序章2
「瑞葵さあ、また一人で外眺めてたん? 何も面白いものないやろ?」
少し時を遡り、瑞葵が教室を後にした頃。廊下に設置されたソファーでくつろぐ凛に声をかけられた。
「そんなことないよ、私たちにとってこの季節のあの教室は思い出の場所でしょ」
――この教室は一匹狼だった、私と凛が初めて会った場所。
日本最大の都市東京から、進学を機に福岡で一人暮らしを始めたのが二年前。
今となっては親友の凛もいるし、勉強もアルバイトも順調だ。周りは今年の夏から就活だ、と意気込んでいるようだが私はそんなことは全く考えていない。
今までもなんとなく家から近い高校、先生に勧められた大学に進学してきた。
正直なところ高校卒業後は働いてもいいのではと考えていたが、学歴主義の両親が許すはずもなく、渋々大学への進学を決めた。
「それもそうよね、私もびっくりしたけんね。どっかの芸能人か、モデルさんが入学したんかと思ったもん」
――そのお陰で今までちゃんと友達らしい友達なんていなかったけど。
私と仲良くしようとしてくれた人がいなかったわけではない、寧ろ私の周りには常に人がいた。それがたまらなく嫌だった。
「みーずーきー! また暗い顔しとるけど昔のことは昔のこと、今は辛くないでしょ」
ありきたりな言葉だが、その言葉が私の冷え切った心を一瞬にして温めてくれた。彼女のおかげで今では人の前でも笑顔で話せるし、接客だって難なくこなせるのだ。
「お、元気でたね! せっかくの美人がもったいない! そろそろ授業始まるし教室いこ!」
あれ、そういえば瑞葵は何でわざわざ教室から出てきたの? と、今更不思議そうな顔をこちらに向けてくる凛と目が合う。
「凛がいる気がしたの、実際そうだったでしょ」
本音を言えば見ず知らずの男の子にいきなり声をかけた結果、ほとんど無視されたことが衝撃過ぎて、咄嗟に逃げ出してしまっただけなのだが。
「そうだよねそうだよね! 私も一人やったから早く瑞葵に会いたかったと!」
――この子は本当に、よくそんなことをはっきりと。
そう言う凛の薄茶色の瞳には窓の外の桜吹雪が舞っていた。
「それなら授業始まる前にちょっとコンビニ行こうよ、ちょっと喉川いちゃったし」
普段お弁当を作って、水筒まで持参している私の言葉に凛は少し驚いた様子だった。
凛とコンビニのある一階に下りる階段に向かう途中、ひたすら話を続けそれをあしらう男の子二人組とすれ違ったが、数分後再会したときに彼らを思い出すことはなかった。
前回の序章で教室から出た瑞葵視点での補足のような内容になります。




