


 話の流れを変えようと、ソラールが明るい調子で自己紹介を始めたので、コトハは顔を上げてカードを片付けた。


「俺は水の都の冒険者、二刀流の剣士のアルビレオ・シグヌスだ。ランクはA」

「僕も水の都の冒険者で、魔曲使い(トルバドール)のエウロ・トゥールだよ。ランクはB。支援なら任せて」


 アルビレオ達もカードを取り出してコトハに見せる。彼女が確認したのでカードを片付けようと手に取って、一瞬目を落とした。白いAの文字は、旅立った頃には夢のまた夢と思ったランクだ。かつてティフレに言われたとおりになったなと内心で笑いつつ、きちんとしまう。流石にディーオルが言ったSランクは遠い。コトハはもう既にSランク相当らしいが、それだけ彼女が努力したからだ。

 続いてコトハは視線を正面のコルネに向けて微笑んだ。


「あなたがコルネさんで、お隣がユートさんですね。よろしくお願いします」

「あ、よ、よろしくお願いします」

「よろしく。私は一応剣士だが、戦力には数えないでくれ。コルネ専属の盾だ」

「わかりました」


 自己紹介が終わったところで注文した料理が来たので、食事をしながら雑談となった。

 話題は主に大会について。コトハは風の国出身だけあって詳しかった。去年は観戦もしていたらしい。


「基本的に、日蝕前年の闘技大会はこんなに賑わったりしないんです。有望な冒険者は日蝕に備えて活躍できそうな都市に移動してますので。

 だから主に出てくるのは名を上げようとする別の国の方ですね。あとは去年の優勝者は強制で出場させられるので、その人を倒そうと躍起になってる人とか。そのような無名の人材を発掘するのが、日蝕前年に開催する目的です。

 でも、去年【歌姫】があまりにも婚約話を持ってこられるのでブチ切れて、「自分より強い人が好みなので、腕に自信のある方は来年の武闘大会で手合わせしましょう!」なんて言っちゃって、今年は【歌姫】の婚約者の座がかかって、こんな大賑わいに……。

 予選だって、バトルロワイヤルなんて今回が初めてですよ。怪我人が増えそうで今から神殿が心配です……」


 説明をするコトハは神殿に知り合いでもいるのか、本当に心配そうに眉を下げながらご飯を食べている。

 従来だと三日かけて予選を行い、本戦出場は七人。本戦はシード枠を含めて八人で行うという。だが、今年は【歌姫】がシード枠で出るために二つ埋まってしまい、六人しか本戦に出られない。それなのに出場者は従来の二倍というのだから、どれだけ【歌姫】が人気か分かる。


「どーせみんな【歌姫】本人に魅力を感じているわけではなく、【歌姫の配偶者】という肩書きが欲しいんでしょうけれど。

 あ、アルビレオさんは【歌姫】に協力を仰ぎたいんでしたよね。勘違いはしてないんで大丈夫です」

「ああ、良かった。……しかし、彼女に婚約話か。自由を約束されたって聞いたけど、実際は違うのか?」


 銀翼のグリフォンに選ばれて主になった彼女を国王は聖女として招集したが、彼女の父親である英雄が拒否。当時国最強の騎士団長と一騎打ちを行い、三日三晩の激闘を繰り広げた。満身創痍ながらもしっかりとした足取りで国王の下へ辿り着いた英雄は「この子は聖女程度で終わる器ではない。英雄の芽を潰すな」と言い放った。父親として子を護らんとする姿に感銘を受けた国王は、彼女の自由を約束したという。

 歌魔法を駆使して戦う彼女の姿から、付いた二つ名が【銀翼の歌姫】。

 多少話は盛られているだろうが、少なくとも【歌姫】の自由は約束されているはずだ。風の国で流れている話は違うのかとコトハに確認を取ると、アルビレオが知っている話の通りだと彼女は頷いて、問題はその『自由』なのだと言う。


