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私の名はマルカ【連載版】  作者: 眼鏡ぐま
●学生時代編
72/121

72.自重とは

いつも読んでいただきありがとうございます。

 

 一度気持ちを口にしてしまえば不思議なもので、あんなに緊張していたのに今はとても満ち足りた気持ちになっていた。

 今までも、色々な人に助けられながら生きてきた。

 だけど、どこかで独りで頑張らなきゃいけないと思っていた。

 誰かに甘えることは苦手だと思っていたけれど、クライヴァル様にならそうしても良いのではないかと、そんな風に思った。


「クライヴァル様……私のこと、置いて行かないでくださいね」


 私を独りにしないでくださいねと珍しく弱音を吐きながらクライヴァル様の肩に頭を預けると、一瞬肩がピクッと跳ねた。

 そしてゆっくりと腕の力が緩められ、クライヴァル様と視線が絡んだ。

 いつもよりも血色の良い頬、赤さの残る耳を見て「ふふ、顔赤いですよ。なんだか可愛い」と言えば、一瞬眉を寄せた後私の左頬に手を伸ばした。


「さっきのマルカ嬢ほどじゃないだろう?あの顔を見た時、私がどれほど嬉しかったか」

「そんなにですか?」

「ああ。分かっているのに君の口から直接聞きたいと懇願するほどに可愛かった」


 クライヴァル様はそう言って笑うと、姿勢を正してから私の手を取った。

 そして一つ咳払いをすると、私を見つめて「マルカ嬢」と、いつになく真剣な声音で言った。


「クライヴァル・アルカランデは君を我が妻にと望む。君と永く共にいられるように努め、生涯をかけて君を幸せにすると誓う。……君を愛している。私が私であるが故、色々と面倒なこともあるかもしれないが、それでも私の隣に立ってくれるか?」


 お互い気持ちを確かめ合ったのだから何を今更という気はする。

 けれどこれは大切な事なのだ。

 クライヴァル様は貴族。

 平民の恋人同士と違い、彼と想いを交わすということは、よほどの事が無い限りそのまま婚姻を交わすという事に他ならない。

 しかもクライヴァル様はその中でも公爵家の人間で、将来アルカランデ公爵家を継ぐ人なのだ。

 公爵様たちが認めてくれるなら大っぴらに何かを言われたりすることは無いだろうが、陰でこそこそねちねち言ってきたり、嫌がらせをしてくる人はきっといる。

 それでも自分の隣に立つ覚悟はあるのかと、そう言っているのだ。

 もちろんクライヴァル様は私の答えなんて分かっていることだろう。

 だって散々その事で待たせたのだから。

 それでも今ここで私の気持ちをはっきりさせておくのは大事なことだ。

 だから私はにっこり笑ってクライヴァル様を見つめ返した。


「もちろんです。私、マルカはアルカランデ公爵が嫡男クライヴァル様と、生涯共にあることを望みます。面倒事が何ですか。私を誰だと思ってるんです?他でもないクライヴァル様が選んだ女ですよ?そんなものは返り討ちにしてみせます」


