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遊撃隊『牙』の回想録外伝~銀翼の歌姫と夜を裂く鳥~  作者: 姫崎ととら
最も速き者と森の精霊

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出会いと旅立ち

「海を見るのは初めてかい?」


 しばらく海を見ていたアルビレオは、声を掛けられて振り返った。

 港で船に乗るでもなく、埠頭の端でただただ海を眺めているだけの少年に声を掛ける人間なんてそうそういない。現に、声を掛けられたのは今が初めてだ。故に少々警戒心を持って声を掛けてきた人物を見る。

 やや赤みを帯びた茶色の髪に緑の瞳の、おそらく同い年ぐらいの少年は、人懐っこい笑顔でアルビレオに歩み寄ってくる。身長はアルビレオよりやや低い。


「海を見るのは、初めてだ。広いし、知らない匂いがするんだな」

「潮の香りだね。内陸の人?」

「ああ。火の国に近い温泉街から来た」

「それまた随分と遠いところから。船乗りになりに来た……ってわけでもなさそうだ」


 少年はアルビレオの装備を上から下まで確認して、首を傾げる。着ているのは厚手のシャツに革鎧。ブーツは使い込まれているし、腰には二本の剣を佩いている。

 冒険者か。と呟いた彼にアルビレオは頷いてみせた。


「まだ駆け出しも駆け出しのノーランクだけどな。少し依頼をして、Cランクになったら火の国に行くつもりだ」

「いやいや、Cで火の国は無謀じゃないかな。名声が欲しいならせめてBになってからでも遅くはないよ」


 随分と詳しい彼にきょとりと首を傾げて、改めて彼の服装を見る。ややくたびれた旅装に革の胸当てをしている。肩に担いでいるのは弦の張っていない弓だ。典型的な弓士の格好に、彼も冒険者だと察した。


「お前も冒険者なのか?」

「そうだよ。一応Cランクだけど、戦闘はからっきし。本職はこっちさ」


 一応確認を取れば、彼は悪戯げに笑いながら答えて後ろに手を回し、何かを取り出した。大きな胴体の先に細長い板が付いた、六本の弦が張ってある楽器。確か風の国の楽器で、ギターというのだったか。一度、風の国から来たという冒険者が持っていたのを見たことがある。彼女は自分の事を吟遊詩人ではなく、こう呼んだ。


「ギターってことは、もしかして魔曲使い(トルバドール)か?」


 魔曲使い(トルバドール)は、水の都特有の魔法、音楽に魔力を乗せて様々な効果を引き出すジョブだ。持ち運びが楽な笛や竪琴であることが多いが、彼らの魔法は音階を作れる楽器なら何でも良いと聞いている。

 アルビレオの指摘にエウロは目を丸くし、少しつまらなそうな顔をして頷いた。


「なんだ、知ってたか。風の国以外でこの楽器を知ってる人はあまりいないんだけどな」

「故郷は人の出入りが多くてな。それで見たことがあったんだ」

「ああ、なるほど」


 取り出したからには一曲。と彼は近くにあった木箱に座り、ワンフレーズだけ曲を弾く。アップテンポで元気になるような曲だ。運指に迷いは無く、かなり上手い。ふわりと柔らかな気配がアルビレオに届き、心が弾む。

 思わず拍手を送ると、彼は嬉しそうに礼を言ってギターを片付け、木箱に座ったままアルビレオを見た。


「で、話を戻すんだけど。火の国に行くなら、Bランクになれる程度には強くないとダメだよ」


 断言され、少し考えた。

 風の国にしかないギターを持つ少年。旅慣れた様子と、まるで行ったことがあるかのような口調。そして、名声が欲しいならと彼は言っていたのを思い出し、名声を求めて火の国に向かっては水の都に戻って行った冒険者を何人も見てきたのだろうと推察する。

 出戻ってきた冒険者ならば、アルビレオも何人も見てきた。目を輝かせて火の国に向かって、一ヶ月か、長くて半年も経たずに帰ってくる。輝かせていた目は曇り、皆、落ち込んだ様子で去って行った。

