可愛いふたり〜セリナ視点〜
昼休み、学院の食堂は今日もにぎわっている。
「あら。また声をかけられてる」
私たちが座る窓際のテーブルから、入り口の様子がよく見える。
リーネが男子生徒に囲まれている様子が見えた。
「ああ、ほんとだ」
書類に目を通していたレオニスが顔を上げる。
穏やかな金色の髪が陽に透け、涼やかな瞳が細められる。
「姉妹揃って人気者だね」
「いや、私の場合は……ちょっと変に人目を集めてしまうというか……」
そう言って肩をすくめた私に、フィオナからすかさず声が返ってくる。
「セリナさんは姿勢や所作、言葉遣い。いつ見ても丁寧で、乱れがありません。蜂蜜を溶かしたような優しい髪色や色素の淡い瞳もあって、自然と視線を集めてしまうんです。けして変にではありません。見惚れる、という方が近いかと」
「……わたし、そんな風に見えてたんですか?」
「見えてます。かなりはっきりと」
あまりにさらっと言われて、恥ずかしさで思わず紅茶を置いてしまう。
すると、その隣でレオニスが苦笑まじりに言葉を継いだ。
「僕も同感だよ。リーネが“春”なら、セリナは“秋”って感じかな」
「秋?」
「うん。空が澄んで、静かに風が吹く感じ。意識せずにはいられない。確かに優秀が故に違った面で注目されることも多いけどね。それはセリナの良いところだよ」
その笑顔はどこまでも穏やかで、冗談めかしているようで、ちゃんとあたたかい。
なんだか背筋がくすぐったくなって、私はそっと目線を外した。
「ありがとうございます。でも、やっぱり私は静かに過ごしたい派かな」
「確かに穏やかな時間も必要だ」
そう言って笑う会長の声は、どこまでも優しい。
見た目も中身も、まるで絵本に出てくる王子様のような人。
だからこそ、彼が穏やかに言う一言一言が、みんなの緊張をすっと解いてくれる。
「それにしても遅いね」
視線の先には、数人の男子生徒に囲まれて困ったように笑うリーネ。
その柔らかな笑顔は、周囲の空気をふわりと包んでいた。
「あ、カイル」
レオニスが小さく声を上げると、皆の視線が一斉にそちらを向く。
カイルが、まっすぐにリーネのもとへ歩いていくところだった。
眉がちょっぴり寄っている。
その表情には焦りと苛立ち、少しだけ拗ねたような、そんな雰囲気が滲んでいた。
「おやおや」
レオニスが目を細めて笑う。
「ヒーロー登場ってところかな?」
「ふふ、今の顔……」
フィオナがくすっと笑って言った。
「完全に『何話してたんだ』って聞きたそうでしたね」
「堂々とその場に割って入るあたり、カイルらしい」
レオニスが茶目っ気たっぷりに肩をすくめると、フィオナがすかさず言った。
「でも、表情はもうちょっと隠した方が良いかもしれません。全部、顔に出てました」
「……かわいいな」
思わず私が漏らすと、みんなが笑った。
カイルは結局、何も言わずリーネの隣を歩いてこちらへ向かってきた。
歩調はぴたりと合っていて、ふたりの空気感は、もう何も言わずとも分かるくらい自然だった。
「お待たせしました」
リーネが明るく声をかけ、隣に腰かける。
カイルも、何気ない顔で隣に座る。
けれどその耳はほんのり赤くて、いまのやりとり全部見られていたことに気づいているみたいだ。
「……にしてもカイル、分かりやすかったね?」
レオニスが、わざとらしく頷きながら言う。
「はい。顔に“何話してたんだ”って書いてありました」
フィオナがさらっと続ける。
「……別に、何も言ってません」
カイルが苦い顔をして睨むと、レオニスは笑って紅茶を口に含んだ。
「この間の選択授業で一緒だった子たちだったんです」
話題が自分達のことだったことに戸惑いながら、リーネが紅茶を口に運びながら答える。
「実技のときに資料を貸してたから、そのお礼と、次の課題のことを少し」
「なるほど、それであんなに集まってたのか」
レオニスが柔らかく頷く。
「授業の話ってわかってたなら、あんな顔しなくてもよかったのに」
フィオナが笑いながらカイルを見る。
「……話してた内容じゃなくて、囲まれてたのが気になっただけだ」
カイルは視線をそらしてぼそり。
「ふふ、カイルって、ほんと分かりやすいわね」
私が言うと、今度はリーネがちょっとだけ笑った。
「うん。でも、ありがとう。来てくれて助かったよ」
カイルが驚いたように一瞬目を見開いて、口元がほんの少しだけ緩む。
「リーネって、ほんとうに…可愛い」
ふと漏れた私の独り言に
「……うん」
とカイルが、そっと頷いた。
「…なっ!?」
カイルの素直な答えにリーネの顔が真っ赤になる。
こんな日常が本当に幸せ。
そうだ、可愛い2人のために今度お揃いのネックレスでも作ってみようかな。
お互いの瞳の色のついた宝石を使うのもいいかもしれない。
まったりとそんなことを考えていた何ヶ月かあと。
恋人同士でお揃いのネックレスをプレゼントするのが大流行するなんて、本当に思いもしなかった。
勢いで書いた後日談