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秋限定!セリナのハンドクリーム

部屋の中に甘い風が吹いていた。

カスミノ国から持ち帰った、あの小さな金色の花の香りがふわりと広がっていた。

セリナは風に髪をなびかせながら、ソファ寄りかかってぼんやりしている。

旅の疲れが残っているのか、それとも単に眠いのか目が半分しか開いてない。

私は隣に座って紅茶をすすりながら、ちょっと抜けてる顔をなんとなく眺めていた。

するとふいに、姉さんが手のひらに花を乗せて、ぽつりと言った。


「この花の香り…なんか落ち着くね。寝る前につけてたら、いい夢見れそう」


ああ、出たな、と思った。

姉さんのそういう言葉は、たまにすごくいいキャッチコピーになる。

しかも、本人はそれにまったく自覚がない。

このときも、ただ心のままに口にしただけだった。


「それ、売れます!」


勢いよく立ち上がったのは、クローズ家の次女ケイトだ。

カスミノ国から帰って以降本格的にセリナのサポートをするようになり、休みの日は家に来てくれている。

隣で一緒に聞いていた次男サイと顔を見合わせ、声を揃えて言った。


「寝る前につけて、いい夢が見られるハンドクリーム!」

「秋限定! 香りで癒やされる! これはいける!」

「セリナの名前、ぜったい入れましょうね!」


セリナはというと、目をこすりながら「……ん? うん、いいよ」と寝ぼけ声。

その数秒後にはソファ寄りかかったまま、すぅすぅ寝息を立てていた。

私はお茶を一口飲んでから、静かにため息をついた。




数日後、食堂に降りるとすでにクローズ家の兄妹は勝手に居座っていた。

あの姉弟に「遠慮」という文字は存在しないみたいだ。

あるのは「ビジネスチャンス」だけだ。


「この香り、寝る前につけたらいい夢見れそうって、あれ金言です!」

「秋限定! 夢を誘う香り! 高級路線! 名前入り!」


ふたりとも目がギラギラしている。

その横でセリナはというと、何の話かわからず驚いた顔をしている。


「なに? 金言?」

「セリナさん、クリームにしますね、この香り! もう父上の許可も取りました!」

「えっ、もう!?」


思わず声に出したのは私。

完全に事後報告である。

話を聞くと、すでに香料抽出の職人と契約が進んでいた。

キンモクセイの香りに似た花の原料は収穫量が限られているため、「完全季節数量限定」。

その希少さもまた、上流階級の購買欲をくすぐるらしい。


「で、商品名なんですけど、これにしました!」


どーんと差し出されたラベルには、こう書かれていた。


『セリナの夢咲きクリーム 』


セリナはは完全固まった。


「この香りはセリナのひとことから生まれたんですから!」

「セリナの手のぬくもりと香りを想起させる、夢に誘うハンドクリーム!」

「セリナの手で包まれて眠る夜というコンセプトで売りましょう!」

「ちょっと待って!?なんかニュアンスやばくない!?」


ようやく我に帰ったセリナが、バタバタと手を振っていた。

私は紅茶を注ぎながら、兄妹の熱弁とセリナのうろたえる様子を静かに眺めていた。

結局、自分の名前がつく商品なんて恥ずかしいと許可をださなかったので、セリナの名前は削除された。

発売日からほどなく貴族の奥様方がこぞって「秋の香りに包まれて眠れるだなんて、素敵すぎる!」と騒ぎ出した。

あまりの好評にサイとケイトが「次はセリナの目覚めミストなんてどうですか!?」と目を輝かせてきた。

あまりの勢いにセリナが「やめて、やめて!」と立ち上がって、慌てふためいていた。

私はその後ろ姿を見ながら、小さく笑って、紅茶をひとくち飲んだ。

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