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いちがん ーBelieveー  作者: とらすけ
三章 急襲
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 急襲

 急襲




「どうしたというんだ? これは」


 ボロボロになって帰還したギルモアとバレットをみて、ヘルシャフトの一人が思わず声を上げた。


「メイスンか……」


 ギルモアがバレットを肩に担ぎ、ヨロヨロと歩きながら声をかけてきたヘルシャフトに答える。


「とにかく、二人とも横になれ 医療班を呼べっ早くっ 」


 メイスンと呼ばれたヘルシャフトが大声をあげる。途端に周りが慌しくなってくる。


「何が、あった? 」


 ベッドに横になった二人にメイスンが話し掛ける。


「この星の人類の集落に、我々にとって脅威となる何かがあるらしいという情報があった それでその脅威を除こうと行ってみたら、この有様だ 」


 ギルモアが自嘲気味に言う。


「あの剣は一体なんだろう? 僕はあんな恐怖を味わったことがないよ 」


 バレットが顔を(ゆが)めながら呟く。


「剣? それにやられたのか? 」


「そうだ 双剣エピタフとスターレスと言っていた 斬撃をかわすとか、そういう問題ではなかった あれは我々の認識を超えていた。次元が違う 」


 ギルモアは思い出そうとするが、自身でもはっきりと何が起こったのか把握できていなかった。


八振りの凶兆剣エイトディザスターソードの一振りと言っていたが、剣で受けることが出来ない私のザ・エンドレスリバーの剣戟を受けた 」


「僕の“口笛吹き”の斬撃もかわされた 」


 ギルモアとバレットの言葉にメイスンは腕を組んで考える。そして、そのまま(きびす)を返すと出て行こうとした。


「待てっ メイスンッ 何処へ行くっ 」


 ギルモアが慌てて声をかける。


「決まっているだろう その集落を消滅させてくる 」


「やめろっ あれは危険だっ 行くなら対策を考えてから行け 」


「そうだよ それにウォータースやライトも連れていった方がいいよ 」


「あの二人は今、不在だ それに対策なら考えた 」


「なんだとっ! なら、言ってみろっ 」


 思わずギルモアが声を荒げる。


「僕も聞きたいね 」


 バレットも、信じられないという顔で尋ねる。


「簡単なことだ お前たち二人でさえ、その有様だ それなら、その剣を使う前に倒せばいい 」


「そう簡単にいくとは思えんが…… とにかく、一人では行くなっ 」


「そうはいかん 俺は怒涛(どとう)のメイスン、仲間をやられて黙ってはいられない 」


 メイスンはそう告げると、二人が言葉を発する前に部屋を出て行った。



 * * *



 キャスタリア村周辺


「どうだ? この辺りの魔獣は片付いたか? 」


「はい、隊長 今、最後の確認をしているところです 」


「そうか ご苦労様 あと少し油断しないようにな 」


 カイが隊員に声を掛けて立ち去ろうとした時、なにか不穏(ふおん)な空気が辺りに漂った。


「何っ? この感じはっ 」


 ユーナも辺りの異変に気が付いた。その時、メリメリという音と共に森の大木が弾け折れ、周囲にいた隊員が二人、宙に舞った。


「大丈夫かっ 」


 慌てて駆け寄ったカイたちが隊員を助け起こし、森の奥に目を向けるとそこにはギガントのように大柄な人影があった。


「あれはヘルシャフトか それにあの威圧感は神将か? 」


「そうだ 間違いない、あれは神将だっ 」


 シンフィールドが叫ぶ。


「俺は、怒涛(どとう)のメイスン 貴様等は生かしておかんっ 」


 メイスンは右手に持った巨大な(なた)のような剣を振るう。すると、また付近にいた隊員が宙に舞った。


「何だあれはっ とにかく近づくなっ 離れて撃てっ 」


 カイの言葉に隊員たちは、メイスンを遠巻きに囲み一斉に銃を撃つ。


「ふんっ くだらんっ ザ・ウォール 」


 メイスンが剣を振るうと、周りを囲んでいた隊員が弾き飛ばされる。一瞬だった。10人もの隊員が地面に倒れ、うめき声をあげている。


「俺の剣、ザ・ウォールの前では貴様等など何人来ようが無意味だっ 」


メイスンは倒れた隊員達に止めを刺すべく、もう一度剣を振るおうとしている。


「いけないっ! 」


 ユーナが叫びながらメイスンに向かって飛び出す。そして、剣の力を解放する。


「ローゼパイチェ 」


 ユーナの片手剣が赤い霧を発し、しなるようにメイスンを狙う。メイスンは、それを見て地面に倒れた隊員からユーナに狙いを変えた。


「ザ・ウォール 」


 メイスンがユーナに向かって剣を振るった瞬間、ユーナは咄嗟に身を(かわ)した。が、まるで巨大な壁にぶち当たったかのような衝撃で、ユーナは弾き飛ばされ地面に叩きつけられる。


