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告白ができないから、河原の幼女の話を聞いてあげた話

作者: 英賀要

 僕には好きな人がいる。

 同じ高校で、隣の席の女の子だ。

 だけど、どうしても告白ができない。

 中学校の頃に好きだった女の子に告白した時にことごとく振られた思い出があって、どうしても怖く感じてしまうからだ。

 

 これまでに何度かデートに誘って来たけど後ちょっとのところで好きだと言えなかった。

 そして今日も同じように繰り返した。

 

 そんな帰り道、河川敷の岩で護岸工事された河原を歩いていた。

 もう夕方で、空は紫がかっていた。

 そんな空を、一瞥して前を向く、そこには頬が少し上気して、赤くなっている幼女がいた。ああ、そうだ。幼女である。

 

 親はいないのだろうか。こんなところで何をしているのだろう。危ないことこの上ない。

 川に落ちるかもしれないのを気にもしないで岩の上をジャンプして乗り移っていた。

 なんとなくボーッと見ていると幼女もこちらに気づき少し首をかしげる。


「なんでこっちを見てるのぉ?」


 さらに首を深くかしげる。


「あ、いや一人でこんなところにいちゃあ危ないよ」

「お兄ちゃんもここにいるじゃん」


 ああ、確かに。これじゃあまったくもって説得力がない。

 そうだねと言いながら岩から降りてみせる。


「お兄ちゃんも降りたから、君も降りてみようか」


「うーん」と言いながら幼女も降りた。


「どうして、君はここにいるの?」

「川が好きだから」


 好き。僕がそれによって思い浮かべるものは三つある。

 一つは扇風機で、一つは本で、一つは好きな女の子の名前と顔だった。


「そっか川が好きなのか」

「うん」


 どこか、僕と話すのが飽きたようにそっぽを向いた。

 かと思えば何かを思い出したように、こちらを向いて話しかけてくる。


「ねえねえ、お兄ちゃんって好きな人いる?」


 ドキッとした。

 まるで僕の悩みを当てられたみたいだったからだ。


「どうして?」

「わたしね、好きな男の子がいるの」


 へえ。それは健全な話だ。幼女の初恋の話か。


「でも、好きだっていえなくてどうしたらいい?」


 僕と同じだった。

 好きだけど、勇気が出ない。

 相手がどう思っているかわからない。


「うん、言えなくてっていうのは、僕もわかるよ。でも、その解決策は好きだって言うことしかないんだ」

「……」

「その問題は他の誰かが何を言ったところで結局は言っただけなんだよ。ロバを水飲み場に連れて行くことはできても、飲ませることはできないんだよ。だから、それの解決策は、好きだって伝えることだ」


 その子に言っていたその言葉が、どうしようもなく、僕の胸に突き刺さる。

 そして、自嘲しながら僕は続ける。


「だから、君はその子のところにいつでもいいから行って、言うんだ。あなたが好きだって」

「でも、その男の子はわたしのこと好きじゃなかったら……もし嫌われてたら……」

「そのときは泣けばいいし、もし嫌われてたら、嫌い返してやればいいんだよ」

「うん。わかった。じゃあ、結果教えてあげるからまた会おうね。バイバイ」

「うん。バイバイ」


 そういって、走って自分の家だろうか僕が向かう方向と逆の方向に走っていった。

 少しそのあと川辺でボーッと座っていた。

 

