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織るように蹴る  作者: やしゅまる
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第4話「決意とはじまり」

「出てほしかとよ。うちの店が入っとる商店街の夏まつり。あんたたちのフリースタイルで、オープニングを盛り上げてくれんね?」


その言葉に、みのりは一瞬耳を疑った。

電話の主は、動画を見たという地元商店の店主。

あの映像が町の人たちに届いている――それを初めて実感した瞬間だった。


「わ、わたしたちでよかとですか?」


「よかよ。あんたたちみたいにまっすぐな子らがおるって、うれしか」


みのりは電話を切ったあと、思わず空を見上げた。

汗ばむ夕暮れのグラウンドには、まだ3人がボールを蹴り合っている。

「……うちらが、“町の顔”になるんやね」



次の日、放課後の部室。

みのりが報告を終えると、岡部さやが勢いよく立ち上がる。


「じゃあ衣装はうちがまとめるけん。古布も再利用して、ちゃんとステージ映えするようにせなね!」


「演出は……うちが考える。照明とか、動きとか……できるだけ工夫したい」

珍しくしずくが前のめりに発言し、ななみがぽかんと口を開ける。

「……しずく、こんなに喋ると初めて見たかも」


「ん、別に。責任、あるから」

その小さな決意に、4人の間に笑いが生まれた。


ボールが転がる。絣が揺れる。

グラウンドには少しずつ、笑顔が戻り始めていた。



だが、風は必ずしも優しくはない。


「目立ちたかだけちゃうと?」

「なんであれが“サッカー”なん?」

校内では、冷ややかな視線も飛び交った。


特に、サッカー部を辞めた元エースが放った言葉は、みのりの胸に刺さった。


「勝てんけん逃げたっちゃろ? 公式戦で結果出してこそサッカー部やろうもん」


その夜、みのりは自室でひとり、ツヤからもらった布の端切れを指で撫でていた。

あの試合。最後の大会で負けた日。

「もう一度、ボールで何かを伝えたい」そう思った気持ちは、偽りじゃない。


祖母の言葉が脳裏によみがえる。


——布は風と同じ。誰かが吹かせな止まらんとよ。


みのりは立ち上がった。


「うちは、蹴る。絣と一緒に、風を起こすっちゃけん」



次の日の放課後。部室に集まった3人に、みのりはまっすぐ目を向けて言った。


「うちらのやっとることは、サッカーやと思う。想いば、ボールに乗せて伝えようとしてるけん」


「うち、あの動画見て、初めて泣いたんよ」

ななみがポツリと漏らす。

「妹に、見せたかって思った。きっと笑ったと思うけん」


「……本気でやるなら、うちも本気出すよ」

しずくが言い、さやもにっこりと笑った。


「美容師目指す前に、うちらの作品、世界に見せつけたるけん!」


4人の心が、同じ風を感じていた。



夏祭り当日。


絣の衣装に身を包んだ4人が、商店街の路地裏で息を整えている。

ステージでは司会者がオープニングを告げ、観客のざわめきが高まる。


「いくよ」

みのりがボールを持ち上げ、空を見上げる。

陽射しの中、久留米絣が風に揺れた。


「始めようか、“うちらのサッカー”を」


——蹴ることは、伝えること。

小さな布とボールで、町に希望の風を吹かせるために。


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