15.はっきり言って不愉快です
ブクマ&感想&評価、誤字報告などなどありがとうございます。
12話の後のマルカ視点に戻ります。
「興味ですか?」
「ああ」
クライヴァル様の言葉の意味がよく分からない。
調査が終わってまで私を見ていても楽しいことなんてないと思うのだが。
「最初は、殿下から『女性が喜ぶような言葉を掛けても面白い反応しか返ってこない。面白いから一度見に来い』と言われてな。私の知っているご令嬢たちと全く違うものだから面白かった」
「……」
(あんっの馬鹿殿下!やっぱり完全に面白がっていたのね……!こっちは大変だったって言うのに)
「マルカ、マルカ。落ち着いて」
「……落ち着いてますよ?」
「顔は微笑んでいるけれど空気が怒っているわよ。全く隠しきれてないわ」
クリスティナ様にそう言われて、私は自分の頬を指先でむにむにと揉んで解した。
やっぱり無理に笑みを続けると頬が引き攣ってしまう。
「無理に感情を取り繕わなくてもいいのよ?私はマルカの性格を知っているのだから。お兄様もその方が宜しいでしょう?」
「ああ。家の中でまで貴族的な会話は疲れる。何を言っても咎めることは無いからマルカ嬢も普段通りで構わない」
「ね?言いたいことがあったら言っても良いのよ?」
クリスティナ様はそう言って苦笑された。
せっかく許可を頂いたのだからと私は口を開いた。
「面白い面白いって言いますけど、私としては全く面白くなかったです。あんな砂を吐くような台詞を言われても対処に困ります」
「砂を吐く……少しも嬉しくなかったのか?ああいった甘い言葉を女性は好むだろう?」
「嬉しくありませんよ。相手に少しでも気があれば話は別ですけど、お互い想いが無いのに言われたって、あれは言葉ではなく文字通り『台詞』ですもん」
「そういうものか?」
「では逆にお聞きしますけど、クライヴァル様が全く興味の無い女性から手を握られて、素敵だのお慕いしているだの言われて嬉しいですか?」
「……いや、遠慮したいな」
「そういうことですよ。ああいった言葉は気持ちが伴っているからこそ心に響くのです。殿下を少なからず慕っているご令嬢が言われれば、それは効果は絶大でしょうが私は微塵もそういった類の気持ちは向けていませんので」
「なるほど」
クライヴァル様は腕を組んで納得したように深くソファに座り直した。
だが私の言いたいことはまだある。
「それともうひとつ」
「なんだ?」
「仕事でもないのに一生徒をつけ回すのはどうかと思います。不愉快です。そもそも学園に理由無く入り込むなんて職権乱用ではないんですか?大体5日と空けずに図書室にいらしてましたけど、お仕事ちゃんとされているんですか?働かざるもの食うべからず、ですよ」
私がクライヴァル様の行動に咎めるように眉を顰めると、彼は少し驚いたように隣に座るクリスティナ様に顔だけ向けて言った。
「……なかなか手厳しいな。今まで女性に言われたことのない言葉ばかりだ」
「これがマルカですの」
にっこりと微笑んで返すクリスティナ様に苦笑をもらすと、組んでいた腕を解いて私に向き直り頭を下げた。
「マルカ嬢、不快な行動をとって申し訳なかった。今後は改めて、隠れず君に会いに行くとしよう」
「……は?……え?」
「ああ、心配しなくとも仕事はしっかりやっているから問題ない。休憩時間を君の放課後の時間に合わせたり、それまでに仕事を終わらせていただけだからね」
「いやいや、そういう問題ではなく……」
「お兄様のお仕事ってそんなに簡単に終わるものでしたの?」
「簡単ではないが、クリスティナも知っての通り私は優秀だからな」
「そう。では問題無いのね。良かったわね、マルカ」
「いや、だからそうじゃなくって」
私の待ったをかける声に「「では何が問題だ(なの)?」」と二人揃って不思議そうにこちらを見るのは止めてほしい。
「私の面白いところを見たいんだったらもう気が済んだでしょう?殿下も卒業されましたし」
もう私にあんな甘い言葉を吐いてくる人はあの学園にはいない。
クライヴァル様の面白い観察対象になることもないはずだ。
そう思っていた私にクライヴァル様は「ああ」と何かに気付いたように口にした。
