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私の名はマルカ【連載版】  作者: 眼鏡ぐま
●学生時代編
6/119

6.試される

回想回。

 

 私が以前クリスティナ様に渡した手紙には彼らの企みの全てが記されていた。

 彼らの計画、殿下に良くない魔法がかけられている可能性、早急に殿下を城の魔術師長に見てもらったほうが良いということ、そして私自身はその計画とは無関係であり、敵対する意思はない。

 伯爵家の罪を暴くことに全面協力するという旨をしたためていた。

 そんな内容の手紙をクリスティナ様に託し、同じ内容の手紙を何通か同封し彼女の信頼のおける相手にも渡してほしいという願いを書いたのだ。


 後からクリスティナ様にはうっかり自分以外の者の手にこんな内容の手紙が渡ってしまう危険性についてお叱りを受けたが、私がクリスティナ様以外には開封できないように魔法をかけてあったので大丈夫ですと答えるととても驚いた顔をされた。


「貴女って見た目に反してかなりしっかりしているのね。成績が良いのは伊達じゃないわね」

「私はそんなに頼りなく見えるのでしょうか?」

「頼りないというよりは庇護欲をそそる見た目、かしら」

「…ええぇ?」


 どうも私は見た目が儚げに見えるらしく、ぽやっとしていて反抗などしなさそうに見えるらしい。

 なるほど。

 だから伯爵家でも従順に従っているように見えるのか。

 実際は心の中だけではあるが結構な毒吐きだと思っているのだが。

 面倒なことが嫌いで感情の起伏をあまり表に出さないだけ。

 困った時は曖昧に微笑んでおけばどうにかなるだろうとか思っている。


 とまあ、そんなことは置いておいて、この手紙はクリスティナ様を介して公爵家当主へ、宰相様へ、そして王家へと渡ることとなった。

 そしてしばらくすると殿下の態度に変化があった。

 今までと同じように人目のあるところでは甘い言葉を吐くが、完全に二人きりになると「君のおかげで助かった」と言われた。

 もう大丈夫なのかと問えば人差し指を唇に当て微笑まれたのでそれ以上は詮索もしなかったが、その後に城で内密に話し合いの場を持ちたいとの打診があった。


 内密にとは言っても私には監視のように学園では伯爵子息が、伯爵家では伯爵の指示によりメイドたちの厳しい視線があり、こっそりと抜け出すことは不可能だった。

 それならばいっそ堂々と行ってやろうと殿下に王宮でのお茶のお誘いを受けたがどうしたら良いかと伯爵に聞いてみた。

 伯爵はついに私が殿下のお手付きになるのではと喜び、わざわざ新しいドレスを用意して送り出した。

 本物の馬鹿がここにいると思ったのは言うまでもない。


 城に着くと、まさかの両陛下の御前に連れて行かれた。

 他にも手紙の内容を知る面々が揃っており、一生お目にかかることなど無いと思っていた国の重鎮たちを前にさすがにこの時ばかりはかなり緊張した。


「顔を上げよ。そなたがマルカ・レイナードで間違いないな」

「はい。お目にかかれて光栄に存じます」


 陛下は手に私がしたためた手紙を持っており、それを私に見えるように広げてみせた。


「ここに書かれている内容に嘘偽りはないと誓えるか」

「もちろんでございます」


 その後の言葉を貰えないでいる状況に、私は自分がそこまで疑われているのかと思った。考えてみれば元はただの平民である自分の言葉を信じろという方が難しいのかもしれない。


