16.戦い前夜
プラダ地区の本通りの広場に人が集まりはじめていた。
「また白銅商会がやらかしたらしいぞ!」
「税金が消えてる! 俺らの金をどこにやった!」
人々は怒鳴り、石を投げつける。数日前にアーティが流した帳簿の写しと証拠が、街の隅々にまで広まっていた。
―白銅商会、資金の横流し。違法取引。人身売買。
日を追うごとに、噂は怒りに変わり、怒りは暴動になりかけていた。
***
白銅商会の本部。
豪奢な執務室で、幹部たちが青ざめていた。
「なぜだ!? こんな帳簿、どうやって……」
「証拠を掴まれたら、俺たちは……!」
部屋の中心にいた会頭が震える手で通信の水晶を掴む。
「……ブラボラ様に繋げ!」
***
ブラボラの私室。
豪奢なカーペットの上で、太った男が杯を叩き割った。
「クソどもが……! 誰だ、こんな情報を流したのは!」
部下が恐る恐る答える。
「……調べたところ、歓楽街を繁栄させた“オルクス・カンパニー”からの告発です。代表は―たしかアーティという男です」
その名を聞いた瞬間、ブラボラの目が細く光った。
「……アーティ? その名は覚えがあるぞ」
背後の椅子に座っていた参謀ルッズが口を開く。
「数年前、スラムで騒ぎを起こした悪ガキ三人組。その一人に確か……」
ブラボラは顔を歪ませる。
「まさか……生き残っていやがったのか! ふざけやがって!」
机を叩きつけ、怒声をあげる。
「ルッズ! ガルダン! お前らに命じる。あの小僧どもを消せ! 特にアーティとかいうガキは徹底的にな! 証拠も燃やし尽くせ!」
「御意」
「任せろ」
参謀ルッズが不気味に笑い、ガルダンが拳を鳴らした。
静かな火種は、ついに戦火へと変わろうとしていた。
***
ナギアたち3人は、灰都の森の秘密基地に集まっていた。
「思いの外、市民たちが暴徒化したおかげで、ブラボラに情報が回ったわ。それで私たちをやるように命令が下ったわ」
リズは食べていた手を止めて話す。
ナギアは頷き、アーティは口を開く。
「そりゃそうさ。ただでさえみんな生活が苦しいなか、生きてるのに自分たちのお金が変なことに使われてるなんて納得いかない。それに、子どもの失踪事件が多発してて、みんな商会に依頼して探してたのに…黒幕がまさかの頼りにしていたはずの白銅商会なんて腑が煮え返りそうなぐらい強い感情が出てもおかしくないさ」
ナギアは再度頷き、口を開く。
「さぁ、向こうも本気でくる。みんな、気を引き締めて行こう。プラダをブラボラの好きにはさせない」
その言葉にリズもアーティも立ち上がり頭を下げる。
「「ボスの御心のままに」」
秘密基地の洞窟に決意が静かに響いていた。
次から念願のバトル編。
上手く書けるかわかりませんが頑張って書いて行こうと思います。