14.目的を果たすために
夜の街は、昼間よりもさらに殺伐としていた。
明かりの乏しい路地の壁には、どこもかしこも手配書が貼られている。その顔の中心には____長い黒髪の女ナギアの姿があった。
「……狙いやすくしてくれて、助かる」
ナギアはフードを深くとり、貼られた自分の似顔絵を冷たい目で見やった。
わざと人目につく大通りを歩く。
酒場から出てきた粗暴な男たちが、ナギアの背を見てざわめいた。
「おい……あれ、賞金首じゃねえか?」
「間違いねぇ。大金が転がり込むぞ!」
一斉に襲いかかる気配を、ナギアは背で感じ取る。
ゆっくりと振り返り、その双眸に殺気を宿す。
「……来るなら来なよ」
ナギアが挑発するように男たちをみる。
「てめぇ、舐めやがって!」
「その根性たたきのめしてやる!」
男たちはナギアに殴りかかる。
「遅い」
冷たい声と共に、銀の弧が宙を走った。
血が舞う。
叫び声。
一人、また一人と倒れてゆく。
ナギアの動きは舞のように美しく、剣閃は影さえも切り裂く鋭さだった。
路地の石畳に血の線を描きながら、彼女はただ淡々と歩を進める。
「……本当に金のために命を捨てるなんて。愚かね。……この程度じゃ、私の首はとれないよ」
ナギアは剣を振り払うと、口元だけで冷たい笑みを浮かべる。
(だいぶ私もこの世界に慣れたなぁ)
倒れ伏す者たちを見下ろし、ため息をこぼすと_彼女はまた次の通りへと歩き出した。
その背は、狙う者すべてを挑発するかのように。
⸻3年後
プラダ中心街。
そこに生きる者たちの間で、一つの噂が定着していた。
「賞金首・ナギアには手を出すな」
かつては誰もが大金に目をくらませて襲いかかった。
しかし結果は常に同じ。
挑んだ者は返り討ちに遭い、時には命を落とした。
今では逆に、ナギアに刃を向ける者はいない。
賞金首でありながら、その姿を見れば人々は道を空ける。
それどころか―
「姐さん! 今日の路地は俺たちが押さえてます!」
「姐御、あんたに惚れた! ついていかせてくれ!」
気づけば、ナギアの後ろには数多の影が連なるようになっていた。
最初は腰抜けのチンピラや浮浪者。
だが彼女の強さと生き様に惚れ、命を預ける者が日に日に増えていったのだ。
みんなが狙っていた賞金首は、いつしか街の裏社会で「逆らえぬ存在」となっていた。
「……まったく。子分なんて、いらないんだけどね」
そう呟きながらも、ナギアの瞳はほんの少しだけ、優しく揺れていた。
「今日はちょっと1人で行きたいところがあるから、お前たちはついてこなくていい」
「わかりました!姉御!お気をつけて」
夜の帳が落ちるころ、ナギアは仲間たちを振り切り、灰都の歓楽街へと足を運んでいた。
向かう先は、一際賑わう街の中心__そこには、ここ数年で輝きを取り戻し歓楽街があった。
「……本当に、ここは同じ街?」
きらびやかな灯り。笑い声。
金の匂いに群がる人の波。
まるで自分のいた首都の殺伐とした空気とは別世界だった。
フードを被り街を歩く自分が浮いている。
そして、歓楽街を歩き、1番高いビルへと向かう。
目的地につき中に入る。
そこは現代に近い作りになっていた。
案内人の女性がいて、中に入るには社員証っぽいのが必要で、荷物検査もできる一体型のゲートがある。
案内人の女の人に声をかける。
「アー…社長はいるのか??」
すると、案内人の女は顔つきが鋭くなる。
「アポイントをとっていますか?」
(ここも現代風なのか…なんか色々と設定がめちゃくちゃだな)
呑気に元世界との対比をするナギア。
「いや、とってない」
すると、女は小馬鹿にしたように笑いながら話す。
「よくいるんですよねぇ〜社長に近づく蝿が。社長がかっこいいのはわかりますけど…あなたみたいな女が社長に釣り合うわけないじゃない…」
(…こいつはなんの話をしてるんだ…?)
ナギアは一度思考が止まる。
「社長のあのお優しい雰囲気。それなのに逞しく、時々出るミステリアスな感じも最高!!_____そんな素敵な社長があなたみたいなボロボロの女を助けてはくれるかもしれないけど、女になれるなんて希望は…」
「おや、ナギアじゃないですか」
どこか飄々とした声。
人の群れを抜けて現れたのは、茶色の短髪の青年___アーティだった。
「こんなところで何してるんですか?」
アーティは立派なスーツを着て、高くなった身長から上からの目線…だけど不思議そうに尋ねる。
「ん?社長は入るかと声をかけたが…アポイントをとってなくて、ここでお前の女に相応しくないと言われて困っていたところだ…」
「あっちょっと」
今までのことを話す。
すると案内人の女は慌て出す。
「…一体どういうつもりだ…」
声も低くなり普通に聞いてるだけなんだろうが、普段の柔らかい雰囲気からガラッと変わるギャップは相手に恐怖心を与えるのには十分。
「俺は、君に写真を渡してるはずだ。この人たちがきたら通せと…?」
「…え…あ…はい…申し訳ありません!」
「仕事ができないなら辞めてもらって構わない」
「っ…申し訳ありません、社長」
必死な謝る女。
それを見て流石のナギアはフードを脱ぎ止めに入る。
「アーティ。私も写真の頃よりは成長してるし、顔も変わったから気づかなかっただけよ。それに私もフードを脱がなかったかはわかりづらかったのよ」
アーティは頬を赤く染める。
長い黒髪は白い肌を引き立たせ、大人の女性となったナギアは神秘的な美しさを纏っていた。
「…あ…そうだね…。コホン。今回はナギアに免じて見逃してやる。次はない」
「はい」
案内人の女は深々と頭を下げる。
「…ナギア、こっちだよ」
アーティは目を合わせず、ナギアを案内する。
気まずい沈黙が流れる。
社長室に入り、沈黙を破ったのはナギアだった。
「……アーティ、本当にやり手だね」
ナギアが呆れ半分に言うと、アーティは肩をすくめて笑った。
「俺はただ、観測して調整してるだけ。人が求めてるものを形にしただけですよ」
そう言って彼は、帳簿を軽く振ってみせる。
そこには莫大な収益が記されていた。
「娯楽、住む場所、仕事……全部揃えれば、人は自然と集まります。歓楽街内の流れてた金を、こっちに引っ張っただけです」
「……資金作りのために、ね」
ナギアは小さく笑った。
「はい。姐さんが街を暴れて注目を引く。その間に俺が資金を回収して基盤を作る。……完璧な役割分担でしょう?」
彼の瞳は冗談めかしていたが、その奥には冷静な計算と野心があった。
「……まったく。大した経営者だよ」
ナギアはため息をつきつつも、その背に頼もしさを覚えていた。
いつも読んでくださって、本当にありがとうございます。
互いが目的のためにきちんと役割を果たす。
さて、次回はリズがどうなってるか…
お楽しみに〜
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。