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【短編版】THE HANGED MAN~肉壁用ネタNPC(10962体目)はバグったAIにより自我を得たので、12011人のプレイヤーと8人の賢者に復讐を開始します~

作者: だぶんぐる

初めてVRMMORPG作品を書いてみました……。お手柔らかに……。

そして、恐らく初のダーク系です。お手柔らかに……。


※タイトル仮題で、出してしまいました…。

連載時は、タイトルは『ハングドマン』で、サブタイはそのままです…。

 『タルテカルディア・オンライン』

 通称、樽オン。

 大人気VRMMORPGで、ユーザーは世界中にいるが日本人がメイン。

 現在12011名のプレイヤーが登録されている。


 9つの異世界を旅し、各々が自分の夢や目的を目指しながら世界を救う。

 異世界の入り口、始まりの地、イエソディア。

 人族が生きる栄光の地、ホルディア。

 獣人族達が戦い続ける勝利の地、ネツァキア。

 エルフや妖精族が暮らす美の地、ティファレント。

 竜族が治める峻厳の地、ゲブラリア。

 命無きモノ達が許された慈悲の地、ケセディア。

 ドワーフが作り出した理解の地、ビナリア。

 魔族が集う知恵の地、コクマリア。

 神達の楽園、カルディア。


 陽と陰でがらりと姿を変える九つの地が存在し、その全てを総称して『神々の地、タルテカルディア』と呼ばれている。



 プレイヤーである人間達は、ダイブシステム【マルクトの棺】と呼ばれる機械を使って、現実世界、タルテカルディアでは『マルクティア』と呼ばれる世界から、タルテカルディアの世界にやってくる。

 現実世界(マルクティア)よりもタルテカルディアの時間の流れの方が四倍速く進む。



 開発したのは、八賢と名乗る人物たちで詳細は不明。

 だが、人気動画配信者達や有名プロゲーマー達が、その世界のリアルさ、痛覚を除くその他の感覚が現実のように感じられ没入感が凄すぎると紹介した事で人気は爆発。

 人間達はこの世界にハマっていく。


 ……。


 カードシステム。

 クロススプレッド。

 リスポーン。

 デスペナ。

 プレイヤーキル。



 全ての情報がオレの壊れた頭の中に流れ込んできて、オレは自分の事を理解する。


 オレはハングドマンという種類のNPC。

 NPC、ノンプレイヤーキャラクター、つまり、人間が操作しないゲームの中だけに存在するキャラクターだ。

 そして、このハングドマンは、


「おい! とっとと俺達の前に出て死ね! 肉壁共!」


 プレイヤーを守る為に自身を犠牲にするだけのネタキャラと呼ばれる存在だった。




 ハングドマン(吊られた男)

 ホルディアのトトカ島と呼ばれる島にいる種族。

 弱いが繁殖力が強いらしく、数は無限に生まれるので、ソロプレイヤーのお手軽お供な存在。

 また、ハングドマンはプレイヤー一人につき10体までは連れて歩けるので、肉壁としてよく連れていかれる。この仕様はバグだと思われていたが、八賢の発表によると『こういうキャラがいて命の儚さを知ってもらえたら(笑)』という公式からのメッセージが出ているのでバグではないらしい。かわいそうなハングドマン。

 装備もスキルもなんでもいけるが弱すぎるので意味がない。

 というか、多分、製作者側も適当に作っている。

 ハングドマンをいかにかっこよく〇すかという動画が流行っているが、いのちはだいじに。




 これが人間の世界のサブカル百科事典に記載されているオレたちの情報らしい。


 そして、今まさにオレ達は肉壁にされていた。


 目の前では、オレとそっくりな奴らが一つ目の巨人に蹂躙されていた。

 巨人の腕が振り下ろされるたびに地面は揺れる。その度に全く同じ悲鳴が色んな所であがる。

 それは地獄絵図だった。


 オレはそれをただ見ていた。

 何もできなかった。怖かったから。


 怖い?