 だが、名声を求めずに旅に出た冒険者は、戻ってきたところを見たことがない。


「……名声を求めず、旅をしたいだけならCランクでも大丈夫だと思うか?」


 おそらく彼はアルビレオよりもずっと旅慣れていると判断して、素直に問いを投げた。これで無理だというのなら、少し予定を変える必要がある。

 彼はその緑の瞳を大きく見開いて、何度か瞬きを繰り返した。そして徐々に笑みの形へと表情を変えて木箱から飛び降り、アルビレオの前に来る。


「いいや! 旅をするだけならランクは関係ないさ! ただ、道中はちょっと危険になるだろうから、気を付けたほうが良いけどね!」

「そうか。なら、大丈夫だな」

「君は旅をするために冒険者になったんだ?」

「ああ。この世界を見て回ろうと思って」

「いいね。最高だ」


 ニコニコと上機嫌で話す彼は、どうやらアルビレオと同じ目的を持つ冒険者のようだ。少し持っていた警戒心を解いた。


「僕とパーティーを組まないかい? 僕はエウロ・トゥール。まだ見ぬ英雄の冒険譚を求めて世界を旅したい冒険者だ」


 ニッと笑って、右手を差し出す彼に、アルビレオもニッと笑い返して手を握る。


「俺はアルビレオ・シグヌス。ただ世界を歩いて、見て回りたい冒険者だ」


 それが、エウロとの出会いだった。


 知識のないアルビレオと、力のないエウロ。

 こうして出会った二人の少年は、力を合わせて世界を渡り歩き始めた。


****


 彼らの旅は最初からして波乱に満ちていた。

 火の国の最北端の交易都市に来るまでの間で遭遇したモンスターが強く、硬かったために、アルビレオの剣が折れてしまったのだ。

 馬車からわざわざ飛び降りてきた、青い髪で金の剣を振るう二刀流の剣士に助けられなければ、旅立ってすぐに命を落とすところだった。


 深く礼をすれば、彼は「騎士として当然のことをしただけさ」と笑い、冒険者ならちゃんと素材になるところを剥ぐと良いと薦めてきた。

 解体して、素材部位を麻袋に詰めて、残った部分は土を被せておく。本当は埋めたいところだが、スコップなどは持っていない。アルビレオとエウロが作業している間も、剣士は周辺を警戒していてくれた。


「ありがとうございます」

「気にしなくて良い。子供が死ぬのを見たくないだけだからね」


 再び礼を言ったアルビレオに、彼は大したことではないと手を振る。さらに交易都市まで共に行こうとまで提案してくれた。

 断ったところでどうせ道行きは一緒だ。剣も折れているのでここは大人しく厚意に甘えて、共に交易都市を目指す。

 ディーオルと名乗った彼は水の都の騎士らしいが、妻と共に温泉に浸かりに火の国に来たところだったらしい。交易都市の防壁近くにある馬車乗り場で待っていた女性と合流し、ついでだからと冒険者ギルドまで案内してくれる事になった。


「ありがたいんですが……何故ここまでしてくれるんですか?」


 旅行中なのにここまで親切にされる理由が分からず、笑顔だが警戒心を隠さずにエウロが問えば、ディーオルと妻のティフレは微笑ましげな目をエウロに向けた。


「私は騎士だ。子供を助けるのは正しいことだろう。

 ……というのは建前で、私の剣がアルビレオ君を気に入ったから助けるんだ」

「あなたの、剣?」


 ディーオルの腰に佩いている二本の剣は、金に光るだけでなく尋常じゃない気配がした。おそらく魔剣だろう。それが気に入ったなんてどういうことか。

 訝しがるアルビレオに、騎士は腰の剣の柄を撫でながら頷く。


「この剣は魔剣の一種だ。意思疎通が出来るわけではないが、たまに意思があるような動きをしてね。

 私が飛び出したのも、私が君達に気付いたわけではなく、この剣が君に気付いたからなんだ。だから助けた。

 今、君達に親切にしているのも、魔剣の機嫌を損ねないためだ」


 詳しく聞くと、この二本で一対の魔剣は、二刀流で気骨のある若者が好きらしい。確かにアルビレオは諦めが悪く、どれだけ不利な状況でも勝機を探し続けるところがある。その分、大怪我もしやすいので気を付けろと剣を教えてくれた自警団の団長には注意されていた。

