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第三章 虚構の檻


 双子の道化師を退け、姫小路朱音とともに前進する神原カナメ。

 しかし、闘技場の奥へ進むほど、空気は冷たくなり、甘美な香りが漂い始めた。

 それは目に見えぬ威圧感となって、カナメの胸を押しつぶす。


 「……ここが、次の敵の領域か」

 カナメは唇を噛む。左目の“月の目”が微かに光り、周囲の虚構を映し出す。


 中央に現れたのは、白銀の髪と透き通る碧い瞳を持つ男――氷室カイ。

 彼の瞳は、相手の心理を自在に操る力を宿していた。

 戦闘経験は浅くても、相手の心を武器に変える氷室の力は異次元である。


 「神原カナメ……よくここまで来たね」

 男の声は柔らかく、だが冷たく鋭い。

 空間全体が彼の意思で歪み、闘技場は複雑な迷宮へと変化する。


 石畳の床は延び縮みし、壁や天井は曲がりくねり、出口は見えない。

 すべてが虚構の檻――心理戦の舞台だ。


 「恐れるな……君の心を少しずつ、僕の世界に染めていくだけだ」


 その声が耳に響くたび、カナメの胸奥に微細な不安が生じる。

 しかし、彼は月の目で虚構の奥を覗く。

 ――相手の心の揺らぎが見える。

 恐怖、孤独、自己否定――それらが虚構の力を支えている。


 カナメは自身の内面を見つめ直す。

 事故で助けられなかった友人たち。

 自分が選ばなかった未来。

 守れなかった笑顔。

 否定すれば虚構は強くなる。受け入れることで、力に変えられる。


 「……俺の心は揺るがない」

 決意とともに、大鎌を握り直す。


 虚構の空間に朱音の幻影が現れる。

 「カナメ……あたしを信じて」

 声も表情も本物そっくりだ。

 だが、月の目で胸の奥を見ると、朱音の心は氷室の影に侵され、微妙に歪んでいる。


 「朱音、これは幻影だ! 惑わされるな!」

 叫び、大鎌を振るう。

 偽の朱音を斬り裂き、現実の朱音を守る。


 氷室カイは微笑みながらも動じない。

 「よくできたね。だが次は、君自身の恐怖を映す」


 虚構が再び変化する。

 床は地獄の裂け目となり、足元から恐怖の影が湧き上がる。

 壁には守れなかった人々の顔が浮かび、笑顔は歪んで絶叫に変わる。


 (……これが洗脳型の心理戦……)

 カナメは思考を集中させる。

 過去の後悔を否定せず、痛みを受け入れ、虚構を力に変える――それしか突破口はない。


 幻影が迫る中、月の目が光を増し、虚構の亀裂を映す。

 恐怖を具現化した幻影は動きを鈍らせ、カナメの大鎌が斬り込みを決める。

 「俺は……負けない!」


 戦闘は肉体のぶつかり合いではない。

 心理の駆け引き、相手の恐怖と希望、揺れる心を読み取り、操作することが勝敗を決める。


 氷室カイも、巧妙に虚構を変化させる。

 視界が歪み、床が裂け、朱音の幻影が無数に増える。

 カナメは一瞬の判断で、真の朱音と偽りを見極める。

 月の目は真実を映し出し、幻影は斬られるたびに消え、虚構の支配力は徐々に減退する。


 「君の心は……強い」

 氷室が静かに呟く。

 だがその瞳の奥には、焦りが浮かんでいる。

 彼もまた、完璧ではない――心の隙間を見せる瞬間があるのだ。


 カナメはその隙間を逃さない。

 大鎌を振るい、幻影を次々に斬り裂く。

 床の裂け目から差し込む光が、虚構を崩し始める。


 「もう終わりだ」

 カナメの言葉に応じ、虚構の檻が大きく揺らぐ。

 朱音の幻影が消え、現実の姿が浮かぶ。

 氷室カイも後退し、冷たく鋭い視線をカナメに向ける。


 「なるほど……強い心だ。だが、まだ試されるだろう」

 男は微笑む。戦いは終わっていない。

 虚構の檻は一度崩れたが、氷室の心次第で再び立ち上がる可能性がある。


 カナメは大鎌を握り直し、朱音とともに前に進む。

 月の光が二人を包み、左目の月の目が微かに輝いた。


 虚構の檻を抜けた先には、さらに過酷な心理戦が待つ――

 カナメは覚悟を決めた。

 揺らがぬ心と、月の目の力を武器に、この世界の創造主たちと戦い抜く覚悟を。

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