始まりのお話
その建物の前に、三人の男が立っていた。
一人は幼く、一人は若く、一人は老いていた。
それぞれが互いの存在に気がついているようで気がついていないようだった。
彼らが見上げている建物。
とても大きいその建物は、とても朽ちていた。今にも崩れそうで、なんとか建物としての体裁を保っている状態だった。
それは屋敷のようにも見え、城のようにも見え、病院のようにも見えた。
やがて彼らは示し合わせたように建物の中に向けて歩き始めた。
階段をあがり一番奥の部屋。
迷うこと無く、同じ足取りでたどり着いた彼らは、開け放しになっているその部屋に入った。
その部屋が元々どんな部屋だったのかは、現状からは窺い知ることはできなかった。
ただ一つだけ。部屋の真ん中にはとても大きな天蓋付きのベッドがあった。
その上に、一人の老婆がいた。
「おや、来たようだね」
ベッドの上の老婆が、たった今入ってきた男三人に向かってしゃがれた声でそう言った。
男たちは静かに彼女のもとに行った。
「あんた達が来ることはわかってたよ。だって私はもうすぐ……死ぬんだからね」
どこか嬉しそうにそう言うと、彼女は傍らにあった本に手を伸ばした。
「きっとあんた達はこの話を聞きにきたんだろう」
男たちは老婆の言葉に頷きもせず、ただじっと彼女を見つめていた。
「ここに書かれているのは、三人の少女の物語さ。ちょうどあんた達と同じ数だね」
そう言ってページをめくる彼女は、皺だらけの手で懐かしそうに本を撫でた。
「それじゃあ聞いていくかい? 自らの死を望んだ少女達の話を」
お読みいただきありがとうございます。
羽栗明日です。
このお話は三話構成になっています。
人は必ず生まれ、死にます。その流れが果たして幸せなのか。
生とは何なのか、死とは何なのか。
常にそれを自らに問いかけながら生きていきたいですね。
連載、とまでは行きませんが一話ずつゆっくりと投稿していこうと思います。
気になったら、再度お読みいただければ幸いです。
羽栗明日