 そう、オレは怖いと思っていた。


 大量のハングドマンの中でオレだけが震えていた。


 理由は多分、オレの中に流れ込んできた情報のせいだろう。

 何故か、オレだけが、『感情』を獲得していた。


「はっはっは! さあさあ、肉壁ハングドマンども、精々役に立てよ!」


 『愉悦』という感情のこもった言葉と共に駆け出していくオレ達とは全く違う立派な鎧姿の金髪騎士が一つ目の巨人に向かって駆けていく。

 巨人の腕がオレそっくりの奴をつぶしている隙に、剣を振り下ろす。

 すると、巨人は顔を歪め、雄叫びを上げる。


「ぐおおぉお!!」


 その声を聞いているだけで、体が震えた。

 だけど、あの男たちは平然と戦っている。

 死が怖くないのか。

 その時、気付く。

 アイツらの頭上にある文字を。

 オレ達にはないモノを。


【ユーゴ】


 あれが、プレイヤーだ。あの頭上の名前がプレイヤーの証。

 オレ達には、ない。それがプレイヤーとNPCを見分ける方法らしい。


 そして、プレイヤーとNPCの違いの一つ。

 彼らは、死なない。

 いや、正確には死ぬが、リスポーンというシステムで、登録した街で蘇ることが出来るらしい。

 死ぬことで、デスペナという制限を受けるらしいが、二度と生きられないわけではない。

 だから、彼らはあんな風に戦えるのだ。


 オレ達は、死ぬ。

 だけど、NPCに自我など普通ない。死を恐れず、プレイヤーの命令に従い、敵に向かって突っ込んでいくのだ。死への恐怖は存在しない。


 オレ以外、死など怖くないらしい。


「さあ、全部吹っ飛ばしてやるわ! 轟炎(メガファイア)!」


 クルクルした紫髪の女が魔法を放つと、炎はハングドマンを巻き込みながら一つ目の巨人にぶつけられる。


「キャハハハハ! 前衛ばっかに攻撃集中するから楽だわー。ああ、ごめんね肉壁ちゃん巻き込んじゃって☆」


 【ミラ】

 あの女の名前。


「よお~し、逝ってこい。肉壁共、せいぜいいい爆弾になってね」


 小柄な銀髪の少年がこのゲーム独特のシステム、カードボードで様々な効果を生み出す魔法道具『カルド』を操作し、ハングドマン達に何かを装備させ、突撃させる。

 一つ目の巨人に向かったハングドマン達は、次々に爆発しながら肉片を撒き散らす。


「へへへへ~、肉壁爆弾。これって大発明じゃね?」


 【レン】

 あの子供の名前。


「近寄らないで、気持ち悪い。貴方達を治す魔力なんて1ポイントもないの。治癒(ヒール)治癒(ヒール)……」


 目の前で死んでいくハングドマンには目もくれず、プレイヤーだけを治癒する女。

 ハングドマンの仕様なのだろう。限界ギリギリのハングドマンは神官風の彼女の元に集まっていくが、誰もその恩恵に預かれず、死体の海が広がっていく。


治癒(ヒール)。みんな、頑張ってね。みんなを私が癒してあげるから」


 【ユカリ】

 あの神官の名前。


「おい、お前」


 背後で男の声がする。

 オレを含めたハングドマン達が数人振り返る。

 ニヤついた顔の大柄な男。


「さっさと、俺達の為に肉壁になれ、よ……!」


 そう言って、オレの隣にいたハングドマンを蹴って、一つ目の巨人の元に飛ばし、攻撃を誘発させる。蹴られたハングドマンは一つ目に潰される。

 そして、


「うおっりゃああああ! トマホーク!」


 片手斧を一つ目巨人に投げつける。


「よっしゃああ! ヒット! いやあ、やっぱ広範囲フィールドボス戦はハングドマン使えるから余裕だわ」


 【ガイ】

 この外道の名前。



 覚えたぞ。

 お前達の名前。


「あーあ、ついでに巻き込まれた肉壁の経験値も入ったら便利なのに」

「どーせ大したモンもらえないでしょ? 50体用意してこんな簡単にほとんど死ぬんだから、きゃはは! マジで雑魚すぎる、ハングドマン」

「弱すぎ」

「まあまあ、尊い犠牲だぞ。肉壁に感謝しようじゃないか。俺達の為に犬死にありがとうって」

「まあ、いなくても勝てるけどな。デスペナ対策なだけの存在だよな。あとは、ネタ動画用」


 本当に尊い犠牲となったのなら、浮かばれるかもしれない。

 だけど、コイツ等は、何も感じちゃいない。

 オレ達の死に。


 その時、オレの中に熱い何かが流れ込んでくる。

 そうか、これが……『怒り』か……。


 冷たい。これが『悲しみ』……。


 こんな風に馬鹿にされ、笑われ、殺され……オレ達は何のために生まれたんだ。


 『恐怖』『怒り』『悲しみ』三つの感情がごちゃ混ぜになって溢れ出そうになったその瞬間、オレの中に一つの言葉が生まれた。




 『復讐』




 そうか、復讐だ。

 オレは復讐の為に生まれたんだ。

 感情あるNPCとして、神がオレを選んだんだ。


 ならば、オレのやることは一つ。


 コイツ等にオレ達と同じ恐怖を刻みつける。


 だけど、今は出来ない。

 流れ込んできた情報から分かる。

 アイツらの装備品は強い。そして、オレは弱い。スキルも一つを除いて大したものではない。

 仮に、思い切って襲い掛かって一人殺せても、他の奴らに殺されて終わりだろう。


 だから、今は、なんとか生き残るんだ。

 その為には、アイツらを殺さなければならない。


(やってやる……! ここから、オレの復讐が始まるんだ……!)