「僕も帰るか」


 そういって、意思表示をしてから夜の暗闇を掻き分けて行った。

 今度は、明沖茉莉(あけおきまつり)と今日の川である花火大会に行く約束がある。

 甚平を着て行くつもりだ。

 浴衣よりも楽でいいからだ。

 その日が近づいてくるたび、緊張して嫌になった。



 ――花火大会当日。



 僕は待ち合わせ場所で、周りをキョロキョロしながら待っていた。


「とう!」


 と言って、誰かが僕の頭を軽くチョップしてきた。

 当然、明沖さんだった。

 今日も元気がいい。

 浴衣姿だった。

 地が藍色でその上に萩の花の柄のものだった。

 髪を上げているのが新鮮で綺麗だった。


「じゃあ、どうする?」

「ああ、夜店を回ろうか。何か食べたいものある?」

「かき氷食べたい」

「そうか、かき氷か。えーとどこにあるだろう」


「こっちにあるよ」と指を指して笑顔でこちらを向いている。

 中学の時のあの子と夏祭りに来た時も確かかき氷を食べて、告白したなあ。

 いやいや、好きな子と一緒にいる時に他の人のこと考えるなんてなんて最低だよ。


「うん。じゃあ行こうか」


 と、二人それぞれ好きな味を選んで買い終え近くのベンチに座って食べる。

 僕がメロン味で、明沖さんがブルーハワイだ。


「ねえ、一口交換しよ?」

「え?」


 一口交換。それは、つまり……。


「い、いや僕は、いいよ」

「ええー?」


 

 ふたりで、談笑してると人も段々と増え始め花火が打ち上がる時間も近づいてきた。

 川で出会ったあの子とあの子に言ったことを思い出す。

 僕も頑張らないといけないな。あの子が頑張っているのに、その背中を押してあげた人間がこんなじゃあ、申し訳がたたない。

 僕も今日告白しよう。

 そう決意した瞬間、花火が上がり始めた。

 パン、パン、パン。最初はまばらに上がり始めた花火だったが、どんどん上がる量が増え始めた。

 ドンドンドンドンドンドンドンドンドン。連続して空気を振動させ僕の耳と体に響く。

 その音に合わせて僕の心臓が鼓動する。

 1分間に何回鼓動しているだろう? 少なくとも、平均よりは上だろう。

 その鼓動の原因の隣の君は花火に見入ってしまっていた。

 花火も終盤に入ったようで、色々な花火が打ち上がる。

 僕は弾けるようにパチパチと鳴る花火が好きだった。

 まるで、僕の中学の苦い記憶をシャボン玉のように弾けて、潰してくれるような気がしたからだ。

 不安はいつのまにか消えていた。

 あの少女のためだけじゃなく、僕のためにも告白しよう。

 手汗を甚平でゴシゴシと拭き、深呼吸をする。


「好きです。付き合ってくれませんか?」


 彼女はゆっくりとこっちを向き、少しの間ポカンとしていた。その様子がどうにも不安を再発させそうだったが堪えた。

 彼女は、顔を少し赤く染めて僕の目を少し見て、すぐに逸らす。

 その顔の赤は、花火の反射なのだろうか? いや、そうじゃないのはわかっているはずだ。

 そして、彼女は口を開いて言った。


「あ、えと、ありがとう。まさか……。嬉しい。うん、こちらこそよろしくお願いします」


 それを聞いた途端に、これまで悩んでいたことが本当にどうでも良くなってきた。どうしてこれまではあんなことで悩んでいたんだろう。成功すると悩みというのはちっぽけに見えた。でも、バタフライ効果みたいに、あんなちっぽけでどうでもいいことで悩んでいた僕が居なかったらこの結果は変わっていたかもしれない。あんな僕でも必要だったかもしれないと考えると、悪いものでもないかもしれなかった。



 そして、花火が終わった後は手を繋いで帰った。その時、あの河原のすぐ横を通りかかった。

 あの河原の少女のことを思う。あの子はうまくいっただろうか? それとも失敗して泣いているのだろうか。これから毎日、あの河原を散歩してみよう。

 どちらにせよこれから悩んで、悩んで大人になっても昔のちっぽけな自分を寛容に受け入れてあげて欲しいとぼくは思った。

読んでいただきありがとうございました。

数年前に書いたものがあったので、投稿してみました。

もし気に入ってくれたなら嬉しいです。

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