理想を求める翼/虚構を語る者
てことで見切り発車で始まりました(何度目)
身内でのあだ名が前作主人公のアルビレオとその相棒エウロの物語です。
よろしくお願いします。
“彼”は、普通であった。
生まれは水の都ファルガールの南にある小さな温泉街の一つ。火の国に向かう、あるいは火の国から来た旅人が、次の大きな町に向かう途中で休憩のために寄るような、小さな温泉街だ。
一つだけある宿屋の三男坊として生まれた彼は、家の手伝いの合間によく遠くを見ていた。
人はそれなりに行き来しているが、事件らしい事件もなく、三時間もあれば子供の足でも歩き回れてしまう小さな町は、穏やかな空気が流れていた。
隣の家のやんちゃ坊主のように悪戯をすることもなく。むしろ彼を苦笑しながら止める側。
この街の次男以降の男の主な就職先である自警団の稽古だけは熱心にやっていたが、型を覚えてからは一人でひたすら振る日々。
退屈というわけでもなく。
ただ、漠然とした何かが胸の内にずっとあった。
それならその何かが見つかるまで、外を見てきなと母に背を押され、冒険者になった。
まずは、北の海を見に行こうと王都を目指した十四歳の夏。
彼は、虚構を語る者と出会った。
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“彼”は、嘘つきであった。
生まれは不明。幼児の頃に両親を亡くし、たまたまその場に居合わせた冒険者の吟遊詩人に拾われ、吟遊詩人と旅をしながら育てられた。
吟遊詩人と一緒に町を巡って冒険譚を紡ぐことを覚え、英雄たちの詩は人の希望になるということを知った。
時には人を笑顔にするために、架空の存在しない英雄譚を紡ぐこともあった。締めの言葉は「本当に居るか分からないけれどね」。
各国を巡り、水の都に辿り着いたとき、養い親は冒険者を引退し吟遊詩人として水の都に留まることを決めた。もう高齢だったのだ。
親と共に吟遊詩人になることも出来たが、彼は旅に出ることを決めた。まだ聞いたことのない英雄譚がある。ならば旅に出る理由は充分だ。
ただ、彼には力がなかった。
旅に出ることが目的の彼と、名声を求める冒険者では反りが合わず。
一緒にただ旅に出てくれる人間を待っていた、十四歳の夏。
彼は、理想を求める翼と出会った。
この物語は、普通の二刀流の剣士アルビレオ・イカロス・シグヌスと虚言操る魔曲使いエウロ・ファルサ・トゥールが、新たな英雄譚を紡ぐまでの物語である。