「婚約者も、彼女の自由になったんです。聖女だったら国が婚約者を宛がいますが、冒険者の彼女は彼女自身が選べます。

 だから、王室以外の貴族、神殿、商家、町や村を治める長、冒険者……権力や強い肩書きの欲しい人間達から迫られて、困っていたそうですよ」

「うわぁ……」


 コトハは嫌そうな顔をしながらも説明してくれる。聞いていてアルビレオ達も嫌な気分になった。【歌姫】が自棄のような台詞を吐くわけだ。もちろん彼女自身が強いから言えた台詞だろう。なんせ英雄の娘だ。どんな教育が施されていることか。


「あー……コトハの目から見て、有力そうな選手はいるか?」


 ソラールが明るく話題を振って空気を変える。問われたコトハ以外は、止まっていた食事の手を再開させながら彼女の言葉を待つ。

 少し悩んでいた彼女は、スープにパンを浸して小さな口で食べ、飲み込んでからニヤリと笑った。


「そうですね……水の都からサーベルにも似た片刃の剣、カタナを使う剣士が武者修行に来ているそうです」


 まずソラールが噎せた。意味が分からずに首を傾げるが、片刃の剣と聞いてふと一つの剣術の家を思い出す。水の都には片刃の剣を使った特殊な剣術を代々受け継いでいる家があり、彼らは代々王家の暗部として仕えているという噂がある。


「カタナは、地の国の東。大森林の北にある村だけが作れる、特別な武器だそうですよ」


 これにはアルビレオたちも動きを止めた。口の中に物が入っていないタイミングで助かった。入ってたら絶対に噴き出してソラールのように噎せている。

 大森林の近くにある村と関わりがあると言うだけで、今の自分達には充分な情報だ。ソラールとシンルーへとさっと視線を向ける。

 ソラールは引きつった笑いを浮かべ、シンルーは目を伏せて深く溜め息をついていた。


「そいつ、銀髪に水色の目か?」


 本人か確認をしようというのだろう、特徴を窺おうとしているソラールの後ろ。向こう側から店員に連れられて歩いてくる人物に気付いた。

 腰に見たことのないグリップの剣を佩いた、隙のない歩き方をする長身で銀髪の青年。いや、まだ輪郭に丸みを帯びた顔立ちなので少年か。アルビレオたちと同じぐらいの年の頃に見える。

 コルネも気付いて小さく声を上げた。少年がこちらに気付いて、目が合う。その瞳は薄い水色。


「銀髪に水色の目ですね。

 名前は確か――アヴリオ」


 気付かないままコトハがソラールの問いに答えて、


「――呼んだか?」


 ちょうど間を通り抜けていこうとした少年がきょとりとした顔で足を止めた。

 ソラールとコトハが弾かれたように彼を見上げる。

 奇妙な沈黙が落ちていたが、案内していた店員が「あ、お知り合いでしたか? じゃあ相席でお願いします~」と告げたことで、彼は強制的にソラールの隣に座ることになった。


「……ええと。どういう集まりだ? 冒険者パーティか?」


 店員は忙しいためか止める間もなく去ってしまったので、ソラールがズレて空けた席に仕方がなく座りながら、彼は困惑気味に七人を見回した。

 男女混合のパーティは珍しくはないが、自分の話をしていたのは気になるだろう。名を呼んだコトハを見たが、彼女が思わずソラールを見たので彼はソラールがリーダーだと思ったようだ。そちらへと顔を向ける。

 苦く顔をしかめたソラールは、諦めたように短く息を吐いた。


「――『水蓮は穹に詠い、響き渡る歌は琥珀を振動させ、更地は雨に濡れる』。俺の名前はソラール、あっちはシンルーだ」


 脈絡もなく呟いたソラールの言葉は何かの符丁だったらしく、彼はハッと目を見開いてもう一度七人を見回した。そしてシンルーとソラールを交互に見て、一つ頷く。


「まさか、お二方にこのような場所でお目にかかれるとは」

「畏まるな。普通の旅人として扱ってくれ」

「……わかった」


 たったそれだけで通じ合ってしまったので、今度はこっちが困惑することになった。説明を求める視線を向ければ、ソラールは三度目の溜め息をつく。


「今の言葉は、それぞれの家に代々伝わっている符丁だ。これで仲間かどうかを確認している。

 詳しい話は飯食ってからにしよう。とりあえずもう一度自己紹介なー」


 何一つ納得はしていないが、ソラールは説明する気がないようで、アルビレオにさっさと自己紹介を始めろとつつき始めた。



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