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1970年生まれ、今年の春で五十四歳。
いわゆる”第二次ベビーブーム世代”だ。
同世代の人数は多かったが、それがプラスにもマイナスにも働いたように感じたことはない。
生まれながらにコンピュータが身近にあり、ガキの頃からゲームにハマった。
中学あたりからRPGに時間を取られるようになって高校はギリギリ卒業。大学はどこも受からなかった。
浪人してみたりバイトしてみたりウロウロした後で地元の映画館に勤めることになり、そこは10年程続いたものの備品を盗んで売り飛ばしたことがバレてクビになった。
それがかれこれ8年前。故郷は居づらいので都会に出てきた。都会はビルが多いのでビルメンテナンスの職に就いている。
ビルメンテナンスは資格が必要な職業だ。仕事に就く前に職業訓練校に1年通って資格を準備したのだが、そこで学んだ数学は意外に楽しかった。小学生の頃毎日ドリルの宿題を出されてウンザリして以来ずっと数学は苦手だったのだが、担当教官の教え方が上手いのかすんなり頭に入り高校までの数学を取り戻すことが出来た。
などなどつらつらと心のなかでぶつぶつ考えることはいくらでもあふれてくる。
あふれてくるから文字にして気を紛らわす。
フトンの上のスマホからは動画が流れている。
LINEはほどんど使わない。なにせぼっちだから必要がない。
それでも仕事の連絡に必要だからと数カ月前に同僚数人のグループに入らされた。
それも数回のやり取りをして終わっている。
久しぶりに見てみるか?
「1日1回引ける」毎日スロットくじに今すぐチャレンジ”当たり!”
ADヤフージャパン。これが企業アカからのメッセージ?しょうもない。
そういえば、「はあ」っていうため息はつかないな。
大抵「うぇあああああ」とか「にゃおうううう」とか表記しづらい発音になる。
永谷園の鮭茶漬け(の零れた残り)をベッド脇のコンビニ袋に突っ込む。こいつは出勤途中で駅のホームにあるゴミ箱に捨てることとする。ゴミの日まで貯めるのってめんどいからな。
シーツは昨日洗ったばかりだ。
寝る時はシーツの上にバスタオルを敷くのでタオルはマメに洗うのだと思いつつ、ふと手を止める。
1Kの割に広いような狭いような自分の部屋を見回す。
なんていうかモノだらけだ。一応通路めいた所は確保しているが、崩れかけたヴィレヴァンめいた有様である。
ミニマリストだっけ?モノが無い人間っていったいどんな暮らしをしてるんだ?想像もつかない。
高校を出たときに家を出て、一人暮らし歴はもはや30年を越える。
一人で寝て、一人で起きて、一人でメシを食べてはじまる朝。
まあずっとそんな調子でやってきているから今後もおなじであるのだろう。
それのどこにも不足は感じないし今更足すようなこともない。
家を出た当初は寮に入って1年他人と暮らしたことがある。今思い返しても最悪だった。
数日はなんとかなるがそれ以上になるともう相手の嫌な所しか目につかなくなる。
つくづく共同生活というものが性に合わない。
だから、ひとりぼっちでいると生きる気力を失うっていう事自体マジで意味わからんのよ。
今この瞬間だってやりたい事とやらなきゃならない事で一杯だし気力がどうとか言ってられない。
言ってられないのは既におかしくなってしまっているせいなのかもしれないが。
頭が疲れてくると輝く三角形が連なって現れたりするしな(閃輝暗点というらしい)そういう幻覚とか幻聴とかとずっと付き合ってきたのだから、まともでいられるわけがないのだ。