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私の名はマルカ【連載版】  作者: 眼鏡ぐま
●学生時代編
71/121

71.同じ想い

少し長くなりましたが、楽しんでいただければと思います!

 

 公爵様も戻られて、すっかりお馴染みとなったアルカランデ公爵家の皆さんと私の5人での夕食も終えた。

 案の定、クライヴァル様の視察についての話の他に、私の両親について何か分かったのかという話になった。

 ただ、内容的に食事中にするような話ではないこともあり、父様と母様はトリッツァの貴族の出であったということだけが明かされ、詳しい話は明日ということになった。


 そして今、私とクライヴァル様はサロンにてお茶を飲んでいた。

 いつも通りテーブルを挟んで向かい合って座る。

 いつもと違うのは私の心の中だけだ。


(やっぱり返事をするのならこのタイミングしかないわよね?!で、でもまだ座ったばかりだし……)


 待たせているのだから早く返事をするべきだという思いと、久しぶりにクライヴァル様とゆっくりお話出来るのだからもう少ししてから、何なら今日でなくても良いのではと怖気づく考えが頭の中でごちゃごちゃしている。

 好きだと言ってくれているのだから、私が同じ気持ちを返せば絶対に拒まれることはないと分かってはいるのに、どうしてこんなにも緊張するのか。


(ああ、心臓が煩いったら。落ち着いて、落ち着くのよ)


 胸に手を当てて気持を落ち着かせようとしていると、クライヴァル様に遠慮がちに話しかけられた。


「マルカ嬢?今日はもう休むか?あんな話を聞いた後だし、無理に私に付き合ってくれなくても良いんだぞ?」

「い、いえ!大丈夫です!……本当に、自分でも不思議なんですけど、思った以上に落ち着いているというか、受け入れられているというか」


 聞いた話がショックでなかったと言ったら嘘になる。

 なぜ父様と母様があんな目に遭わなければいけなかったのかと憤りを感じた。

 二人が亡くなった直後だったらもっと塞ぎ込んだかもしれない。

 けれど母様が亡くなってからももう10年以上も経っている。

 今さら何がどう変わるわけでもない。私が悲しんでも、運命を憎んでも二人が生き返ることは無いのだ。

 それならば、私は顔を上げるべきだ。

 父様は自分が亡くなる時に母様に笑ってくれるように頼んだ。


「私が父様たちの話を聞いて沈んでいたら、きっと悲しむと思うんです。でもきっとそんなの望んでいない。愛している人にはいつだって笑顔でいてほしいって、そう願っていると思うから」

「……マルカ嬢」

「だから本当に大丈夫です。でもクライヴァル様こそお疲れですよね?」


 そう、クライヴァル様の方が私なんかよりもよほど疲れているはずだ。

 孤児院の様子や院長先生とのお話を私に伝えるために今ここに居るのなら、むしろ私の方がクライヴァル様を無理に付き合わせてしまっているのではないだろうか。

 そんなことを考えていると、クライヴァル様は「君は強いな」と零した。


「もっと寄り掛かってほしいと思うのに、いつだって一人で立とうとしてしまう」

「え……っと、ごめんなさい?」

「いや、そんなところも好ましいよ……ご両親ももちろんそう思っていると思うが、私も君にはいつだって笑顔でいてほしい、そう思うよ」



 クライヴァル様は私に慈愛に満ちた眼差しを向けてそう言った。

 その顔を見て、私の口からは自然と「私も」と言う言葉が零れ落ちた。

 その瞬間、クライヴァル様が目を瞠った。

 そしてその表情を見た瞬間、私は思わず自分の口を手で隠した。


「えっと、あの、あのですね」


 私は赤くなっているであろう自分の顔を隠すために咄嗟に俯き、膝の上に置いた自分の手をぎゅっと握りしめた。


(違うの、いえ、違わないけど!私もだなんて、あの話の流れでそう言ったら私がクライヴァル様に想いを寄せているのがバレバレじゃない! )


 思いがけず自分の口から出てしまった言葉に誰よりも私自身が驚いていた。

 クラヴァル様に何て言い訳をすれば良いのか必死に考えを巡らせていてはたと気付く。


(……べつにバレても良いのではないの?むしろ私はこの気持ちを伝えたいのよね?それなら――)


