魔導銃とは
その日のうちだと、犯人に疲れていたから負けたなどと言い訳をされる可能性があるため、きちんと英気を養って、翌日に戦うことになった。場所は試験にも使われる魔導競技場。観客席に囲まれた広い石畳のステージだ。
証人は全生徒。ついでにコトハの実力も周知させてしまおうというのだろう。
「なるべく派手にやってくれると助かりますね」
「……わかりました」
そうオッドベルに注文されたコトハは、とある武器を研究していないか校長である彼に確認を取った。
それが昨日の昼以降での話。
しっかりと食事を取り、しっかりと眠った翌日。魔導競技場の控え室で、コトハは選んだ武器の整備をしていた。
「なにこれ?」
「魔導銃」
付き添いとして控え室に入ることを許されたルナが、コトハの手元を見て不思議そうに首を傾げる。
彼女は見たことがないだろう。そもそも、風の国では『銃』というカテゴリーの武器はあまり普及していない。
地の国ウェオライズに隣接している西側の辺境の村では、地の国で作られた単発式のライフル銃を、自衛のために自警団に装備させてるとこもあるらしいが、広くは普及していない。
コトハが今触っている拳銃は、ライフル銃よりもさらに普及していない。
まず射程が短い。二十五メートルなんて、身体強化をかけた冒険者なら一瞬で詰められる。しかも射線が見え見えで避けるのも楽だ。人によっては避けずに弾丸を掴むことも出来るだろう。
次にモンスターや魔物どころか、動物にも通用しない。小さな鉛玉程度で何とかなるのは犬や猫などの小動物やだけだ。護身用のサブウェポンにすらならない。
一般人相手には充分な威力を誇るので、水の都に住む一部の貴族の護衛などは持っているらしいが、冒険者の間では全くと言っていいほど使われていない。
それでもトリガーを引くだけで手軽に攻撃が出来るという構造は魅力的で、拳銃の構造を活かした魔力の弾を放つ方法が編み出された。
魔石で出来た弾に魔力を籠めて、トリガーを引いて撃鉄で叩くことで中に籠めた魔力を放つ。実弾を放つわけではないので銃身は軽量化されており、魔力伝導率の高い金属を使ったただの筒であることが多い。
実はこの軽さと弾が再利用可能なことが、ごくごく一部の物好きな冒険者に好評だったりする。魔法は使えるが魔力制御が苦手な冒険者が使うサブウェポンにちょうどいいらしい。物理攻撃が効かない敵と遭遇した時の対抗手段として、魔法よりも安全に戦える。
ただ、使っている人間は魔法への苦手意識から代替案で使っているだけで、普通の冒険者からは『使えない武器』として認識されている。
コトハが魔導銃のことを知っていたのは、魔導銃を趣味で使っている冒険者が、魔法は放てないが魔力はたくさんあるコトハのメインウェポンにしてみてはどうかと勧めてきたからだ。残念ながら問題点が多すぎて、バージェスやユパにメインどころかサブにも使えないとその場で却下されたが。
その時はコトハもまだ魔法への夢を諦めきれなかったので、魔導銃はないなと思っていた。
だが昨日、ユパに「遠距離攻撃手段を手に入れない限りは昇級させない」と言われたことから、反抗心でオッドベルに魔導銃がないか聞いた。
魔法学校は教育機関であり、魔法研究機関だ。呪文や魔術回路を刻み込んである道具――魔力を狙った現象に導く道具ということで、魔導具と名付けられている――についても研究している。銃身に呪文を刻んである銃、つまり魔導銃も研究してあるだろうとオッドベルに確認したところ、少数ではあるが扱っていた。
その中でもコトハが選んだのは六発のリボルバー式の魔導銃。
実銃に少し魔法を付与したもので、魔導弾と実弾の両方が撃てるようになっていた。魔導銃としても実銃としても中途半端なところが気に入った。冒険者としても詩人としても中途半端なコトハのようだ。
「珍しい武器を使うんだね」
「父上に、遠距離攻撃手段を手に入れないと昇級させないとか言われたからな。いい加減Bランクになっときたい」
