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『命』ばっかり

これが10回目の人生。


「…」

はっと目を覚ますと、目の前に広がるのは幾度も見た自室の風景。

そして悟る。

また、私は私として生きるのかと。


なんの因果か分からないが私は

リリア キシュアードという、伯爵家の長女として9回の人生を送った。

何度も何度も繰り返されるこの悪夢に嫌気はとっくのとうに差しており、……人生が繰り返される度に記憶が消えるなら嫌気などは差さない。


…ご想像の通り、9回ともに記憶を保持したままで同じ人生を繰り返している。


もちろん1回目より良い人生を、2回目より良い人生を……そう努力したところで私は私で、さほどどの人生も変わらないものだった。


そのたび嫌気がさして、責任転嫁して、自己嫌悪して、鬱になって。

最後の手段をとろうとした時だけは生にしがみついて。

そうして同じ事を繰り返すことを馬鹿にしても私は私だったから馬鹿にしたって何も変わらない。


そんな自分を受け入れられず、何度も涙を流した。


涙の数だけ強くなれる。あなたはあなたのままでいいんだよ。

あなたがあなたを愛してあげなきゃ。

しんだじゃだめだよ。命を大切にして。


涙の数だけ強くなれるなら、私の人生はもっと良くなっていくものじゃないの?私のままでいいなら1回目の生だって納得のいくものになるはずでしょう?

私が私を愛することが当たり前だと思える環境であるあなたが特別だということを知ってほしい。

死んではダメ?いつかは死ぬんだからいつ死んでも同じでしょう?

命を大切に?

私が私じゃなくて、私の一部である命を第一に生きていかなきゃいけないの?それが例え私でなくても、私はそれを大事にしなきゃいけないの?


それだったら私が私である必要はあるのだろうか。

誰でも良いじゃないか


…そうね、私である必要はない。

私の代わりはいくらでもいて、私みたいな不良品を大切にするより自分も相手も大切にできる人であればいいものね。私の上位互換はたくさんいる。私は最低ラインでさえ満たさない粗悪品。

命にしがみつくごみ。


必要のないごみに存在する価値はない。

だから私が私である必要はない。


世界の総意がそうだから命を大切にしろという、

感情を無視する一般論が存在する。


私が他人の中に存在意義を見いだすからダメなんだ。

自分の中の割合を他人に割くには大きなダムじゃないといけない。

それが大きくない場合なら、誰だって貯める水も選別する。

そのダムに汚い水が流れてきたら誰だってそれを除こうとする。

もしくはろ過の過程でふるいに出される。


弾かれるたび、ろ過される度に

心をすり減らし、感情がどこかにいかないように大事に抱えて。

誰もがいらないというそれを大事そうに抱える私は滑稽。

それが自分から流れ込んだということならいっそう。


いつしか

感情は死に、腐敗物は人生とは切り離して、自分の世界の中で生きていこうと思った。

でも感情はいくらでも甦り、水の中に落ちたスポンジのようにいくら絞ったってすぐさま感情を含んで。

絞ったそのそばから感情を身に纏う。

手に染み付いた感情を洗い流し、スポンジを絞り。

その度に天使(心配する振りの人)に命の大切さを説かれる。


あなたは神でもなければ私の創造主でもないでしょう?

なぜいのちが大切だとそういえるの。

命の原材料と、原価は?知らないでしょうよ。


私の心は全て無視してどうしてそんなことをいうの。

本当に私の心配をしてる?

してないでしょう?あなたがしてるのは世間一般的に広まっている命についての価値観とあなた自身の価値観、感想を前提としたあなたが私にしてほしいことをおしつける、こと。そうでしかないの。


それを心配してる…なんて便利な言葉や表情でごまかさないで。


誰も私のことなんて。

私の居場所なんてどこにもない。

私が大事にしているのは、人間は等しくみんないつか死ぬということだけなの。命の大切さなんて説かれたって結局は、物事の表裏、という事実だけでしょう、大切さを説かれたって私の一部なだけなのに私を大切にできない理由になってしまうならそんなものいらない。


…あぁ、どうして命ばっかり。


「お嬢様、失礼いたします。」

「…えぇ。」

「……朝の支度に参りました、」

「えぇ。」


同じ悪夢がまた今日も始まった。

明日も明後日も来世も来来世も。


そうだ。

今回こそ。

今回こそやり遂げるんだ。


今回こそ。


自分を殺してやるんだ。







「これってなんか教材にしては重すぎない?」

「あー、わかる。命の大切さなんて説かれたってわかんねぇよ。死ぬ前に生きる意味とか大切さが分かるとかいうだろ?今こんな話されたって作者の気持ちを読み取りなさいとか、、俺らに鬱になれってことかよってならねぇ?」

「まじそれな?」

「あーだるい。」

「でもまぁ王立学院の入試で絶対でる問題らしいしやるしかないでしょ。」

「だなぁー…マジこれ実話とか嘘だろ。」

「いや嘘だと俺は思ってるけど。」

貴族の子息らしき男女がそうこぼした。

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