「うぅ これは…… 」


 全身を襲う激痛に耐え、ユーナはよろよろと立ち上がり剣を構える。自身がその斬撃を受けたことでユーナは、メイスンの持つザ・ウォールの正体が解かった。剣から広範囲に衝撃波が撃ちだされている。まさにその名の通り”壁”であった。

 もう一度あの衝撃波を受けてしまってはもう立ち上がることは出来ないだろう。メイスンが剣を振るうより早く間合いに飛び込み倒す。ユーナの剣ローゼパイチェなら一撃で敵を切り裂く。ユーナは剣を握り締めチャンスを狙う。


「待て ユーナ 一人で早まるなっ 」


「俺たちもいる事を忘れるなっ 」


 カイと、集まってきたマツをはじめ分隊長たちが声をあげる。分隊長たちはそれぞれ銃を構え、メイスンに狙いをつけている。マツの持つヴァッフェはアサルトライフルのようなごついもので、ガオとモリは小型拳銃のような携帯に便利な形状のヴァッフェだった。

 カイは隊員に向かって、動ける者は負傷者を助けて退くように命令する。


「そうだった ごめんなさい 」


 ユーナは肩の力を抜くと、メイスンから目を離さずにカイたちに話す。


「なにか見えない壁に当たったような衝撃でした ()けたつもりだったけど、かなり広範囲に有効な剣みたい…… 」


「見えない壁か 暗黒のバレットとか云うやつが使ってた”口笛吹き”という剣が音の斬撃だとフリップが言ってたけど、この剣も厄介だな 」


 掛け付けたシンフィールドがリボルバーのような銃を構えながら呟く。


「まったく わらわらと集まってくる まぁ手間が省けていいがな 」


 メイスンは、せせら笑うように剣を振るう。その途端、付近の樹木が()ぎ払われたように倒れていった。


「近づくのは不味(まず)いな だが近づかなければ奴を倒せないか 」


 カイは周りの仲間を見回した後、ユーナに顔を向ける。


「まだ動けるか? 」


 ユーナが(うなず)くのを確認し、カイは自分のヴァッフェを取り出した。それは黒く輝く小さな(たま)であった。


「俺のヴァッフェはかなり特別でな 近接戦闘ではなかなか使えるんだ 」


 カイは掌で、黒く輝く珠を転がしながら言う。


「みんな、奴の注意を()らしてくれっ 隙を見て俺とユーナが(ふところ)に飛び込んで奴を倒すっ 」


 カイの言葉で位置に付いたシンフィールド達は、メイスンに向けて一斉に銃撃を浴びせる。マツもライフルのモードをセミオートからフルオートに切り替え、まさに蜂の巣になるような数の弾丸がメイスンを襲う。


「くだらんっ 」


 しかし、メイスンは一笑に付すると、ザ・ウォールを振るいながら弾丸を弾き飛ばしどんどん距離を詰めてくる。シンフィールド達はそれに伴いじりじりと後退した。


「くそっ 駄目だっ 一点だっ みんなで一点を集中して狙うんだっ 」


 カイが叫ぶ。その叫びで全員が集中して一点を狙い始めた。マツもセミオートに戻し一点を狙う。そして、その甲斐あってか今まで弾き飛ばされていた弾丸が一発、衝撃波を貫通しメイスンの顔を掠めた。


「ぬっ 」


 メイスンが剣を振るう動作が一瞬止まった。


「今だっ ユーナっ! 」


 カイとユーナが、メイスンに向かって同時に飛び出す。


「ローゼパイチェ 」


 ユーナが剣の力を解放しメイスンに斬りかかる。カイは飛び出しながらメイスンに向かって黒く輝く珠を投げた。


「ドッペル 」


 カイが叫ぶと、小さな珠が人型の形に大きくなる。それは、珠が膨らんだというより、珠を核にして周りに人の姿が形成されたという感じであった。そして、その人型は剣を持ったカイの姿に変形し、ユーナより早くメイスンに斬りかかる。しかし、メイスンはその一撃をぎりぎりかわし、続くユーナの一撃もなんとかかわし、さらにカイ本体の一撃を剣で受ける。が、カイと、その分身、ユーナは間髪をいれず態勢を整え第二撃を繰り出す。メイスンが次に剣を振るよりも早くカイたちの攻撃が決まるかと思われた瞬間……