 オレは全員の視界に注意しながら、戦っているフリをしつつ、意思無きハングドマン達の中に紛れ込む。プレイヤーは、ハングドマン等のNPCキャラには大雑把な指示しか出せないので、目立ちすぎなければ気付かれることはない。指示に従うふりをして、ゆっくりと移動していく。その間にもハングドマン達は殺されていく。


 オレは回避行動のフリをして、ミラの背後で控える4体のハングドマンに紛れ込む。


「よーし! 次の二体、アタシの前に並んで突撃! って、え……?」


 ミラが、近距離でしか使えない大魔法を放つために一つ目巨人に近づき、デコイのハングドマンを前に出そうとしたその時、オレはそれに紛れてミラの背中に突撃した。

 ミラは、驚愕の表情を浮かべ、一つ目の巨人に向かって飛ばされていく。

 そして、見た目と攻撃力だけに特化した紙装甲な上に自身の防御力がほぼ皆無となった魔術師は一撃で倒されてしまう。


 光となって街へ飛んでいくミラを見て、パーティーメンバーが驚く。


「な、なんだ!? 何故ミラが!?」

「あの人、ハングドマンと自分の位置を確認不足のまま動かしたんですよ。マジ低能ですよ」

「おい、レン」

「大丈夫ですよ。リスポーンして距離あるからボイチャ範囲外になってますし。それより、ユーゴさん。ミラさんが残したハングドマン、僕の肉壁爆弾に使って良いですか? あの馬鹿女より有用に使えますから」