弓か、魔法か。なんて言っていたが、魔法が絶望的なことはユパも分かっていただろう。実質一択だ。非常に腹が立ったので、銃を選んでやった。
軽く声出しをしておき、準備運動も済ませる。腰に銃を佩き、つばの広い帽子を被って外れにくいようにピンで留め、目元に影を作った。
「思ったんだけど、キミ本気になると帽子被るよね。視界が狭くならない?」
「若干狭いけど、目元に影が欲しいんだよ。明るすぎて目が痛い。ゴーグルだと帽子より視界が狭まるから嫌」
「なるほど」
不思議そうなルナに答えながら、グローブもしっかりと嵌める。その状態で銃を握り、あちこちに構えてホルスターに戻した。借り物なので大きいのと重いのは仕方がない。
「……これ、構成式めちゃくちゃ無駄だね。ボク書き換えて良い?」
コトハが動きを確認している間、魔力を籠めていない魔導弾を珍しそうに手に取っていたルナは、描かれている魔法の構成式を見ていたようだ。
「うん? ……うん、好きにしろ」
武器を貸してくれた開発者からは、使いにくい点があればそちらで改良して良いと許可は貰っているので、ちらりと時間を見て許可を出した。まだ試合まで時間がある。
「ははー。魔導銃面白いな。これが終わったらちょっと勉強してみる」
「ほどほどにな」
「わかってる~」
天才が手を出したら一気に開発が進みそうだが、コトハ達は新しい魔法を創ることを目標にしているので、きちんと釘を刺しておく。ルナからは構成式を見ていてやや上の空の返事が返ってきた。
彼女が構成式を見ている間に、実弾を二発、魔導弾を四発、弾倉に装填しておく。魔力は充填済み。銃に弾を装填したまま魔力を補充し直すのは難しく、一度弾を抜いて補充する必要があるのが手間だが、魔力効率が悪いと言われているのは実は放った後。
ただの魔力を放っているだけなので分散しやすく、飛距離が弓矢に比べるとかなり狭い。弓矢が百五十メートルは届くのに対し、これは三分の一以下だ。器具無しの投擲よりは飛ぶ程度で、正直、その距離なら助走を付けて殴った方が早いし強い。
「あー。属性の付いた魔石の弾がないのは、その属性を持ってないと充填できないからか。効率が悪いなぁ。人の中の回路を使って属性にしてるんだから属性変更の構成式を作って変換すれば良いのに。純粋な魔力を流すのは誰でも出来るんだし。あー、いや。ついうっかり属性付きで流す人もいるから事故防止かな。でも変換する式自体は存在してるし、魔石に補充する式も水の都では公式に確立されているんだから、それを使って純粋な魔力なら変換、同属性ならそのまま素通しにする式を入れてー。あ、これなら使い切った魔石を別の魔石として再利用出来……いや、ダメか。使い切ったつもりで属性が残ってることあるから反発して危ないな。やめよ。魔導弾は元から無属性の魔石を使ってるわけだから、こうやって変換しちゃっても大丈夫だよね。完全にこの属性って弾に式を書き込んじゃえば良いんだから安全。……よし。コトハ、コレに魔力籠めて」
空中に文字を書いたり消したりするようにルナの細く白い指が動く。魔導弾の構成式を書き直しているのだろう。だいぶ書き直しているように見えて、原型が残っているのか不安になった。それもう、改良と言うよりも新規では。
魔力が空っぽの弾を手渡され、言われるまま魔力を籠める。無色透明になるはずの弾は、何故か紫に染まった。ルナがよしっと小さく声を上げる。成功したらしい。
「なにこれ」
「雷の弾。威力とかは全然わかんないけど、魔力が分散しないよう束ねる式を入れてあるから、飛距離は多分伸びてる。どんくらいかはわかんない」
答えながらルナはもう一つの空っぽの弾を先ほどよりもずっと早く――コトハの見間違いでなければ、全部消すように手のひらを動かした後に――書き直し、コトハに渡してきた。魔力を籠めてみればまた紫に染まる。
「ぶっつけ本番の実験よろしくぅ!」