 この流れに乗って今告げてしまえば良いではないか。

 短い時間の中でそう結論を出した私が顔を上げようとすると、それよりも先にクライヴァル様が声を出した。


「あー、マルカ嬢。大丈夫だ。君の気持ちがまだそこまででないことは分かっている」

「え?」


 クライヴァル様の言葉に驚いて顔を上げると、僅かにいつもより頬を赤くしたクライヴァル様と目が合った。

 クライヴァル様はバツが悪そうに咳払いをし、少し困ったように笑った。


「いや、多少期待はしたが。大丈夫だ、私の勘違いだと分かっているからそんなに困った顔をしないでくれ」


 私は困った顔をしているのか。

 もしそうだとしたら、それは私の気持ちがきちんとクライヴァル様に伝わっていないからだと思う。

 けれどそれも仕方がない。

 もう自覚はしているし、クライヴァル様だって少しずつ私が彼に心を寄せて行っていることを感じてはいるだろうけれど、私は今までクライヴァル様の想いに心を返すようなことは言っていないのだからまだ私の気持ちがそこまで行っていないと勘違いしたって不思議じゃない。

 もしかしたらもう少し一緒に過ごせば、クライヴァル様のことだから私のこの気持ちに気付いてくれるかもしれない。


(でも、それで良いの?)


 誠実に、何度も想いを伝えてくれたクライヴァル様に気付いてもらえるのを待っているだけの私で良いのか。

 そんな自分への問いに対する答えはすぐに出た。

 答えはもちろん否だ。


(そんなの駄目に決まっているじゃない。こんなところで怖気づいてどうするの。クライヴァル様の隣に胸を張って立ちたいって思ったんじゃない)


 迷っているならまだしも、私はもう自分の気持ちを分かっている。

 自分の気持ちすらも伝えられないような弱い心で、クライヴァル様に守られながら隣に立ちたいわけじゃない。

 段々と大きくなる鼓動を受け入れるように一つ大きく息を吐いてから口を開いた。


「――じゃありません」

「え?」


 本当は気持ちを伝えるなら目を見て言うべきだとは分かっているけれど、出来なかった。

 握りしめた手は汗ばんでいるし、心臓の音は耳の横で鳴っているのかと錯覚するくらい煩い。

 俯いたまま口にした言葉は籠っているし聞き取りづらいことこの上ない。

 それでも私は何とか言葉を続ける。


「か、勘違いなんかじゃありません」

「それは――その」


 耳から入ってくるクライヴァル様の声は私の言葉を額面通りに受け取ってしまって良いのかどうか迷っているようだった。


(どうしてもっと素直に言えないの?!たった二文字言葉にするだけなのに……!)


 断られることは無いと分かっているのに、それでもなかなか言葉が出てこない。

 意気地が無い自分に腹が立つ。


「マルカ嬢」


 次の言葉がなかなか出てこないでいると、いつの間にかクライヴァル様が私のすぐ傍まで移動してきていた。

 そして「隣に座っても?」と聞かれた私はただ首を縦に振った。

 クライヴァル様は私の隣に腰を下ろすと握りしめていた私の手に自分の大きな手を重ねた。

 手が重ねられた瞬間、思わず肩がビクッと跳ねてしまった。


「マルカ嬢、こちらを向いてくれないか?」


 クライヴァル様の言葉に私は身体を固くした。

 それでもさらに「マルカ嬢、頼む」と言われて、観念してゆっくりと顔を上げてクライヴァル様を見た。

 そんな私の顔を見たクライヴァル様は、今まで見たことのないくらい驚いた顔をして、そして困ったように、それでいて嬉しそうに笑った。


「参ったな……そんなに可愛らしい反応をされては本当に期待してしまう。早く否定しないと自分の良いように受け取ってしまうぞ」


 クライヴァル様は分かっているのだ。

 私が何を言おうとしているのかも、それをきちんと自分の口から自分の言葉で伝えたいと思っていることだってきっと分かっているのだと思う。


「もし否定はしないと言うのなら、君が何を思っているのか、聞かせてくれないか?君の口から聞きたいんだ」


 だからこんな風に言うのだ。

 どこまでも私に甘い。

 そんな彼を、私は好きになったのだ。


「私――私は、クライヴァル様のことが好きです。優しい所も、誠実な所も、全部です。クライヴァル様が私を大切に想ってくれているその気持ちを私も返したい」


 私が自分の気持ちを言い切ると、クライヴァル様の顔はじわじわと赤く染まっていった。

 そして、これ以上ないだろう光り輝くような笑顔を浮かべて「ありがとう」と言った。


(こんなに、こんなに喜んでくれるのね)