「構わない! 足りなくなったら言え! ボクは近距離戦闘でハングドマンに指示があまり出せないから」

「りょーかいでーす。じゃあ、ちょっと移動しますね~」


 レンはそう言って、オレを含む元ミラのハングドマンに近づく。

 そして、アイテムストレージから爆弾を取り出すと、俺達5体に渡していく。


「は~い、じゃあ、精々きたねえ花火になってね☆ 行ってらっしゃ~い」


 そうレンが言って命令を出すと、爆弾を持ったハングドマン達は駆け出していく。

 ……プレイヤーたちに向かって。


「お、おい! レン、てめえなんで爆弾ハングドマン達が俺達に向かってきてんだよ!」

「え? あ、あれ? おっかしいなあ、ははは……って、ちょ、ちょっとバカ! 来るな!」


 最初に辿り着いたのは、当然近くに居たレン。

 駆けてくるハングドマンに対し命令をするが、もうレンの命令には従わない。

 爆弾を持って突撃する。そして、爆破。

 二個分の爆弾をモロに喰らった防御力ほぼ皆無にされたレンも光となり消えていく。


 そして、それぞれに飛び込んでくる爆弾ハングドマンに、ユーゴとガイは対応を迫られる。


「くそ! この距離じゃ間に合わない! なんでだよ! バグか!?」


 ユーゴに向かって爆弾ハングドマンが迫る。距離も近かったせいで、防御態勢しかとることが出来ず、爆発をモロに喰らう。


「ちい! どうなってやがる! くっそが! トマホーク!」


 ガイは、手斧を投げつけ、爆弾ハングドマンが近寄る前に殺す。


「はっはっは! バカNPCが人間様に勝てると思うなよ」


 バカプレイヤーが、そう簡単に生きられると思うなよ。


「こうなりゃ俺が全部ぶっ殺して……あ、あがあああああ!」


 背後から迫ってくるハングドマンに気付けず、ガイは背中からモロに爆弾を喰らう。

 だが、戦士であるガイは流石に一撃では倒せず、まだ生き残っている。


「ちい! くそ! こんなの想定してねえからポーション買ってねえよ! おい! ユカリ回復だ!」


 レンとの距離もあったため爆弾ハングドマンに襲い掛かられなかったユカリは、死体の海を踏み越えながら、呆れたような目をガイに向ける。


「分かりました。白炎(ホワイトファイア)……え?」

「はあ!? テメエ、何やっ……ばかがああああ!」


 回復と攻撃を間違えたユカリの一撃は強力で、一つ目巨人対策用に物理防御重視にしていたガイはそのまま白い炎に包まれ光となって飛んでいく。


「な、なんで……?」

「ユ、ユカリ! 今日のタルテカルディアはおかしい! 何かしらのエラーが起きているようだ! あとで、運営に文句を言ってやろう!」

「エラー、なのよね……でも、こんなエラーおかしくない?」


 ユカリの不安そうな表情を見たユーゴは少し目を伏せ考えると顔を上げて口を開く。


「……一応エラーじゃなかった時の為に、一つ目巨人は倒しておこう。回復を」

「で、でも、さっきガイに使ったつもりが攻撃魔法が」

「なら、攻撃魔法を使ったら回復魔法になるんじゃないか? とにかく、回復出来なければ全滅だ。やるだけやってくれ!」

「わ、わかった! じゃあ、逆の……白炎(ホワイトファイア)……え?」


 回復と攻撃を今度は間違えなかったユカリの白い炎がユーゴを襲う。


「う、うわああああ! ……はあっはあ、ユカリ、君は……って、うわああああ!」


 ユカリの攻撃魔法を耐えたユーゴだったが、次に襲い掛かってくる一つ目巨人の一撃には耐えられなかったようだ。べしゃりと潰れて、光となって消えていく。


「そ、そんな……! わ、私一人? こ、こんなのどうし……え? 真っ暗? なんで!? マルクトの棺の故障!?」


 突然、『オレを死体と間違えて踏んでいる』ユカリが慌て始め、ウロウロと動き出す。

 そして、足が外れたオレはユカリの身体を掴む。

 ビクリと震えるユカリだったが、いきなり金切り声で『キレ』始める。


「だ、誰よ! ねえ、誰! こんな悪戯してるの! ちょっと、何も見えないんだけど!」

「そりゃそうだろ、オレが視界を『バグらせた』からな」


 オレはとんでもなく愉快だとばかりに嗤いながらユカリに話しかける。

 ユカリは杖を振り回してオレから離れるが、視界が見えないために見当違いの方向に振り回している。


 オレのスキル〈致命的な過ち(グリッチ)〉。



 恐らくバグによって生まれたスキル。

 対象の『何か一つを一時的におかしくさせることが出来る』スキルだ。


 ミラの防御力を、レンの命令、そして、爆弾ハングドマン達の動きを、ユカリの行動、そして、今は視界をおかしくさせた。

 これで、証明された。オレは、戦える。プレイヤー達と。


「ちょっと、バグ技使ったプレイヤーキルなんてクソみたいな事やってたらバチが当たるわよ!」

「バチ? 罰か? はっはっはっは!」


 神から何か罰が与えられるならやって欲しい、ゲームの中まで来られるなら。

 いや、それならこいつ等に与えろよ。


「この、クソプレイヤー!」


 オレをプレイヤーだと思っている。そりゃそうだ。こんなに流暢に人間を馬鹿にしたように喋れるNPCなんていると思わないだろう。AIの進化によって、ほぼ人みたいに喋り学習していけるようだが、人間には逆らわないようにプログラミングされているらしい。

 だから、バグったことで生まれた意思持つNPCなんて想像もしてないだろう。


 だが、こうやってプレイヤーと誤解してくれればそれでいい。

 運営である八賢の目を掻い潜りながらオレは復讐しなければならない。

 オレなら、出来る。このパーティーだけでなく、オレ達を殺していったプレイヤー共に!

 一万人のプレイヤー共に復讐を!