「舐めるなっ ザ・ウォールフォルコメン 」


 メイスンは剣を振るのではなく、そのまま地面に突き立てた。その途端、その一点から巨大な衝撃波が拡がる。それは、カイとユーナだけでなく、メイスンを遠巻きに包囲していたシンフィールドたちも軽々と吹き飛ばした。たった一撃。それだけでユーナたちは甚大なダメージを負ってしまう。吹き飛ばされたカイの腹部には折れた樹木の木片が突き刺さり、分身は消えてしまっている。シンフィールドやマツ、モリ、ガオたちも地面に叩きつけられ横たわったまま、かろうじて息をしている状態だった。


「俺にこの技を使わせるとは、さすがにギルモアとバレットに深手を負わせた奴らか 」


 メイスンは悠々と近づいてくると、ユーナたちに止めを刺す為剣を振りかざす。


「だが、これで終わりだ 」


「待ちなさいっ まだ終わりじゃないわっ 」


 ユーナがよろよろと立ち上がりロケット砲を構えるが、大きく肩で息している状態で、狙いが定まるとは思えなかった。それでも、ユーナは仲間を救うためメイスンの注意を自分に惹きつける。


「まったく 寝ていれば楽に死ねるものを 」


 メイスンは余裕の表情でユーナを見る。ユーナは立ち上がろうとしているシンフィールドに向かって叫んだ。


「シンフィールドっ 早くカイ隊長たちを連れて逃げてっ! 」


「でも ユーナはっ? 」


「いいからっ早くっ そして、カーンイービルと救援を呼んできてっ 」


 ユーナに頼まれシンフィールドは、わかったと頷き、やはり起き上がったマツたち分隊長と協力して重傷のカイを抱え走り出す。ユーナはそれを確認すると視線をメイスンに戻した。


「ほおっ その方向が貴様らの集落の中心部か ならば、俺も行くとしよう 」


「あなたは行かせないっ 」


 ユーナは片膝をついてロケット砲の狙いを定める。まだ呼吸は荒く膝もがくがくと震えているが、断固とした視線はメイスンから外さない。

 何度か衝撃波を受け、シンフィールドたちの攻撃の一点突破を見て解かったことがあった。衝撃波は突破できる。それと地面に剣を突き刺すタイプのザ・ウォールフォルコメンの衝撃波は連発出来ないということだった。

 もしあれが連発出来ていればユーナたちはとっくに全滅していただろう。

 ユーナは考える。ロケット砲で隙を作り、ローゼパイチェで切り込む。チャンスは一度きり。ロケット砲が撃てるのは一回だけなのだ。それに、連発出来ないとはいえザ・ウォールフォルコメンのチャージ時間がどの程度なのか推測できない状況では急がなければならなかった。


・・・大丈夫 きっとうまくいく・・・


 ユーナは大きく息を吸い込む。


「ユーナロケット 」


 メイスン目掛けて撃ちだしたロケット弾は大気を切り裂き一直線に凄まじい速度で飛んでいく。が、メイスンはザ・ウォールを振るい衝撃波を発生させた。


「ぬっ 」


 ロケット弾はユーナの考えた通りに衝撃波を突き破ったが、その衝撃で軌道が変わりメイスンの足元に着弾した。もとよりダメージを与えられるとは考えていなかったユーナは、メイスンの視線が足元に向いたことを見逃さなかった。。


・・・今だっ・・・


 ユーナは剣を握り飛び出す。身体中に痛みがはしるが、それに堪えて剣の力を解放し、メイスンを狙う。メイスンは反応が遅れ、剣を構えたまま動けずにいた。ユーナの赤く細い剣が、その軌跡に赤い霧を残しメイスンの身体に迫る。しかし、メイスンの表情に余裕があることに、ユーナは気付かなかった。。


・・・さっきの技はこない やったっ・・・


 ユーナは勝利を確信した。


「ザ・ウォールクライス 」


 ユーナの一撃が決まるかと思われた瞬間、メイスンの剣から衝撃波が撃ち出される。それは、剣をふることも、地面に突き刺すこともなく発動した。


・・・えっ な、なにっ・・・


 その衝撃波を受けてしまったユーナは、身体がばらばらになるような衝撃と共に宙に飛ばされる。ユーナは自分に何が起こったのか把握するまで時間がかかった。


・・・そんなっ いま、なんのモーションもなかったのに・・・


 再び地面に叩きつけられたユーナは、それでも激痛に堪えて剣を構え立ち上がった。


「立ち上がるか まぁクライスはモーションがない代わりに威力が弱いからな 」


 三度、地面に叩きつけられ、ユーナの手足はがくがくと振るえ立っているのもやっとの状態だったが、それでも、ユーナの眼から、ここは通さないという断固とした決意の光は失われてはいなかった。