「阿呆。オッドベル校長に先に見せて、使用して良いか確認するに決まってんだろ」
「ちぇっ。じゃあとりあえずもう既に魔力を籠めてあるほうを貸して。分散しないよう束ねる式入れとく」
「余計なコトすんなよ」
「流石に魔力が籠もってる物の書き換えは慎重になるよ」
そう言って彼女は構成式を書き換え始める。
ルナを控え室に残したまま、コトハはオッドベルを探しに出た。
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公正を期すために、実験は競技場の舞台の上で行われることになった。まだ開始時間ではないがもう既にちらほらと座っている生徒達が不思議そうに見ている中、オッドベルが作った的に向かって銃を撃つ。
まずは改良無しの魔導弾。木で出来た的の真ん中より右にパァンと穴が開いた。修正して二発目で真ん中に当たる。案外簡単だなと思った。
続いて、ルナが改良した無属性の魔導弾。ルナの話では飛距離が伸びているはずなので、従来の距離の倍の距離から撃ってみる。反動は変わらず。弾はちゃんと届いて的の真ん中に穴が開いているが、改良無しよりも穴が大きい。
もう一つも同じ結果になり、開発者の教師が非常に興奮した。よれた白衣を着た、目の下の隈が酷く目がくぼんで見えるボサボサの髪の男が無遠慮に歩み寄ってくる。コトハに弾を見せてくれと言ってきたので、大人しく弾倉から抜き取って渡した。解析器だろう眼鏡を掛けて、弾を眺めていた彼は歓喜の声を上げる。
「弾の効率はこれ以上効率化出来ないと思っていたが、まだまだ改良の余地があったか!」
「むしろ、改良の余地しかないですよ。無駄ばっかで」
コトハの後ろからルナが歩いてくる。解説は彼女にしか出来ないのでコトハは場所を譲った。
「短縮式については、水の都の魔導具師エフィリム氏の書籍が非常に参考になりました」
「魔導具師? ……ああそうか!! 武器への付与魔法ではなく、魔導具と一緒だと考えれば良かったのか!! ん?? 待てよ?? だとしたら銃身に刻むのも呪文じゃ無くて魔導回路にすれば、硬化と軽量化の魔法が掛けられるのか? んんんん???」
「理論上はそうなりますし、材質も変えることが出来るでしょうね。お手伝いしましょうか?」
「是非頼む!! 私はフォルテッド・ペルペール!! 特別にフォルと呼ぶことを許可する!」
「ボクはルナ・エルフィンストーンです。ルナとお呼びください、フォル先生。あと、ボクは魔力量が少ないので、彼女も手伝いますよ」
すっかりと興奮した教師にしれっと手伝いを申し出て、あっさりと許可が下りた。ルナが魔導銃に興味を持ったので、遅かれ早かれこうなる気はしていた。
巻き込まれたくはないので逃げようとしたのだが、ルナの手がコトハの肩を掴んで逃がさない。剥がして逃げる前に、残念ながら教師の目がコトハに向いてしまった。
「おお!! 協力してくれるか、ベスティート君!!」
「……はい。これが改良されて、冒険者に広まったら便利だと思いますんで、その程度の手伝いはさせてもらいます。呼び名はお好きに」
「ではコトハ君と呼ばせてもらおう! 君もフォルと呼ぶと良い!! あとで担当教員に挨拶させてくれ!!」
「わかりました」
とりあえずもう一種類あるのでと下がらせ、やや頭が痛そうな顔で見守っていたオッドベルに新しい的を作ってもらう。
紫の弾を弾倉に込めて、トリガーを引く。反動はやはり変わらず。魔導弾はどの種類も反動は変わらないのかもしれない。弾は的に当たりバチィッと派手な音を立てた。雷魔法を的に当てたような音だ。穴は純粋な魔力だけを籠めた物より小さいが、焦げた跡になっている。ちゃんと属性が付いたようだ。
「やったー!! 成功ーー!!!」
教師全員が唖然としている中、珍しくルナが両手を挙げてはしゃぐ。止まり木が動いたので、肩に乗っていたロータスがコトハのほうへと逃げてきた。
「……エルフィンストーンさん。何をしたんですか?」