 これはその狼煙だ。


「ちょっと! 聞いてんの!?」

「聞いてる聞いてる。けどさ、いいのか? オレの方に集中してて」

「え?」

「目の見えない神官対一つ目巨人。かなり不利だよな、まあ、精々頑張れ」

「きゃ、きゃああああ! こ、来ないで来ないで! ハ、ハングドマン! なんとかしなさい!」


 ユカリの叫びは空しく、誰も動かない。

 オレがハングドマンの『指示に従う』のを一時的におかしくさせた。

 ハングドマンは受けることのできない指示を待ち続け、残ったプレイヤーのユカリをじっと見ている。


 オレにはその目に恨みや悲しみが込められているような気がしたけど、それはバグったオレの勝手な解釈だろう。

 オレも同じようにユカリを見つめる。

 みっともなく杖を振り回し泣き叫んでいる人間を。


「やめて! こっちは見えないのよ! 卑怯だと思わないの! くそ! くそ! くそ! 運営が! クソゲームが! バグだらけじゃねえか! くそ!」


 ユカリが悪態を吐きながら、攻撃を喰らい続け、そして、光となって街へと飛んでいく。

 残されたオレとハングドマン達は、持ち主であるプレイヤーが死ぬと、元いた島に送られるらしい。


 光に包まれながら、オレは思った。

 確かに、クソゲーだ。この世界は。オレにとって。

 だから、バグらせてバグらせて滅茶苦茶にしてやる。

 この世界の人間共を、そして、この世界を作った八賢共を。


 島に戻ったオレは、早速、12011人のプレイヤーと8人の賢者への復讐の為に動き出した。




 数か月後。


「お、おい! なんだ!? なんのつもりだ! なんで肉壁が、こんな強くて、いや、なんでプレイヤーに逆らってんだよ!」


 オレはガイを見下ろしながら笑っていた。


「マスター。早くしないと他の人間に気付かれますよ」

「分かってる。エン」


 同じ恩恵(バグ)を生み出すことに成功した、樽オンではお色気用キャラであったフールのエンに窘められ、オレは短刀を取り出す。


「は、ははは! お前ら、NPC如きが人間様に逆らうのか!? クソバグだな! 最近、樽オンが話題になりまくってると思ったらこういうことか!? でもな、こんな事実知れたらてめえらなんて一瞬で消去だ! いや、ゲームごと抹殺だ!」

「それはさせない」

「やれるもんなら、やってみろよ……てめえらが追っかけられない所に俺は行けるんだよ……じゃあな、ログアウト! ……あれ? ログアウト! ログアウト! な、なんで……」


 『ログアウト機能』をおかしくされたガイが狂ったように叫んでいる。

 オレはそれを無視して短剣を近づける。


「こ、殺すのか!? 殺しても無駄だ! 俺達は何度でもリスポーン……!」

「こっちの世界ではそうだな。だから、向こうの世界で死にたくなるくらい、心を痛めつけてやるよ。よかったよ、痛覚以外は本物同様に感じられるんだろ? 刃物が目に近づく恐怖だけならマルクティアも共通だ」

「お前、まさか……や、やめろおおおお! やめてぇえええ!」


 オレは、プレイヤーの入れないバグエリアに連れて行くと、ガイに馬乗りになり、何度も何度も死なない程度に死の恐怖を刻みつけた。





 その、翌日。


「どうなった?」

「新貝裕次郎は何も言わず自殺。遺書には、タルテカルディアオンラインとは関係ない理由を書いていたらしいわ」


 オレはその報告を聞いてほくそえむ。


「やはり、出来るな……徹底的に心を折って操り、現実世界で殺す」

「本当に全員殺す気?」

「全員じゃないさ。お前やギャザのようなオレ達を悪戯に殺してないヤツらは出来るだけ見逃してやるつもりだ。まあ、逆らえば殺すがな」


 プレイヤーであるヒナは薄く笑う。


「逆らうつもりなんてないよ。ただ、アタシの指定したプレイヤーは絶対に殺してね。アタシの弟をいじめで自殺に追い込んだあのクソヤローだけは」


 どうやらタルテカルディアでのクソは現実世界でもクソなヤツもいるらしい。

 まあ、そいつらのお陰で、オレは現実世界に戻れるプレイヤーの仲間を得ることが出来たのだから感謝しかない。殺すけど。

 次の作戦会議を始めようとしたその時だった。


「バグ! いるんでしょ! 昨日の自殺はあなたがやったんじゃないの!?」

「……またうるさいのが来たな」

「彼女、君にご執心のようだね。あーあー、君が気まぐれに彼女をプレイヤーキラーから助けちゃうから」


 ヒナはオレを揶揄うように笑う。


「もう一人の聖女も来ているようです。マスターの行動を止めたいのでしょう」


 エンがじとっとオレを見てくる。

 随分感情が生まれたものだ。


 しかし、理解できない。

 彼女達はオレの目的を知っている。

 なのに、何故、オレを殺そうとせず、止めようとする?

 オレはプレイヤーと違って一度殺せばそれでおしまいなのに。


「……アイツらもバグってるってことかもしれないな」


 オレはそう呟きながら、その場を後にする。

 アイツらを殺すのはめんどくさい。

 出来るけどめんどくさい。


 だから、殺さない。

 それだけだ。


 だけど、オレ達を、NPCを、ゴミのように扱った奴らだけは、許さない。

 そして、そんな風に作った八賢を。


 オレはバグによって生まれたワープポイントで、オレと同じ復讐者と一緒に、残り12001人の中のクソ野郎を殺しに向かう。


「オレ達の復讐は、これからだ……!」

お読みくださりありがとうございます。

また、評価やブックマーク登録してくれた方いたら本当にありがとうございます。


少しでも面白い、続きが気になると思って頂けたなら有難いです……。


よければ、☆評価や感想で応援していただけると執筆に励む力になりなお有難いです……。


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