猫女
鼠が居た。女はそれを手でつかみ、男に投げた。鼠は見事に男に当たり、男は女を振り返る。男が「何だ。」と問うものの、女は「何も。」と答えるばかり。男はあきらめ再び女に背を向け歩く。また頭に鼠が当たり、男が「何だ。」と問うものの、女は「何も。」と答えるばかり。男はあきらめ走り出すと、今度は何も頭に当たらない。不思議に思い、振り返ろうと思うたが、不思議に思うたことすら思い出せぬ様になっていた。なので男は止めた右足を前にそうろりと出すが、迷いなど霧のように消えていた。
あの後そこに鼠を喰う猫が居たことを、男は知らぬ。
男は何も覚えちゃいない。