 喜んでくれるだろうとは思っていた。

 けれど、クライヴァル様の笑顔は私の想像以上のものだった。

 私の言葉一つでこんなに幸せそうに笑ってくれるだなんて思わなかったのだ。

 それがまた嬉しくて、胸がいっぱいになった。

 人に指摘されるまで自分の気持ちに気付かずに、いざ告白しようとしたら怖気づいてもだもだしていた自分のことを棚に上げて、こんなに幸せな気持ちになるのならもっと早く伝えていれば良かったとまで思った。


 私が充実感に浸っていると、クライヴァル様が急に真面目な顔になった。


「マルカ嬢」

「はい」

「私と君は想い合った者同士、恋人同士と言う認識で間違いないな?」

「はい」

「だったら、その……抱きしめても構わないだろうか」

「はい?」


 クライヴァル様の言葉に驚き、思わず聞き返してしまった。

 私としては、こんな時にまでいちいち許可を取るのかと言う意味で驚いたのだが、クライヴァル様はそれを拒否と取ったのか「すまない」と謝罪を口にしながら、ずっと握ってくれていた手も離れてしまった。


「すまない。忘れてくれ。嬉しさのあまり欲をかいた」


 そう言いながら私との距離をさらに取ろうとするクライヴァル様の腕を思わず掴んだ。


「マルカ嬢?」

「良いですよ」

「え?」


 女性の方からこんなことを言うのははしたないのかもしれない。

 それでも、クライヴァル様が離れて行くのが寂しくて、もう少し近づきたくて、私は軽く腕を広げて言った。


「ど、どうぞ」


 クライヴァル様は私の言葉に驚いた後ゆっくりとこちらに手を伸ばしてきた。

 私の手がすっぽりと収まってしまう大きなその手で、存在を確認するように私の頬をひと撫でする。

 ああ、今からこの人に抱きしめてもらえるのか。

 そう思ったら急に心臓がドクンドクンと忙しなくなった。


「夢じゃない」


 クライヴァル様はそう呟いた後、私が広げた腕ごと包み込むように背中に腕を回し、そっと抱きしめた。

 お互い座っているから、立っている時よりも近くなった顔の横から聞こえた「夢じゃないんだな」と言う声が私の鼓膜を震わせた。


「ありがとう、私の気持ちを受け入れてくれて。こんなに嬉しいことは無い」

「……私の方こそありがとうございます。ずっと待っていてくれて。私の気持ち、気付いていたんですよね?」

「それでも、こうして実際にマルカ嬢の口から言ってもらえると想像以上に嬉しいんだ。……気づいていたと言っても、半分くらいは私の願望も混ざっていたからね」


 願望が現実のものとなって良かったと笑いながら、クライヴァル様は私の背に回した腕に力を込めた。

 こんな風に誰かに抱きしめられるのはいつ振りだろう。

 私の記憶にあるのは、もう10年以上も昔の母様に抱きしめてもらった記憶だけだ。

 クライヴァル様は家族ではないし、女性でもない。

 男性に、しかも好きな人に抱きしめられているという今の状況は、私の人生の中では初めてのことだ。もちろん緊張するし、心臓は煩いし顔も茹っているようだろう。

 けれど、それと同時に嬉しさと安心感もあって。


(ふふ、クライヴァル様も同じくらい心臓が煩いみたい)


 きっとこんな気持ちになっているのは私だけじゃないと思えるからなのだろう。


(大好きな人に抱きしめられるって幸せなのね)


 クライヴァル様も自分と同じ気持ちだったら嬉しい。同じ気持ちを返したい。

 そう思いながら私は自由になっている手でクライヴァル様の背中をきゅっと掴んだ。


お待たせいたしました。

やっと、やっと!

しっかり両想いとなりました(*´▽`*)フフフッ♪



ブクマ&評価&感想、誤字報告などありがとうございます。

とても嬉しく、大変ありがたいです!

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[一言] どこかにクライヴァル様みたいな男性落ちてませんか?
[一言] やっとここまでたどり着きましたね。 クライヴァルさまの我慢強さには感心しました。 マルカちゃんの幸せそうな顔が目に浮かびます。
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