・・・私がここで倒れたら、村の皆や子供たちが危ない・・・


 シンフィールドが八振りの凶兆剣エイトディザスターソードのカーンイービルを持って援軍を連れてきてくれるまで絶対にここを通すわけにはいかない。あの、カーンイービルならば、この敵を倒すことができる。ユーナは弱気にならないよう自分を鼓舞し、震える手や足に力を入れる。


「ザ・ウォール 」


 しかし、メイスンは容赦なく剣を振るい、ユーナは再び宙に飛ばされ地面に叩きつけられる。それでも、ユーナは剣を杖代わりにし、よろよろと立ち上がった。


「まだ立つか そろそろ死んだほうが楽だと思うが 」


 メイスンは続け様にザ・ウォールを振るい、その度にユーナは宙に舞い地面に叩きつけられた。頭から血を流し、鼻や口からも出血し、両腕も上がらなくなった状態でも、ユーナは立ち上がり続けた。絶対に倒れない。その決意がユーナを支えていた。

 しかし、メイスンはユーナを痛めつける事を楽しむかのように衝撃波を幾度となく繰り出す。


 いったい何度宙に舞い地面に叩きつけられたのだろう。すでにぼろぼろの身体のユーナはそれでも立ち上がった。しかし、眼は涙で霞み、鼻と口の出血で呼吸も困難になり、手足の感覚もなくなっている。もう立ち上がれるのが不思議な状態だった。


「しぶとい虫けらが ザ・ウォールフォルコメン 」


 メイスンは剣を地面に突き立て、さらに強力な衝撃波がユーナを襲う。


「ああぁぁぁぁっ 」


 大きく宙に飛ばされたユーナはもはや受け身もとれず、そのまま人形のように頭から地面に叩きつけられ、ゴロゴロと転がっていく。

 ごふぅ……。

 ユーナは激しく吐血しながらも立ち上がろうともがいていた。すでに両腕が使えないため頭を使ってなんとか立ち上がる。そして、それでも顔を上げ視線はメイスンから外さない。


「はははっ 面白い奴だっ そんな身体ではもう何も出来ないだろう 」


 メイスンは、ユーナに止めを刺すため、ザ・ウォールを大きく振りかぶった。


「もう、死ねっ 」


 ユーナはメイスンが大きく剣を振るのを見た。これを受けたら自分はもう二度と立ち上がれない。それどころか、もう生きてはいないだろう。ユーナは自分が死体となって横たわっている姿を想像したが、ぶるぶると頭を振りそんな想像を頭から追い出す。。


・・・負けないっ 私は自分と仲間を信じてるっ ここは絶対通さない・・・


 ユーナは心の中で決意する。何も出来なくてもここでこいつを足止めしていれば必ず仲間たちが来てくれる。そして、涙と血と土で汚れた顔でメイスンを睨み付けるが、気持ちとは裏腹に肉体はすでに限界を超えていた。ユーナは、ユーナの意思とは関係なくガクッと糸が切れたマリオネットのように崩れ落ちていった。


「フェストゥンク 」


 ユーナは(にじ)んだ視界の中で白い光が現れ、メイスンの放った衝撃波を受け止めるのを見た。そして、黒い影がユーナの身体を支える。黒い影の肩に乗ったとら柄の猫が、しっかりと声を掛けてきたような気がした。


