24.よく滑る口
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のらりくらりと二人からの質問を躱していたが、最終的に直接的な言葉で聞かれた。
「マルカ嬢はクライヴのことを好きになったりしないのか?」
「……」
私はいよいよ苛立ちを隠せなくなってきていた。
思わず殿下を睨んでしまいそうになる。
この人にはデリカシーというものが無いのだろうか。
なぜ私がそのことを殿下に話す必要があるのだろう。
本気で心配しているならともかく、この人は八割方面白がっている。
間違いない。
ここで釘を刺しておかなければ今後も遊ばれそうなので私は反撃することにした。
「……殿下?」
「ん?」
「私と殿下は友人なのですよね?」
「そうだな」
「そうですか。では、私今から口を滑らせます。ええ、それはもう盛大に滑らせます。でも御心の広い殿下なら友人の思わず出てしまった言葉なんて軽く受け流してくださいますよね?」
「ん?うん?」
私はスーッと息を吸い込んでにっこり笑って言った。
「うるさいです殿下。しつこいです殿下。いい加減苛々します。面白がっているのが丸分かりなのがさらに腹立たしいです。これは私とクライヴァル様の問題で、殿下には関係の無いことです。いえ、もし関係があったとしても余計な首は突っ込まないで頂きたい。お節介です。鬱陶しい」
「う、鬱陶しい……」
「あらまあ」
ポカンと口を開けた殿下にあらあらと言っているクリスティナ様に向かっても言いたいことがある。
「クリスティナ様もです」
「私?」
「クリスティナ様はアルカランデ公爵家の方なので状況を知る権利はあると思います。ですが、私が嫌なことはしないと言ってくださいましたよね?私こういう面白がって気持ちを無理に吐かせようとするのは好きじゃないです。クリスティナ様になら普通に聞かれたらちゃんと答えます。それと、なんとなくそれを察しているくせに殿下を止めない所も腹が立ちます」
基本クリスティナ様は殿下に甘いのだ。
殿下を止めることなんて彼女には簡単な事だろうに、今回はそれをしなかった。
「この場において殿下を止められるのはクリスティナ様だけですよ」
「マルカも今止めたわよ?」
「強制的に優しくない言葉を使ってですけどね。でも、クリスティナ様ならもっと自然に優しく誘導するように止められますよね?」
「買い被り過ぎではないかしら?」
「私の尊敬する友人のクリスティナ様なら簡単なことだと思いますけど?」
私とクリスティナ様の間の空気が一瞬張り詰める。
お互い笑顔なのが怖いところだ。
「……ふう。ごめんなさいね。今回は私たちが悪かったわ」
僅かな沈黙の後、先に折れたのはクリスティナ様だった。
「バージェス様が楽しそうだったから思わず手を貸して差し上げたくなってしまったのよ。ほら、バージェス様も」
「……すまない」
「分かっていただければそれで良いんです。こちらこそ、いくら許されたからと言っても口を滑らせすぎました。無礼な発言をお許しください」
私的な場だからと言って私が口にした言葉は、本来なら不敬と言われても仕方が無いものばかりだ。
ただ、これを言ってしまっても許してもらえると心の奥で思ってしまっている時点で、私はこの二人を信頼し、甘えてしまっているのだと思う。
「……マルカ嬢は見た目通りの性格ではないと分かっていたつもりだが、怒った時はクリスティナ並みに怖いな」
「バージェス様、何か仰って?」
「時にクリスティナの笑顔は人を従わせる美しさもあるということだ。私も君の美しさの前ではただ愛を乞う一人の男に成り下がる」
「まあ、お上手ですこと」
「王になろうという人がそれでは問題ではないでしょうか」
急に始まった茶番に思わずぽそっと呟けば、クリスティナ様が「マルカがいると安心してバージェス様の愛を受け止められるわね」と言った。
「……掛け合いが楽しいのは分かりますが、私を歯止め係にしないでくださいね」
「駄目か」
「駄目です」
そんなことを言い合っているとナンシーさんが新しくお茶を淹れて持って来てくれた。
私が淹れたお茶と比べられないように違う茶葉を使う気遣い。
流石である。
それを口にし一息つくと「だが、マルカ嬢はなかなか強靭な精神を持っているな」と言った。
「よく王族にあんなことを言えるなという意味ですか?」
「そっちじゃない」
「?」
「クライヴだ。やはりあの容姿と家柄だからな。あれに口説かれて喜ばない者がいるとは思わなかった。ああ、これは別に君を非難しているわけでも無理に聞き出したいわけでもないぞ。独り言のようなものだ」
「独り言にしては大きすぎますわよ、バージェス様」
今度はピシャリとクリスティナ様の言葉が入ったが、私は殿下の問いに思わず言葉が詰まっていた。
(別に嬉しくない訳じゃない)
「……嬉しくない訳じゃないです。初めは殿下も含め人としてどうなんだというところもありましたが、色々な事を知っていらっしゃるので話していて楽しいとは思います。色恋を抜きにして言えば、人として好ましいです。それに1ヶ月以上も毎日のように言われ続ければさすがに冗談で言っているのではないのだろうと思います。今までこんなに自分のことを好きだと言ってくれた人は母以外にいませんし、私の努力を認めてくれて……こんなに気遣ってくれる人はいないと思います。でも―――」
公爵邸に来てから色々な話をした。
好きな物や嫌いな物、クライヴァル様が学園にいた頃の話、私を見ていた頃の話なんかもした。
「私も通っていたから分かるが、常にトップに居続けるというのは周りが思っている以上に大変なことだ」と私の努力を認めてくれる。
まあ正直なところ、私はクライヴァル様と違って誰からも期待されていなかったからプレッシャーを感じたことは無い。
悪い点を取ってもせいぜい嫌味を言われるくらいだろう。
悪い点なんて取ったことがないから分からないけれど。
もし成績が落ちたとしても「今までのはまぐれだったのかしら?」「きっと何かズルをしたのよ」などと嫌味を言われるくらいだと思う。
けれど、クライヴァル様は私以上に今後の学園での生活を心配してくれているようだった。
「長期休暇が明ければマルカ嬢のことを平民だというだけで蔑む者もいるかもしれない。君なら歯牙にもかけないだろうが、本当に困った時には私を頼ってほしい」
「頼ったらどうするんですか?」
「それはまあ……ね?」
「……学園内での権力の行使は禁止ですよ」
「表面上はな」
「頼りづらいですね」
クライヴァル様と話していると、所々でやっぱり彼は生まれながらの貴族なんだなあと感じることがある。
私がそこまでしなくてもと思うことも、クライヴァル様は平気な顔をして行ってしまえる怖さがある。
私には底抜けに優しいが、それはクライヴァル様の全てではないだろう。
だから、というか私は最近気になっていることがある。
それがクリスティナ様に先日相談したことだった。
しっかり叱ってくれる友達って大事ですよね。
年末で仕事の方も少しドタバタしているので次の更新に時間が掛かるかもしれません。
なるべく早く上げられるように頑張ります。
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