俺が助けに
「……遅いね、リーネ」
中庭のテーブルから立ち上がりながら、セリナが不安げに呟いた。
お昼から一緒に文化祭をまわる予定だったリーネが、いつまでも姿を見せない。
「おかしいよ。あの子、約束に遅れるようなタイプじゃないのに……」
「とりあえず、生徒会室に行ってくる」
入れ違いを危惧し俺が生徒会室へと行くことにした。
生徒会室の扉を開けると、中にはレオニス様とフィオナがいた。
「リーネの姿が見えなくて。何か聞いてませんか?」
レオニス前半とフィオナが首を横に振る。
「見てないわ」
「友人と一緒ではないのか?」
「ここに来る前に聞いてみたんですが、大分前に別れたと」
焦りを含んだ俺の言葉に、レオニス前半が静かに立ち上がった。
「風の精霊を呼ぼう。今日は精霊たちが騒ぐから少し気になっていたんだ。彼女の足取りがわかるかもしれない」
レオニス先輩が机から小さな水色の精霊石を取り出し、低く呪文を唱える。
空気がふるえ、淡く光る風の精霊が姿を現す。
精霊と契約できる人間は少なく、この学園ではレオニス先輩一人しかいない。
「この学園内で、リーネ・ラシェルはどこにいる」
──“少女は眠るように連れられ、西門を抜けました。海の匂い、異国の香りが後に残っています”──
「海……港……?」
フィオナが眉を寄せてつぶやく。
「異国って……まさか、隣国?」
リーネを探すためだけに精霊の力を使わせてしまい申し訳ない。
そんな思いは一気に消し飛んだ。
血液が一気に冷めた気がした。
「おれ、港にっ」
違ったとしてもここで大人しくなんか出来ない。
そこへ、セリナとユリス先輩が走り込むように生徒会室へ入ってきた。
青ざめて足がおぼつかない様子のセリナは、ユリス先輩に支えられながらなんとか立っている。
「目撃情報があったのっ!西門の方向にリーネに似た女の子を抱えていた人がいたって。もしかしたら……!」
「精霊によるとリーネは隣国へ行く港に連れて行かれた可能性がある」
「待って、港?隣国に連れて行かれるってこと?すぐに行かなきゃ」
「落ち着いて、セリナ」
レオニス先輩が優しく声をかける。
「まだ情報が不確かだし、私たち全員で動くわけには行かない」
「でも、リーネは……っ」
セリナの手が震えていた。
普段は滅多に見せない、心からの焦りだ。
「俺が行く。馬なら、港まで最速で着く」
真剣な表情で言い切ると、すぐに踵を返して駆け出した。
とにかくリーネのところへ行きたい。
俺の背を押すように、風の精霊の風が吹き抜けていった気がした。