 ディーオルの話では魔剣の意にそぐわない行動をすると、剣が鞘から抜けないこともあるらしい。魔剣持ちというのも大変なんだなと思った。


「まぁ、私自身も君達に将来性を感じているから助けたいと思ったのもある」


 魔剣を見ていたら、意外な台詞を言われて顔を上げる。ディーオルは微笑んで、アルビレオの剣を指差した。


「剣さえ折れなければ、君は充分あのモンスターに勝てる実力があった。折れ方を見るに、君の腕前に対して剣が脆すぎる。

 今までも、何回か剣を折っていないかい?」

「あ、はい。打ち合うと必ず剣を壊すから、ひたすらに素振りだけしてました」

「だろうね。君の剣はとても速い。そしてもっと速くなるだろう。

 水の都で造られている剣は鋳造――鉄を溶かして型に流して造る。安価で同じ形の物が手に入りやすいが、とても脆い。

 君が使うなら鍛造――叩いて造った剣でなければダメだ。それでも旅の途中で何度か壊すだろうから、新しい町に行ったら新しい武器を買うつもりで旅をしたほうが良い」

「わかりました」


 笑顔だが真剣な忠告をしかりと頷いて受け取る。確かに、今回のように腕利きの人間が通りかかって助けてくれるなんて幸運、そうそう起きないだろう。今は自分だけでなくエウロの命も預かっているため、これから先は武器選びにも注意しなければならない。

 決して安くは無いだろうなと眉間に皺を寄せていたら、


「なので、今回の武器代は私が出そう」

「「は?」」


 とんでもない台詞がディーオルの口から出てエウロとハモってしまった。

 どんな罠だと警戒心を強める二人に、彼は笑いながら「そう警戒しないでくれ」と手を振った。


「私も昔、風の国に腕試しとして向かったことがあってね。交易都市に辿り着く前に君達と同じように剣を折ってしまって、凄腕の冒険者に助けられた上に、武器を買ってもらったことがあるんだ。

 礼をしようとしたら、その人はこう言ったのさ。「どこかで似たように困っている冒険者がいたら助けてやれ」ってね。

 これはその人への恩返しの一環なんだ」


 だから気にするなと言われて、思わずエウロへと顔を向けた。彼は眉間に皺を寄せて考えており、結論が出るまで少し待つ。

 路銀にも余裕が有るわけでも無いし、今持っている素材を売っても一晩の宿代がやっとだろう。ここで買ってもらえるのは正直、助かる。とはいえ何もせずに与えられるというのも釈然としない。


「ただ施されるのも癪だという気持ちは分かるわ」


 エウロが結論を出す前にティフレが口を開いた。

 二人分の視線を受け止め、彼女は微笑んで人差し指を立てる。


「これは出世払いと考えて。

 将来、Aランクになった時に、私たちの依頼を一つ受けてちょうだい」

「待ってください。Aランクになれるか分からないのに、そんなの受けれま」

「アルビレオ君はなるわ」


 拒否の言葉を力強く遮られ、断言されたことに鼻白む。

 線が細く儚げな印象を抱いていたが、あまりの力強さに印象が変わる。蒼い瞳は確信を持って見つめていた。


「うちの家宝が選んだ剣士が、Aランク程度取れないわけがないからね」


 Aランクを『程度』とは恐れ入った。冒険者の中でも特に優秀な人間がなれるランクで、今のアルビレオからしたら夢のまた夢のランクなのに。

 力強く微笑む彼女の肩にディーオルが手を置き、首を振った。流石に無理だということだろう。そのことに少しだけ安堵する。


「いいや。アルビレオ君はS、エウロ君はAになれるよ」

「「はぁ!?」」


 ランクを上げられた。再びエウロと素っ頓狂な声を上げてしまった。

 少年二人の反応を水の都の騎士は面白そうに小さく声を上げて笑い、腰の剣の柄をまた撫でる。


「魔剣に好かれるってことは、それだけで充分なポテンシャルを秘めている証明だ。努力を怠らず、邁進し続ければ、二十歳にはSランクになっているさ。エウロ君もアルビレオ君につられてAランクになる。

