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いちがん ーBelieveー  作者: とらすけ
六章 誰かが落とした悲しみ
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 四話・思い


 四話 思い



 倒れたノッコたちの身体を休めるため、しばらくこの村に滞在することにしたミナミは空いていた家を借り三人をベッドに寝かせた。


「すいません、隊長 迷惑かけて…… 」


「何言ってるんだ、ドーバ 凄いじゃないか 僕なんか初陣の時、怖くて動けなくて何も出来なかったよ 」


 ミナミは微笑みながらドーバに言う。


「でも そうだな 戦いの時、倒れてしまうのは良くない 僕たちはチームだ 一人で無理しないで僕やキャスーにも頼ってくれていいんだよ 」


「そうよ あなたたち凄いけど、私たちだって経験値があるから捨てたもんじゃないわよ 」


 キャスーも三人に笑いながら言う。


「老練って云うんだよね 」


 ノッコの言葉でキャスーの顔が強張る。


「お姉様、顔、怖い 」


 ランとミキディが声を揃えて言う。


「だって、ノッコがへんなこと言うから 」


「ごめんなさい へんな言葉だったの? 」


「まあ 褒め言葉なんだけど キャスーみたいな若い人には使わないかな 」


 ミナミがノッコに説明する。そして、壁際に居るアマノに目を向ける。


「アマノさん、率直に訊きますが 今日ぐらいの数の魔獣が襲ってきたら防ぎきれますか? 」


「無理だろうな 今日は君たちがいてくれたから良かったが、僕一人だったら犠牲者が多く出ていたと思う 」


「でしたら、テクノポリスに避難しませんか、村のみんなで 」


 ミナミの言葉にアマノは目を閉じて考え込む。そして、しばらくしてから口を開いた。

「今、この村は高齢者の方がほとんどなんだ 若い人はみんな村を出て行ってしまったからね 残った人達はみんなこの土地に愛着がある人達なんだよ だから、ここを離れる人はいないと思う 」


「でも、このままじゃいずれ…… 」


「僕からも村長に話してみるけどね あまり期待しないでくれ 」


 アマノはそう言うと、ドアを開け出て行った。



 * * *



 翌日、村長の家にミナミとキャスーは向かっていた。


「アマノさんからお聞きと思いますが、この村は今、非常に危険な状態です 村のみんなでテクノポリスに避難、いえ移住しませんか 」


 ミナミがヒラカズに向かって言う。


「足腰の弱い方の為に大型の車を用意します テクノポリスは色々な土地の方を受け入れているので安心して生活できると思います 」


 キャスーも早く決断するよう薦める。


「アマノ君からも最近魔獣の数が増え抑えきれなくなるかもしれないと聞いている だからといってこの土地を離れることは考えられん 君たちの気持ちは嬉しいが、そういう話ならもう帰ってくれ 」


「しかし、村長 このままではみんな魔獣に殺されるかもしれませんよ 」


 ミナミは強い口調でヒラカズに迫るが、ヒラカズは頑として聞く耳持たなかった。ミナミとキャスーは仕方なく村長の家をあとにし、昨日、犠牲となった人の葬儀に顔を出した。そして、焼香を済ませた後、椅子に座っていた老人に声をかける。小さな村ということで、すでにミナミやキャスーの話は伝わっており、老人は、昨日は有難う御座いましたと深々と頭を下げる。


「いえ、こちらこそ力不足で申し訳ありませんでした 」


 ミナミとキャスーも頭を下げ、それでと老人に安全なテクノポリスに移住してはどうかと話を持ちかける。一通り話を聞いた後、老人は申し訳なさそうに答える。


「有難い話じゃが この世に絶対に安全な所などありゃあせん それなら生まれた所で死ぬのが一番じゃ すまんのう 」


 借りている家に戻ったミナミとキャスーは椅子に腰を下ろすとため息をついた。


「その様子じゃ やはり、うまくいかなかったようだね 」


 ノッコたちの様子を見に来ていたアマノが、二人の姿を見て言う。


「僕には分からないよ 命より大切なものがあるんだろうか 」


「あるんじゃないか 」


 アマノがぽつりと言う。


「えっ 」


 ミナミがアマノを見る。キャスーも驚いたように顔を上げた。


「ここのみんなにとって残された自分の命より、これまで生きてきた思い出の方が大切なんじゃないか 」


 そう言うとアマノは淋しそうに笑った。そして、ベッドの上のドーバたちを見ると剣を振るような仕草をみせる。


「ドーバ さっきの話だけどな 自分たちも剣の力を信じてみることだ 」


 何の話か分からないミナミとキャスーを残して、アマノは部屋を出て行った。いつも見せるアマノの淋しそうな顔が、ミナミには気になって仕方がなかった。



 * * *



「今日も隊長は、アマノさんのところですか? 」


 ドーバがショウに尋ねる。


「ああ そうだね 年も近いし、性格も似ているところがあるから、ウマが合うんだろう 」


 ショウは磨いていた剣を太陽の光にかざして見ると、満足したのか剣を鞘に戻した。


「ショウさんも隊長と仲いいんですよね 」


 ショウは、うーんと少し困った顔をすると、仲がいいとかじゃなくて目的が一緒といった方がいいかなと答えた。


「あいつの家が富豪、金持ちなのは知っているだろう 簡単に言ってしまえば孤児だった俺とパンダを育ててくれたのが、あいつの家だったんだ 」


「すいません 変なこと聞いてっ 」


 ドーバが慌てて謝る。


「おいおい、別に謝ることはないだろう 俺もパンダも嫌々やってるわけじゃなくて、同じ目標に向かって一緒に走っているんだから 」


「その、目標って? 」


 ドーバが是非聞きたいという顔で、ショウに尋ねる。


「誓いの言葉を唱和しただろう 明るい未来を取り戻すことが目標だ 」


 ショウは力を込めて言い切る。


「俺たちの親もみんな魔獣に殺されているんです だから、俺たちも明るい未来を取り戻す為に頑張ります 」


 ドーバが拳を固めて言った時、ドーバを呼ぶハーシの声が聞こえた。


「おーい、ドーバ アマノさんに言われたことを試してみたら本当にいい感じなんだ お前も試してみろよ 」


「わかった 今、行く 」


 ドーバは答えると、ショウにありがとうございましたと礼を言い、それじゃあと走り出す。


「頑張れよ、少年 」


 ショウはドーバを見送りながら思う。


 目標を達成するには一人では無理なんだ、誓いの言葉にあったように、みんながいちがんとなって進むことが大切なんだ、俺たちが頑張る事でそのことが広く伝わっていけば、いずれそれは大きな力になるだろう……。


 そう思いながらショウが、空を仰ぐと綺麗な青空が一面に広がっていた。。


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