「マゴット…… イノ…… ゴンタちゃん…… 」


 ユーナはもう会えないかもしれないと思っていた頼もしい仲間の姿に安堵し、ようやく肩の力が抜けたようにイノの腕の中で意識を失った。


「しっかりしろっ ユーナっ 」


 イノが声を掛け、ゴンタがユーナの頬をぺろぺろと舐める。そして、意識を取り戻したユーナはにっこりと笑い、傍らのゴンタを血だらけの手で弱弱しく撫でた。


「大丈夫 あなたたちを見たら安心して力が抜けただけ 」


 ユーナは鼻と口から血を流しながら気丈にも身体を起こした。


「もう動かなくていい 今、コッコが台車を持って来る もう少し頑張るんだ 」


 イノとユーナが話してる間もマゴットは幾度となくメイスンの衝撃波を受けていた。それでも、マゴットは(ひる)むことなく立ち続ける。


「ほう 俺のザ・ウォールで弾け飛ばないとは今度の新手は少しはやるようだな 」


 突然現れた援軍にもメイスンは余裕の口調で応対する。


「なかなか粘るじゃないか これはどうかな ザ・ウォールフォルコメン 」


 メイスンは振っていた剣を再び地面に突き刺す。


「マゴットっ それはダメっ! ()けてっ 」


 いくらマゴットでも、この技はまずい。思わずユーナは痛む身体を忘れ、身を乗り出して叫ぶ。しかし、マゴットは()けようとせず、これにも耐える。


「おおぉぉぉぉ 」


 マゴットは歯を食いしばり、巨大な盾を支える左腕は血管が浮き上がり震え、両足は地面にめり込んでいる。


「これは楽しいじゃないか 貴様の身体を包むその光が衝撃を緩和しているんだろうが、その効果が切れるまで連続で放ったらどうかな 」


 メイスンはザ・ウォールをマゴットに向け構える。


「ザ・ウォールクライス 」


 そして、モーションなしで衝撃波が連続でマゴットを襲う。今まで衝撃波に耐えてきたマゴットを包む白い光がだんだんと薄くなっていき、ついに消えた。間髪いれず連続で襲ってくる衝撃波の為に、マゴットは再び剣の力を解放することが出来ずそのまま耐えていたが、衝撃で皮膚が裂け血が飛び散る。しかし、ユーナやカイ、数々の人間を弾き飛ばしてきたメイスンの衝撃波を何度も受け、それでもその場で耐えているマゴットの強靭な精神と肉体は驚愕に値した。


「マゴットっ もう避けてっ 」


 マゴットから飛んでくる血飛沫に、ユーナが悲痛な声を上げる。それでも、マゴットは微動だにせず巨大な盾を構え立ち続ける。


「マゴットは絶対に()けないさ そして、あの場所から絶対に一歩も退()かない 」


「えっ 」


「わかるだろ、ユーナ それは”ここにユーナが居る”からだ 」


「…… 」


「いい御主人だな 」


 イノはにっこりと笑い。ゴンタは(いた)わるようにユーナの手を舐めている。


「うん…… 」


 ユーナは涙で滲む目で、マゴットの後姿を見つめた。


「でもこのままじゃマゴットが 」


「心配するな すぐにコッコが来る そして、ユーナを避難させたら俺とゴンタで奴を倒す!! 」


 イノの自信満々な言葉にユーナは驚いたが、なぜか素直にその言葉を信じる事ができた。そして、イノが話してる間に、コッコが台車を押して走って来る。


「よし 早くユーナを台車にっ 」


 イノとコッコはユーナをゆっくりと優しく台車に乗せ、マゴットに声を掛ける。


「マゴットっ 急いでユーナを安全な場所まで移動して手当てする もう少し耐えてくれ、大丈夫か? 」


「我を誰だと思ってる 鉄壁のマゴットだぞっ 」


「そうなのか? 」


 イノは、ユーナとコッコに振り向く。


「私、初めて聞いた…… 」


 ユーナが驚いたように言う。そして、コッコも……。


「俺もだ…… 」


「い、今、考えたんだ 」


 マゴットがポツリと呟く。三人は思わず顔を見合わせた。


「どうやらマゴットはだいじょぶそうだ コッコ、急いでユーナを 」


 イノは、やれやれという顔をするとコッコに言う。


「わかった 行くぞ、ユーナ 揺れるけど我慢してくれ 」


 コッコはユーナを乗せた台車を押して勢いよく走り出した。イノとゴンタはそれを見送る。


「さて、今度は俺たちの番だ 気合入れるぞ、ゴンタっ 」


「ナーッ 」


 イノの足元でゴンタが答える。イノはロートホリゾントの一丁を右手で構えた。そして、狙いを定めて集中する。ゴンタの身体も光り始めていた。


「いいぞっ マゴットっ 」


 イノの合図で、今までメイスンの衝撃波に耐えていたマゴットが尻餅をつくように倒れた。その瞬間、イノがロートホリゾントの引き金を引き、同時にゴンタが飛び出す。


「ロートクーゲル 」


 ロートホリゾントの銃口から撃ち出された赤い光線は、メイスンの放った衝撃波を貫通し、メイスンの右腕を貫く。


「ぐわぁっ 」


 右腕を貫かれたメイスンは、思わず持っていたザ・ウォールを地面に落とした。そして、メイスンが反対の手で剣を掴む前に、魔獣化したゴンタが疾風のように襲い掛かかる。かろうじてゴンタの一撃をかわしたメイスンは、地面を転がりながら剣を掴み体制を整えようとするが、ゴンタの激しい追撃に立ち上がることさえ出来ず、いたる所に傷を負ってしまっていた。


