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織るように蹴る  作者: やしゅまる


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8/10

第8話「最後のシュート」

夕暮れの部室。

岡部さやはひとり、ロッカーの扉に手を添えて立っていた。


中には、部活の記念写真。ボールを囲んで笑うみのりたち。

——けれど、自分の心は、すでに別の場所に向いていた。


福岡市内の美容専門学校から合格通知が届いたのは、ついこの前。

春からの住まいも決まり、アルバイトも始まる。


練習には、もう週に1回しか出られない。

「最後の大会も終わったし、もう…」と、どこかで自分に言い訳していた。


だけど。


みのりたちの「新しい挑戦」は、まだ終わっていなかった。


「さや先輩の卒業記念に、町の広場でフリースタイルのイベントやろうよ!」


「さやの晴れ舞台、最後に一緒に立ちたいっちゃん!」


突然の提案に、さやは苦笑いするしかなかった。


「うち、もうみんなと同じ場所に立てんよ。練習も、衣装も……」


言葉の途中で、何かが詰まった。



帰り道、髪を切っていた地元の美容室の前を通ると、ドアが開いた。


「あら、さやちゃんやん。聞いたよ、福岡の専門学校受かったって」


「はい……ありがとうございます」


「寂しくなるねぇ。あんたが切ってくれる日、楽しみにしとるとよ」


その言葉に、思わず足が止まる。


「……え?」


「うちのこの前髪、いつも変になるっちゃけん、将来お願いね」


後ろからは、近所のおばちゃんも声をかけてくる。


「成人式んとき、うちの孫の髪、お願いね」


まるで、さやの“未来”が、町じゅうに広がっていくようだった。


——夢って、ひとりで叶えるもんやと思っとった。


だけど今、自分の夢が、誰かの笑顔につながってると初めて気づいた。



イベント当日。町の広場に、仮設ステージが組まれた。


さやは久留米絣の衣装を着ながら、鏡の前で髪を整えていた。


「さや先輩、緊張しとる?」


ななみが笑う。


「まーね。でも今日は、みんなで蹴るけん。最後まで、ちゃんとおるよ」


舞台に立つ直前、みのりがそっと背中を押した。


「さやが進む道、うちらが守るけん」


音楽が流れ、拍手の中で、ボールが宙を舞う。

ステップとリフティングが重なり、しずくがが上げたボールに、さやが頭で止めた後に即興フリースタイルがはじまる


「いけっ——!」


広場中が歓声に包まれる。


そのとき、さやは確かに感じていた。


夢は、遠くにあるものじゃない。

仲間と、町と、繋がっているものだと。


「ありがとね。……うち、背中押されとるけん、もう大丈夫」


笑顔で涙をこらえながら、彼女は最後のパフォーマンスを蹴り切った。

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