いじめられっこの日記
自殺の表記あります。お含みおきください。
5月11日(白)
今日もあいつにいじめられた。
俺が魔法を使えないから。
でも俺だって使えないことが悔しい。
でもどうしようもないんだ。だって親がノーマだから。
魔力がない親から生まれてしまったからには、ないのは当たり前だろ。
どうしてどうして俺ばかり。
なんでなんで。
5月12日(黄)
今日はトイレであいつらからリンチにあった。
そしてうそつき女貴族に嫌がらせをされた。
貴族だからって調子に乗って俺をいじめるやつは多いけど、こいつらは教師に嘘をついて俺の評価を下げ、そして女お得意の噂話を使ってその嘘を事実だと言ってばらまく。
教師どもも平民の俺が言うことは間違っていなくても信じることはない。
俺が何をした。俺はなにもしてないのに。
教師の中にも俺を侮り、差別し、何をしてもいいと思っている人間もいる。
俺がどうなろうとあいつらはなにも思わない、
貴族は人間じゃない、権力を傘に理不尽を振るう害獣だ
5月13日(緑)
今日は誰も俺に声をかけてこない。
ただ全員俺を見て笑う。
そう思っていたら、いつの間にか背中に張り紙をつけられていたようでそこには
【こいつの親は魔力のない差別するべき人間。そんな親から生まれたこいつは生きる資格のない人間。】
張り紙をくしゃくしゃにして屑箱に放り投げた。
俺のことだけならまだしも、両親もバカにして。
許せない。でも俺にはこれをつけた犯人を探すことも、こらしめることさえ叶わない。
俺はどうして無力なんだ。
…
…―
…
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そこにはとある少年の罵詈雑言がノート一杯にかかれていた。不遇な人生を送っていることが伝わってくる。
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6月9日(白)
今日は転校生が来た。
どうやらそいつは俺同様魔力がないらしい。
でも公爵家の次男らしく、いじめられることはないだろう。
俺の日常は変わらない。
ひどい現実は変わらず、地獄の日々は続く。
誰か助けてくれ。
なんて、そんないいやつこの世界にはいない。
俺も貴族だったら違ったんだろうな。
早くしにたい。
6月11日(緑)
今日はあの公爵家の次男に声をかけられた。
勉強を教えてくれないかといわれた。
というのも平民の俺が貴族の学院に通うには
家柄をカバーできるぐらいの学力がなければならない。
そう、だから俺はそこらの貴族より頭がいい自信がある。将来は官吏になる予定だ。
まぁそんな俺に声をかけるのはわかる。
だが、、それでも貴族と仲良しこよしをするのは気が進まない。
でもあいつは魔力がないだけでその人格者ぶりがクラスメイトからの人気を勝ち取り転校して3日目でクラスの中心人物だ。しかもいつもガキ大将顔をしているいじめっこどもも、あいつの前では大人しい。
あいつの前で変なことをすればあいつらが俺をいじめる理由をあげるようなものだから、
だから渋々あいつに勉強を教えることにした。
6月16日(白)
……ーーー
実は最近学校が楽しい。
なぜかというと転校してきた公爵家の次男、アリスのお陰だ。
公爵家の次男は影響力が大きいのかクラスの連中も教師どもも俺を日中堂々といじめることはなくなった。それにアリスとよく行動を共にすることが増えたということも理由の一つだと思う。
もちろん裏に呼び出されて殴られたり教科書が失くなっていたり、教師からのネチネチと地味な嫌がらせはあるがそれでも前より些細なことだと感じることができた。
…生きてて楽しいと思えたのは久しぶりで、
アリスに感謝はしてるし、これからも友達で入れたら嬉しい。
ただ少しだけ、少しだけ、
アリスが羨ましい。
俺にはなにもない。
けどアリスは権力を持っていて、性格もよくって顔も良ければ頭もそれなりにいい。
アリスは何でも持ってる。
俺にはなにもない。それが俺の劣等感を煽る。
でも、
俺の未来は明るくなるはずだ。
そんな希望がもてるようになった。
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彼はそうして地獄に垂れる一つの糸にしがみついてどうにか光へと足掻いていた。
光へと行けるはずだった。
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7月1日(緑)
…聞いてほしい。
今日あいつに言われた、
あいつは実は異世界から来た勇者だった。
それを聞いたとき思わず、は?と言いそうになってしまった。
心のうちに抑え込んですごいなと言えた俺は、
王都一の名役者になれるんじゃないかと笑えた。
今はもう、怒り……いや悔しさか。それしかない。
あいつは何でも持ってたんだ。
なんでだ。なんで。俺にはなにもないのに。
あいつにはたくさんの人間から祝福される未来が、
たくさんの人間から支えて貰える未来が約束されている。
俺は勇者の斜め後ろにいるモブにさえなれない。
俺だって、俺だって…。
俺だってすごい才能があればあいつみたいになれるのに
世界は理不尽で溢れている。
はやく死にたい。
7月16日(水)
あいつが転校することが決まった。
クラス中から惜しまれる声は上がった。
俺も悲しい気がしたと同時に焦った。
あいつがいなくなったら俺はまたいじめられっことして地獄の日々を続けなくちゃいけないのか。
どうしよう。どうしよう。
【将来また王城で会おうな】
ってあいつは言った。
少しだけ罪悪感が募った。
俺はあいつことをいじめからの防壁程度としか思っていなくて、でもあいつは俺に秘密を明かすくらい気を許してくれていて。
でも少し無神経なその言葉に怒りを抱いてしまうのは仕方ないだろう?
