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08.リズの過去

「あなたたちが、ずっとリズのことを出来損ないというけど、そんなことはないわ。いつだって周りを気にしてくれて気遣える。不必要に人を痛めつけることを嫌う優しい人よ。そんな人を出来損ないとは言わない」


「ナギア…」


リズはナギアを見つめる。

まっすぐ敵を見つめるナギアの眼差しをみて、本当にナギアの話した言葉が、心から自分を信頼してくれていることを証明してくれた。



「ありがとう…」



リズが静かにつぶやくとそれをかき消すようにシズが怒鳴る。


「はぁぁぁぁああああ!?笑わせないでよね。いい?暗殺一族で人を殺せないなんて出来損ない以外何て呼べばいいの?そんなのただの甘ちゃんよ!あ・ま・ちゃ・ん」


それに続くようにマーズも言葉を並べる。


「私たちの家は依頼者の願いを叶えること。それを果たせない人を出来損ないと呼んで何が悪いのですか?」



その言葉にリズは苦しそうな表情を浮かべる。

しかし、ナギアは二人に問う。



「どうして彼女を果たさなかったのか?その理由は知っていますか?」


「そんなのどうでもいい。できるかできないかの結果がすべて。どんな理由があろうとも果たさないならそれは出来損ないの証拠よ」


シズは怒り任せに攻撃してくる。

それを3人は交わす。

ナギアも抗戦する。


「何もリズの思いも言葉も何も聞こうとしないで、上辺のことだけで判断してバッカじゃないのって言ってんのよ」


ナギアとシズの交戦が続く。



「ナギア危ない!!!!」



「えっ…クハッ」



アーティの言葉にナギアは反応するが、気づくのが遅くマーズからの攻撃を受ける。



「ナギア!!」



リズも心配して声をかける。


「へへッ油断しちゃった」


笑って答えるナギア。


「2対1なんて卑怯よ」


リズは2人に対して叫ぶ。

しかし、それに対してマーズは不思議そうに答える。


「卑怯?やるかやられるかの戦いに卑怯なんて存在しないわ。それにそっちはそこの青年だっているもの2対2よ」


「そこで自分も戦うって言わないところの方が卑怯者じゃん」



「くっ」



リズは悔しそうな表情を浮かべて目を閉じた。



________回想



ダンセーズ家では、物心つく頃から武器に触れ、学習も暗殺するために必要な知識と体術、戦闘方法などを身につける。しかし、ダンセーズは幼い時から暗殺をするため、初めは違和感なく仕事をこなしていた。その頃は、姉妹とも家族とも仲良くしていた。


しかし、10歳のころ。

暗殺の命令がきて、仕事をこなそうとしたが、そのターゲットがまさかの当時マーズが思いを寄せていた一族の暗殺だった。マーズには決して何も告げないようにと両親に頼まれ、夜に仕事に出かけた。


(仕事だ…どんなに事情があっても仕事に感情はいらない)


そう自分に言い聞かせて侵入する。しかし____。


「やっぱり、君たちはダンセーズ一家なんだね」


彼はすべてを察し諦めていた。


「マーズもきっと僕を殺すために近づいたってことから」


乾いた笑いを話す彼。その様子をみてリズは勝手に口を動かす。


「マーズはこの件を知らない」


「え?」


「家でもあなたのこと結構話していたから多分好きなんだと思う」


「そうか」


普段の私ならそんな余計な事話さないのに、この時はどうしても話してしまった。

そんな自分に私自身が驚いていたが、それとは裏腹に彼は嬉しそうにしていた。


「ねぇ…」


「ん?」


「あなたお姉ちゃんのこと好き?暗殺一族だとしても」


純粋な疑問だった。

すると彼は穏やかな表情で答える。


「あぁ、もちろん。愛しているよ」


その表情はマーズが彼のことを話すときと同じ表情だった。

その様子をみてリズの中に疑問の芽が芽生える。


リズたちは依頼書を直接見ないためどういう意図で依頼をしているかは知らなかった。

しかし、家を見ても特によくある貴族の家柄で、贅沢をしているわけでもなさそう。


このまま殺していいのか。


たとえ依頼とはいえなぜ殺さなくてはいけないのだろうか。



「殺されるのにどうしてそんなに穏やかなの?」


すると、彼は悲しげに笑う。


「大体、予想していたからかな。この家に恨みを持つ人がいつか刺客を向けるだろうって」


「防ごうと思わなかったの?」


「やったよ。いろいろと関係修復できるならと、父も母も色々としたけど。ダメだったね…」


またこの人は諦めたように笑う。

私は初めてどうしていいかわからなくて困っていた。


「……ごめんな、リズちゃん」


彼は静かに目を閉じた。

それは、逃げるでもなく、抗うでもなく、ただ“全てを受け入れた者”の顔だった。


けれど、リズの足は動かなかった。

片手には毒針が握られていたのに、指一本動かせなかった。


(この人は……敵じゃない)


