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私の名はマルカ【連載版】  作者: 眼鏡ぐま
●婚約者編

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13.ただいまと言える場所

自力で帰ってくる系ヒロイン爆誕!ヾ(*゜▽゜*)/!


 

「次の十字路を右に、曲がったらそのまままっすぐ進んで左手に見えてくる大きなお屋敷の前で止まってください」


 私が指示したとおりに馬車は進む。

 辺りはすっかり真っ暗で、この暗さなら正体不明の馬車が走っていても気に留められることもないので私にとっては好都合だ。

 ただ、気に留められないとは言っても、それはお屋敷の前で停まらなければの話である。

 アルカランデ公爵邸にはしっかりと門衛が立っており、お屋敷の前に不審な馬車が停まれば警戒するのは当然のことだった。


「失礼、こちらに何か用か」

「ひ、ひゃ、ひゃい!」


 門衛に声をかけられた御者席に乗る男は、緊張と恐れからか上ずった声で返事をした。

 不審極まりないのでこのままだと切って捨てられてもおかしくない。


「マルカお嬢様、まずは私が出ます」

「ええ、お願い」


 見かねたナンシーが先に馬車から降りる。

「ナンシーさん!?」という声とともに馬車の扉は一旦閉められたが、その際に見えたのは門衛の他に公爵家の騎士が二人。

 いつの間にやってきたのかさすが公爵家は守りが堅い。

 門衛の声の様子からするに、私とナンシーに何かあったのではとお屋敷の者たちはわかっているようだった。

 そんな中で不審な馬車が門の前につき、誰が下りてくるのかわからないから警戒を強めたのだろう。

 カチャッと音がしたので、いつでも剣を抜けるように柄に手をかけたと思われる。

 だからこそ万が一剣を向けられた場合に備え、ナンシーは自分が先に下りると言ってくれたのだ。

 いくら警戒のためとはいえ、私に剣を向けると後々面倒なことになるかもしれないから。

 まったくもって良くできた侍女である。

 馬車の中で待っていると、「このままエントランスの前まで参ります」と声がかけられた。

 アルカランデ公爵邸は敷地が広く、門を抜けるとまずは庭園が広がり、その先に邸宅がある贅沢設計なのだ。

 とは言っても余裕で歩ける距離ではあるので、さほど時間はかからず馬車は再び停車した。

 扉が開けられ、ナンシーが出してくれた手を借りて馬車から降りるのとほぼ同時にエントランスの扉が勢いよく開いた。


「マルカ!」


 そこには珍しく慌てた様子のクライヴァル様がいた。


「クライヴァル様。ただいま戻りました」


 遅くなってしまってすみませんと言おうとした私は、その言葉を言う間もなくクライヴァル様の腕の中に納まった。


(やっぱり心配をかけちゃったわよね)


 言葉なく私をきつく抱きしめるクライヴァル様の服を引っ張ると、その腕が少し緩んだ。


「怪我は、ないな?」

「はい、大丈夫です。怪我もないですし、指一本触れさせていませんよ」


 いろいろ聞きたいことはあるだろうに、何よりも先に私の心配をしてくれるクライヴァル様に笑顔で答えると、ようやくクライヴァル様はほっとしたような笑顔を見せて息を吐いた。