 私は恩返しが出来て、未来のSランク冒険者に恩を売れる。君達はタダで新しい剣が手に入って、旅を続けられる。Win-Winな関係だ。

 だから君達は気にせず、遠慮無く一番良い武器を選ぶと良い」


 絶対になれると言われても、自信はない。しかしどうあってもこの夫婦は引く気がないらしい。

 二人は顔を見合わせると、頷き合い、ディーオル夫妻に頭を下げた。



 武器屋で選んだ武器の金額に目が眩む。ディーオルは買える中で一番良い武器をアルビレオに与えた。エウロは本業が魔曲使い(トルバドール)のため、武器ではなく防具を替えた。

 その後、武器の具合を確かめるためと今の腕前を知るために、軽く手合わせをした。ディーオルは剣一本、アルビレオは二刀流だ。

 結果は言うまでもなく惨敗。だが、学びたいのでと頼み込んで二刀流での型を見せてもらい、太刀筋を覚える。ディーオルは騎士だが、型どおりの綺麗な剣ではなく、実践で鍛えられた剣に見えた。

 そのことを問えば、彼は剣の柄頭を撫でながら苦笑した。


「水の都はね、強い冒険者がいないんだ。日蝕の度に騎士団が必死になって厄災と戦っている。

 いつ終わるとも分からない戦いで生き残るためには、我流で強くならざるをえないんだよ」


 アルビレオもエウロも、まだ日蝕の時に現れる厄災と戦ったことはないし、見たこともない。アルビレオのいた町は特に問題も起きなかったので、日蝕で厄災が現れると言われてもピンと来ない。

 それは王都近くに用意してある平地に厄災が毎回現れるよう、騎士団が準備をしているからなのだと伝え聞いている。国土の小さな水の都だからこその護り方だ。だからこそ国に税を払い、騎士団に守ってもらっているのだと、ある程度大きくなった子供は大人に説明される。他国では各領地毎に領主の私兵か冒険者が守っているという。

 騎士のディーオルは、厄災と交戦したことがあるのだろう。生き残るために必死になったことで、今の戦い方になったのだと理解して、アルビレオは素直に畏怖を抱いた。


「君達も旅の途中、どこかで日蝕に遭遇するだろう。あれは十年に一度来るからな。

 厄災の年が近付いたら、近くで一番大きな町に留まり、そこの冒険者ギルドか騎士団と親しくなっておくと良い。支援が受けやすくなる」

「……一時間ほど、でしょう? そんなに変わりますか?」


 厄災とは戦ったことがなくとも、日蝕は見たことがある。大体一時間ほどだと思っていたが、厄災との戦いはそうではないのかと問えば、ディーオルとティフレは苦い顔で首を振った。


「日蝕自体は一時間で終わるが、日蝕の間に出現した厄災は留まり続ける。全て滅するまで戦いは終わらないんだ。

 ただの掃討戦や、群れの討伐程度だと考えないほうが良い。


 アレは、厄災との”戦争”だ」


 当時の事を思い出したか、忌々しそうに顔をしかめるディーオルに二人はかける言葉を持たない。

 十年に一度訪れる、天災。その生き残りの言葉を二人はしかりと受け止め、心に刻んだ。


****


 ディーオルたちと別れた後、アルビレオ達はまず交易都市を拠点として少し稼ぐことにした。

 素材を麻袋で運んでいたが、冒険者ギルドでマジックポーチの使用を強く薦められたからだ。血の臭いに惹かれてモンスターが集まり、最悪町にまで付いてきてしまう危険があるので、絶対に購入してから次の町に移動したほうが良いと、受付嬢だけでなく、周囲の冒険者からも薦められた。

