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織るように蹴る  作者: やしゅまる


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10/10

第10話「笑顔が、風になる」

春を待つ風が、田主丸の町を駆け抜けていた。


「復興祈願フェスタ」当日。

広場には久留米絣ののぼり旗が並び、子どもたちの描いた応援幕が風にはためいている。

あの日の豪雨で静まり返ったこの場所に、久しぶりの賑わいが戻っていた。


「風、強かね……ステージの布、飛ばされんごとせんと」

「さや、ヘアピンいる?」

「いる!今崩れたら、美容師としての未来に関わるけんね!」


楽屋の控えスペースでは、みのりたちサッカー部の4人が、冗談を交わしながら衣装の最終チェックをしていた。


全員、久留米絣のオリジナル衣装。

みのりの祖母・ツヤが“最後の仕上げ”として織り上げた、特別な一着だった。


「よか?うちらが蹴ると、あの布も一緒に舞うっちゃけん。町ん空気ごと、笑顔に変えてみせる」


みのりの言葉に、全員が頷いた。


——強い風も、雨の名残も、もう怖くない。



パフォーマンスが始まると、町の空気が一変した。


みのりが蹴り上げたボールが宙を舞い、絣の袖が風と踊る。

ななみが軽やかにリフトし、スカートの裾がひらりと空をなぞる。

しずくがタイミングを見計らい、正確な足技で演技を繋ぐ。

さやが華麗なスピンを決め、ステージの中央で鮮やかに決めポーズ——。


観客から拍手が巻き起こる。

避難していた高齢者、子どもたち、離れていた元住民も、誰もがその瞬間に目を奪われていた。


「……絣が、こんな風に生きるなんて」

客席のツヤがぽつりと呟いた。


その横で、かつてツヤに学んでいた若い職人が、涙をこらえきれずに言う。


「戻りたくなりました。機ん前に——もう一回」



演技の最後、みのりがボールを高く蹴り上げ、空を指差す。


「うちらの蹴りは、布と町ば繋ぐけん!」


ボールがステージに戻ると同時に、風が大きく吹いた。


絣の旗が一斉になびき、青空が広がる。

そこにいた誰もが、心の中で拍手していた。


「また、明日が楽しみって思えた——初めてかもしれん」

誰かの小さなつぶやきが、周囲に広がっていく。


そして、最前列の少年が叫ぶ。


「お姉ちゃんたち、またやってよー!」



その夜。ツヤの工房には、新しい糸が準備されていた。


「これからも……うちの布は、あの子たちが運んでくれる」


ツヤが微笑み、機に糸を通すと、その隣にみのりが座った。


「今度は、うちが織ってみたか」


「よかよ。織るっちゃ、心ば通すことやけん」


夜風がふたりの頬をなでる。


その手の中には、未来へ続く一本の絣があった。



——町を蹴る。

——笑顔を織る。

——風になる。


うちらは、織るように蹴る。


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