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私の名はマルカ【連載版】  作者: 眼鏡ぐま
●学生時代編
13/121

13.兄について   ※クリスティナ視点

 

「そうだな……端的に言えば個人的な興味」


 私は兄のその言葉に驚いた。

 私だけではなく、今この場にいる使用人ももれなく驚いていることだろう。

 おそらくマルカ以外は。


 私が何にそんなに驚いているのかを伝えるには、まず兄について話す必要があるだろう。

 私の兄、クライヴァル・アルカランデは一言で言うなら、眉目秀麗、文武両道、才徳兼備、博識多才、知勇兼備、質実剛健、八面六臂・・・。

 要は見た目も中身も大変優れていると皆が口を揃えて言う、そんな人物だ。

 妹である私から見ても、時々意地悪なこともあるが、基本的には完璧で優しく家族思いの良い兄だ。

 兄を超える男性はそうそういないとさえ思う。

 もちろんバージェス様は別格だけれど。


 そんな兄は当たり前のように女性に人気がある。

 これまでも幾度となく縁談の申し込みや釣書が送られてくることがあったが、兄は一度だけしかその席に着いたことは無い。

 その一度というのは最初に持ち込まれた縁談で、お相手は侯爵家の方だった。

 私もまだ小さかったので、おそらく10歳かそれくらいの年齢だったと思う。

 お相手のご令嬢は美人というよりは可愛らしい感じの方で、兄ともお似合いのように見えた。

 無事婚約を結んで、しばらくの間はそれなりに上手くいっていたと思う。

 少なくとも侯爵令嬢の方は兄のことをかなり気に入っていた様子だったし、兄も周りに寄ってくる女性たちに比べれば明らかに婚約者である彼女を贔屓して接していた。

 バージェス様と恋仲になった今にして思えば、あれは区別していただけで、けっして恋人に対する接し方ではなかったと分かってしまうのだけれど。


 そんな二人の関係が終わったのは二人揃って王立学園に入学した後だった。

 兄はやはりというか、学園でもとても人気があって、それは婚約者がいようが関係のないことだったらしい。

 婚約者の侯爵令嬢は、兄に相応しくないなどいろいろと言われたりしていたようだった。

 釣り合っているのは家格だけ、そう陰口をたたかれているらしい。

 家格の高さから直接的に何かをされるわけではないが、わざとらしくひそひそと耳に届く言葉に侯爵令嬢は胸を痛めていた。

 なぜ学園にまだ通っていなかった私がその事を知っているのかと言うと、ひとつは風の噂で。

 もうひとつは本人から直接聞かされたから。

 我が家に来ては目に涙を溜めて酷いだの辛いだのと口にしては兄にしな垂れ縋るのだ。

 そして私には同意を求める。

 傍から見れば庇護欲をそそる可愛らしい婚約者に頼られたら喜ぶところかもしれない。

 けれど私たち兄妹は違った。

 この頃には兄の婚約者に対する態度も必要最低限のものになり婚約者が会いに来たと言われれば溜息を吐くようになっていた。

 婚約者なのに酷いと思われるだろうか。

 ただ私は兄の気持ちがよく分かった。


 私たち兄妹は揃って非の打ち所がないとよく言われる。

 才能に溢れている、完璧だ、さすが公爵家の人間だ、と。

 けれど間違ってほしくないのは、生まれた時から完璧な人間など存在しないということだ。

 たしかに公爵家という高い家格の家に生まれたことは幸運だっただろう。

 父も母も優れた人間だったのだから私たち兄妹も持って生まれた能力は高かったのかもしれないし、良い教師もつけてもらえた。

 けれど、だからと言って始めから全て上手く出来たわけではない。

 出来なかったこと、失敗したことは出来るようになるまで何度でも挑戦したし、時には泣きたくなることだってあった。

 それでも諦めることをしなかったから今の私たちがあるのだ。

 公爵家の者として恥ずかしくないように、なるべく完璧に近づけるように。

 誰に言われたわけでも、強要されたわけでもない。

 両親を見て、貴族社会に揉まれて、自然と自分たちで気づき努力した結果が今の私たちなのだ。


 それに比べてこの侯爵令嬢ときたら。

 兄の婚約者に決まって安心してしまったのだろうか。

 子供のうちは可愛らしさだけでも良いかもしれないが、王立学園に入るような年齢になってまで昔のままでいられると思ったらそれは大きな間違いだ。

 兄と結婚するということは、由緒正しきアルカランデ公爵家の公爵夫人になるということだ。

 貴族の手本となる自覚を持ってもらわなければならない。

 アルカランデに嫁いでくるということはそういうことなのだ。


 我が家は基本『実力主義』である。

 もちろん人柄や協調性なども考慮されるが、そこさえクリア出来ればあとは本当に実力次第。

 例え平民だろうが雇い入れたりもする。

 マナーがなっていなかったとしても本人に覚える気さえあれば、それは後からどうにでもなるものだ。


「実力も大事だが、自分を見つめ、努力が出来る人間は好ましい」


 これは当主である父が言った言葉だ。

 そしてこれは私たち公爵家の者の総意でもある。

 自分たちがそのような人間だから、やれば出来るはずの努力を怠り、悪意ある言葉を撥ね退けようともせず、すぐに人に縋るような人物は好ましくない。

 兄の婚約者である侯爵令嬢は、容姿を磨くという一点に関しては努力をしていた。

「クライヴァル様の隣に立つにはどれほど頑張っても足りないくらい」と言ったのは侯爵令嬢だったか。

 字面だけ見ればこの発言はとても好ましいものだが。

 けれど、頑張るところが違う。

 正確に言うと足りない。

 確かに容姿を磨くのも大事なことではある。

 愛する人の隣に立っても恥ずかしくない自分になりたいという気持ちもとてもよく分かる。

 けれど人は容姿という表面のみで出来ているのではなく、大事なのは中身。

 知識、教養、気高い心、このどれもが置き去りにしてはいけないものなのだ。

 いくら容姿が美しくとも、中身が伴わなければそれは何の価値もない。

 少なくとも我が公爵家ではそうなのだ。


 なぜ自分が兄の婚約者として相応しくないと言われるのか、なぜそんな自分を支えてくれる友人がいないのか。

 考えればすぐに答えが見つかるはずなのにそうならないのは、彼女が人の行動を非難するばかりで自分を見つめ直していないからだった。

 学業も魔法実技も成績はほとんど中の下。

 心無い言葉を耳にすれば、酷いと口にして目に涙を溜める。

 そしてそれを庇うのは同性の友人ではなく、男の方ばかり。

 そんな女性が兄のような人の婚約者だというのだから、それは嫌味のひとつくらい言いたくなるだろう。

 もちろん、だからといって言って良いわけではないけれど。


「お兄様、私あの方が義姉になるのは少々不安を覚えるわ」

「……ああ。そろそろ真面目に考えないといけないな」


 兄はついに動いた。


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