(この人は、誰も傷つけていない)


リズの中で、これまでの“正しさ”が音を立てて崩れていく。


“依頼は絶対”


“感情を交えるな”


“ダンセーズの名に泥を塗るな”


すべて、幼いころから刷り込まれた“呪い”だったのだ。けれど今、この“敵”の前で、リズの中に芽生えたのは「理屈ではない、選びたい気持ち」だった。


彼を殺せば、マーズはどうなる?


その後、自分の心はどうなる?


彼の穏やかな声が、最後にリズへ囁いた。


「……リズちゃん。君が、君自身で選んだ道を行けますように」


刹那──


リズは毒針を投げ捨て、部屋の窓を開けた。


「逃げて。……今ならまだ間に合う」


男は一瞬驚いたが、すぐに理解したように微笑んだ。


「……ありがとう」


そのまま、静かに部屋を出ていく背を見送りながら、リズは初めて“仕事”を放棄した。


────


数時間後、リズは屋敷に戻った。


「ただいま戻りました」


「ずいぶん早かったな」


父が一歩前に出る。

リズは言いにくそう答える。


「殺してません」


「_____何?」


「お父様…彼は悪人じゃありませんでした。だから依頼書を確認したッグ」



ドンッドンッ



「うっ」


リズが話している途中に父親はリズを蹴り飛ばした。

壁に背中を強く打ち付けられるリズ。


「依頼の意図など、そんなのはどうだっていい」


「でも──」



「任務を果たせない出来損ないなど、この家にはいらない。リズ。お前にはもう“家族”を名乗る資格はない」


父の言葉が、無慈悲に響いた。


「──追放だ」


静かに告げられた言葉。

それが、リズの“家”を終わらせた。


──


その晩、行き場をなくしたリズは、薄汚れた通りの路地裏で、一人うずくまっていた。

夜の冷たい風が肌を刺し、胸の奥はずっと空っぽのままだった。


(私は……何を選んだんだろう)


自分の選択が正しかったのか、間違っていたのかもわからない。


そのとき──


聞き慣れない男の声に警戒する間もなく、私は縄で縛られたまま引きずられ、連れ去られそうになっていた。

言葉にしがたい恐怖が喉に張り付き、声も出ない。助けなんて、来るはずがない。

けれど──


「おりゃああああああああ!」


怒声とともに、鉄パイプが唸りを上げる。

見上げた視界の端、スラムの通路を走ってきた影が、大人の男たちを次々になぎ倒していく。


少女だった。

乱れた長い髪、痩せた身体。

でもその目だけは、どんな兵士よりも強くて、真っ直ぐだった。


「……な、なんだてめぇは……っ!」


男たちはわめいたが、あっという間に全員、地面に沈んだ。


縄を引く力が抜けて、私は尻もちをついた。怖さと、現実味のなさに呆然としていると、少女──ナギアは私に気づき、にこりと笑って近寄ってきた。


「大丈夫? 今、縄ほどくからね……。あ、そうだ、君、名前は? あんまりここらで見ない顔だね!」


その声はやけに明るくて、さっきまでの怒号が嘘みたいに思えた。

私は唇を噛んだまま、目を逸らす。


「……別に、名乗るほどの名前じゃない」


「そっか。じゃあ、名乗らなくてもいいけど……。もし家ないなら、うち来る?」


ナギアは、軽く手を差し出した。

あまりにも自然に、何の見返りもなく。


私はその手をじっと見つめ、しばらく黙っていた。

そして、口を開く。


「……私が悪者だったらどうするの? 私が、あなたを殺すかもしれないよ?」


脅すような声だった。でも、ナギアはびくともしなかった。

むしろ目をまんまるにして、無邪気に笑った。


「悪い人が、自分から『これから悪いことします』って言うわけないじゃん!」


……なんだ、それ。

ばかみたいにまっすぐで、どこか抜けてる。


なのに──ほんの少し、心があたたかくなる。


「……リズよ。」


つい、口が勝手に名乗っていた。


「ふふっ、リズかあ。よろしく、リズ! 私はナギア!」


そう言って笑うナギアの手を、私はそっと取った。

それが、この物語の始まりだった。


いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。

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