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遊撃隊『牙』の回想録外伝~銀翼の歌姫と夜を裂く鳥~  作者: 姫崎ととら
最も速き者と森の精霊

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どこへ行こうか

「コルネの村は、とある厄災を封じている村なんだ」


 そんな言葉から、ユートは説明を始めた。

 地の国と風の国の間にある、水の都ほどの大きな森林にはかつて一つの王国があった。その王国の中心には“厄災”が封印されている。その“厄災”の封印を維持するため、森の六方を囲うように村が作られ、代々封印を維持してきた。

 ユートの話を聞いていて、記憶の端に引っかかる物があった。


「もしかして、『六人の精霊と英雄』の話か?」

「……どんな話だ?」


 水の都で吟遊詩人達がよく謳う英雄譚の一つに、似たような話がある。アルビレオの故郷でも何度か聞いたことがあった。人によって細部は異なっても、大まかには同じ話だ。

 吟遊詩人であるエウロがユートの問いに答えるために歌い出す。


 かつて、風の国の王都は地の国の近く、西側にあった。

 とある日、日蝕でもないのに王都は一夜にして廃墟と化した。全ての人間が突如として消え果てたのだ。一種の厄災に手を出し、その結果、滅んだと推察されている。

 厄災は周囲の村にも影響を及ぼそうとしていたが、神に選ばれた六種の精霊とその精霊と契約した人間達が現れ、厄災と戦い封印することに成功した。

 その後、誰もこの地に触れないよう、木の精霊が森を創り上げて墓標の代わりとした。

 そして六人の精霊と英雄は、森を囲う形で六方に村を作り、今でも封印を見守っている。


 エウロの語りを聞き終えたユートが片手で額を押さえて溜め息をついた。


「ああ……有名になっていたから目を付けられたんだな……」


 よくある創られた英雄譚だと思っていたが、この様子を見るに本当にあった出来事らしい。


「村の子供たちが森に入らないように言い聞かせる話ではあるが、外の人間に漏れているとは……誰かが吟遊詩人に話したか、子供たちから聞いたか……」

「どっちにせよ、もうだいぶ定着してる英雄譚だよ」

「そうか。……何故いまになって襲われたのか疑問だったが、やっと分かった」


 疲れたように息を吐いて首を振ったユートは、顔を上げてアルビレオ達に真剣な表情を向けてくる。

 これから言うことは他言無用で頼む。と前置いて、説明を続けた。


「精霊が厄災に近付くと厄災に飲まれるため、人間の肉体を借りる必要がある。その中でも相性があり、六人の人間はそれぞれの属性の精霊と相性がとても良かった。

 人間達はその身に精霊を降ろして、厄災を封印したんだ。協力して封印した、とはそういうことだ。

 彼らの血は今でも受け継がれ、祭事として毎年封印を施している」


 ここまでは良いかと確認を取られたので頷く。

 ユートは驚いたまま固まっているコルネへと顔を向け、一度視線を逸らした。言うことを躊躇うような視線の動きだったが、決意したように唇を引き結び、コルネに顔を向ける。

 真っ直ぐに見つめられたコルネは、胸に手を当て視線を受け止めて、大丈夫だと頷いてみせた。了承を得て、ユートが口を開く。


「コルネは厄災を封印した六柱の精霊の内の一柱、森を司る【原初の森(ヴィーザル)】をその身に降ろす事ができる『森の継承者』なんだ。

 近々行われる予定だった祭事を行わなければ封印は緩んでしまうが、次の日蝕までに隙を見て封印をし直す予定だった。

 そのために襲撃者にはコルネが死んだと偽りの記憶を植え付けておこうとした。

 ……甘かったがな」


 最後の一言は、ソラールとシンルーが消えていった方向を見ながら呟かれた。

 そちらをアルビレオも見て、自分の手に視線を落とした。シンルーの一撃を防げたのは彼女がワザと鳴らした鈴のおかげだ。首を狙った刺突はやけに軽く、手を抜いていたのだろうと嫌でも分からされる。

 力と速さが足りない。もっと強く、もっと速く。だが、アルビレオの意思と反して武器が彼に付いてきてくれない。あれ以上速く動けば、今持っている剣はきっと折れてしまう。


「思ったんだけど、他の村は大丈夫なの?」


 アルビレオが悔しく拳を握りしめている横で、エウロがユートへと疑問を投げていた。それはアルビレオも思っていた疑問なのでユートへと視線を戻す。


「ああ、他の村は精霊が実体を持っていて『継承者』を守れる。【原初の森(ヴィーザル)】だけは大森林を維持しているために実体がないから守れないんだ。だから私が派遣された。

 しかし、あそこまでの強者が狙ってくるとは……」

「神は想定していない……というよりも、僕達と共に行動することまで想定済みなのかもしれないね」

「ああ、そうかもしれないな」


 自分達の意思で決めたつもりでも、神の思惑通りなのかもしれないと思うと少々複雑だが、なんにせよアルビレオ達は出会った。

 次の日蝕までと言ったのは適当ではなく、神の予言によると日蝕までに組織が壊滅するからだそうだ。原因は全く分からないが。

 日蝕は一年半後。大きな組織相手はアルビレオ達だけでは対処しきれないが、かといって厄災のことは迂闊に話せない。なにせ敵は一般人に紛れ込んでいて見分けが付かないのだ。