 そして馬車の御者席にいた顔色の悪い男に視線をやると、その瞬間男は御者席から転がるように落ち、ガタガタと震えながらクライヴァル様の前に平伏した。


「も、申し訳、ありませんでした……! どうか、命だけはっ!」

「……この者は?」

「私の帰宅が遅れた原因の一人ですね」

「……ほう?」


 一瞬にして鋭くなった視線と言葉に、頭を地面に擦りつけていてクライヴァル様の顔が見えていないはずの男の姿勢がよりいっそう低くなった。

 もう地面にめり込みそうなほどである。


「クライヴァル様、落ち着いて。まずはヒューバートお義父様とリディアナお義母様にもご報告を」

「すまない。そうだったな。休ませてやりたいが、マルカたちに起きたことを確認させてもらってもいいかい?」

「もちろんです」


 何がどうしてこんなことが起きているのか私にはわかっていない。

 もしかしたらクライヴァル様やお義父様たちが掴んでいる情報もあるかもしれないので、今のうちに確認しておきたい。

 こういうことは早いほうが良い。


「ナンシー、君も身体に不都合はないか?」

「問題ございません。私が付いていながらマルカお嬢様を危険な目に合わせてしまい申し訳ございませんでした」

「そんな! クライヴァル様、ナンシーは悪くありません! むしろ彼女は巻きこまれただけです」


 ナンシーは悪くないと言う私の前髪をすくい、クライヴァル様はふっと目を細めた。


「わかっているよ。ナンシー、疲れているところ悪いが君からも話を聞く必要がある。一緒に来てくれ」

「かしこまりました」

「ステファン、そこの男も連れて来い」

「了解です。念のため縛っていきますか?」

「任せる」


 クライヴァル様の従者のステファンはいつの間にか手にしていた縄で男を縛り上げた。

 あまりの手際の良さに感心している私の手を取り、クライヴァル様は歩き出した。

 廊下を進むクライヴァル様の表情は硬い。


「……クライヴァル様?」

「……」


 黙っているけれど、べつに怒っているわけではない。

 それがわかるくらいにはクライヴァル様と同じ時を共有しているのだ。

 クライヴァル様は繋いでいる手に力を込め、「……本当に大丈夫だったんだな?」と言った。


「助けに行けなくて……すまなかった」


 きっと自分のことを不甲斐ないとか、そんなふうに思ってしまっているのだろう。

 まだ事が起こって数時間しか経っていないし、しかもクライヴァル様は今日も仕事に行っていたのだから、私の不在を知ったのも帰ってきてからのはずだ。

 そんな短時間で私に何があったのかを把握し、見つけ出すなんて誰だって無理に決まっている。


(私自身よくわかっていないんだもの)


 それでもクライヴァル様は自分にはもっと出来ることがあったはずだと思っているのだろう。

 彼はそういう人だ。


「クライヴァル様が謝る必要なんてありませんよ。私は無事に帰ってきたじゃないですか」

「だが……」

「よくある物語と違って、自分で帰ってくるヒロインがいてもいいじゃないですか。ね?」


 隣を歩くクライヴァル様を覗き込むようにニッと笑ってそう言ってみせた。

 守られているばかりなんて私の性に合わない。

 クライヴァル様が優しくて、自分に厳しい人だからこそ彼の重荷になるような存在にはなりたくない。

 今回みたいなことがあっても、誰かの助けを待ってめそめそと悲観して嘆く暇があるなら自分で逃げ出すくらいのことはしてみせる。

 まあそう何度もこんなことが起きても困るので、対策を練る必要はあると思うけれど。

 つまり、何が言いたいのかというと、クライヴァル様が私を守ってくれようとするなら、私はクライヴァル様を守れる存在になりたい、ということだ。

 クライヴァル様は私の言葉に一瞬目を丸くしたかと思うと、へにゃりと眉を下げ苦笑を浮かべた。


「たしかに……そうだな。マルカが無事なら何だっていいんだ。多少私の格好はつかないが、そんなことよりも早く君が私のもとに戻ってくるほうがずっといい」

「そうです、そうです。守り甲斐のない女で申し訳ないですが、そんなのクライヴァル様は気にしないでしょう?」

「ああ、まったく。どんな君でも好ましいよ」

「ふふっ、私だって同じですからね? どんなクライヴァル様でも慕う気持ちは変わりません」


 どんなに格好つかないことをしたってクライヴァル様はクライヴァル様だ。

 他の人の知らない一面を見ることができて嬉しいと思うことはあっても、失敗したり完璧でない姿を見たりして幻滅するなんてことは有り得ない。

 そんなことで失うような軽い気持ちで私は今ここにいない。

 どんなに大変でも、何があってもクライヴァル様とこの先もずっと同じ道を歩きたいと思ったからこそ、私はこの場所にいるのだ。


「それでもできるだけ良いところを見せたいと思うのだけどね」


 クライヴァル様はそう言って苦笑を浮かべた。

 そして話しているうちに到着した居間の扉に手を掛け「さあ、父上と母上も君のことをとても心配していたんだ。元気な姿を見せてあげてくれ」と言って扉を開けた。

 扉が開くとヒューバートお義父様はゆっくりと、そしてリディアナお義母様は珍しく音を立てて椅子から立ち上がり、私のもとへ駆け寄ってきた。

 そしてぎゅっと私を抱きしめ、「おかえりなさい」と口にした。


(ああ、こんなにも心配してもらったのね)


 こんな状況で不謹慎かもしれないけれど、幼い頃に感じた母様の温もりが蘇り、何とも言えない懐かしさと温かさに胸が締め付けられた。


「ただいま、戻りました」


 気を抜くと視界が霞んでしまいそうで、誤魔化すようにリディアナお義母様の背にぎゅっと手を回しただいまと口にした。

 ここは私にとって、ただいまと言える安心できる場所になっているのだと改めて感じた。


いいねや感想&誤字報告に評価などありがとうございます。

やる気満ち満ちです!


書き終えたご褒美にロイズの生チョコ食べたんですけど、大事にひと粒食べるつもりがいつの間にか4粒食べてました…。

美味しすぎた。

恐るべしロイズっ……((((;゜Д゜))))!!

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しかも、あれ?なんだか私の魔力は普通じゃないらしい。
初めて書いたお話です。

◆連載中作品もありますのでよろしくお願いいたします_(._.)_
― 新着の感想 ―
更新ありがとうございます 黒幕が貴族様なら簡単に尻尾は掴まれないと思いますけど、元伯爵に飲ませたあの苦い薬は自白剤代わりに使えないのかなぁ?なんて思いながら読んでいました
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