「そうか。私の先ほどの言い方で誤解を与えてしまったようだ」
またしてもクライヴァル様の言っている意味が分からず、私は素直に聞き返した。
「誤解、ですか?」
「ああ。最初は、と言っただろう?確かに最初は演技だとしても、あの殿下の甘い言葉に感情が抜け落ちたような表情をするマルカ嬢に面白さを覚えていたのは間違いない。だが図書室で見せる表情や、一人でいる時の行動、クリスティナやバージェス殿下から君の話を聞いて別の興味が出てきた」
「はあ」
怪訝な顔をする私にクライヴァル様は苦笑を浮かべる。
「一度殿下への使いでクライヴァル・アルカランデとして学園に行ったことがある。その時君は近くを通ったことを覚えているか?」
私は記憶を探る。
そして思い当たる出来事が一つがあった。
確かあの時は殿下と背の高い美青年が一緒におり、周りをご令嬢がギャラリーの様に囲んできゃあきゃあ言っていた。
クリスティナ様も一緒だったと思う。
今考えればあれがクライヴァル様だったのだろう。
「おそらく」
「あの時マルカ嬢も一度こちらを見たんだ。私はすぐ君だと分かったが、君は全く興味が無さそうで立ち止まることもなく行ってしまった」
だってあのご令嬢の束の中に入って行く勇気は無いですよ。
ただでさえ周りから良く思われていなかったのだ。
クリスティナ様がいるところに横恋慕している女が入って行ったらどうなるか。
怖いことになる。
そもそも恋人に見せよう作戦で私は疲れていたので、殿下から声が掛からないのなら必要以上に近づく気は無かった。
(特に貴族の方とお近づきになりたかったわけでもないし)
「その時思った。このままでは君に気付かれることも興味を持たれることも無く、話すことすらない関係なんだと。そしてそれは、何というか……すごく嫌だと」
「お兄様が?」
「ああ。女性は面倒だ、まとわりつく視線も煩わしいと思っていたはずの私がだ。おかしいだろう?」
「あらまあ。私たち家族にとっては喜ばしいことだわ」
何が喜ばしいんですか、クリスティナ様。
理由はともかくとして、クライヴァル様から声を掛けて来たなら話すことだって可能ではないのか。
数か月も声を掛けず付きまとう必要なんてあったのか。
私のそんな疑問にクライヴァル様はまたも苦笑いだ。
私は今日だけで何回もクライヴァル様にこの表情をさせている気がする。
「それが出来たら君をこそこそ見ていたりしない。あの案件の最中では君は殿下に想われる唯一の女性でなければならなかった。そこにいくら変装しているとは言っても、殿下以外の男とも懇意にしているというような噂が流れでもしたらややこしいことになる」
「アルカランデの者として声を掛けるのも憚られますものね」
「そういうことだ。だからこそ私は今日を待ちわびていたと言っても過言ではない」
そう言うとクライヴァル様はソファに座り直し、私としっかり目線を合わせて言った。
「そんなわけで、どうだろう。とりあえず私と友人になってくれないか?」
「友人……?」
目の前の男性はまたもおかしなことを言い始めた。
≪マルカに聞いてみよう≫
質問:役立つ魔法・応用編でツッコミを入れたくなる笑える魔法があったら教えてください。
↓
魔力の質を変える練習をしておきましょう。
練習次第で粘稠性のあるものにしたり、滑らかにしたりすることが出来ます。
大体想像力で何とかなります。
以下使用例
―――主に厨房で大活躍間違いなし!あの黒き忌まわしきものを駆除したい!そんなあなたに。
魔力を薄く伸ばし部屋の隙間に広げます。
そして小さな生命体を感知したら思い切り雷を魔力に流しましょう。
この時情けは無用です。
そしてさらに魔力の質を粘度の高いものに変えます。
そこまで出来たら広げた魔力を元に戻しましょう。
この時見たくない物が見えると思うので誰かに応援を頼むか、火の使用が可能な場所なら魔法で思い切り燃やしてしまいましょう。
月に1度くらいやると効果的です。
マルカ「やってることはすごく細かくて難しいことなのに使い道が……まあでも黒き忌まわしきものは嫌ですもんね。でもこの魔法が使えることが知れると毎回頼まれることになってしまうから出来るだけバレないようにとアドバイスが書いてありました。そこが一番笑えました」