17.無差別奇襲!街を駆け抜けるナギア
プラダ地区の夜は、いつも以上にざわめいていた。
通りを歩くナギアの耳に、悲鳴と怒号が重なって届く。
「助けてくれ!」
「やめて、子どもだけは___!」
「おかぁぁぁさぁぁっ」
老若男女問わず行われる残酷な行為に、
たくさんの悲しみと恐怖と共に
赤く道を染めていく。
その中を1人の男が駆け寄ってきた。
顔は血と煤で汚れ、息を切らしている。
「姐さん……! 大変です!」
「ロアか。、何があった?」
「ガルダンです……奴が、プラダ地区の…人を…無差別に殺し始めました!」
その言葉にナギアの目が鋭く光る。
プラダ地区___自分たちが生まれ育った場所。
今は彼女を慕う仲間たちが暮らしているはずの街角だ。
(姉御!)
(姐さん!)
仲間達の笑顔がナギアの脳裏に浮かぶ。
「……許せない」
吐き捨てるように言うナギア。
すると反対側からアーティの使いの者が息を切らしながら駆け寄り口を開いた。
「ナギア様!アーティ様より…伝言です!ブラボラの部下は…北側だけではなく…南側…歓楽街の方にルッズが姿を現しました。アーティ様を探している…そうで…歓楽街の全て市民と共に…アーティ様は地下のシェルターに避難済みとのこと」
「さすが…アーティだ。報告ご苦労様。君も早く避難するんだ」
アーティの対応に関心しつつ、アーティの部下へ労り指示を出すと、部下は嬉しさと敬意を示し、敬礼をして去る。
リズは即座に立ち上がる。
「なら私が南側に行く。あいつの洗脳魔法は厄介だから、私が止めなきゃ」
影が揺れる。
リズの体が溶けるように黒に沈み、
一瞬で姿を消した。
「……行ったか」
ナギアは小さく息を吐き、剣の柄に手を添える。
「姐さん、どうします?」
ロアの問いに、ナギアは迷いなく答える。
「私は北だ。ガルダンを止める。あそこを壊されるわけにはいかない」
彼女が走り始める。
するとロアも続き、街の部下達はナギアが走る背を見るその背を追いかけるように走り出す。
誰も言葉は発さない。
ただ一人のボスを守り、一緒に戦うために。
血の匂いと怒号が満ちる夜の街を、ナギアは迷いなく駆け抜けた。
その瞳には、裁きの光だけが宿っていた。