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サラリーマンの苦労

犯人はだーれだ。

「大変申し訳ありませんでした。」

「わかるかね。私は服部くんに期待して仕事を任せている。なのにこういうことが頻発するようであれば、…わかるね?」

「はい。。。大変申し訳ありませんでした。必ず汚名返上させて頂きます。」

「…そうなるといいけどね。」


くたびれたネクタイを緩ませ、家路を急ぐ。

頭の中でガンガン誰かが暴れているんじゃないかと思うほどのストレスを抱えて。

くたびれたYシャツが、自らの年齢を指し示す。

だがいつまでたっても仕事は慣れやしない。

上司は理不尽ばかり。


……客観的に見れば彼は仕事ができない。

そう言われるのかもしれない。

ただ一つ言わせてほしい、そう彼が悪くもあり環境も悪いのだ。

60手前のサラリーマンの彼は、自らの失態を叱る上司と取引先に激怒していた。


「そもそもあいつの指示が悪いだろ。俺は聞いたよな?それにたいしてめんどくさいとか言ったやつはどこの誰だよッ‼」


そうだ。

あいつが俺が聞くこと全てにめんどくさいやら自分で考えろ!やら言うくせに。

考えて行動したら、文句しか言わねぇ。


「俺は悪くない。俺は悪くないんだ。」

あいつが、もっと言うなら新人が悪い。

俺がいいって言ったからいいと思った?部長に相談しろって言って聞けずに俺に聞いてきたくせに?

責任は持てって言ったのによ‼



『せ、先輩がこれでいいって言ってくれたのでいいかなって…すみません。』

『おい!またお前かよ!』


違うわ!元はと言えばお前の監督不行き届きだろうがよ!

文句を言えば言うほど頭の中で俺が叫び、鼓動が早くなる。

はあっはぁ、はあ、はっ、はっ、


…俺ももう若くない。



「ただいま、」

「あなた!?お醤油買ってきてって言ったでしょ!」

「あ…すまない。」

「すまないじゃないわよ。今日肉じゃがなの。お醤油がないんじゃ話にならないわ。ほら今から買ってきて。」

「……お前が行ってくればいいだろ。俺は帰ってきたばかりで疲れてるんだ。休ませてくれよ。」

「仕事してるから偉いなんて思ってるんだったら大間違いよ。私だって今日一日仕事をしたわ!パートこなしてご飯作って。」


偉いなんて思ってない。

疲れたから休ませてくれって………


「…わかった。」

携帯電話と財布を買い物袋に入れ、沈んだ気持ちを引きずりながら再度外へ出た。


「うっ……」

暑い。

去年と比べ物にならないくらい今年の暑さは尋常じゃない。


「……」

帰ってきた俺にお帰りの一言もない、妻と子どもたち。

俺に責任を擦り付ける上司と新人。


「……」

…どこかに消えてしまおうか。


「いやいや………いや」

そうだな。そうしよう。

「バカ言うなって。明日も仕事なんだぞ」

いったい何のためにお前は働いてるんだ?

「何って俺のためだよ。老後あいつと生きていくときに金がなきゃ辛いだろ。」

でもあいつはお前がいなくても生きていけるだろ?

お前の痛みがわからないやつを妻だと思っているのか?

「それは…そうだとしても俺が金を稼ぐのは俺の老後の為でもあるしな。」

そうか。なら別にもういいんじゃないのか?

「…は?」

だって、十分貯金はあるだろ?そこそこの役職とそこそこの残業をして50年。息子の奨学金は息子に返済させるんだろ?家のローンだってほぼ返済完遂目前だろ?

「いやでも短くてもあと20年は寿命あるしな。今物価高やら増税やらがあるし不安定だろ。

今の仕事をやめてどっかに行ったとして、バイトとか慣れないことを始める方が…」


本当にそうか?

俺は今の仕事をずるずるやっていたが、昔から内職の方が得意だったし個人プレーの方が楽だった。

今の仕事は若い頃、なんとなく決めた就職先だっただけで。


「………」

そうか。確かに。その通りだ。

だろ?じゃあ今から行こうぜ。

「え、いや!!さすがに退職届とか出さないと、」

いやいいだろ。お前の上司が何て言ってたか覚えてるだろ?

「お前の代わりはいくらでもいる。って言ってたな。」

だろ?ならいいだろ。あいつが自分でどうにかすんだろ。


お前の言う通りだな。

別に俺じゃなくたっていいよな。

息子ももう成人してるし妻はパートをしているが家に金をいれているのは俺だ。

なら俺が自分で貯めた分はどう使おうがいいよな。

そうだろ、逆にお前に文句を言うなら理不尽なお前の上司と変わらないだろ。

そうだな。


俺はなんて頭がいいんだろう。


男は片手に買い物袋と肩に何かをのせて電車に乗り込んだ。


車窓から見える彼の笑顔は未来を見据え輝いていた。

彼を魅了する何かも笑顔と黒い笑みを浮かべ今夜の晩餐に思いを馳せる。







【では、次のニュースです。昨日未明、××県×市の雑木林にて遺体が発見されました。被害者は××在住の服部 ××さん58歳。スーパーへ行ったきり戻らない夫の服部さんを心配し出かけた妻の服部 ×さんが遺体を発見。発見時にはすでに息を引き取っていたとのこと。警察は他殺と見て捜査を進めています。……では次のニュースです……】


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