「あ、の」


 ひとまず逃げるためにも次の目的地を決めようと考えていたところで、コルネが控えめに手を上げた。


「護ってくれるのは嬉しいけど、ソラール、だっけ。あの男の人も言ってたけど、私を護る理由はないでしょ。

 今ならまだ、他人ってことにできると思うんだけど……なんで護ってくれるの?」


 困惑気味の彼女に、アルビレオとエウロは思わず顔を見合わせて、彼女に戻した。何を今さら彼女は言い出したのだろう。


「命を狙われてる女の子を見捨てられないってのは、そんなに変なことか?」

「ええと、それは正しいことだけど、そうじゃなくて。利益にならないのに、なんで命を危険に晒すようなことが出来るの? 報酬なんて多分何も無いよ? 無いよね、ユートさん?」

「確約は出来ないが、守り切れたら神に報酬を出してくれと頼むつもりだ」

「ほら、確約されてないし、どんな報酬かも分からないのに、やる理由なんてないでしょ」


 コルネはほぼ無償で手を貸そうとしている二人に遠慮しているというよりも、むしろ怖がっているように見えた。

 何を言っても彼女は納得できないだろうと感じて、アルビレオは少し腕を組んで真面目に考える。彼女を説得するのではなく、諦めさせるためにはどう言うべきか。


 そして告げた言葉に、コルネは言葉を無くして空を仰いだ。


「……おかしなこと言ったか?」

「いいや。僕らにとっては当たり前のことだよ」


 思わずエウロに確認を取れば、彼は笑いながら首を振った。だが、コルネだけでなくユートにも信じられない言葉だったようで、二人とも唖然としていた。


「人間の思考は複雑怪奇だな……」

「違うよ……この二人が特殊だよ……!!」


 失礼な話である。


****


 話は脱線したが、当面の目的地へと話を戻して考える。コルネは諦めてどこでもついていく覚悟を決めてくれた。


「他の属性の村に助けを求めちゃだめ?」

「無理だろうな」


 コルネが指を立てて提案するが、ユートが残念そうに首を振りながら却下する。アルビレオ達も真っ先に思いついて、無言のまま却下した案だ。


「彼らも襲撃を受けていると考えるべきだ。向かっている途中で気付かれて攻撃される可能性がある」

「あー、そっかぁ」


 彼の説明にコルネはがくりと肩を落とす。

 上手く掻い潜って村に辿り着けたとしても、ソラールとシンルーを他の村に連れて行くのは少し躊躇われた。精霊の強さがどれくらいか分からないが、万が一彼らにやられてしまっては本末転倒だ。

 まだコルネを標的としてくれているなら、逃げ回った方が他の継承者に向かう脅威が減る。

 ソラールとシンルーに太刀打ちできそうな知り合いはディーオルだが、水の都まで逃げたとしたら日蝕までに封印しに戻れない可能性もある。風の国を突っ切れば四ヶ月ほどで水の都の王都には着けるだろうが、火の国からだと火山を避けて大回りしなければならないために倍は掛かる。辿り着くまで無事でいられる保証も無い。

 いっそ海側まで移動して船で移動も考えたが、船の中で襲撃されては逃げ場がない。結局は陸路が一番安全だ。


 どこに行こうかと地図を広げてルートを考える。

 この村は三国に挟まれてるだけあって、地の国だけでなく風の国にも通じる道があるらしい。


「村長に確認をしたが、先日起きた土砂崩れで閉ざされた道はまだ復旧していないらしい。しかし、私が手伝えば土砂崩れ程度ならば越えられる」


 先ほど村長としていた話は風の国に続く道の確認だったようで、道自体があるならば通れると言う。これでも精霊だからなと胸を叩くユートは少し頼もしく見えた。

 さらに彼は、今はまだこの村周辺に人間はいないとはっきりと宣言した。アルビレオ達が森を通った時に空気が変わった感覚があったが、あれはユートが張った結界を越えたかららしい。彼は結界内にいる全ての人間の動きを把握できるようで、そうやって警戒し続けていたという。

 ただ、ソラールたちは特殊な魔法でも使っているのか感知できなかったため、大樹の根元にいた時に非常に動揺し、警戒した。全く感知できないとは思っていなかったために、ユートはとんでもない存在に目を付けられたと溜め息をついた。


「彼らのような者がやって来ない保証はないが、今から移動は避けるべきだろう」

「そうだね。夜の移動は避けたい」


 時間はそろそろ昼になる時間。どちらの国に行くにしても山を越えなければならないなら、明日の朝に移動したほうがいいだろう。コルネの旅装を整える時間も必要だ。

 問題は、どちらの国に行くのか。


「……風の国に行こう」


 他に誰か頼れる人物がいないかと考えて、一人居ることを思いついた。噂だけで会ったことはない。だが、いずれ会いに行ってみようと話していた人物でもある。

 アルビレオの呟きにエウロも気付いたかハッと顔を上げて、頷く。


「“彼女”なら、話を聞いて力を貸してくれるかもしれない」


 その人物は厄災の研究をしており、国を通じて各国に情報提供を呼びかけている。アルビレオ達が知っていたように『六人の精霊と英雄』の物語を耳にしている可能性は高い。

 風の国で厄災に関する場所に現れては、様々な問題を解決しているというのでフットワークは軽いはずだ。風の国でコルネの保護をしてもらうのは無理でも、一緒に封印を確認しに行ってくれる可能性はある。


「えと、知り合い?」

「いや、会ったことはない。けど、とても有名な人だ」


 風の国で毎年開催されている武闘大会に今年参加すると噂の、風の国の“聖女”にして冒険者。


「【銀翼の歌姫】に会いに行こう」


 他に頼る先も無い。ダメで元々だ。


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