「誓ってそう言えるか」

「はい」


 私は陛下から目を逸らさず答えた。

 すると陛下は同席していた侍従に何かを持って来るように言った。



 暫くして戻ってきた侍従が私の前に差し出したのはグラスに入った鮮やかな緑色の透明感のある液体だった。

 手に取るように促され、グラスを受け取る。

 緑色の液体はグラスの中でゆったりと揺れた。

 どうやらとろみがあるらしい。

 なんとも言えない毒々しい液体だ。

 私がじっとグラスの中身を見ていると陛下が言った。


「そのグラスの中身は自白剤だ。しかしただの自白剤ではない」


 自白剤。

 それだけでも気持ちが萎縮しそうになるが、陛下が続けた言葉に全身の毛穴が開いたような気がした。


「万が一効果が出ないことも考えて、魔術師が魔法をかけた特別製だ。これを飲み、偽りを吐けばそなたの精神を破壊する」

「……」


 一度速くなった鼓動が落ち着くと、なぜか妙に冷静な気持ちになった。

 緊張が限界を超えると自身を護るためにこうなるのかもしれない。


 協力するって手紙を書いただけでこんな事になるとは。

 ああ、でも王族に手を出そうって言うんだからこれくらいやられて当然なのか。

 それこそ伯爵たちに飲ませてほしい、なんで私が。

 精神の破壊なんて、何という恐ろしい飲み物を作りだしたのだ。

 まあ嘘をつかなきゃ良いだけなんだけど。

 というか魔法でそんな効果が付けられるなら、元の液体が自白剤じゃなくても良いのでは。

 指摘したところで今さらだから言わないけど。

 というかこの状況でそんなこと言えないけど。

 あー、でもこのものすごく不味そうな液体飲めってことか。

 冷静になった途端そんな考えが頭を巡る。


 私の沈黙を嘘をついたが故の危機感と取ったのかどうかは分からないが、陛下が言う。


「今ここでそれを飲み干してみせよ。嘘をついていないのなら飲めるはずだ」


 この場にいる全員の視線が自分に向いているのが分かる。

 突き刺さるような視線とはまさにこのこと。

 怖いわー。

 飲めば良いんでしょう、飲めば。

 私は何も悪いことはしていないし嘘だってついていない。

 後ろめたいことは何も無い。


「さあ、どうしたマルカ・レイナード。飲めぬのか」

「いえ、飲めます。では」


 私は一気にグラスを呷った。




「……甘い。え、何ですかこれ、すごく美味しい」

「それはそうでしょう。緑に着色した砂糖水ですからね。魔法も一切かかっていませんし」


 魔術師長が私の手からグラスを取ってそう言うと、ピリピリとしていた部屋の空気が一変し柔らかいものに変わった。


「ぶはっ、はっはっは!美味しかったか!それは良かった。女性は甘いものが好きだからなあ」

「はあ」


 急に笑い出した陛下に私が驚いていると、部屋の隅にいた殿下が近づいてきた。


「しかし全く躊躇いなく一息で飲むとは思わなかったぞ」

「普通の、しかもつい最近まで平民であった娘ならば陛下を前に怯んでしまっても不思議ではないというのに」

「マルカ嬢は平然としていましたなあ。こんなにか弱そうに見えるのに大したものだ」


 殿下の後にも声が続く。

 平然としていたつもりも無いし、躊躇わなかったわけでもない。


「躊躇いましたよ?」

「そうなのか?そうは見えなかったが」

「いや、あの色ですよ?いくら嘘は言っていないから大丈夫だとは思ってもあの液体は……すごく不味そうじゃないですか」

「……私が言っている躊躇いはそういうことではないんだが」


 殿下が呆れたように私を見ると、どっと笑いが起こった。


「君は面白い子だな」

「陛下、あのそれは喜んでも良いのでしょうか」

「つまらない人間より良いのではないか?改めて、試すような真似をしてすまなかった。君もレイナード家の一員だから簡単に信用するわけにはいかなかったのだよ。此度のことは今ここにいる者たちしか知らない。君のおかげで息子にかけられていた魔法も解除することが出来た。礼を言おう」

「もったいなきお言葉です」

「もうそんなに硬くならずとも良い。ここからは話し合いだからな」


 そう言って笑う陛下は最初の威圧感などまるで無かったかのように朗らかな方だった。



≪マルカに聞いてみよう≫

質問:両陛下の御前っていうくらいだから王妃様もいたんですよね?

   一言も喋ってないと思うんですけど。

マルカ「王妃様はピリピリした空気の間もずっと微笑んでおられましたよ。表情が全く変わらずに無言って一番怖いですよね」


ブクマ&感想&評価などなどありがとうございます!

マルカに聞いてみようが思いのほか好評だったので、出来るだけ続けてみようと思います(・∀・)

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◆連載中作品もありますのでよろしくお願いいたします_(._.)_
― 新着の感想 ―
[一言] 『甘い!もう一杯!』と言わなかったマルカちゃん、すごい…(昔あった青汁の宣伝に『マズイ!もう一杯』という台詞があったことを思い出しました)
[気になる点] ――絶対、魔術師長、あの本の作者だろ。陛下の指示だからってこんなネタ飲み物作らないよ。 絶対あの本には「基礎」「応用」の先に「ネタ編~そして伝説へ~」があるに決まってる(例:毒素の分…
[一言] 何じゃこの回。おもしろすぎる!
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