初見(しょけん)ならともかく 俺たちはカイ隊長たちから色々情報を聞いてきた あんたの攻撃方法や弱いところも解かっている どうやら近接戦闘が苦手らしいな 」


 イノは油断なくロートホリゾントを構えながら言う。そして、今度は ゴンタの攻撃を掻い潜りようやく立ち上がったメイスンの左足を赤い光線が貫いた。

 再び転倒したメイスンにゴンタの凶悪な爪が襲い掛かり、身体を(かば)った左腕が大きくざっくりと傷を負う。


「くそっ 魔獣ふぜいがっ 」


 メイスンは悪態をつきながら必死に攻撃をかわす。しかし、スピードはゴンタの方が速いうえに、タイミングを計ってイノがロートホリゾントで狙ってくる。この絶妙な連携プレイにメイスンの負った傷はだんだんと増えていき、メイスンは次第に追い詰められていった。


「すまんが、ここで仕留めさせてもらう 」


 イノは、動きの鈍くなったメイスンの頭部に狙いをつける。そして、ゴンタの攻撃でメイスンの動きが止まった一瞬を逃すことなく引き金を引いた。

 メイスンが気付いた時には、ロートホリゾントから撃ち出された赤い光線が目の前に迫っていた。


「これまでか 」


 もはや逃れる術なしとメイスンが覚悟を決めた刹那、閃光が赤い光線を切り裂いた。赤い光線は二つに切り裂かれメイスンの頭部を掠め背後に消えていく。


「あぶない、あぶない 大丈夫か、メイスン? 」


 いつの間にかメイスンの前に一人のヘルシャフトが立っていた。突然現れたそのヘルシャフトは、ヘルシャフトにしては小柄で白く輝く甲冑を身に纏い、やはり眩しいくらいに白く輝く剣を持っていた。


「ウォータース どうする? やる? 」


 メイスンの前に姿を現したヘルシャフトが、どこか虚空に向かって声をかける。姿は見えないが、もう一人居るようだ。イノは左手の銃も上げると左右の二丁拳銃を構え、慎重に辺りを見回すがもう一人のヘルシャフトの姿は見えなかった。


「いや 今はいい メイスンを連れて戻れ、ライト 」


 どこからか声が聞こえる。イノには姿は見えないが、耳を動かしていたゴンタが鋭い聴覚で声の位置を特定し、そこを攻撃する……


キィーン


 ゴンタの爪の一撃を、姿の見えない何者かが受ける。そこへ、イノも間髪入れず二丁拳銃で銃撃を浴びせるが既に手応えはなかった。そして、僅かに目を離した隙にメイスンと、その前に居たヘルシャフトの姿も消えていた。ゴンタも探るように耳を動かすが見失ってしまったようだ。


