63.少しの嫉妬といつもの距離
前回は誤字脱字があまりに多く、お知らせいただいた皆様に感謝申し上げます。
ありがとうございます!
今回は大丈夫なはず……たぶん!
……また誤字があったらすみません。
何故私を迎えに来たのかを簡単に説明してくれるという事で、私たちは魔法省の執務室へ移動していた。
殿下と魔術師長様が前を行き、私はクライヴァル様と並んでその後ろを歩いていた。
「マルカ嬢」
不意に声を掛けられて、隣を歩くクライヴァル様を見上げる。
「魔法省にはいつから?」
「昨日からです。今日でまだ二日目ですね」
「そうか……」
クライヴァル様が何か言いたげな表情でこちらを見ている。
「クライヴァル様?」
「いや、二日目にしてはもうずいぶんと打ち解けているのだなと」
「そうですか?まだまだ緊張しているんですけど」
「君は本当に顔に出ないな……その、すでに名の呼び捨てを許しているようだったから」
「……ああ」
そう言われて、そう言えばグリーさんが私の名を呼び捨てにしていたなと思い出す。
「私は一番下ですし、平民ですからね。そうでなくとも魔法省では基本敬称は不要だと聞きました」
私に姓があれば、きっと家名で呼ばれるのだろうが、生憎私にはそれが無いので必然的に名前呼びになる。
もちろんきちんとした場では違う。
きっとそういった場所では呼び捨てにされることは無いだろうし、もう少し畏まった話し方になるだろう。
まあ社交の場に出ることの無い私がそういった場所で彼らに会うことはまずないと思うが。
「そうか、そうだな。分かってはいるのだが」
歩きながら話しているせいで正確に表情を確認することは出来ないが、クライヴァル様は溜息を一つついて困ったように笑ったように見えた。
「やはり君のこととなると、私は余裕の無い狭量な男になってしまうようだ」
この言葉と先程ちらっと見えた表情で、クライヴァル様の言いたかったことがようやく分かった。
つまり、あれか。
自分はまだ呼び捨てで名を呼んだことが無いのに、まだ会って二日目のグリーさんたちが私の名を呼んでいたことが嫌だったと。
つまり、グリーさんたちに嫉妬したということだ。
それを理解して、私は顔が熱くなるのを感じた。
(私が、呼んでほしいとお願いしたら、クライヴァル様は呼んでくれるのかしら)
熱くなった頬を押さえながらちらっとクライヴァル様を見る。
するとクライヴァル様も私の視線に気が付きこちらに目をやった。
「心配しなくてもマルカ嬢の行動を制限したりなどしない。私の気持ちの問題だからな」
その心配はしていないのだが。
本気なのか、はたまた敢えてのズレた答えなのか。
積極的に来る割に、私が困らないように深追いはしないクライヴァル様のことだから、この的外れな答えもわざとなのかもしれない。
そう思うと思わずクスッと笑みが零れた。
「マルカ嬢?」
「そんな心配していませんよ。……クライヴァル様、おかえりなさいませ」
今更だが、まだ言っていなかったなと思いお帰りと言えば、クライヴァル様は私の言葉に僅かに目を瞬かせ「ただいま」と言って顔を綻ばせた。
執務室に入り、ソファに腰を下ろした私たちは防音魔法をしっかりとかけてから話し始めた。
どうやら魔術師長様も一緒に話を聞くようだ。
私としては特に聞かれて困ることは無いし、クライヴァル様たちも何も言わないので問題無いのだと判断した。
「まずはマルカ嬢の両親は他国出身の者、しかも貴族であった可能性が高いということが分かった。……何だ、あまり驚かないのだな」
殿下が意外そうに私を見た。
「他国出身の者だったということは、先立ってクライヴァル様からいただいたお手紙で知らされていましたので。貴族、ということに関しても、アルカランデ公爵様たちにその可能性もあると言われていたので」
「父上が?」
「アルカランデ公爵が独自に調べているという話は聞いていないのだが」
どういうことだとクライヴァル様と殿下が視線を交わす。
「調べられているわけではないと思います。ただ、私の持っている懐中時計を見てその可能性もあると」
「懐中時計――おい、クライヴ。もしかすると例の物ではないか?」
(例の物?)