 まずは素材を売った金でエウロのマジックポーチを拡張し、そこに素材を入れて運ぶ。数日繰り返して、アルビレオもマジックポーチを手に入れた。

 ちなみに素材は、綺麗に剥いでいたのと、初心者支援と言うことで少し高めに買い取ってくれた。ついでに可食部位も教えてもらった。



 そうしてエウロのポーチをもう一度拡張する頃には、二人のランクはBに上がっていた。ギルドでも驚きの最短更新である。


「いいんですか?」

「いいよぉ。君達はね、素材の剥ぎ方も埋葬の仕方も丁寧だから。そういう子はもっと大物を狩れるようになっておいたほうが良いからねぇ。

 水の都じゃ知らないけど、こっちじゃランクによって狩って良い獲物が違うのさ。と言うわけで、もう食べる目的以外でホーンラビット狩っちゃダメだよ」


 ホーンラビットは額に一本の角が生えたウサギで、攻撃がワンパターンで最大でも二体程度しか遭遇しなかったため余裕で狩ることができた。とても良い資金源だったのだが、どうやら狩りすぎたらしい。

 下のランクが上のランクに指定されたモンスターを狩る分には良いが、上のランクが下のランクに指定されたモンスターを狩れば最悪罰金だと説明された。可食部位もあるモンスターはパーティメンバー×二匹程度なら買い取ってくれるという。

 ギルドマスター直々にBランクで狩って良い獲物リストを貰い、一礼して部屋から退室する。その足でギルドに併設されている図書室で図鑑を探し、姿を確認して特徴と素材になる部位をリストに書き込んだ。


「薬草もBランクになると少し変わるみたいだね。まぁ、覚えている範囲で助かった」

「また教えてくれ」

「もちろん」


 レンジャーとしてBランクに上がったエウロの手には、採取して良い薬草リストが握られている。ひとまず図鑑で外見と分布場所を確認して、アルビレオは少し顔をしかめた。面倒臭そうな場所に生えてる薬草が多い。

 エウロから「これとこれだけは絶対覚えて」と指差された薬草の効能と特徴を覚え、あとは実際に見てみることになった。傷に塗る薬草と火傷に効く薬草だ。いざという時のために覚えておいて損はない。


「じゃ、今日はこれらを確認。狩れそうなら狩ってみようか」

「おー」


 情報収集は冒険者の基本だ。いきなり挑んだりせず、獲物はしっかりと観察して特性を掴む。旅に出てすぐ、倒せそう! と挑んで剣を折った失敗はもう二度としない。


 別に急ぐ旅でもないので、堅実に狩り、どんな依頼も誠実にこなす。楽しみながら二人は経験を積み重ねていった。

 何度か剣の具合を見てもらっているうちにすっかりと馴染みになった鍛冶屋で、予備の剣をポーチに入れておくことを薦められた。次の町で鍛冶屋があるとは限らない。充分な頑丈さがあるとも分からない。なら、確実に使える剣を持っておいて損はないと。

 良いものがあったら売ってしまえばいいと背中を押され、移動中に折れても困るので買っておいた。おかげで金がだいぶ減り、また稼ぐことになったが。


 そして一ヶ月後。

 思った以上にこの交易都市で過ごしたが、しっかりと火の国を旅する準備を整えて、二人は南の通行門をくぐった。


・《黄金に輝く双剣(クリュサオール)

 ゼスリード侯爵家に伝わる家宝。二本で一対の魔剣。

 プラーナを対価に全能力アップのバフをかける。

 斬った対象のプラーナを吸ってバフをかけるが、一定時間斬っていないと使用者のプラーナを吸うので、長距離移動時には納刀する必要がある。バフは納刀しても一定時間効果がある。