「マゴット 見てたか? 」


 イノはマゴットに聞くが、マゴットも狐に(つま)まれたような顔をしている。


「今のはなんだ? やったと思った瞬間、別のヘルシャフトが突然現れて、空中から声がしたと思ったら、あのメイスンとかいう奴と一緒に消えた…… 」


 そこへ、ユーナを後続の救援部隊に渡してきたコッコが押っ取り刀で戻ってきた。


「奴はどうした? 倒したのか? 」


「わからん どこかに消えた 」


 イノとマゴットは声を揃えて言う。ゴンタもうんうんというように頷いている。

 しばらく、イノたちは途方にくれたようにその場に立ち尽くしていたが、再び声が聞こえることも、ヘルシャフトが姿を現すこともなかった。



 * * *



 一時間前、キャスタリア村


 イノたち、第二陣が村に到着したちょうどその時、シンフィールドたちが重傷のカイを運び退却してきた。その、ぼろぼろの姿を見て、村中が騒然となる。


「どうしたっ 何があったっ? 」


 混乱の中で、どうやらユーナが唯一人残り、敵の神将を足止めしているということがわかった。


「すまん マゴット 」


 シンフィールドが傷だらけの姿でマゴットに謝罪する。


「いや ユーナはそういう奴だ それより、場所を教えろっ 」


 場所を聞き、マゴットが血相を変えて走り出す。コッコもそれについて走り出そうとしたが、イノに止められた。


「待てっ コッコ 人が乗れる台車を見つけて持ってきてくれっ 」


 イノの言葉の意味を察したコッコは、わかったと答えると台車を探しにいく。イノは、その間カイたちに幾つか質問すると、その返答を頷きながら聞いていた。


「あったぞっ 」


 コッコが頑丈そうな台車を押してきた。


「よしっ行くぞっ コッコは台車を押して持ってきてくれっ 」


 そう言うとイノはゴンタと共に走り出した。コッコもそれを追い、台車を押して走り出す。


「急ぐぞ、ゴンタっ マゴットに追い付くんだ 」


 全速力で走り、前を行くマゴットに追いついたイノは、走りながら作戦を伝える。


「俺たちが着く頃、おそらくユーナは相当なダメージを負っていると想像できる 」


 イノの言葉にマゴットは歯軋りをするが、かまわずイノは続ける。


「そこで先ず、ユーナの救出を最優先する いいか、マゴット 戦うことを考えず守ることを考えるんだ 」


「わかってる、我に任せろ 必ず守るっ 」


「いたぞっ あそこだっ 」


「まずいっ 間に合ってくれっ 」


 イノたちが現場に到着した時、まさにユーナが崩れ落ちる瞬間だった。


「フェストゥンク 」


 マゴットは剣の力を解放し、ユーナの前に、ユーナを守るために衝撃波を受ける。


「おおおぉぉぉぉっ 」


 こんな衝撃にユーナは耐えていたのか、いったい何度耐えたんだ、あんなにぼろぼろになって、マゴットは憤怒(ふんぬ)の形相でメイスンの前に立ちふさがった。



 * * *



 ユーナは村の病室のベッドの上で目を覚ました。心配そうな顔で覗き込んでいたマゴットの顔に笑顔が戻る。


「しばらく安静だ、ユーナ まったく無茶し過ぎだ 」


 そう言いながらマゴットは嬉しそうにユーナの手を握る。ユーナも握り返そうとしたが、まだ手に力が入らなかった。


「あいつは? あのメイスンとかいう奴はどうしたの? 」


「逃げられた…… イノとゴンタ殿があと一歩まで追い詰めたんだが、奴らの仲間が助けに来て…… 」


 マゴットが悔しそうにユーナに言う。


「そう…… でも、村が無事で良かった 」


 ユーナは、とにかく敵の襲撃から村の皆を守れたことに安堵した。


「イノとコッコは? それと、ゴンタちゃん 」


 ユーナは彼らの姿が見えないので、マゴットに尋ねる。


「コッコは他の負傷者の手当てを手伝っている イノとゴンタ殿は、教授とさっきの現場に行ってる あとで話すが理解不能なことがあってな 少しでも謎を解いておかないと、次に対応出来ないとイノが言って、教授を連れ出した 」


「前から思ってたけど、イノって凄いよね なんか私たちと違うというか 私ももっと強くならないとダメだな 」


「いや、ユーナ お前は今のままでいいよ 」


 マゴットはベッドの上のユーナに苦笑いする。


「おねえちゃん、これ 」


 病室に入ってきたノッコが、小さな人形を窓際の棚に置いた。


「ありがとう、ノッコ かわいいお人形ね 」


「ノンノン人形っていうの 」


「? 変わった名前ね 」


「おねえちゃんが、それ言う 」


「えっ 」


「ううん、なんでもない ごめんなさい 」


 ノッコはドーバとハーシも呼ぶと、三人が交互に言う。


「おねえちゃん、私たちも強くなるっ 」


「俺たちがもっと強かったら、おねえちゃんもそんなにならなかった 」


「僕たちが足手まといにならないように頑張ります 」


「違うよ、みんな こんなになったのは私が弱かったから 気にしないで、ねっ 」


 ユーナはベッドの上から、ノッコたちに優しく微笑みかける。


「弱い私たちが村に居たから、おねえちゃん無理したんでしょう 」


「えっ 」


「フリップのおじちゃんだってそう もう、嫌だよ 私たちも戦うよっ 」


「子供を守るのは、我ら大人の仕事だ ノッコたちの気持ちは嬉しいが そんなに気にしないでいいんだよ 」


 マゴットが会話に割って入り、ノッコたちに優しく言う。しかし、ノッコたちは今度はマゴットに向かってお願いする。


「ねえ、おじちゃん 私たちに、戦い方教えてよ 」


 三人がマゴットに口を揃えて言う。


「ノッコたちが大人になったらな 」


「やだっ 今すぐ教えてっ 」


 駄々をこねるノッコたちに、マゴットは困り果てたようにユーナを振り向き助けを求める。


「もういいっ マゴットのおじちゃんには頼まないっ コッコのおじちゃんに頼む 」


 ノッコたち三人はどたどたと病室を飛び出した。


「ユーナがおねえちゃんで、我はおじちゃん…… 」


 マゴットがぽつりと呟く。それを聞いてユーナはため息をついた。



 * * *



「ここか? まったく、樹木も立派な資源だというのに、こんなにしおって 」

 

