4.松田一家 当代総長
──松田一家本邸 玄関・夜
玄関の引き戸がわずかに開かれ、夜気が流れ込む。
出ようと足を向けた銀次の視界に、正面から歩いてくる影が入った。
黒いスーツに身を包み、端正な所作。
月に照らされ美しいピンクの髪に毛先が緑色の女性、一度見たら忘れられない、それほどの存在感がある。
松田一家当代総長──松田悠吏
「…おじいちゃん先生?」
悠吏は一瞬だけ眉を下げ、すぐに柔らかな笑みを作った。
「今日はどういったご要件でしたか?」
そう悠吏が尋ねると、銀次は笑顔になり皺が更に深くなる。
「ゆーりちゃんとこの若いのがな、子どもを拾ったらしいと連絡よこしてきおったんじゃ。そいで来たんじゃよ」
その言葉を聞いた瞬間、悠吏の笑顔が、落ち葉のようにひらりと消え落ちた。
眼差しに、当主としての冷たい光が宿る。
「…そうなんですね」
玄関の空気が、きゅっと張りつめる。
銀次はその気配を読み、乾いた息をひとつ笑いに変える。
「なんの、あの子らを怒っちゃいかん。困っとるもんを放っとけん子らじゃ、ええことよ」
悠吏の喉が、わずかに動く。
怒りではなく──責任の重さと、胸のざわめき。
銀次の目がわずかに細くなり、声の調子が変わった。
「…それとな、ゆーりちゃん」
悠吏が自然と背筋を伸ばす。
銀次の顔は今度こそ医者ではなく、町を見てきた老人のもの。
「後で、いつもの店で一杯つきおうてくれんか」
それは「話すべき話がある」という意味。
当代総長が断れるはずもない。
「…はい、分かりました」
悠吏が静かにうなずくと、銀次の視線がその背後の若衆へと向いた。
「坊、ゆーりちゃんの付き人はお前さんに頼む。ええな」
名指しされた中井は一瞬目を丸くするが、すぐに真剣な顔になる。
「…分かりました」
悠吏の隣に並ぶ中井。
銀次はその様子を満足そうに眺め、草履を履くと、夜の空気に出た。
「んじゃ、また後でな。寒うなる前に、早よ準備しとき」
老人の背中が灯りの外へ消え、屋敷の空気がようやく息を吐いた。
悠吏はしばらく玄関に立ち、手を握りしめたまま動かなかった。
そして小さく呟く。
「中井」
「はい」
悠吏は中井に向き直るとぺしんと頭を叩く。
中井は微動だにせず、悠吏の言葉を待つ。
「また拾ってきたの?うちは保護施設じゃないんだよ!……っんとに、拾ったなら最後まで面倒を見な」
中井は返事をする。
「分かった。外に車を回しておきます」
悠吏は銀次の誘いがあるため、着替えてくるといい本邸に入っていった。