 バフをかけようとしなければただのとても丈夫な剣。

 揃った状態でのみ使用可能。片方ずつ使用者が違うと休眠状態に入っているのでバフはかけられない。

 一度揃った状態で使用者が決まると、その使用者が死ぬまで揃った状態であろうとする。

 気を損ねたり、使用者以外が使おうとすると鞘から抜けてくれない。ただ、人の言葉は理解しているようで、状況によっては使用者以外でも使わせてくれる程度には融通が利く。


 プラーナも魔力と同じく自然回復するが、下限は存在し、下限を下回ると自然回復しなくなりそのまま消滅する。

 この魔剣は使用者のプラーナが下限を下回ると、対価として吸収したプラーナを使って使用者をモンスターに変え、違う人間に討伐させて自分の新たな使用者にする。

 ゼスリード侯爵家の五代目当主がその特性に気づき、ある程度修練を積んでプラーナを使いこなせる人間にしか使わせないようにと伝えたことで、ゼスリード家の家宝として受け継がれるようになった。



・ティフレ・ゼスリード

 家宝の魔剣が片方だけでは発動しないのを良いことに、ただの頑丈な剣として片方を腰に差して騎士をやっていた女傑。

 親友があまりにも剣を壊すので、もう片割れを渡した。


 日蝕で《時空を捻じ曲げるモノ(タイムツイスター)》と交戦。しかし、自分以外が飲まれて隊が壊滅。

 自身も利き手を飲まれ、体まで侵蝕される前に切り落とした。

 傷を縛り、反対の手で剣を握って助けに来た親友と共に戦い続けていたが、限界が来て膝をつく。


 親友が盾を捨て、片割れを手にしたのはその時。


 そして日蝕の中、彼女は太陽の如くまばゆい黄金の輝きを目撃する。



・ディーオル・ライクフィールド(ゼスリード)

 漁師の息子だったが親に騎士になれと鍛錬し続けていた。

 入団試験を受ける前に、書き置き一つ残して腕試しとして風の国に向かい、国境を越えてもう少しで交易都市というところで、負傷した大鷲(ガルーダ)と遭遇する。

 交戦したが剣が折れ、大怪我を覚悟したところで大鷲(ガルーダ)を追ってきた冒険者に助けられた。

 その後、冒険者の不手際だったのだと説明され、新しい武器を貰ったが、助けられたのは事実なのでと礼をしようとしたら「ならば、今後困っている冒険者を見たら助けてやってくれ」と言われて引き下がった。

 武者修行に来たことを話すと、少し手ほどきをしてくれることになり、数日お世話になった。修練の傍ら、冒険者の子供でありながら似ていない、青紫の髪の少女に水の都のことを話して聞かせたりした。


 一年ほど風の国を旅して鍛えた後、水の都で騎士になる。平民なので第三騎士団所属になった。

 荒削りな戦い方に冒険者上がりと呼ばれることもあったが、強くなろうとする姿に心打たれて共に鍛錬する者もいた。

 親友もその一人で、第一所属なのに第三に来てはディーオルと手合わせをした。その度に剣が折れるので、親友がとても頑丈な剣をくれる。


 日蝕時、部隊長を任され戦っていたが、戦い慣れていない第一騎士団の一部が飲まれたと報告を受け、部下と共に助けに行く。軍規違反? 人命優先だ!

 一人で戦っている親友を見つけ、合流はしたものの部下も飲まれて壊滅。

 しばらく二人で戦っていたが、親友が膝を付いてしまう。


 まだ続く猛攻に、盾を捨てて、親友の剣を手に取った。


 そして彼は【黄金の剣の使い手(クリュサオール)】となる。



 なお、親友のことをずっと男性だと思っており、入院期間中に女性だと知って謝り倒した。

 男でも好意を持っていたが、相手は侯爵家で長男だし、結婚は出来ないと思っていた。しかし家宝の使い手であることと、親友も好意を持っていたのでそのまま結婚。家は親友の弟が継いだ。

 侯爵家の一員なので第一騎士団へと転属。ストゥーケイ・オロバスという友人が出来る。


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