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第1話 序

「めーん」


 大きな踏み込み音とともに竹刀が小太りの男の()を捉えていた。


 小太りの男は襲い来る攻撃の軌跡をしっかり捉え、手首を返して竹刀で受け止めようとするが、相手のスピードに太刀打ちできず綺麗に()を打ち抜かれて尻餅をついた。


三流(みるる)、まだまだだな。下級生にも敵わないから三流(さんりゅう)ってバカにされるんだぞ」


 審判を務める主将(キャプテン)緋村(ひむら) 剣聖けんせい(げき)がとぶ。


 クスクス笑いながら胴着を纏った女子が遠くから見つめていた。


 僕は速水(はやみ) 三流(みるる)、高校2年生。剣道部に入ったばかりだ。笑っている女子は幼馴染の緋村(ひむら) 一葉(かずは)、キャプテンの妹でもある。



 なんで2年生になってから僕が剣道部に入ったかというと1カ月前に遡る。




 ○。○。○。○。


 居残りさせられた帰り道、偶然に幼馴染の一葉と一緒になった。 


「ちょっと()()()、いい加減に痩せろよな」


 一葉のあの目は子供の頃に毛虫を見ていた目、その目は明らかに僕のたぷんたぷんとしたお腹に向けられている。


 彼女はとある事情で中学でグレてヤンキー化、しかも暴走族を木刀一本で壊滅させたことから影の総長と呼ばれて周囲に恐れられるようになってしまった。

 勉強も苦手、スポーツも苦手、陰キャで小太りな僕は格好のいじめのターゲット。いじめっこだけじゃなくってクラスメイトも彼女と幼馴染であることを知った途端に距離を置かれたっけなぁ。


 いじめられることはなくなったが()()孤立状態。が、心配することなく学校に通えるようになったのである意味感謝している。


「そんなこと言っても僕は将来プログラマになりたいんだ。今のうちからパソコンにゲームにプログラミングと色々と触れておきたいと思っているんだ」


 陰キャな僕が彼女だけには自分を出せる。小さい頃はおとなしかった一葉を僕が引っ張っていたこともあって唯一気を使わないで接することの出来る友人である。


「お前なー、なに陰キャなことを言ってるんだよ。何をやるにも体力は資本、わたしが鍛え直してやる!」


「ちょ、ちょっと待ってよ。でも一葉は随分変わったよな。まさか暴走族を潰すなんて」


「その話はもういいだろ。剣聖兄さん(剣にぃ)に負けた腹いせに襲われたんだから。それを返り討ちにしたってだけだ」


「それで総長か。おかげで僕も一葉の身内だと思われてみんなから避けられてるけどね」


「ハッハッハ、おかげでイジメがなくなったんだろ、感謝してもらいたいくらいだ」


 力強い喝。手の形に強い痛みを背中に感じて咳き込んだ。


「まったくバカ(ぢから)が……。少しは女の子らしくしたらどうだい」


 一葉の額に怒りマークが見える。ひとつ、またひとつと増えていく……目はつり上がり手は腰に。かなり立腹しているのが見て取れる。


 ……一葉は額の怒りマークを振り払い、優しい表情をこちらに向ける。猫の目のようにコロコロ変わる表情(かお)、そんな可愛らしい顔を向けられるとドキドキしてしまう。


「みるる、こうしよう。わたしはグループを抜ける! その代わり2年生から一緒に剣道部に入るんだ。目標はみるるが痩せること!」


 グイッっと近づく顔、人差し指を伸ばして横に振り力説された。



 目線を地面に向けて頭の中ではやらない理由作りでフル回転。しかし……幼馴染を悪の道から引き戻すチャンスでもある。


 お花を摘むだけで可哀そうって怒ってた子供の一葉が浮かぶ。『みるるちゃん、みるるちゃん』って後ろを付いてきて可愛いかったなぁ。


「おい 三流(みるる)、口元が緩んでるぞ! 何()()けてるんだよ。どうするんだ」


 頬をマッサージしていつもの顔に戻す。昔なじみの彼女が普通の女の子に戻ってくれるなら喜んで受けよう……スリムとなった僕、おしとやかな一葉とふたりでデートする妄想が膨らむ。


