五話・撤退2
五話 撤退2
この死地に残るというイノに苦い顔をしていた教授が、一言言わねば気が済まないと云う感じで近付いてきた。
「ここに残ると云う事は死ぬという事だぞ 私に常々命を粗末にするなと言っている君らしくない 」
教授がイノに詰め寄る。
「教授…… 心配するなと言ったろう 俺を信じてみてくれ 」
「ならば この手紙を預かっておいて貰おう 私に何かあった時のためにライディーンの友人に宛てて書いたものだ 君を信じて預ける 」
教授は一通の手紙をイノに差し出す。イノは手紙を受け取ると、胸ポケットに大事そうに入れた。
「ちょっとぉ あんたたちが残るなら私も残るわよ 」
ユーナが、イノとコッコを見ながら言う。
「水臭いではないか 我も残るぞ 」
マゴットも、ユーナ同様ここに残ると主張する。が、ユーナがマゴットを指差して言う。
「あなたはダメ あなたはしっかり教授を守って 教授を守れるのは、あなたしか居ないから…… 」
ユーナとマゴットが見つめ合う。互いの気持ちが交差する。
「わかった 任せろ、ユーナ 」
これが最後かもしれない。マゴットは手を差し出し、ユーナと固く握手する。
「いや、ユーナ お前もダメだ 」
イノが二人の間に口を挟む。
「えっ 」
ユーナが、何故と怪訝な顔をする。
「ユーナには俺が頼みたい事がある ユーナ以外には任せられないんだ 」
イノの言葉にユーナは緊張し、次の言葉を待ち構える。
「ゴンタを連れていって欲しい 」
「えっ ゴンタちゃんを…… 」
そういえばゴンタちゃんは、とユーナはキョロキョロと辺りを見回すと、イノの足元でぐったりと横になっていた。
「連続で魔獣化しすぎて、もう限界なんだ 頼む、ユーナ ゴンタを安全な所へ無事連れていってくれ 」
ユーナはゴンタを抱き上げると、小さく、わかったと答えた。
「よーし 時間が惜しい 早く退いてくれ 」
イノの号令で、それまで敵の攻撃を抑えていたヒーロー隊の隊員たちも、前線から退き走行可能な単車や車に飛び乗る。
カイが、イノとコッコに握手を求めてきた。
「本当に大丈夫なんだろうな 」
カイが神妙な面持ちで二人の顔を見て言う。イノとコッコはカイの顔を見て、ニッコリと笑った。
「なんとかするさ でも、なるべく早く体制を立て直して援軍を連れて来てくれ 」
「わかったっ! 」
カイは自分の愛車に向かい走り出す。と、そこで在らぬ方向を見て立ち尽くしている教授を発見する。遠くで教授を探しているマゴットが見えた。
「教授っ 早くっ 」
教授の手を引こうとしたカイが、教授の見ている方向を見ると、魔獣の群れの中に異様な物が立ち、そして何かを観察するように動き回っている。
・・・なんだ、あれは…… ・・・
思わずカイも足を止める。それは、銀色の円筒形の上に銀色の球体が乗った物体だった。上に乗った球体には、目のようなものが三つ付いている他、集音マイクなのか耳のようなものも二つ付いていた。そして、魔獣の攻撃にもビクともせず前後左右に動き続けている。
「見守る者…… 」
教授がポツリと呟く。
「見守る者? なんですか、それは? 」
「歴史を変えるような大きな戦乱の時に現れるという 古代の文献に記されているが何の為に何処から来るのか皆目解からん 私も実際、目にするのは初めてだ 」
「教授っ カイ隊長っ 早くっ 」
ようやく教授を発見したマゴットが叫ぶ。カイも、ハッと我に返り教授の手を引き走り出した。
・・・歴史が変わる なるほど、この戦いはそれだけの意味があるという事か・・・
カイは走りながら考えた。
そして、教授を車に乗せ、自分の愛車に跨ったカイの指示で部隊は一斉に動き出す。
まず、マツのサイドカーに乗ったオータキが聖剣の力で魔獣の動きを鈍くし、単車のタンデムシートに乗ったヒーロー隊の隊員たちが、魔獣に集中砲火を浴びせ突破口を作る。
「よしっ そのまま突っ込めっ 」
その突破口から、次々に単車や車が飛び出し、敵の包囲網を抜けていく。残ったイノとコッコは仲間たちが魔獣に追撃されぬ様、たった二人で戦い始めた。