「純粋な魔力を属性に変える式を組み込みました。ひとまず、危険度があまり高く無さそうな雷で試したんですけど……見事に変えれましたね!!」
オッドベルはこめかみを押さえながら彼女に問いかけ、返ってきた答えに一度眼鏡を外して眉間を押さえた。眼鏡を持った手が胃の辺りを抑えたので頭痛だけでなく胃痛も起きてそうだ。哀れ。
「ああそうか、魔力を変換……ああああルナ君、君は天才か!? コトハ君、銃弾を」
「もう一発試すんで離れてくださーい」
フォルが感動して近付いてきたが、もう一つ分あるので離れろと手を振った。ロータスはもう戻らず、コトハの肩に乗ったままだ。フォルが充分な距離を取ったところで、また撃つ。同じ結果になったのでこの弾も安全そうだ。
「ねーねー!! 魔力籠めた相手によって変わるのか見たいから、銃弾を先生に渡してー!!」
「はいはい」
ルナの要望に弾倉からまた弾丸を抜いて、駆け寄ってきたフォルへと渡す。グッと魔力を籠めると紫に染まった。もう一つも同じように魔力を籠める。ついでに改良した弾にもお願いして、四発をまた弾倉にセット。その間にオッドベルが新しい的を作っていた。フォルが離れていってコトハはまた構える。
今度は一発一発待たず、移動しながら連続で四つの的を壊していった。流石に少しブレたが真ん中近くなので、銃をコトハ用にして練習をすればちゃんと真ん中に当てられるだろう。
フォルに銃弾を全部渡し、銃自体はホルスターにしまった。途端、構成式を見たい教師たちが興味深そうに囲おうとしたので、オッドベルと一緒に避難する。
嬉々として構成式を語るルナを眺め、オッドベルは疲れたように息を吐いた。
「……エルフィンストーン君も、なかなか規格外だね……」
「ははは。本来はベスティートの子ですよ? 環境さえ整えば開花するに決まってんですよ。そんで俺は、あいつにがっつり関わって、開花させると決めました」
「おや、そうなんですか? あまり関わりたくないように見えましたが」
前までは、コトハはルナとあまり関わらず、心も許さないつもりだった。なにせ喜んだ瞬間に失い続ける人生なのだから、これ以上傷つきたくなかった。
オッドベルもそんなコトハの様子を感じ取っていたのだろう。不思議そうに言われて苦く笑う。
時空を捻じ曲げる者か、刻を渡り歩くモノになると聞いた時のルナの表情を見て、コトハは一瞬で考えを変えた。それはつい昨日のことなので不思議そうになるのも仕方ないのだが、オッドベルとは昨日会ったばかり。昨日の様子ではコトハとルナは仲が良いように見えるだろう。ロッドベルドとは別人だと振る舞うのなら、言動も一致させてほしい。
ロータスからあのことを伝えて良いかと小声で問われ、コトハは小さく頷いて了承する。コトハが言うよりも、昔なじみらしいロータスが伝えたほうが信じられるだろう。
「――モーゼ。昔のよしみで伝えておくわ。あの子は将来、時空を捻じ曲げる者か、刻を渡り歩くモノになるわよ」
「――――ッ!?」
ロータスの小さな囁きにオッドベルは息を飲み、ロータスにむけかけた視線を無理やりルナたちに固定した。
彼の反応も当然だ。《厄災の五種》のどちらかになると言われて、動揺しないわけが無い。
「だから俺があいつを止めます。そのためにも、あいつには才能を開花してもらって、新しい魔法を創ってもらわないといけない」
厄災すら止められるぐらいの強力な魔法を創り上げなければならない。そのためなら自分が何を失おうとも構わないと思えた。
何も与えられなかった少女への哀れみかもしれない。
彼女を救うことで自分も救われたいのかもしれない。
チェンジリングで本来、彼女が居るべき場所を奪った罪悪感からかもしれない。
なんであれ、コトハはルナを護ろうと思ったのだ。
彼女を一人にはしたくないと。
柄にもなくそう思った感情は、一体なんなのか。
十二歳のコトハには全く分からなかった。
人はそれを、愛と呼ぶ




