愛でも恋でも
三題噺もどき―にひゃくさんじゅうろく。
ようやく。
暖かな日々が続く様になってきた。
地域柄、もうそろそろ、桜が花を咲かせ始める。
近くの木はもう既に、蕾が開いているのもある。
―あれは、梅だったかな?
まぁ、どっちでもいいか。
「……」
校舎裏。
の。
自転車置き場に1人いた。
今日は特に部活もないので、さっさと帰ろうとしたのだが。
丁度同タイミングで、友達に会い、一緒に帰ろうということになったのだ。
彼女は、部活もしていないので、もう既に帰っているかと思っていたが。
何やら用事があったらしく、この時間まで学校にいたらしい。
「……」
私もまぁ、同じような理由で。
部活がないとはいえ、一応顔は出さないといけないので。
それで、少し他の部員と話が盛り上がって、少し遅くなったのだ。
さっさと帰ろうと思っていたけれど。
「……」
でもまぁ。
彼女に会えたし、一緒に帰ることになったから。
いいことづくしだ。
「……」
本校の自転車置き場は、クラスごとに違っている。
彼女は少し離れたところに停めているので、校門に近いところに停めている私は待機だ。
その間に、携帯を少々いじったりもしていたが。先生に見つからなくてよかった。
校内では、使用禁止の学校なので。
「おまたせー」
声のした方を見やると。
自転車を押しながら、こちらに向かってくる彼女がいた。
「……」
学校で指定されている、黒色の自転車。
籠の中には、学校鞄と、一応入れられている雨合羽。
「……」
少し前に切った髪の毛は、あの時よりは伸びて。なんだか鬱陶しそうにしている。
風が吹くたびに、うざい……みたいな顔をするのがまた、彼女らしい。
「……」
制服の袖から覗く手首は、ものすごく細くて。簡単に折れてしまいそうな程。
日に焼けたら、さぞ赤くなるんだろうなぁと思う程に、その肌は白い。
自転車のハンドルを握る、指は。きっちりと揃えられていて、爪先まできれいに整えられている。
桜色の爪が、何とも羨ましい。
「……」
スカートは、学校の決まりでひざ下までとなっている。
まぁ彼女は、中学の頃から、スカートは気持ち長めにしていたから。わざわざ短くするなんてことはしない。
靴下は、今はもうくるぶし丈のやつを履いている。冬場は寒いのでタイツを履いているが、もうその時期は終わったようだ。
「……」
風が吹くたびに。
スカートが揺れ。
髪が揺れ。
腕が動き。
視線が逸れる。
―あぁ。
「……」
そのひとつひとつの、しぐさに。
こんなにも、揺れる。
これは、何なのだろうと。
たまに思うのだ。
「……」
ふとした瞬間に襲う、この揺れが。
私にはよく、分からない。
「……」
恋心とは、違うのだ。
「……」
そもそも、恋愛感情というのが、よくわかっていない。
「……」
私は。
人を、他人を「愛する」という感覚が。
あまり、ピンとこない。
「……」
いや、まぁ、別に。
好きな人が居なかったわけではない。
ただ、ただ。
「……」
その感情が、果たしてホントに、恋なのかどうかと聞かれると、途端に自信が持てなくなるのだ。
それは、その感情は。
ホントに、愛ゆえなのかと。恋心なのかと。
問われると。
何かが違う気がして。
「……」
悩みもしたのだ。
いうことを聞かない私の、この感情は何なのだろうと。
同性愛者でもない。
異性愛者でもない。
両性愛者なのかと言われると。
それも違う気がする。
「……」
なんというか。
何だろう。
過去にそういう気持ちに襲われた相手とか。
彼女とかを見ていると。
「……」
鳥籠の中にでも閉じ込めて。
蝶よ花よと、愛でて居たいとか。
私以外の何も知らないままに。
尽き果てるまで一緒に居たいとか。
「……」
監禁でもしたいのだろうか、私。
自分でも怖いと思う。
―怖っ。
「……」
だからきっと、これは恋とか愛とか。
そういうものじゃないんだろうと、思って。
まぁ、それなら持つべきものじゃないだろと、考えて。
毎度毎度、仕舞い込んで。
そのたびに、何だろうなぁと思って。
「どうしたの?」
「…いや、何でもない」
いけない。
少々ぼーっとしすぎた。
いつの間にか、隣に来ていた彼女に。
この感情が漏れるところだった。
「かえろっか」
「うん、かえろ」
自転車を左側で押す彼女の隣で。
私は、右側で押して。
彼女の隣に並んで立つ。
この思いは。
胸にしまって。
友達として。
隣を、歩く。
お題:両性愛者・自転車・鳥籠