11.懸賞金
──灰都、ブラボラのアジト
重厚な屋敷の一室。
煌びやかな絨毯の上で、男はワイングラスを叩き割った。
「マルヴァスに続いて……“黒金の舞姫”まで、敗北だと?」
ブラボラの低い声が部屋に響き渡る。
部下たちは一斉に膝をつき、誰も息を呑むことすら許されない空気に凍りついた。
「……そこらのクソガキごときに……! 私が直々に任せた駒が、どうしてこうも簡単に消えていく……?!」
ブラボラの手が宙を薙ぐと、豪奢な燭台が床に叩きつけられ、火花が散った。
「探せ。奴らを。三人まとめて俺に逆らった大罪人として、捕らえろ!!」
震える部下が声を張り上げる。
「は、はいッ! 直ちに──」
「逃げる隙を与えるな……あの小娘どもに、この街の恐ろしさを思い知らせてやれ」
その声は、血のように濃く冷たかった。
⸻
数日後。
街に出たナギアたちは異様な空気に気づいた。
人々の視線が、どこか刺すように冷たい。
子どもたちですら、以前のように駆け寄ってくることはなかった。
壁や掲示板には新しい紙が貼られている。
──【指名手配】──
【ナギア、アーティ、リズ 生死問わず。捕縛した者には莫大な賞金を支払う】
その文面を見た瞬間、何者かが響く。
「おい!いたぞ!」
「俺があいつらを捕まえて金を手にするんだ」
「抜け駆けさんじゃねぇ」
男たちが3人を見つけて、捕まえよう襲いかかる。
「逃げよう」
ナギアの声を聞いて3人は逃げる。
しかし、逃げた先でも次々と老若男女問わず襲いかかる。
3人は華麗に交わしたり、別れて行動して合流してを繰り返す。そして、灰都から南に方に森があり3人は森に向かって逃げる。
アーティを先頭に森の奥へ進むと洞窟が出てきた。
どうやらそこは3人の秘密基地らしい。
流石に逃げて疲れた3人は洞窟の中で腰を下ろす。
息を整えながらアーティは顔を歪めた。
「……はぁ? 散々俺たちが助けてやったのに、これかよ。結局、金が絡めば人なんてこんなもんか」
リズも視線を逸らし、低く呟く。
「……くだらない。結局、この街も“金”でしか動かないのね」
怒りを滲ませる二人に、ナギアはゆっくりと首を振った。
「やめよう。あの人たちを責めないで」
「ナギア、でも!」
アーティが食い下がる。
「俺たちが命懸けで守ってきたんだぞ!? それを裏切って──」
「裏切りじゃないよ」
ナギアの声は不思議と揺るぎなかった。
「街の人たちはただ“生きたい”んだ。お金があれば家族を養えるし、病気を治せる。生活が楽になる……みんな生きるのに精一杯なんだ。それを責めるのは、違うと思う」
リズは目を伏せ、何も言えなかった。
アーティも歯を食いしばり、拳を握る。
ナギアは振り返り、二人に小さな笑みを見せた。
「それに私は正義の味方になるつもりはない。私達は私達が正しいと思うことをやるだけ。街の人たちと違う選択をしても……私達は自分たちの考えを曲げる必要はない」
ナギアの瞳はまっすぐだった。
その言葉に2人は納得した。
「ナギア…かっこいい!自分が危ない身になってるのに自分の意思を変えないで前に進む姿。俺も見習わなくちゃ」
「私も…感情的だった。ついつい視野が狭くなってしまった…」
その言葉にナギアは首を縦に振る。
「そういう時もあるさ。でも、だからと言って、のこのこと捕まってやる理由は、こちらにはない。ただそれだけさ」
賞金首となった今、この街全体が敵になる可能性さえある。だが、それでも彼女の決意は揺るがなかった。