7月22日(緑)
あいつが学校を去って何日たった?
もう何年もたったような。そんなわけないがそれぐらい、気の遠くなるような日々を送っている。
いじめられては嘆き、うずくまりたくなる自分を叱咤し立ち上がっても何度もその意志を粉々にされては何度も治して。
もう元の形には戻らない。一度壊れたら同じ形には戻らない。それが繊細なものであればあるほど。
あいつがいなくなればいいと思った日もあった。
でもあいつがいた世界はまだ輝いて見えた。
家に帰っても親に心配させたくなくて嘘をついて笑顔を張り付けて気が抜けなくて。
こうして日記を書くときしか俺でいられない。
世界が終わればいいのに。
あいつらが死ねばいいのに。
俺という存在がそのままプチっとなくなればいいのに。
別に生きていたくて生きてる訳じゃない。
死にたくて生きてるだけの俺に生きてる意味なんてあるのか。
神様、教えてくれよ。
ないだろ?
なんで俺を生んだ?
どうして生きてるんだ。なんで。
どうして。教えてくれ誰か。
こんな苦しい思いをする為だけに生きてるのか。
それなら殺してくれ。だれか。
それか、
助けてくれ。
(その後は字がくすんでよく見えない。)
8月1日(赤)
今日発表があった。
アリスら勇者一行が魔王討伐の旅に出掛けたらしい。
そうらしい。
俺の日常は変わらない。
変わらず酷い現実だ。
もうなにも感じなくなってきていて。
なんのために生きているかわからないまま今日も死にたくなくて無意味に息をしている。
愚かだ。
人間ってのは、自分に害をなすものすべてを失くさないと気が済まないし、だれかを下に見ていないと安心できない。
食物連鎖から外れた負の生物。
神様の失敗作。
魔王はそんな神が生んだ、人類救済の鍵なんじゃないか。増えすぎた人類を消してくれる救いではないのか。
こんな世界どうか壊してください。魔王様。
あなただけが救いです。
世界を救う勇者は害獣から遣われた救いのない人間で、魔王は神が遣わした人類救済主。
どうかこの世界を壊してください。
9月×日(×)
この日記もこれで最後でかもしれない。
勇者一行が魔王城に到着したらしいが同時にここ王都を魔物の大群が囲っている。
騎士団と壁がそれを阻止しているらしいがそれも時間の問題だ。赤い空は世界の終末を告げているようで、神罰を示しているような空で。
両親は逃げる準備をしているがどうにもならないのはわかっている。逃げ道はすべて魔物たちによって塞がれ、頼みの勇者はまだ魔王城についたばかり。
魔王城は王城の何倍とありたくさんの敵が待ち受けていると聞く。
それを攻略して王都に戻ってくるまで何日かかる。
それまでに男は無惨に殺され、女は強姦され、惨めに殺されていく。
魔物は魔族と違い本能で生きる生物だ。捕虜なんて取らない。蹂躙できるまで蹂躙しつくし、奪いつくし、その後にはなにも残らない。
俺ももう死ぬんだ。
いざその時になった今思うのは。
死にたくない。
バカだと思うか。
俺もバカだと思う。
人間て言うのはないものねだりはするし、ありがたいはずのものもありふれてしまえばありがたみを失いそれを自ら壊したりする。
バカだと笑えばいい。俺も笑えてしまう。
なんて愚かなんだと。
今はこうして誰かが助けてくれると願い、誰かからの救済を願っている。結局自分ではどうにもできないんだ。
いやする気がないというのは正しい。怠惰で他力本願をするばかりで変えようとしない。
だから普通ではないすごい人間を勇者と呼んだり、天才と言ったりする。
そうしてお前はできるからやるよな?と圧力をかける。才能があるんだから、勇者なんだから、と。
それを免罪符にする。
俺はその免罪符があればいいと願う反面こうして誰かに寄りかかることでしか生きることができない。誰かのせいにしないと生きていけない。
こんな人間はやく死ぬべきだってわかってる。
わかってる。でも死にたくない。
生きていたい。死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくーーーーーーーー(字が滲み読めない。)
パタンと本を閉じて、別の資料を読み込む教授に声をかける。
「教授、ロストマジックの文献ではなくただの日記のようです。ただ数百年前の勇者アリスの記載が。」
「なんじゃと?どれどれ。」
目を通す教授の表情が少しずつ険しくなる。
まぁ気持ちはわかる。辛気くさくて学生らしい日記だ。
今の時代にもこういう希死念慮の風潮はあったりする。
年々自殺者数も増えている。
「なんじゃこれ。まったく辛気くさくてみていられん。アリスの記載と王都襲撃のところだけ破りとり他は捨てて構わん。」
教授はそういって本を私に渡すとまた資料に目を落とした。
「わかりました。…」
ごめんなさいね。
そう心のなかで謝り、彼の心のほとんどは暖炉の薪となったのだった。