私は懐中時計を取り出し、テーブルの上に置いた。
「これがその懐中時計です。クライヴァル様たちにお見せするのは初めてだと思うのですが」
懐中時計の外装を見たクライヴァル様たちは頷きあう。
「外装に鳥――マルカ嬢、この懐中時計は父君の形見の品で間違いないか?」
クライヴァル様にそう聞かれて、私は思わず視線を懐中時計からクライヴァル様に移した。
この時計を彼らに見せるのは初めてのはずだ。
それ以前に彼らが視察に向かう前は、この時計の存在自体誰かに話したことは無かったと思っていたのだが。
もしかしたら学園の図書室で出したことがあったのかもしれないが、それでも父様や母様の形見の品であるとは知らないはずだ。
「間違いないですが、何故それをご存じなのでしょう?」
「おお、これで話の辻褄は合うな。やはり彼らの言っていたことは概ね間違いではないのだろう」
「殿下、辻褄って何ですか?私の質問に答えてほしいのですが」
殿下たちだけで納得しているが私には何が何だか分からない。
「マルカ嬢、この後きちんと説明するからあと一つ確認させてくれないか?」
「何でしょう?」
「父上はこの懐中時計を見ただけで、君のご両親が貴族であった可能性を指摘したのか?」
「外装や造りを褒めていただきましたが、おそらく一番は後ろに彫られた名だと思います」
「後ろ?」
私は頷くとテーブルの上に置かれた懐中時計を裏返した。
「アーノルド・P・ダルトイ?君の父君の名ではないようだが……」
「それ、曾祖父の名前なんです」
私はこの時計が元々は曾祖父の物で、それを父様が受け継ぎ、さらに母様から私へと渡ったということを話した。
そして自分でも調べて、この国の貴族にダルトイと言う家は無いということは知っていたので特に関係無いと思いクライヴァル様に伝えていなかったことを謝罪した。
「確かにダルトイという家は無いな」
「はい。ただ、この時計のお話をしたのがクライヴァル様からお手紙を頂いた後でしたので、それならば他の国で少なくとも曾祖父の代までは貴族だったのではないかと」
「確かに周辺の国でも姓を持つ多くの者は貴族だからな」
殿下がなるほどと言うように大きく頷いた。
私はこの国から出たことがないので詳しくは無いが、やはり他の国でも平民で姓を持つ者は少ないようだ。
「マルカ君。この“P”の部分なんだが、正確に分かるかい?」
ここまで黙って私たちの話を聞いていた魔術師長様が、懐中時計に彫られた名に反応を示した。
そういえば、先程この時計を見ていた時は途中で殿下たちがやって来たので裏側までは見ていなかった。
何故だか魔術師長様はこの懐中時計を妙に気にしているように思う。
「すみません、そこまでは。母からは父方の曾祖父の名だとしか」
「そうか……」
私の答えに魔術師長様は難しい顔をしてまた黙ってしまった。
期待に沿えるようなことを言えれば良かったのだが、知らないものは知らないので仕方がない。
さて、私は聞かれたことは全て話した。
そろそろ何故この懐中時計が親の形見であることをクライヴァル様たちが知っているのか聞かせてほしい。
そう言うと、クライヴァル様はカルガス領で得た両親についての情報を順を追って話し始めた。
嫉妬深い男にはなりたくないと思っているのに、どうにも上手くいかないクライヴァル様です。
ブクマ&評価&感想、誤字報告などありがとうございます。
なかなか話が進まずすみません(;´Д`)
ゆっくりですがきちんと話は進みますのでご勘弁を。
なるべく早く更新出来るように頑張ります!!