06.観測者(オルクス)の目覚め
「ナギアッ!!」
ナギアの視界が揺らぎ、その場に倒れる。
アーティはナギアの名前を叫ぶことしかできなかった。
なぜ、俺は何もできない。
ただここで立っていることしかできないなんて。
もっと、ナギアを支えたい。
力になりたい。
誰かの“気配”が、鋭く空間を貫く。
マルヴァスの動きがピタリと止まる。
「……なに?」
ナギアの視界に、静かに立ち上がるアーティの姿が映る。
その瞳は、金に染まっていた。
その瞬間──世界が止まったように静かになった。
アーティの目が光を帯びる。
周囲の熱、音、気配、視界。すべての情報がひとつに収束する。
【加護《観測者に目覚めました。》
煙と思っていたのはただの水蒸気。
水蒸気はもともと水だから_____
「見えた」
静かに呟くアーティの瞳に、マルヴァスの動きがスローモーションのように映る。
「ナギア、3秒後右斜め下から来る。そこに回避して、煙を逃がさなないように正方形のバリアを張って冷やしたら奴は実体化するはずだ」
「了解ッ!!」
ナギアはアーティの声に従い、攻撃をさける。
「最終審判領域」
ナギアの言葉に透明な板が現れて、敵を囲う。
「氷結審域」
すると、透明な板から白い煙がモクモクと出始まる。
「なんだ…これは!!?…冷たっ!!」
しばらくすると水蒸気化していたマルヴァスは冷えて姿を現す。
「今だ、ナギア。今ならマルヴァスに物理攻撃が入るはず」
アーティの声に静かにうなづくナギア。
──そして、ナギアの中で力が再び呼び起こされる。
《裁断者:ヴェリタス》──
ナギアの剣が宙に浮かび、黄金の天秤が現れる。
「マルヴァス。お前の罪は“他者の命を奪い続けた”こと。」
片側の皿には、犠牲者の声なき声。もう片側には、マルヴァスの殺意。
天秤が大きく傾いた。
「──断罪」
ナギアの剣が黒く輝き、マルヴァスの影を断ち切った。呻き声も残さず、彼はその場に崩れ落ちる。
──静寂が戻る。
ナギアは剣を地面に突き立て、肩で息をする。
「アーティ…助かった」
「当たり前でしょ。俺はナギアのサポート役だからね」
アーティが照れ隠しに目を逸らす。
リズが戻ってきて、軽くナギアの頭を叩いた。
「言動にはきをつけなさいバカ」
「……うん、ごめん」
微笑む3人。その背に、街の明かりが差し始める。
こうして、彼らの名はさらに広まることとなる__。