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午後のティータイム

今日の応接間は、セリナの紅茶とお菓子の香りで満ちていた。

文化祭の打ち合わせという名目ではあるけれど、それぞれが穏やかにくつろいでいるのはセリナの人柄によるところが大きい。


「買い物は楽しかったですか?」

「うん、とっても! いい薬草を見つけたの」


生徒会長のレオニス様が柔らかな微笑みを浮かべ、それに対してセリナが嬉しそうに答える。


「香りがよくて、ほんのり色素も出るの。乾燥対策にぴったりで……リーネの肌に合いそうだと思って」


リーネはカップに口をつけながら、ふっと目を細めた。

あたたかくて、少しだけくすぐったい気持ち。


「でね、途中で思いついたの。髪にも使えるかもって」


セリナは紅茶のカップを置いて顔を上げた。


「最近、カイル鍛錬で外に出てる時間が長いでしょ?

ちょっと髪がパサついてる気がして……なんか気になっちゃって」

「あー、たしかに最近、ちょっと乾燥してるかも」


カイルが何気なく髪に触れると、会話の輪がふわっと弾けた。


「それ、私も使ってみたいですわ」


と、書記のフィオナ様が優雅にカップを傾ける。


「女性向けに香りを足しても素敵かもしれませんね」

「わあ、それいい! じゃあ、フィオナの好みの香り、今度教えてもらってもいい?」

「もちろんです、セリナさんの調合でしたら、どんな香りも素敵になりそうですし」

「薬草屋にもう一度行く予定があるなら、僕もご一緒したいな」


と、ふいにレオニス様が声を上げた。


「じゃあ私も行こう」


と、無口なユニスがぽつりと続く。


「えっ? ほんとに? じゃあ、みんなで!」


セリナが嬉しそうにぱっと目を輝かせた。

その笑顔に、場の空気がさらに華やかに膨らんでいく。


(また、こうやって人が集まっていくんだよね)


私は紅茶を飲みながら静かに眺めていた。

セリナのまわりに集まる人たちは、セリナに対して誰もが優しくてまっすぐだ。


「ちょっと、お湯足してくるね」


カップが空になりかけたのに気づいて立ち上がると、隣から立ち上がったのはカイルだった。


「手伝うよ」

「あ、大丈夫だよ?」

「いいって。皿もついでに下げたいし。重いの、持たせられないだろ?」


そう言って、カイルは何気なく笑った。

自然であたたかな笑顔は昔から変わらない。

応接間からでると昼下がりの廊下には木の香りが静かに漂っていた。


「あの発想力って、どこから来るんだろう。薬草ひとつで、何通りも可能性を考えちゃうんだから」

「うん、いつも何かひらめいてる感じだよね」

「この前なんかさ、鍛錬の後に俺の靴の底がすり減ってるの見ただけで、“この道、石の粒がちょっと大きいのかも”って言い出して」

「……ほんとに?」

「ほんと。で、自分で測りに行ったらしいよ。何種類か靴で歩いて。意味わかんないだろ?」


カイルの大袈裟すぎるリアクションに、小さく吹き出した。


「セリナらしいね」

「うん。でも、すごいのはそこから新しい底材を商人の職人さんに試作させたことなんだよね。次の学期に導入予定なんだって」

「…セリナって、なんかすごいのに、全部“思いつき”って言っちゃうんだよね」

「それがまた、すごいんだけどね」


カイルが笑う。

ふいに自然な視線が向けられて、目が離せなくなる。

ふと、窓から陽が差し込む。

カイルの笑った顔が、その光に照らされてほんの少し眩しかった。


(……こういうの、なんていうんだろう)


一瞬、心の奥で小さく波が立つ。

でも、それをすぐに表に出すような性格ではない。

彼もセリナのことが好きなんだろう。

あれだけセリナを見ていれば、そう思うのが自然だ。

何気ない時間。

けれど、その静けさの中で少しだけ、距離が近づいた気がした。


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