 空いている方の手でむんっと握り拳を作ってみせれば、クライヴァル様は目をぱちくりとさせた後、声を出して笑った。

 一頻り笑うと、「この想いは生涯マルカ嬢だけに」と言って握っていた私の手に唇を寄せた。

 唇が触れたところからじわじわと熱が全身に広がって行く。

 今までなら恥ずかしさでどぎまぎしていただろうが、クライヴァル様に気持ちをきちんと伝えたことで、本当の意味で心が通ったと思える今はそれだけではなかった。

 恥ずかしさと緊張よりも嬉しさ、喜びが上回り、私も何かお返ししたくなった。

 私はソファから少しだけ腰を上げて、クライヴァル様の頬にチュッと口づけを贈り「ふふっ、私も生涯クライヴァル様だけです」と告げた。


「クライヴァル様?」


 クライヴァル様は目を丸くしたまま私が口づけた頬に手をやり、そのまま動かなくなった。

 言葉通り、固まってしまったと言ったほうが正しいか。


「あの、クライヴァル様?」


 もしかしていきなり頬に口づけるなど引かれてしまっただろうかと不安に思っていると、クライヴァル様はいきなり私の両肩を掴んで項垂れた。

 そしてクライヴァル様は無言のまま私と距離を取るようにソファの端まで離れると、真っ赤に染まった顔を上げた。


「……マルカ嬢、君は私をどうする気だ……」

「どうするって……幸せにします」

「っちが、いや、そうではなくて……はあぁ。ありがとう。だが、ちょっとそこに座りなさい」

「もう座ってますが」

「そうか、そうだったな、ああ、そうだ、少し落ち着こう」


 クライヴァル様がおかしくなった。

 こんな姿を見るのは初めてだから少し面白く思っていると、何度か深呼吸を繰り返しやっといつものクライヴァル様に戻った。


「今までと態度が違い過ぎやしないか?いや、それはまあ良いとして。煽るのは止めて欲しい」

「煽る?そんなつもりはないですが、もう私たちは恋人同士ですよね?」


 そう私たちは恋人同士になったのだ。

 これくらいのスキンシップは普通だとこの前読んだ恋愛小説にも書いてあった。

 私がそう自信満々に言うと、クライヴァル様は渋い顔をして眉間を揉みながら「その本の内容は一旦忘れてくれ……」と言った。


「私は君を大事にしたい」


 もうこれ以上無いくらい大事にしてもらっていると思う。

 そう思ったが、クライヴァル様が言いたいのはそういう意味ではないかと思い、口を挟むのを控える。


「今までも君を抱きしめたいのを耐えていると言ったことがあるだろう?片恋の時ですらそうだったんだ。完全に想いが交わされた今では箍が外れやすい。今も自分から抱きしめたくせにこんなこと自信満々に言うことではないのは分かっているが、マルカ嬢もそれを理解してほしい」

「……つまり、うっかり手を出してしまいそうになるから想定外な過度の接触は避けろと言うことですか?」

「……直訳しなくて良い」


 頬への口づけくらいならば問題無いのではと思ったが、クライヴァル様に言わせると、女性からのその行動は過度な接触と見られることがあるらしい。

 男性からされてそれに応えるのは良いらしい。

 何それ、面倒臭い。


「それも夫婦間や、婚約者を相手としてならばだ。マルカ嬢は私の気持ちを受け入れてくれたが、残念なことにまだ婚約者ではない。私たちの関係性を公にするまでは私も自重する。君のことを遊び相手だなんて噂でも思われたくないからな」

「なるほど」


 つまり、婚約者ならまだしも今の状態だと良くて愛人候補、悪ければ一時の遊び相手で飽きたらさようならだと思われるということらしい。


「と言うわけで、私は早々に君を婚約者に据えたい」

「へ?」

「明日さっそく父に許可をもらおうと思うが構わないだろうか?」

「あ、はい」


 お互いの気持ちだけではなく色々なものが絡んでくるのが貴族というものだったなと改めて考えていると、クライヴァル様にこう言われ、思わず返事をした。

 そして、私の返事に嬉しそうなクライヴァル様を見て、そんなに早く婚約って成り立つのだろうかとか、そんなに私を抱きしめたいと思ってくれているのかとか恥ずかしいことを考えているうちに、いつの間にかサロンを出て部屋の前まで送られていた。

 人って無意識でも歩けるものなんですね。

 扉を開けて部屋に入る前に「マルカ嬢、明日は私が迎えに来るまで待っていてくれないか?」とクライヴァル様が言った。

 お茶会のことだとすぐに分かった。


「分かりました。待ってます」


 私が笑顔で答えると、クライヴァル様は急に辺りをキョロキョロと見渡すと、私の前髪をそっと避けて額に口づけを一つ落として甘い笑みを浮かべた。


「ありがとう。おやすみ」

「おやすみなさい」


 パタンと扉を閉めて私はベッドに向かった。

 そしてそっとまだ感触の残る額に手をやり、パタッとベッドに倒れ込んだ。


(今、額に口づけされたわよね。……自重って、何?何なのよ!?)


 一体どこからが過度な接触なのか。

 頬は駄目で額は良いとでも言うのか。

 クライヴァル様の自重とは一体何なのか。

 自重などとどの口が言うのか。


(……私の額に口づけたのと同じ口よね……って違う!そうじゃないでしょう!!)


 完全なる不意打ちで私の心を乱して去って行ったクライヴァル様に見立てた枕をバシバシと叩いた私は悪くないと思う。

 悪くないったら悪くない。



今回も糖分多めでございました。

振り回し、振り回される二人でした。



ブクマ&評価&感想、誤字報告などありがとうございます。

やる気が増します(`▽´*)フッフー!

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