「よし、分かった! 絶対に痩せて見せる!」



 ○。○。○。○。




 2年生になって(入部して)1カ月。運動部の辛さが身に染みる。筋肉痛なんて当たり前、打ち身に擦り傷、お腹の膨らみはすっかりなくなったが、1年生(新入生)に負け続けるのは精神的に辛い。


 全身の筋肉がぶちのめされたように疲れ、棒のような足を引きずって家路に向かっていた。


「女の子?」


 透明感のある瑠璃色の髪をした女の子が道端に座り込んでいる。よく見ると顔は汚れ服はボロボロ。


 人通りは少なくないが素通りする人ばかり、声をかけるべきか……いやしかし変質者として見られたら……尻ポケットに手を伸ばすがスマホがない。


 バッグに入っている教科書を掻き分け、胴着の合間をまさぐりスマホを探す。こんなことなら普段から綺麗にしておくんだった。


「あった!」


 ノートの隙間、授業中に調べ物をしてそのままだったことを思い出す。慌てて警察に電話をかけようと画面をタップしながら目線をチラリ女の子に向けると……「あれ? いない……」


 いたはずの場所、特に変わった様子はなくまだらに人が歩いているだけ。


 キラーン──。


 傾いた陽の光が落ちている何かに反射して眩しく光った。


 細長く伸びた鍵の影を僕の影が覆う。


 手にはひんやりとした感触……レトロな雰囲気の金色の鍵。頭は太陽の装飾が施され中央には透過率の高いガラス玉がはめ込まれている。鍵山は2本の歯が連なったような形状をしていた。


「女の子のかな? 家の鍵かもしれない……届けてあげないと」


 ブレザーのポケットにつっこむとほのか温かみ。その温かみを手の平に感じながら彼女が消えたであろう方向を探し始めた。


 うーん、どこ行ったんだろう……


 公園や神社、人通りの多いところや路地裏に至るまで女の子を探し廻った。陽が落ちるまで走り回ったが結局見つけることは出来なかった。


 月明かりが僅かに照らし始めた時間、近道である畦道をトボトボ歩いて家に帰っていると跨道橋(こどうきょう)下にある小さなトンネルを通りがかる。そこには一人の女性がうずくまっていた。


 ……見知った女性。


「一葉……」


 駆け寄って一葉の上体を抱き起こす。体中に怪我をしているのが闇の中でも分かった。


「ふふふ、あと1回勝てば全て制覇だな」


 掴めばすっぽり手に収まりそうな華奢な肩、細い肢体、柔らかな体の奥に感じる締まった筋肉。


「一体何があったの! それにあと1回勝て何のこと……」


「ああ、チームのメンバーは剣道を応援してくれたんだけど、シマ(縄張りを)を狙う3つのグループに襲われてな。さっき2つ目を返り討ちにしたからあと1つを倒せばおしまいってわけだ」




 最後の暴走族(グループ)に襲われた時、みんなの人生が変わることとなった。


 新シリーズ第1話お読みいただきましてありがとうございます。最近は、謎を残すような小説を書いてきましたが、ファンタジーを主を置いたものを執筆してみたいと思い書き始めました。心が折れない限りは最後まで執筆して行きたいと思っております。途中で折れたら申し訳ありません。


《人物紹介》

 ・速水はやみ 三流みるる

   三流主人公、高2から剣道を始めた陰キャ

 ・緋村ひむら 一葉かずは ※みるるの幼馴染

   緋村流剣術道場の末娘。小さいころに兄を倒し破門された。


 ・緋村ひむら 剣聖けんせい ※一葉の兄

  緋村流剣術道場の次期跡取り。剣道部主将、双子の弟は副主将


 瑠璃色でボロボロの女の子

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