 教授は、メイスンの衝撃波で打ち倒された木々の惨状を見て嘆いた。


「教授 ここだ 」


 イノはメイスンともう一人のヘルシャフトが消えた場所を教授に示した。教授は、ふむという感じで付近の地面や樹木の様子を調べる。そして、イノにその時の状況を詳しく訊きながら歩き回る。しばらくして教授は、手招きしてイノを呼ぶ。


「ここを見ろ 」


 教授が指差した場所は、ゴンタが見えない敵に一撃を浴びせた場所だった。とくに何もあるようには見えなかったが……


「よく見ると足跡が薄く残っている ここに何者かが居たのは間違いない 」


「本当だ でも、俺やマゴットには何も見えなかった…… 」


「ふむ 確かにここに居た筈の者が見えなかった 考えられるのは君たちの目にはその者が認識されなかったということか 」


「教授 俺にも解かる様に言ってくれ 」


「保護色というのは解かるだろう カメレオンなど周囲の色に変化し自分の姿を見えなくする それと擬態というのもある 蝶など虫が多いが木の葉や木の枝そっくりの生物が存在する 」


 イノは、身体の色が変わるヘルシャフトや木の葉や木の枝そっくりのヘルシャフトを想像してみたが、しっくりこなかった。


「うーん…… 何か違うような気がする 」


 イノは教授の説明とは違う、他の方法で姿が見えなかったのではないかと教授をチラリと見る。教授は慌てるなというように、口の前に指を出すと……。


「もう一つの可能性は、君のあの赤い光線を光が切り裂いたと言っていたが…… 」


「そうだ 奴を仕留める寸前 俺のロートクーゲルを光が切り裂いた ロートクーゲルは光線のように見えるが、実際は連続して撃ち出された弾丸だ 物理攻撃なので軌道を変えることができる 」


「その光だよ もしヘルシャフトの一人が何らかの方法で光を操ることが出来るのならば 私達の目は光の情報を集めてそれを脳に伝えている 実際に存在するものを目に入る光を操作して認識できなくする 」


「光…… 目で認識出来ない どうすれば 」


「なにっそれなら簡単だ 認識出来るようにすればいい 例えば染料を入れた小袋を用意しておき見えない敵に投げつける 」


「わかった 急いでみんなに装備してもらおう 」


「ただ 戦いの時はそれで対応できるかと思うが おそらくこれは本来暗殺に使用する力だろう 暗殺に使われたら防ぎようがない とにかく警戒して一人では行動しないよう徹底するしかないな 」


 イノと教授は、その後も周囲を調べて回ったが、メイスンの放った衝撃波の威力が凄まじいものであったという確認の他には新たな発見はなかった。こんな威力の衝撃波を何度も耐えていたユーナとマゴットには驚嘆するしかない、まったく生きていて良かったと教授がしみじみと呟く。俺には無理だなと、イノが言うとゴンタがまったくその通りと、ナーッと鳴いた。

 そして、そろそろ戻るかと二人並んで歩き出した時、教授がイノに尋ねる。


「君が背中に背負っているその剣 前も使わず、今回もカイから敵は近接戦闘が苦手らしいと伝えられていながら使わなかったようだね 」


 教授の言葉にイノが立ち止まる。


「前にも言ったと思うが、この剣は使えないんだ 」


「綺麗に手入れされている 今すぐにでも使うことが出来そうだが 」


「言い方が悪かったか…… この剣は終末の剣(バーンエンドソード)という そして、この剣は自身を使う者を選ぶ この剣を使うことが出来るのは選ばれた者唯一人 俺はそれまでこの剣を守っているんだ 」


「バーンエンドソード…… そうか 君はその剣を選ばれた人物に渡すために 」


「まぁ そんなところだ 」


「君はその選ばれた人物を知っているのか? 」


「知っている…… 」


「ふむ…… 」


 教授は、それ以上深くは訊かなかったが、イノは複雑な表情で天を仰ぐ。ゴンタがイノの足にじゃれついていたかと思うと、ぴょんと飛び上がり背中から肩へ登り、イノの頬をぺろぺろと舐めた。イノは、そのゴンタの頭を撫でるとにっこりと微笑んだ。


「出来れば、この剣を使わずに済ませたいんだけどな 」


「んっ 」


 イノの呟きに教授が反応したが、イノは素知らぬ顔で歩き出した。


「さあ、早く戻ろう、教授 さすがにしばらくは奴らも来ないだろうから 」


「そうだな いろいろ準備する時間があるのは助かる 」


 一同は村へ向かって歩きながら、この一時の平和な時間が永遠に続けばと思いながらも、次の一手をどう打つかを考えずにはいられなかった。


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